オーバーロード~悪魔な天使~   作:通商路の要衝

3 / 3
天使と一言で言ってもどっちの天使なのか。
だいたいの人が思い描く人々を祝福してくれる聖なる天使。
あまりにも清すぎて、人々を穢れとして滅ぼすような天使。
そう考えると悪魔も悪くないんじゃ……なんて思ったり思わなかったり。


002.魔神な天使

 

 

 あっという間に過ぎ去った一日に、安堵の息を漏らす。

 そして喜びの笑みが浮かぶ。

 

 

「なんの儀式もなく、王宮の狩猟管理地に忽然と天使が舞い降りたと聞いた時は、何をバカなと思いもしたが――」

 

 

 今日一日の出来事を話せと言われれば一日中語り続けられる自信がある。

 まず、一報を受けて裏手の森林の赴いた時の、天使様の、いや女神様か? ええい、あのお美しさといったらなんなんだ!

 神だ! もはや神である! 私が言うのだ、信仰の関係もあるし、神と――女神様と呼ぼう!

 木漏れ日が差す森林の中。

 一際大きな霊樹の幹に身を預け、儚く消えそうな寝息を立てる姿の美しきこと、愛くるしきこと、あの瞬間、自身が愛する息子さえも愛おしさが超えてしまった!

 イザナギと名乗った美しくも愛らしい少女の姿をした女神様の周りには、森に住む小動物や鳥、昆虫までも集まり、一緒に睡眠を楽しむ姿の神々しさ!

 神の楽園に住まう者は、等しくこのような神々しさを自然に発しているのだろうと無知ながらにも理解した。

 かと思えば、無邪気な子供のように思うがままに、一心に御心を表現なさる純粋無垢さ。

 さらには天上の世界に住まう神々の厳かな雰囲気さえも携え、畏敬の念を敏感に察知し、慈愛のお言葉をお掛けくださる寛容な御心。

 遊びに薄汚れた子供が女神様を見て抱き付こうとした瞬間には心臓が止まる思いだったが、まさか女神様自ら駆け寄り抱きかかえ可愛がるとは思いもしなかった。

 そもそも外に出て人々と触れ合おうとするなんて思いもしなかった!

 下賤な人間などと、卑屈な言葉を使おうものならば逆に咎められる、自ら一歩も二歩も三歩も身を引く寛大さ。

 相手も身を引けば、大きく踏み出し、その手を掴んで引きすぎないよう咎める。

 広場では民衆と4時間も語り合い、その御心の教えを説き、多くの者の心をお救いになられた。

 しかし、救いの言葉だけではなく、己も気付かぬ『心の鎖』という枷を断つための叱咤もあった。

 

 

 今日一日で私は12回も咎められた。

 中でも一番心に響いた言葉がある。

 

 

 人は自分の意見を主張し続ける。けれども貴方は、王でありながら一歩身を引くことを知るお方です。

 ですから、親愛する貴方のためにと下の者達は一歩も二歩も身を引くのです。

 一歩身を引き、視点を変えるということは、見える世界も変わるということ。

 その相手を取り巻く環境さえも見えてくるでしょう。

 そうやってお互いを敬い合えるのですから、こんな素晴らしい国がある。

 だから私はここに導かれたのでしょう。

 貴方は賢い。ですが、賢すぎる嫌いがあります。

 相手が一歩引いたなら、自分が上に立つ人間であろうと高慢にならず、さらに引いて敬います。相手はそれを見てさらに下がります。

 そのままでは身を引いて相手を見るどころか、相手が見えなくなってしまいますよ?

