オーバーロード~悪魔な天使~   作:通商路の要衝

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職業設定、ネトゲの一部知識(?)、独自解釈の一部も混ざっているので、だいたい分かるわーって方はてきとうに読み流してもよさそう。


000.プロローグ

 鬱蒼と生い茂る木々が、すすり泣くように身を寄せ合う。

 空を、大地を照らす星の煌きが木々の虚しさをさらに引き立てる。

 ――その光さえも届かない木の下で、木の根に体を預けて見えない空を見上げていた。

 

 

 

 DMMO-RPG『ユグドラシル』

 今となっては多くのゲームが出回っているが、初めは「五感を投入するゲームなんてやばすぎるだろ」なんて言われた新技術が使われたオンラインゲームである。

 やりようによってはあんなことやこんなことも? と目論む人もいたが、オンラインゲームである以上、R-18指定行為の禁止などなど制限がある。

 とはいえ現に、非常に高額ではあるが、本番可能なゲームが存在したりする。エロゲーもある。

 架空の者……物? とにかく、現実には存在しない場所やモノなんだから、法には一切触れていませんよ? との名目でだ。

 駄菓子菓子。

 現実では本番行為を禁止されているのに、感覚的には全く同じことを出来るのはいかがなものか、と物議を醸している。

 ただのゲームであればそこまでの問題には発展しない。

 これが、DMMだからこそ問題なのである。

 外装に五感を投入し、仮想の世界で現実にいるかのように遊べるシステム。

 つまり、作りこみさえすれば、本物にも勝るとも劣らぬことができてしまう――発展次第では、思いつく限りのことができてしまうのだ。

 そう。現実にはできないことを、架空でありながら現実のように感じることを。

 

 例えば、このアニメ・ゲームキャラ可愛い! やりてえ! なんて思っても出来ない。

 三次元より二次元だ! と、どれだけ豪語しようとも存在すらしないので触れることも聞くことも何もできないのだ。

 普通に考えれば当たり前。――だった。過去形である。

 このゲームシステムを利用すれば、自分の理想の塊である異性と、あるいは異性に限らず人間に限らず思いつく限りのことを最高の気分で味わうことができる。

 となれば、昨今の『そっち系』人気からすれば、理想のおにゃのことアレコレできた方が遥かに良いに決まっている。

 しかも、架空の存在なので豚箱に出荷されることもない。

 多少は値が張る。

 で? だから安く済ませようとして事態が発覚して人生を捨てるのか?

 そう問われれば、誰もがそっちに向かうのは当然だった。

 ゲームそのものの説明は一切ないが、DMMというシステムの説明はこの通り。

 

 元が軍事、医療を目的としたシステムなのだから、使い方によっては危険であることに間違いはない。

 現に。多くのDTがシステムにより骨抜きにされたのだから、その危険性は語るまでもない。

 となれば、その手の産業にも大打撃。

 何もただのDT一般人だけがそれらを利用するわけではないのだから、経済、政治にも多大な影響を与えてしまった。

 噂によれば、このシステムを利用したサイバー攻撃の開発も進められているんだとか。

 

 

 DMMシステムの危険性、そして素晴らしさを説明するには、やはり18禁要素を含めた説明が非常に分かりやすい。

 損得を説明するのに『金』を提示するのも、誰もが金に少なからず固執するから身近で、考えやすいからだ。

 なら、DMMシステムの説明も18禁を絡めればどんな人間でも妄想を膨らませ、理解しようとし、頭を回転させ、話に没頭する。

 他には起業するにあたって、目指すべき姿をDMMシステムを通じて見せるなどプレゼンテーションにも役に立つ。

 相手の目線に合わせるというのは非常に効果的だが、目線の判定など難しいところはある。

 まあ、一言で表すとこうだ。

 

 

「妄想の世界ではなんでもかんでもアリですよね? それを実現できます(架空ですが)と」

 

 

 現在、私はそのDMMシステムを利用したゲームの一つをプレイしている。

 一日の大半、あるいはまるっとぶっ続けで1週間接続していたりしている。

 DMMシステムに関しては寝落ちの危険性も揶揄されているが、特にこれといった影響を受けた感覚はない。

 少々、ゲームと一体化しすぎな感覚があるかな、ってぐらいか。

 そんな、いつも身を置いているゲームの風景に視線を投げる。

 辺りにある木々は偽者ではあるが、非常によく出来た木のグラフィック。木々の擦れ合う音さえも、ただのサウンドだ。

 今日一日、このゲーム随一の不人気地帯――リアル処理落ち不可避『魔樹の大森林』にいる理由の一つがそれだ。

 現実世界にはこんな大森林は存在しない。……魔界とか魔法の森とか、そんなニュアンスの方が異質さは伝わるだろうか。

 苔生した大地から生える何十メートルもの木々。

 木々には蔦や苔がびっしりとこびり付き、枝の別れ道にすらまた別な木や花が咲く、凝縮された自然界。

 前後左右上下。斜めから何まで背の低い木々が生い茂る草で、レンジャーやドルイドが揃っていなければ現在地どころか地形把握すら不可能。

 一歩踏み入れれば、空を飛ぶか死なない限り森の中を彷徨うしかなくなる迷いの大森林地帯。

 

 まあ、現実世界では完全にその逆の世界は堪能できるだろう。

 コンクリでできたジャングルを。

 

 