 私は今日、12度も貴方を咎めました。私は今日、何度も身を引く貴方に38度も一歩近付きました。

 離れすぎては埋めることの困難な溝を生み出すでしょう。一歩踏み込むことは決して無礼ではありません。

 自分の方が下だからと身を引く者の止めたくても止められない足を、貴方自らが止めて上げてください。救って差し上げなさい。

 むしろ、分かっているはずなのにそうさせ、下のものを先に一歩踏み出させようとするのは美学でもなんでもない、押し付けです。

 ですから、私自ら何度も示したのです。

 

 

「遥か高貴な存在でありながらも、決して驕りもせず、我ら人間と、平民と同じ視点をお持ちくださる。いったい――」

 

 

 ――いかなる天使なのだろうか。

 それに答えるように、扉がノックされた。

 目をやると、メイドが扉に向かい応対するところだった。

 声をかけ、静止させる。

 予定よりも随分とかかったようだが、ようやく神官長が来たようだ。

 

 

「待ちわびたぞ! ケネル神官長殿!」

「おお、久しぶりだな。ローグスよ。その堅苦しい呼び方はやめてくれと言っているじゃないか!」

 

 

 肩を抱き合い、お互いの背中を叩き合う。

 若かりし時に共に世界を歩み、この王国の危機を遠ざけた尊き仲間である。

 今となっては、他の3人はすでにいなくなってしまったが……私と彼は、まだまだこの国の行く末を見守らなければならない義務がある。

 それを祝福するかのように、今日、この日。

 未だかつて、人類が出会ったこともない天使が降臨なされた。

 貴重な伝言魔法のスクロールを使用し真っ先に連絡を取ったのが、王国屈指の水の神官であり、友人であるこのケネルなのだ。

 非常に失礼ではあるが、このローグス王国を領地として持つリ・エスティーゼ王国は神官などの魔法の力を持つ者達を軽く見る傾向にある。

 なにをバカなことをと思っていたが、おかげですぐにケネルを呼ぶことができたのだ。

 薄情者の自分に恥じる。

 友人に心の中で深く謝罪し、感謝し、その言葉の変わりに自ら席を立ち、友を座るよう促す。

 

 

「さっそくで申し訳ないのだが、まずは事の経緯を話すとしよう。

 できればお目通りをお願いしたいところなのだが、天使様は早くも床についてしまわれたのでな」

「天使様が、睡眠を?」

「まあまあまあ、その辺りも含めて話すとしよう。ちと、長くなるかもしれんがな」

 

 

 ケネルが到着したのは、日が落ちてすぐの頃だった。

 イザナギと名乗った天使様の姿形や、今日一日の振る舞いを話し終えた頃には、薄っすらと外が明るくなり始めていた。

 隣の小国に馳せ参じたとはいえ、本来ならば2日かかるところをその半分にも満たない時間で彼はやってきた。

 もう十分な年であり、疲労も相当溜まっているはずだったが、目を一切逸らすことなく、若かりし頃と変わらないギラギラと輝く瞳を向けていた。

 

 

 

 まずは、天使様の容姿である。記憶に焼き付いたその姿は、目を閉じれば生の感覚そのままに思い浮かべられる。

 貴族でもあまり目にしない装飾の乏しい簡素なゴシックな黒のドレスを纏う。

 小さく華奢な肩を覆うように、いかほどの達人が編んだのか、ひとつひとつに細やかな刺繍が施されたフリルをふんだんに使ったケープが柔らかく載っていた。

 そのケープを首元の大きめのリボンで留めている。見た目相応、少女が好む桃色の大きなリボンである。

 細い腰をより魅せるコルセット。黒の小さなフリルで縁どられ、体型に合わせるための調節紐は一本一本は色の異なる3本の暗色の糸で編まれたもの。

 コルセットと下衣の極端に短いスカートの接ぎ部を隠すように、刺繍とフリルがこれでもかとふんだんに施された大きな帯を巻いている。

 腰の脇にちょこんと配され巨大なリボンを作り、地に垂れんばかりの長い帯足を流す。

 巨大なリボンは少女の色を濃く醸し出しながらも、穏やかに揺れる様は気品を示す。

 言葉として今だかつて表されたことのない、少女さを残しながらも大人の質へと引き上げる別次元の美。

 

 だが、落ち着きがありながらも前衛で攻撃的な服のデザインが変貌する。

 何を血迷ったか、常識では考えられないほど短い、破廉恥このうえない『股丈』というスカートを履いている。

 正面を除く外周は、特に着飾っていない無骨な外套で隠されている。

 つまり、わざと股下と白く艶かしい太股を見せ付けているのだ。

 ちょっとでも風を浴びれば、同じ背丈のものであればひょんなことであられもない股間を覗けてしまうだろう。

 そんな極限危険地帯であるが、男にいったいどんな怨みでもあるのか、太股の付け根に近いところまで桃色と黒色のぴっちりとした長い靴下で覆っているのだ。

 ほんの僅かに沈んだ若々しく、瑞々しそうな肌は一番際どいラインだけ見せ付けられ、すらりと長い脚は全て隠されている。

 かと思えば、極限危険地帯のすぐ真上には、防御力皆無の黒いヴェールに隠された誰も見たことのないような楽園でもあるのかと――げほん。

 あまりにも熱く語りすぎた。

 男子が始めて異性に興味を持ち始め、恋心、女に強烈な想いを抱く頃。

 そんな年頃の少女が着用できるわけがない、大人だけが持つ肢体を引き立たせる服飾。

 しかし、それは大人の女性の姿に合わせて見繕われたもので、決して少女が手に入れられるものでも、授けられるものではない。

 考え至れば、このように途轍もない美を得られたかもしれない。

 なのに、潜在的な何かが『神の領域』を汚してはならぬと、誰もが夢想すらしなかった究極の服飾。

 最後を飾るのは、小さな靴などではなく、膝下まで覆う黒の柔らかな布製のロングブーツ。

 これだけ鮮烈に攻撃してきたかと思えば、最後を飾るのはあくまでも上質さを唱える無骨なもの。

 

 

「熱く語りすぎた。まだ、天使様の外装の話だけなのにな」

「いや、いい。私も大変興味深い。懐かしいな。何かしらあれば競い、優劣を付け、どちらが彼女を嫁に迎えるかと成人するまで争っていたな」

「まあ、結局。なんの身分もない強くもない優秀でもない、平凡な男に奪われ……いや、我らの想いが彼女にとっては重すぎたのだろう。完全な敗北を期したな」

 

 

 それ以降、燃えるような恋心はなりを潜めた。

 粛々と物事を見据えるようになってからというものの、現在の一国の王にまで至るほどの慧眼を得てしまった。

 人は、恋すれば変わる。変わりたくば、恋をせよ。

 そして、失敗は人をさらに変える。

 己の精神次第では我々のように飛躍的に成長するが、道を外れ堕落するものだっている。

 女とは、それだけ男にとって掛け替えのない、たった一人だけ所有を認められた天からの回し者なのである。

 だからこそ、苦悶の声が漏れる。

 私程度の人生を歩んだものでは、かの天使様の……………………まさに思いつくままの美を絵に描いた『絵空事』のままの美貌をどう表現すればいいのか分からない。

 まだ、外装程度であれば嗜みもあるし表現は可能だ。

 だが、私の知る絶世の美女や、かつて恋した、王族すらも手を引きたがる美少女さえも、花瓶に入れられ飾られる花の脇に見せしめとして晒され踏み躙られた雑草にしかならないのだ。

 比較対象すらならない。

 そもそも比較検討する時点で失礼にもほどがあるという別次元。天上の存在。

 いったいどこが礼儀のかけらもない下賤で名乗る位もない、矮小な天使なのだと大声を張り上げて抗議を申し立てたい。

 

 

「すまぬ。肝心な容姿そのものであるが、神の領域にある美を私ごときがどれだけ伝えられるものか……………………全く自信がない」

「お前ほど女を見たきた者が他にいるか。そのお前が……………………言葉を見つけられないのか」

 

 

 なんとか、ぽつりと言葉を搾り出す。

 ……今は亡き娘の部屋の扉を、荒々しく開け放ったあの瞬間を思い出す。

 