 ―― 一度でいいから、外に出て、一身に自然の恵みを浴びてみたかった。

 そんな夢が、例え偽者であろうと、ゲームの中であろうと体験できた。

 日中は絶対に外に出ること叶わず。窓は完全遮断。夜でも照明に使われる紫外線に注意しなければならないし、照明が眩しくて前後不覚にもなる。

 けれど、外出したとしても、お供がいなければ周囲の風景も分からず、迷子確定。

 迷子で済むのか、事故に遭って死ぬのか、はたまた変質者に攫われるかして、ろくなことにならないだろう。

 もしも日中に無防備で外に出れば、温暖化で紫外線と照り返しがヤバイ今、全身火傷確定。

 厳重に厳重を重ね、日光フル対策をすれば外に出られるんだけども、どっかでヤバイ薬品でも流出したのかって装備になる。

 私の夢としては気兼ねなく当たり前のように外を出たかった。

 気兼ねなく。

 まあ、周りの人間からすれば、ずっと自宅でぐうたらしてられるんだから、最高に楽で幸せな人生だよねって羨ましがられるんだけど。

 今年で16だけど、学業の実績や資格からすれば大学レベルの知識だけはあるし、お父さんの手伝いっていう仕事もある。

 実際に使用してない知識になんの価値があるかは不明だが、他にやることも、やれることもないのだから、親の言うことだけは忠実に従おう。

 

 

「……にしても、DMMシステムの初携帯化が成功か」

 

 

 まだまだ試験運用段階とはいえ、我ながら危険な発想をしたなとつくづく思う。

 十分に実現可能で、コストもそこまで高いわけではない。会社の名を売るだけなら、十分すぎると判断した計画。

 それをプランとして考えるきっかけを与えてくれた『ユグドラシル』には感謝してもしきれない。

 私が、初めて出会ったDMMO-RPG。

 仮初であろうと、これが無ければ私は世界に、人に触れ合うことはできなかった。

 この調子で行けば、私が父親を社長の座から引き摺り下ろす頃にはケータイとDMMシステムの連結の話も出てきそうだ。

 いずれ……………………私のような人間でもDMMシステムを利用した学校に通ったり、IT企業に就職できればと思う。

 この産業はまだ始まったばかり。

 それこそ、このゲームのように可能性は無限に合った。

 無限に合ったはずだった。

 それが、どうして、今日サービス終了なのだろうか。

 サービス終了を知ったのは、会社の企画が軌道に乗った直後だった。

 家にしか居場所がない私に、ユグドラシルは世界を見せてくれた。

 家と言っても、付き人と2人だけで住む棺桶に、花を飾ってくれたのだ。

 1周年記念で募集された『私の思い出』に、私の応募した想いが記載された時は思わず涙した。

 まさか、プレイヤーの中に深刻な病気持ちで外に出ることができない人間がいるとは運営も思わなかったのだろう。

 他のプレイヤーもそうだ。

 体の病気で日光に当たれず、目さえも見えない人間が、『ユグドラシル』で初めて”感覚で世界を知り、多くの人間と知り合った”ことに感動したなんて思いもしないだろう。

 私よりも過酷な生き方をしている人は大勢いるだろう。

 けれども、私の生き様に涙してくれた、応援してくれた人達もいた。

 中には、私と同じような人も現れた。

 イイハナシダナーというスレッドも立ったっけ。

 今となっては、悲劇のヒロインを騙ったお姫様ヒドイン扱いだけど。

 

 まあ、それはそれでいいだろう。

 この世は常に『陰と陽』の関係にある。

 多くの人間が善行と見れども、誰もが良いと捉えるわけではない。

 多くの人間が悪行と見れども、誰もが悪いと捉えるわけではない。

 あるいは、陰と陽の狭間にあり、善悪の区別すらせずに流すかもしれない。

 そして陰陽考えれば誰もが思い浮かべる『太極図』にある通り、陰にも陽にも、中には相反するはずの属性がある。

 

 私が最終的に至った立場というのもそれに該当する。

 善の中で決定的に断ずる悪。

 普通はギルドに身を置くが、私には所属ギルドがない。

 当然ながら、それに順ずるアイテムもAIもない。

 もはや、フレンドすらいない。

 あるのは、互いの利益を求めた取引相手か、不平や不満を書き連ねたメッセージくらいなもの。

 

 

「どうしてこうなったんだっけ」

 

 

 思い返せば、始まりは些細なことだった気がする。

 それが、陰と陽の関係で言えば、その人達にとっては些細ではなかったのだろう。

 悪く捉えられただけの話。

 幼い頃からゲームをやっているというのは、普通から考えるとおかしなことだろう。

 けれども、何もやることがない私を悲しんでお父さんは突然ゲームをプレゼントしてくれた。

 話題になっていたユグドラシルというゲームを。

 ちょうど10年前。今思うと6歳の頃からネトゲって尋常じゃねえ……

 私がゲームを始めてすぐの頃に実装されたPVPだ。

 複数人によるPVP。

 今となってはギルド同士のGVGがあり、それに巻き込まれるとも意図的にとも言える割り込み参戦、などがある。

 初めに実装されたのが、小さなバトルフィールドタイプのPVP。今は参加者ゼロの過去の遺物である。

 参戦を表明した人数が規定に達すると、職業やレベル、装備に応じて2チームのどちらかに割り振り、拠点占領を主としたバトルの開始。

 赤と青のチームに別れ、拠点のクリスタルを叩けばそのチームの色に変わり、時間経過と共に10ポイント獲得。

 プレイヤーを倒し、強制撤退させれば1ポイント獲得。

 バトルフィールドによって規定ポイントは変わるが、規定ポイント獲得したチームの勝利。

 戦績に応じてバトルポイントを獲得できる。

 そのバトルポイントを利用して、バトルに有利な特殊効果を持つアイテムや装備を交換できるのである。

 とはいえ、それらの遥か上位版がアホみたいに出ているので、過去の遺物である。

 

 とまあ、そんなPVP時代から私の基本方針は確立された。

 まず、PVPシステムの実装理由として『プレイヤーの無差別攻撃対策』である。

 ゲーム上、プレイヤーキル……PKも止む無し。

 しかし、それでは初心者狩りやらなにやら、あまりにひどいのではないか。

 では、闘争本能を報酬で煽り、無意味なPKから有益なPKへと。

 それが、一切のペナルティなしのPVP実装の経緯である。

 戦績がひどすぎて寄生晒し。あまりにもぶっ飛んだプレイヤーによる無双晒し。けっきょくは多対一のPKが行われアイテム剥奪されて本末転倒などなど。

 ペナルティなしのはずが、さらなる致命的なリアルヘイトを招いたのは悲しい話だ。

 

 とはいえ、その時はその時で楽しかったのは事実。

 なかなか出会うことのないプレイヤーが、遥か遠くの世界のフィールドから、小さなバトルフィールドに強制収容されるのだから。

 私の今の性格はそこで作られたと言っても過言ではない。

 無双により開催が減れば、取りたいアイテムが取れない。

 ならば、勝利が確定した時点で攻撃をやめ、エンジョイ勢とガチ勢のモチベーション維持。

 それに反発する無双プレイヤーへの制裁じみた集中攻撃。

 1人では止めることしかできない相手でも、全員の集中砲火を受ければ……死ぬ。

 プレイスタイルは様々だが、私のようなプレイスタイルを取っている人間は今のところいない。

 

 しかも、よりによって選択している職業が通称『地雷職』の最上位『ビーストマスター』。

 ソロ特化で、通常は職業による装備、使用制限があるところ、死霊系を除きどんな武装も可能という特殊な職業。

 短剣、剣、長剣、斧、槌、槍、投擲、二刀流、弓、クロスボウ、スリング、杖、魔道書、魔法剣、魔法弓――全てが使用できる上に、魔法も死霊系を除き全て使用可能。

 アンデッド関連以外ならば全部使えると言えば分かりやすい。

 使用スキルも上位職程度の各職業向けの収集、作成、技能も持っている。

 ここまで言うと、くっそ強いように見えるが、基本的には『自分が100レベルで近接特化にしていても、80レベルの特化職に負ける』ほどの弱さ。

 そのせいか、ハイブリッド職を全種類5レベル以上を達成すると開放される最上位職『ビーストマスター』まで選ぶプレイヤーは、公式職業分布で明らかになったが、3人しかいないのだ。

 最終職ですらこうなのだから、途中経過の職がどれだけの物か言うまでもない。

 そんなハイブリッド職は、職業と種族の垣根を越えるほどの絶大な万能性を誇る。

 人型を基礎とし、全役割カテゴリ・全属性に一つ一つ『変異・変身』の形で形態変化が可能だ。

 自身がそれらの属性に変化するため、装備品を相反する物にして弱点属性との両立も可能。

 不遇職独自のスキルが使いようによっては非常に優れているため、スキル確保のために選ぶ人は稀にいる。

 その稀な人間が私を含み、たった3人しかいない。

 ビーストマスターまで到ろうとすると特化職を何一つ経由できないため……”ビーストマスターの真価を発揮しない限り”全ての育成過程がご破算となる。

 プレイヤーの処理能力を無視した膨大なデータだけが積み込まれた『万能を突き詰めすぎたせいで何もできないゴミ=地雷』なのだ。

 能力の一部しか使わない、使えないのであれば他の職業を経由した方が何百倍もマシだ。

 揃える武具やアイテムだって少なくて済むのだから。

 トドメとして、ソロで攻略不能とかダンジョンを除けばあまりないが、特化職には到底及ばないのでソロ以外では『地雷』扱い。

 要するに、ソロ以外の用途は何一つない。けれど、重要装備の確保にはダンジョン攻略が必要不可欠。

 この時点ですでに運営が謳う快適さは一切ない。

 はたして、私みたいに「初めから地雷扱いされているからこそ、やりがいがある。地雷職で踏み躙るのが醍醐味ではないのか」なんて考えの人は他にいるのだろうか?

 

 

 そう。地雷なんていくらでもいる。

 今も昔も変わらないプレイヤーランク付け。

 最強位は、『金持ち+超人プレイヤースキル+リアルラック+リアルスキル+ニート』――の、論外。

 最高位は、『廃課金+超人PS+リアルラック+リアルスキル+廃人』――の、皮肉を込めて称えられる通称課金厨。

 最上位は、『重課金+良PS+リアルスキル』――の、通称ガチ勢。

 一般的で、『無課金+そこそこPS』――の、通称無課金ガチ勢。

 最下位は、『無課金エンジョイ』――の、通称エンジョイ勢。

 この振り分けはメインタンク・近接火力・射撃火力・魔法火力・回復の大雑把なスタイルにそれぞれ適用される。

 さらにこの下のランク付けで『地雷』がある。

 メインタンクのくせに、トレインできないしヘイトが稼げないし蒸発する盾役。

 敵のカウンターや凶悪攻撃を封じるデバフ職がデバフを切らす。

 タンクの次に生存していなければならないヒーラーが範囲攻撃で沈没。

 火力職が調子に乗って火力出しすぎてヘイト管理せずに爆発四散。

 逆に、火力職が同時にタンクまでし出せば、「○○さんが居れば盾募集せずに火力特化でいけますよね!」とか、普通以上の評価を得られる。

 一切攻撃しないでいいような支援職が、暇を持て余して攻撃するだけでも十分に優秀なのだ。

 味方にいったいどれだけ貢献し、味方の負担を減らせるか。それを褒め称えられる快感をなんと言い表せばいいのだろう。

 無課金勢が、wikiや他人知識だけ振りかざして「地雷地雷」と連呼し、盾も火力も回復もデバフも遠距離攻撃も全て対応できると知った瞬間の掌返しのおかしさといったらなんと言い表せばいいのだろう。