 幼さが色濃く薫る小さな鼻に、突つけばぷるんとふるえそうな、女が羞恥に頬を染めた扇情的な淡い桃色の唇。

 あまりにも出来過ぎた端正な顔立ちは、美少女というよりも、小ささと愛らしさから文字通り『人形』と言った方がしっくりくる。

 黒を基調とする静かながらも厳格かつ煽情的なゴシックドレスに包むと、まさしく『人形』。

 王宮の入り口に彫像として飾られていれば、生きていることを忘れ、独立した世界に引きずり込まれるだろう。

 

 ――だが、それを戒めるように。

 ――女の扇情に駆られ、肉欲のままに近寄れば射殺す。

 

 雪景色のごとく冷ややかで、病的なまでに白い肌に薄っすらとかかる神秘のヴェール。

 鼻先までも覆う長い白金の前髪。

 神々しいヴェールの奥底で、見るものの心臓を鷲づかみにする紅の至宝。

 燃え盛る太陽のような、熱く決断的な天使様のご意思そのものを見る者に与える瞳。

 しかし、時に見せる怒りを知れば、それは燃え盛る怒りの片鱗とも、押し固めた鮮烈な殺意から生まれた宝玉にも見えた。

 小さな口から時折覗く八重歯も、可愛らしいと言えば可愛らしいが、引き抜かれ切っ先を突きつけた刀身にも見えるだろう。

 無知のまま無遠慮に近付けば八つ裂きにされる錯覚を見る。

 美しい華には棘がある。

 至高の宝玉には、僅かな傷さえも許されない。

 触れた瞬間に砕け散ってしまうという緊張感を持って触れなければ、何か神罰を受けてしまうのでは?

 

 いったい如何様な天使様かは不明である。

 パッと味では飾り気のない簡素な服飾に身を包むが、見る者が見ればその洗練された衣装に畏怖すら抱く。

 ましてや、それらの風貌もあり。

 黒と白。相反するものの互いが互いを引き立て合う。

 どちらかが少しでも見劣りすれば一瞬でバランスが崩壊し歪なものとなるだろう。

 子供でありながらも、大人のように締まった肢体。軽やかな尻にまで及ぶ長い髪。

 可愛がり、守りたくもなる華奢な少女かと思えば、年を重ねて知と美を得た大人の女性を思わせる佇まいであり、触れればこちらの身が傷つきかねない雰囲気さえ漂う。

 未だかつて見たこともない、広く一般的な『金色』の髪と対をなす『白金』の長髪。

 陽光を浴び光り輝く細くきめ細かい宝石細工のごとき長髪が風を浴び、絡まることなくふわりと凪いだ姿は今でも鮮明に思い浮かべられる。

 あれほどまでに洗練された美を飾るためには、宝石すらも見劣りしてしまう。

 だからこそ、天使様本人を宝石として見立て、衣服は一切の装飾を廃し下地という一点の役目だけを追求したのであろう。

 

 そして、最大の宝石である黄金に光輝く巨大な翼。

 翼ひとつは天使様そのものと同じか、それ以上の巨大さである。

 しかして、人が思い描くギラギラの黄金ではない。

 例えるなら、雲を着き抜け大地に降り注ぐ瞬光であろう。

 意識が覚醒し、まだ覚醒しきれていない脳と目が一時だけ見せる、滲んだ光の帯。

 目を開き、瞬きするまでの、本当に一瞬だけ見れる世界が光に覆われている神秘的な光景。――それに似た光の差し方から、しゅんこう。瞬光と呼ばれる光景である。

 ただ、誰しもがこの光景を何度も無意識に知らぬ間に見ているがため、とある有名な詩人がそれを言い表すまで言葉として存在しなかった新しい言葉である。

 ……リ・エスティーゼ王国の第三王女。

 ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。

 金の髪に象徴される国内外にも知られる美貌と、王国の強化に繋がる画期的な施策を立案する頭の回転の良さ、精神の輝きの両面を讃えて『黄金』の二つ名で知られる王女である。

 黄金のラナー。

 彼女が初めて民衆に姿を御見せになられた時、言い表すに相応しい言葉がないと嘆かれた場で詩人に紡がれた最大の賛美の言葉である。

 聴衆の場では、誰もが「何を言っているんだ、こいつは」と静かながらも、意味不明な言葉を発する無礼を嘲笑う顔や視線、呟きに満ちていたという。

 だが、ラナー本人の一言で全ては覆った。

 

 「私は今でも貴方が語る、まどろみの中の光輝く世界をゆっくりと堪能してから一日を迎えます。

  毎日見ているがために、当たり前と日常化し色褪せて逝く世界がその時だけ本当の姿を見せてくれるのです。

  まさか、このような場でその想いを共有できる方と出会えるなどと思い願っても叶えられませんでした。是非、一緒に素晴らしき世界を語り合いたいものです」

 

 詩人は、栄誉ある『黄昏の詩人』の称号を授けられ、方々から声がかけられる偉人として、今も現役の詩人として仕事をしている。

 ただ、どうして『黄昏』の名を授けられたかは当の2人にしか分かっていない。

 『黄昏』とは、一日のうち日没直後。雲のない西の空に夕焼けの名残りの、網膜に突き刺さる朱が残る時間帯である。

 それが失われて藍色の空が広がると、人が消え、魔が這びこおる時間帯に入る。

 決して名誉として使う時間帯の言葉ではない。

 黄金のラナーにちなんで『黄金の詩人』や『陽光』『朝日』『光輝』ならば分かる。

 なぜ、魔が差す寸前の刻を取ったのか。

 黄金のラナーが詩人を危険視する暗喩などと邪推も行われたが、そんな怪しげな雰囲気や行動もない。

 謎に包まれたままであった。

 

 

 そんな詩人が遣った言葉でようやく、天使様の黄金の翼の形容しがたい神々しさを僅かに物語れる程度。

 かの瞬光のごとき、淡い光が滲む黄金。

 陽光を増幅し、輝きを増し、より一層眩い光を放つ。

 白と黒。未熟と成熟。それらの素晴らしさを象徴とするような後光のごとき翼。

 

 

 人の言葉による賛美は侮蔑にしかならない。

 『神域の美』と、そう讃える以外に他ない。

 しかし、あまりにも出来すぎた美貌というのは、逆に『おかしい』『気持ち悪い』と感じてしまうのはいったいなぜだろうか。

 完璧であるがゆえに、妬むのか。

 己が決して至れず、触れることもできない存在を、無理にでも下級に陥れ、己でも手が届くのだという自己暗示であろうか?

 ただ、明確な答えは知らない。

 なにせ、人類がそのような場面に遭遇したのが今日はじめてなのだから。

 そうでなければ、かの天使様すらも恥じらい身を揺らす言葉があって然るべき。

 

 

 なんとか天使様の美を失礼なく伝えられた感触に、満足の吐息を漏らす。

 あの御姿を脳裏に思い浮かべるだけで、至福の時を何時間も味わっていたかのようである。

 ケネルは目を閉じ、伝えられた姿を自分の知識で思い描いている。

 ただ、どれだけの美に美を重ねて想像したところで、実際に目の当たりにすれば魂が下から抜けるような気分を味わうだろう。

 一度でも神域の美を知れば、人間程度の頭で想像する美がどれほど矮小で嘲笑の的であるかが分かる。

 自分も、今日までそうだったのだから。

 

 

「なんと。銀の飴細工を思わせる白銀の長髪に、陽光を浴び輝く白雪のごとき絹肌の少女の姿をした天使様だというのか。

 翼は日輪の柔らかくも眩しい金……と。人の姿をし、人と同じく話し、同等の者として接する天使様など見たことも聞いたこともない」

「そう、か……神官ちょ――ケネルでも知らないのか。私はその辺りに疎くてな。他の天使様すら見たことがないのだ」

 

 