 なんでもかんでも出来すぎて、すごいを通り越して「動きがキモイ(褒め言葉)」「キチガイ(褒め言葉)」と言われる優越感。

 それだけのことをできてしまうと、プレイヤーランク付けは1段階以上アップすると見ていいだろう。

 

 この辺りは大昔と比べて大きな変化はないらしいが、DMMシステム独特と言えるのが『リアルスキル』の要求だろうか。

 戦略とか駆け引きとか、そういうのは昔と変わらないけれど、規模が全く違うのだ。

 簡単に言おう。これは戦争だ。

 常人であれば、キャラ同士のぶつかり合い、相手の姿や、常用する武具や魔法、武技、それらの効果からスキルなどの判別。それに対策を考えての反撃、回避、行動。

 相手も同様の考えで動くのだから、その動きの巧い拙いで強さを判別、優先順位の確立などなど。

 まあ、これだけでも非常に高度な思考らしい。

 DMMO-RPGでは、さらに拍車を掛ける。

 戦闘地域のフィールド属性・周囲環境・地形・本拠地・陣地・常駐モンスター。それらに僅か一つでもプレイヤーの干渉が発生した際の波紋。

 これらを考慮した上での周囲監視・トラップ・周囲ギミック擬態・他者の行動を餌に釣り・どこかでの戦闘終了後の第三者以降の干渉・全てを終えた後の他ギルド、他プレイヤーの風評や波紋。

 ある意味、そこは一つの世界である。

 現実であり得ることは全て発生し得る。

 派閥しかり、相手の立場を考えない一方的な意見などなど。

 それだけならいい。

 そう、『その程度だけで済めば』良い。

 

 プレイヤーが選べる種族は420種。人間を除く種族は上位種を経由して基礎ステータスの高いものに進化していく。

 職業は基本職、上位職を含めて2000以上。限界レベルは100。

 これらを組み合わせ、打撃射撃魔法回復バフデバフ攻撃防御回避索敵製造などなどなどなどの育成目標を立てていくと、ふざけた数のキャラクターが生み出せるだろう。

 まず、プレイヤー同士のキャラや育成がだぶることはないと言っていいくらい。

 それらの要素を含めれば最大レベルは何考えてんだ運営ってぐらいに低すぎて笑えない。

 膨大すぎるデータに、保有AIも手を加えられる上にモンスターを生み出せるわ、何か持たせられるわ、でプレイヤーの頭がフリーズ間違いなし。

 これらを踏まえ、敵対プレイヤーに遭遇するたびに装備を見極め、どの条件に適合した種族職業なのか、自分の種族職業で対応可能か一瞬で対応しなければならない。

 どれだけ困難なのか、例を出そう。

 

 拠点落としに一人だけのプレイヤーがゆっくりと隠しもせず臆せず現れる。

 あなたは上位プレイヤー20人パーティのリーダーです。どういう指示を出しますか?

 その時に想定しなければならないのは、以下である。

 

 攻撃しようと動き出したら、相手は重課金+超人PS+リアルスキル持ちの公式チートでした。

 上の上プレイヤーで苦戦しつつも持ち応えている間に本拠地が落とされていました。

 倒したと思ったらこちらの力量がバレて、勝ち目のない新たな敵を放り込まれました。

 ただの囮で、触れても触れなくても範囲魔法で消し炭にされました。

 ただの囮で、その後に何も起きず、ここで待機か引き返すか、周囲を調べるかなどの選択肢を迫られ、動いた途端に……………………

 

 

 考えるだけのことが、全て起き得る。フェイクもそうだ。

 戦争に於いて必要なのは、その全ての想定と常時・即時・後時対策である。

 それが『ユグドラシル』というゲームの自由度とかどうかいうレベルじゃねえよ、のフリーダムさである。

 まあ、たしかに。こりゃ大元のDMMシステムが軍事目的なら演習でもなんでも、新技術の実使用による影響とかいくらでもやれることありますわ、と頷ける。

 

 

「他にも、実際の肉体では実現できない超スペック環境における肉体操作による潜在能力の覚醒、応用による治療とかか」

 

 

 現に、私自身がそれを現実世界で実感できている。

 今まで、全くと言っていいほど見えなかった目が、誤魔化された五感を通し、体に影響を与えたのだろう。

 視力が、大きく回復してしまったのだ。

 分厚いメガネをかけても、なんとか輪郭が理解できる程度にしか見えない目が、通常の視力測定可能領域まで回復したのだ。

 この結果が大々的に報じられたのも、昨日のように思い返せる。

 お父さんが、ゲーム会社の株を大量に買って感謝、支援したのは苦い思い出だ。

 

 

 その結果として、公式に発表されていない大口株主に与えられた最高のアイテムデータを得られた。

 倒したプレイヤー。倒したモンスターのステータスデータを全て保存し、任意に使用できる。

 ただし、100%の力を発揮するのではなく、75%の力でしか発揮できない。

 まあ、そりゃそうだ。苦労して作り上げた最強のキャラを、全く同じ形で『モノマネ』あるいは『変身』の形で奪われたのでは泣けてしまう。

 が、このアイテムは全てにおいて半端なのだ。

 プレイヤー名は誤魔化せないし、本体の性能が劣る上に、装備も全て複製であって、当然のごとく本来の75%の能力で追撃の脱着不可。

 特化職のステータスに対して75%の形で再現できるのではなく、武装全てに対してきっちり75%と計算する。特殊技能や装備による『○○%ステータスアップ』は最終的な数値に対して計算が行われるので、戦闘力で言えば本物の50%にも満たないかもしれない。

 最大の強みは、何のペナルティもなしにどんな種族、職、スキルを引き出せること。しかも、データだけの入れ替えならば見た目は変わらない。

 やろうと思えば、見た目は魔法特化なのに、中身はモンク、ファイターだって可能だ。

 もちろん、それら技能もきっちり75%計算になることを考慮しなければならない。

 フェイク。見た目詐欺。外面だけ詐欺るのもありだ。このアイテムの真価は、それらにあるのだ。

 ――と、いうのが私の使い方であって、実際にはただのエンジョイアイテムである。

 膨大な数の種族職業選択の幅があるのに、実際に遊べるのはほんの一握り分だけ。いくらなんでも悲しすぎる。

 戦いに特化しすぎて製造系がおろそかなら。収集がおろそかなら。それらを補うというのが本来の使い方。

 とはいえ、私のキャラクターは万能型なので頼ることはない。

 

 運営の用意したデータでアレコレ遊べる。ゲームを余すことなく遊べる。素晴らしい。

 でもまあ、自由度が高すぎるゲームだし、ある程度の強さもないとゲーム自体が楽しめない。

 ということで、入手したあらゆるデータの実際の能力の75%を再現するアイテムなんていかがですかねーと運営との協議の上で製作してもらったのだ。

 奪われても返しませんけど、って条件付き。

 使いようによっては危険だが、私のプレイスタイルから悪用はないだろうと判断してもらい、晴れて75%とそれなりの数値で実装。

 まさか、ギルドとダンジョン除くフィールドの全把握、8割以上の種族、職種、武技、魔法、スキル、アイテム、武具を脳内インプットしているとは思いもせずに。

 まさかのまさかで、大事に大事に保管された病弱箱入り娘のはずが、ゲームを有利に進めるために武術から何まで習得しているとも思わなかっただろう。

 私の家系は、嶋貫電気株式会社としての名もあるし、小さなパーティーに招待されるだけの地位と金がある。

 それに見合った技能や社交性は求められるし、求める以上の能力を発揮してもらわなければならない時だってある。

 周囲の人間は天才だとかもてはやすけれど――

 単に、自分にとって全てと言ってもいいゲームを禁止されたくないがために、努力していたなんて言えやしない。

 同じ年頃の人なら私と同じことを考えるはずだ。

 ゲーム禁止を回避するために、親が文句を言えないほどの成績を叩き出すなんて。

 

 

「運営さんさえ、そうなんだから、まさか他のプレイヤーもこんなアイテムを隠し持っていて、使いこなせるとも思ってなかったんだろうなー」

 

 

 悲しむべきサービス終了日。

 私は見知ったギルドリーダー数名に最後のイベントと称して無差別GVGを提案した。

 戦場はここ、私の大好きな『魔樹の大森林』だ。

 ここは県ひとつ分まるっと森に覆われている、徒歩で遭難確定地帯。

 ユグドラシル最多の様々な種類のモンスターがポップする特殊な場所だ。

 そのため、レア狩りなどの効率が非常に悪い上に、環境が環境だけに、最初に発見した『ワールド・サーチャーズ』以外ほとんど誰も訪れていないと公言されている。

 最後の日を楽しんでいるプレイヤーは大勢いるだろうし、巻き込んだら大迷惑である。

 最後の大戦争は、誰もこない場所で大々的にやるべき。

 ただ、さすがに全面が森では、遭遇せずに終わりなんて不完全燃焼もあり得る。

 1週間前から森林伐採して整地して、ようやくバトルフィールド完成。

 参加者がさらなる参加者を募り、合計12ギルド。総勢500人が大戦争に集結。

 今まで眠らせていたワールドアイテムやギルド武器のお披露目会を終え、思い思いに語り終え……………………

 

 

 

 

 

 辺り一面に斃れ伏し、思い思いの呪いの言葉をチャットや感情タブの連打で吐き出している。

 死屍累々。

 皆が、サービス終了を無残に迎えた。

 主催者のくせに、私がどのギルドにも所属しなかったことに疑問を抱いた人はいたが、「それがイザナさんのプレイスタイルですもんね」と誰もがで納得していた。

 基本的には戦力の薄い側に立つ。

 どう足掻いてもかわいそうな側に立つ。

 常に被害者側に立ち、唯一の万能職の力を発揮する。

 相手が打撃特化だろうが、魔法特化だろうが、支援特化だろうが、5人PTだろうが。私なら一人で全て補える。

 打撃最強プレイヤー? ならばハイブリッド職限定の豊富なデバフ付き攻撃とノックバック、足止めのオンパレードで封殺してやろう。

 射撃最強プレイヤー? ならば足止めスキルとスタン攻撃を駆使して打撃と射撃の判定の境界から封殺してやろう。

 魔法最強プレイヤー? ならば命中低下詠唱低下、鈍足、足止めを駆使して密着し封殺してやろう。

 防御特化プレイヤー? ならば物理と魔法2種類の足止めを駆使して私以外の人間を払って存在意義をなくしてやろう。

 回避特化プレイヤー? ならばヒットに関係なく強制デバフの魔法を起点に回避低下、スタン攻撃と足止めスキルでサンドバック化してやろう。

 ……………………今思うと、打撃防御特化の、素で魔法防御も高い回復職に対して効力のあるものないな。回復タンク有能説浮上。

 