 言うと、ケネルは手を差し出した。

 長年の付き合いから、意図を理解する。

 『思考連結』――マインド・リンク。

 使用者が思い描く事柄を対象者に伝える神官魔法である。

 口にすることが憚れる事柄などを何者にも盗聴されることも言質を取られることもない必須魔法……らしい。

 マインド・リンクを通して、ケネルから天使様の姿が伝達される。

 

 

「これが……………………天使様だというのか?」

「そうだ。天使様と言うには、少し憚れるがね。スレイン法国のマジックキャスター達はこの天使達を召喚し、使役することができるそうだ。ただのモンスターと言っても差し支えない」

「なんと!?」

「中には、かつて魔神をも滅ぼしたとされる最高位天使がいるという噂も聞く」

 

 

 魔神を、滅ぼした? 魔神をも滅ぼした最高位天使が人に使役できるのだろうか?

 そもそも天使とは、人々の信仰に応え、御姿を見せることがあるだけではなかったのか?

 だが、その最高位天使ですらも、人の姿ではないと言う。

 

 

「これでも神官であるからね。深くは――語れない。しかし、基本的には信仰するモノに対する殉教心が我々を助ける力となるのだ。

 天使様のためにと思えばこそ、尊き天使様がひとつの御使いを使えさせて頂けるのだと。そう解釈して問題はないだろう。現に、そうして使役されているのだからな」

 

 

 ただし。

 マインド・リンクを通して、ケネルは油断ならない険しい顔で告げた。

 

 

「スレイン法国がエ・ランテル近郊の村を襲ったそうだ。しかも、天使を複数引き連れてだ。真に信ずるべきは、同じ人の心であり、神や天使ではない」

「……………………だが、自然は普遍であろう?」

 

 

 言うと、ケネルは薄っすらと笑みを浮かべる。

 話は終わりだと言わんばかりに、ケネルは立ち上がる。

 要するに、現れた天使は正体不明。天使ならば全て良しではなく、使い手や本人の心を汲まねば聖邪のどちらにも転ぶのだと。

 聖邪は、善悪は一人一人の価値観に左右される。

 神官であるケネルが言う言葉を是とだけ捉えるのではなく、自分の目で見て、自分の心で考えて、物事を判断せねばならない。

 固定観念を捨てよ。

 それは、生半可なことではない。

 

 

「――しかし、善悪を決めるのは後世であり、今の私達ではない。善悪も大事ではあるけれど、己の信念を貫き、迷いなく決断することが最も正しい」

「んなっ!?」

「て、天使さ――イザナギ様!!」

 

 

 突如、書斎に響き渡る凛とも可憐でもある華やかな声。

 静寂の中に声が透き通っていく。

 澱みのない声が紡ぐ言葉は、聖邪善悪を覆す冒涜とも受け取れる決定的な断言。

 されど、それを否定する言葉は全く浮かび上がらない。

 その発言はよろしくない。なぜ?

 善悪も関係なし、己の信念こそが是であれば悪がまかり通るからだ。なぜ?

 一瞬にして清濁の奔流に飲まれる我々を、審判を下すがごとく見下ろす天使の姿を仰ぎ見た。

 2階の手すり部分に腰を下ろし、脚を組み、頬杖を付きながら笑みを浮かべる姿は――愛くるしい外見とは裏腹に、凶悪な悪魔を彷彿とさせた。

 決まりかけた聖邪善悪を瓦解させ、泥沼に陥れた言葉はまさしく悪魔の囁き。

 純潔を示す白き体を覆う、妖しくも魅惑的な黒い外装はイザナギ様の本質を語っていた。

 大きくくりくりとした可愛らしい瞳が、今や獰猛な獣のように獲物を捕らえて離さない。

 心臓を、直接握り締められているような重圧に、膝が砕ける。

 血のような。あるいは怒りのような。はたまた殺気を押し固めたかのような紅玉髄の双眸。

 その縦に裂けた瞳孔に、どうして今まで気付かなかったのか。

 これではまるで――

 

 

「魔神ではないか、ですか?」

「っ――!?」

 