 まあ。そもそものハイブリッド職の存在意義が他の職と全然違うのだ。それらを考慮した上での職業であれば、不遇とは言われることもなかっただろう。

 ハイブリッド職とは、ソロプレイを前提とした状況に応じて一人で対応できる力を秘めた職業である。

 スキル、技能を取らずとも職業補正でそれなりのパッシブスキル、製造技能が付与されるのでソロ生活で困ることはあんまりない。

 当然ながら、PT必須なダンジョン攻略ではお呼びではございません。

 当然ながら、対人戦ではあまりの雑魚っぷりで、通りがかりついでに一応殴って撃破数稼いでおくか、なんて道草扱いである。

 至近距離に魔法職が居ようと、優先的にぶん殴られるくらいに扱いがヒドイ。

 そんなハイブリッド職の特徴と言えば、思いつく限りでは……………………

 使用可能な独特なスキル、魔法全てに異なるデバフが付き、範囲攻撃が小範囲から超広範囲、ハイブリッド職限定で極大範囲、エリア全域まである。

 広範囲になればなるほど威力はゴミほどに低下するが、『問答無用でヒット』する回避貫通攻撃による、隠れている敵の炙り出しが驚異的。

 エリア全域スキルは気候変更なので、ハイブリッド最上位職のビーストマスターいますよ! ってアピールにしかならない。もちろん、たった3人しかいないが。

 他の職にあんまりない命中上昇、回避上昇、移動速度上昇、範囲持続回復、打撃射撃魔法それぞれの足止め束縛系スキルが大量にある。

 ある意味。特殊バフ、特殊デバフ、範囲に特化した職とも言える。

 あと、使用可能スキルと魔法のカテゴリも多く、それに見合った膨大なMPを有する。

 膨大なスキルによるクールタイムを考えなくていいことと、詠唱不可・スキル不可などのデバフが無意味に等しいとか。

 全武器・武具・アイテムカテゴリを扱えるのも利点だろう。最終的には倉庫圧迫になるか、使わない物が転がるオチだが。

 ……だいたいこんなもん。

 攻撃力はお世辞にも高めとは言い難いが、敵を一箇所にまとめたり、引き寄せたり、引き剥がしたり、目標を始点としたバージョンの特殊な攻撃が強い。

 後方支援に徹すれば……正直、真っ先にぶち殺してやろうかってぐらいのリアルヘイトをかき集められるだろう。

 で、持ち前のリアルヘイト上昇スキルと範囲攻撃を利用して、攻撃時・被ダメ時一定確率で発動系のアイテムの強制発動も醍醐味である。

 もちろん、そこに到る前に狩られるのがハイブリッド職の通過儀礼。

 死んで死んで死んで死んで死んで絶望して悟りを開いた上でしか辿りつけない境地の先に扱い切れない膨大なスキルが待ち受けるのだ。

 トドメに、けっきょく最後は誰かに製造依頼とかしないと自分の最強武装すら作れない、作っても特化職に及ばない現実が突きつけられる。

 

 

「所詮、特化職が一番劣っているステータスよりは高い程度の性能だし……」

 

 

 それを補うPSと、装備。それを補う廃プレイに廃課金。

 そこまで行くと、上級プレイヤー程度の特化職ならば2秒あればシュンコロだ。

 最高位プレイヤー相手なら、相手が苦手とする形態を主軸に、お互い削り合うだけの消耗戦になる。

 私は複数人まとめて相手できるが、相手は複数人で一人を処理するのだ。……戦力過多ってやつになる。

 私がどんなやつか知っている人だと、戦力分散を回避するために着かず離れずの絶妙な距離で束縛系スキルを駆使して試合中貼り付けってこともしてくる。

 もちろん、味方が私をずっと放置することもないし、時間稼ぎにしかならないのだが……上位ライン以下キラーの私を野放しにした場合を考えれば最善策かもしれない。

 普通なら、1人に対して多数でかかれば多数の勝ちだが、私の場合は逆なのだ。

 ゴブリンの笛でわざと周辺にゴブリンを撒き散らした上で、自分を始点とした範囲攻撃を発動すれば、身に付けたアイテムが全て特殊能力を発揮する。

 効果時間はものの数秒だが、デバフを駆使すれば、命中率が高く純粋な回避が不可能とされる雷・風系魔法や範囲持続攻撃すら回避し続けるなんて異常事態も引き起こせる。

 避けてる間に範囲攻撃を繰り返してれば常に最強バフ発動である。

 それに気付いて敵が逃げようとする前に、私と遭遇した時点で距離を離すも近付くも私の思うがまま。

 武装で補っているとはいえ、上位特化職が数人纏まらなければ、何をしてもビクともしない、ダメージを与えても持続回復や吸収攻撃で即回復。

 しかし、こちらからは一人一人着実に捉えて削り殺していく。

 手も足も出ずにじわりじわりと体力を削れて死ぬのは凄まじいリアルヘイトだろう。

 事実、敗北して自陣にリスポーンしても真っ先に私に群がるという経験もある。

 そのおかげで対人戦に圧倒的大差で勝利し、撃破されたプレイヤーが私のみ。

 けれど、1対多数でありながら、多数側が「イザナ倒したぞザマアアアア!!」「雑魚乙!!」なんて雄たけびを上げていたこともあった。

 

 

「もうその時の人達はいないんだよね。いつか絶対に全員まとめてぶち殺してやるって思ってたけど、まさか本当に実現できるとは思ってもなかった」

 

 

 しかも、何十人という規模ではない。

 500人まとめてはさすがに無理だったが、327人も撃破すれば、もうタヒれってレベルだろう。

 もしも、この中に最高位プレイヤーがいれば、私とその人の攻撃に巻き込まれて周囲の人達は蒸発する結果になっただろうが。

 ……さすがに、最高位プレイヤーの特化職相手となると劣化職ごときでは相手にならない。

 足止め前提、封殺前提。

 同じ土俵で戦った瞬間に負ける。

 倒し切りはできないが、野放しにして味方が崩壊するよりは最高位プレイヤー同士で相殺しておくのがいいだろう。

 そもそも本気で最高位プレイヤーとタイマンで戦えば互いに膠着状態になって終わりはない。

 ほんの一瞬でも操作ミスをすればこちらが蒸発するけれど、今まで一度も操作ミスなんてしたことがないし、片手間で他の支援くらいはできる。

 最高位プレイヤーを片手間で完全封殺しながら、他のプレイヤーを狩ったり、支援し、別地点へ転移して同じことをする……足止めの効果時間が切れそうな時間になったらまた戻る。

 それを十年は続けてきたのだ。

 今さらミスなんてするものか。

 私が以前投稿したプレイムービーは未だに関連動画100位圏内にある。私の敗北動画でもあるけれど。

 ユグドラシル最大のGVGに参加して、最強プレイヤーの足止めをしながら3階層に及ぶ味方への支援と、敵プレイヤーへの嫌がらせ。

 今さらながら、こいつチートじゃね? ってコメントもあるけれど、かの悪名高すぎる敵ギルドのせいもあってか何事もなく終わった。

 私にできるのは、得意とするのは、誰も脳内処理しきれないほどごった返しになった戦場で、致命的な打撃を与えていくことなのだ。

 そもそも、万能型のビーストマスターでフル課金特化職を相手にすること自体が間違っている。

 無駄死にするくらいなら、全力で足掻いて巻き込んで私にヘイトをかき集め、味方が自由に動き回れる環境を作る方がいい。

 一番の危険要因はプレイヤーなのだから、戦略的にプレイヤーを削るのは間違いではないのだ。

 

 特に、今回のような、よくて最上位程度のプレイヤーが少しいる程度の戦場とか、得意中の得意分野。

 ――で。

 一気に対人撃破数を稼いで見たことも聞いたこともない称号と武装を手に入れてしまった。

 剣やら斧やら杖やら、各種武器、鎧や布系の防具が運営からのメッセージと共に大量に送られてきた。

 どんな武具、アイテムでも使えるビーストマスターだからこそ、現物ドロップとか課金装備、支給装備で「これ装備できねえんだけど!」ってのが無い。

 運営BOXにアクセスすると、全てに『災厄の漆黒の』と2つ名が付いた上級製造武具の亜種が入っていた。

 元となった防具は神話級防具で一番楽に作れるやつだ。性能的には、フル強化してれば最終位ダンジョンPTに入ってもPTから蹴られないくらいか。

 運営からのメッセージにはどんな獲得条件を達成したか明記されていた。

 

 称号。

 『死神』

 対人撃破数12万人達成。

 暴虐の尽りに同じ人間すら恐怖する。

 

 『災厄の使途』

 同時に20人以上から攻撃を受け、かつ、全員を撃破。

 遭いたくもないが見過ごすこともできない天変地異そのもの。

 

 『守護者殺し』

 カウンターガーディアン。

 ギルド武器所持者を通常の装備で累計10人以上撃破する。

 ギルド武器を超越する真の強者の証。

 

 『災厄シリーズ』

 プレイヤーのHPを最大値からゼロまで個人のみで削り切り、対人撃破数50000人達成。

 持ち主に対してのあらゆる感情を激化させる。

 プレイヤー撃破数が増えれば増えるほど能力が上昇していく。

 『災厄のオーラ』

 独力で夥しいプレイヤーを倒し、リアルヘイトを掻き集めた。

 持ち主に対してのあらゆる感情を激化させる。 

 

 一式装備による特殊効果。

 周囲の知的生命体の感情を激化させる。常にヘイト+500%(パッシブ効果)。

 武器装備時、聖耐性、闇耐性が上昇し、闇属性攻撃の威力が+50%上昇する。

 オーラ装備時、聖耐性、闇耐性が上昇し、闇属性のダメージを10%だけHPに転換する。

 

 設定など内部のデータを参照する。

 上位者に対し、常に感情を刺激させる信号発信。

 下位者に対し、多くの強者を屈服させたオーラにひれ伏す。

 常に感情の扇情効果を発揮するが怒りだけというわけではない。感情全般に対して効果を発揮する。

 

 試しに装備してみると、外装はアバターにより上書きされるようだ。

 盾職向けの装備だけど、データ嵌め込み枠も大きく、素の能力も高い。

 アバター効果もあってなかなか汎用性が高い。さっそく全ステータス+10のアイテムを枠いっぱいにぶち込む。

 

 

「おお! アバター優先とか超レアじゃん!!」

 

 

 でも、もう終わりなんだよなー。

 大きなため息を吐いて、辺りを見回す。

 今頃、この大虐殺がネットにアップロードされているに違いない。

 リアルヘイトのあまりの高さに迷惑をかけるからと、ギルドに身を置かず傭兵生活。

 基本的にソロプレイ。

 4日かけて『魔樹の大森林』に出現したWBのソロ討伐とかバカみたいなこともしたっけ。

 討伐時にはトドメを差した人、最大与ダメ、最大被ダメの人を称えるテロップメッセージと、参加人数とか出るけれど……全部1人の名前。

 何が起きた! って騒然となったっけ。

 PVP時代の移り変わりからはひっそりと暮らしていたから、引退したかメンヘラ野郎とか色々言われてたし。

 テロップ表示と同時に色んなギルドから勧誘がきたものの、所属はせずに交流を深めるだけに留めていた。

 交流しただけで晒されるんだから当然だ。

 他にも色々と晒されている人が多くいたから被害は少なかったんだけど……持っているものが持っているものだけに、それなりの扱いはされていた。

 運営会社の株を保有している者にだけ配布される『好きなアイテム1個券』と『黄金の翼』はワールドアイテム級のレア度である。

 頻繁に交流していたキャラクタークリエイト特化ギルドの防衛依頼を受けた時は、ギルドの全権限と引き換えに欲しいくらいだ、と冗談なのか本気なのか分からない話もしたっけ。

 そもそも、外装アバターのくせに特殊能力を保有していることに問題がある。

 重量ペナルティやトラップ、魔法、攻撃による阻害は一切なし。翼に当たり判定はない。

 翼に攻撃しようがされまいが関係なく空を飛べる上に移動速度上昇。飛翔速度も大幅上昇である。

 なお、全移動速度バフをかけると1日で世界の端から端まで移動できる制御不能っぷりを発揮できる。

 wikiの謎項目『飛翔による風圧ダメージ』を手がけたのが私だとは、誰も知らないだろう。

 そもそも、全移動速度バフをかけるには34人のプレイヤーが必要で、情報が漏れないはずがないのだ。

 

 大口株主特権で実装してもらったアイテムなくして、実現不能。

 『オール・リヴァイヴ』――全ての再現。

 ただの指輪なので、10円改名アイテムで分かりやすい表示にしちゃってる。

 大口株主と運営の協議で新アイテムを実装できます、なんて書いたら運営と私にどれだけのメッセージが届くのやら。

 それを利用して、飛翔速度が一定を超えると風でダメージを受けます。何かにぶつかると対策をしてなければ即死の危険性とか、誰がやるんだよって感じだけど。

 

 

「ははっ。思い返してもソロプレイしか出てこないじゃん。協力プレイっていったら、初期の頃だけの話で、それなりのレベルになった時点でずっと独りなんだ」

 

 

 リアルでも、ゲームでも孤独。

 こうやって身を置くエリアにも私だけしかいない。

 戦場にいたプレイヤーは思い思いに言いたいことを言って、最悪の終わりを迎えて退場した。

 12ギルドのギルド武器、ワールドアイテム、ゴッズアイテムは全て回収済み。

 大手ギルドではないし、ギルド武器は対した性能まで高められちゃいない。

 さっきもらった武器一式の方がよっぽど強い。

 せいぜいデータだけ取ってガラクタ保管庫行きか、分解材料行きだ。

 なお、12ギルドもあってワールドアイテムは1個だけの模様。

 

 『ドッペルゲンガー』――完全分身。見た目はただの可愛い人形。外装データをぶち込んで見た目を変えられるようだ。

 自分と全く同じデータのキャラクターを生み出す。

 プレイヤーと全く同じ動きを遅れて行う。分身が受けた、発動したバフ、デバフは本体と共有される。

 

 HPは別管理だけど、その他は私と同一判定という意味か。

 分身を殴っても痛くはないんだけど、分身を回復するとなぜか私も回復する。

 分身を殴っても痛くないくせに、デバフを受けると私も同じデバフにかかる。

 逆に、私に対してそれらを行うと、分身にも同じことが起きる。

 ……ああ、なんだろう。これは。私のデバック魂が掻き立てられるよ!

 

 本来なら1本しか設置できない範囲持続回復大を10秒ごとに発動する生命樹を使ったら同じことしてくれんの!?

 詠唱含め、設置に5秒かかるから、持続回復付き回復大ヒールを5秒ごとに!?

 本来重ね掛けにならないこのヒール効果が重複したらどうなるの!?

 試したい!

 

 

「はあ。時間ないんだよね。ま、最終的な私の実力調査はできたし、次にのめり込めそうなゲーム探さないと」

 

 

 それとも、もう一つやってる戦略ゲームに専念しようか?

 というか、今何時? もうとっくにサービス終了、鯖を落とされていてもおかしくないはずだ。

 コンソールを開き、現在時刻を確認しようとし……………………何も起きない。

 え?

 バグ?

 え、これどうやって接続解除すんの?

 え、ええ!?

 今思うと、DMMO-RPGのサービス終了って、ユグドラシルが初じゃないの!?

 うっそ、まさかのシステム解除作業失敗したわけ!?

 意味は無いけれど、慌てて『黄金の翼』を広げ、空に飛び立つ。

 その瞬間に、あり得ない感触が肌を伝わった。

 

 

「木々のにおい。生々しい、実際に触れている感触。リアルすぎる音響。網膜に響く星の輝き。――そして、風の音」

 

 

 なによりも、『黄金の翼』が生き物のように羽ばたき、羽毛をきらきらと撒き散らしている時点でおかしい。

 自分でデザインして可愛いからって好きこのんで履いてるスカートが夜風ではためいて、ダイレクトに股を冷やしていく時点で色々とおかしい。

 外でこんな破廉恥な超マイクロスカート履いて黒ピンク縞々ニーソに紐パンって感覚の生々しさが色々とやばい!!

 ここは誰もいない自室なんかじゃなくて、どこで誰かが見ていてもおかしくはない開放的な外!

 

 

「わーわーわーわー!! なに!? なんなのこの感覚は!? うぎゃ、翼の付け根が、翼の先っちょのあり得ない場所の感覚がー!?」

 

 

 無意識で飛んだは良いけれど、”実際に己の体の一部として動かして飛ぶ行為”に気付いた瞬間、鳥でもなんでもない人間の私は飛び方を忘れ、50メートル上空から真っ逆さまに落下してしまった。

 ゲーム的には、ダメージ0。木々にダメージ2700。衝撃が緩和されて無限HPの地面に20ダメージといったところ。

 けれど、急に浮上した生々しい感覚が、普段外に出ない私に一挙に叩きつけられた。

 悲しいことに体の感覚が遠のき、意識が消える。

 これが、高いところから飛び降りる感覚か。

 高層ビルからの自殺では、地面に叩きつけられる前に気を失ってから死ぬって聞いたけど、こういうことなんだね。

 薄れ逝く意識の中で、また新たな知識を得たなと、能天気にも喜んでいた。

 

 

 

 

 




ネトゲの万能型ってゲームによってもけっこう変わるんですよね
今さらながらに、どんなものなのかって分かり易い紹介が必要な気がしてきた。
なによりも描写が……語彙が……
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