 

 先ほどからずっと心を読まれている。

 横目でケネルを見ると、心臓を押さえ、片膝を着いてぜえぜえと肩で息をしていた。

 いや、ケネルだけではない。私もだ。

 今この瞬間、彼女の機嫌を損ねれば即座に命が費えるであろう確信。

 そこまで考え至っていることさえ理解し、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 人を屈させるほどの圧迫感を与えてなお、イザナギ様はまだまだ余裕を見せていた。

 

 

「言ったでしょう? 貴方は賢いと。賢いのだから、私に一歩踏み入れなさい」

 

 

 その言葉は、まさに悪魔の囁きのように耳を通り脳に直接浸透した。

 捉え様によっては、魔神のごとき重圧を放つ彼女の隷属になれ、とも聞こえる。

 拒否権などなし。問答無用で配下に加われ。でなければ殺す、とでも。

 迷い無く、重圧を撥ね退け一歩を踏み出そうと全身に力を入れる。

 

 

「よせ、ローグス!」

「いや、いいのだ。これが……………………正しい!」

 

 

 全身全霊を振り絞り、下ろした脚を振り上げた。

 書斎を揺るがすような踏み込みで、重圧を撥ね退け立ち上がる。

 その姿に満足したのか。彼女は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。

 なんとなく、理解していたのかもしれない。

 王である私と接していた者達は、ここまでとは言えないが、寿命を縮めかねない重圧に襲われていたのではと。

 相手の気持ちを理解するには、相手の立場になること。

 それが出来れば苦労はしない。

 だから、生半可な努力でどうこうできるものではない。

 

 

「ふふっ。どうです? 遥か天上の者と相対する気分は。あることないこと、いーっぱい考えませんでした?」

「全てを見通し、本来見えるはずもない心までも看破する慧眼――いや、神眼。感服いたします。そして、感謝いたします」

 

 

 何が起きたか理解していないケネルは唖然としたまま私と彼女を交互に見比べる。

 書斎を異界へと変貌させていた重圧はすでにない。

 天使様は、頬杖を着いたまま屈託のない笑顔で、脚をぱたぱたと動かしている。

 

 

「でもでも、私のことをひそひそと噂するからいけないんですよ。陰口とか言われてたら、悲しいじゃないですか。

 でも、まあ。私が変なことをする前までは、ローグスさんはしっかりと私を信用してくれてましたからね。嬉しいです」

「身に余るお言葉。ありがたく頂戴いたします。以後、天使様のことを語るような場であれば、お声をかけ、ご同伴くださるようお願いいたします」

「今回は私も寝てたし、私が悪いんですからそんなに畏まらないでください。言ったでしょう? イザナと気軽に声をかけてくださいって」

 

 

 ほっ、と小さな掛け声と共に天使様が降り立つ。勢いでスカートが捲れて小さく可愛らしいお臍まで見えるという非常にはしたない行為であるが、身の危険を感じたので指摘はしなかった。

 決して、指摘するとその素晴らしき御み足を拝見できなくなるのではないかという考えではない。決して。

 金の刺繍で縁取られた赤色のカーペットの上に、遅れて零れる黄金の羽毛。

 天使様の位が明らかになれば、羽毛ひとつ取っても恐ろしいまでのマジックアイテムになりかねない。

 いや、頭の中で思いを馳せる時も、出来うる限りは天使様でなく、彼女やイザナギ様と呼ぶことにしよう。

 普段から気を付けなければ、彼女が一番望む互いの立場にならないのだ。

 そんな思考も敏感に察知したのか、愛くるしい、文字通り天使のような微笑を浮かべた。

 無礼にもほどがあるが、あまりの愛くるしさに股間が身じろぎする。

 誤魔化すように背を向け、書斎の中心に座するテーブルの上座に彼女を誘導する。

 彼女の背丈からすると大きい椅子。

 手を出し出すと、彼女は小さな手を置き、私の手をそっと握り締めた。

 ぐっと力が込められ、見た目以上に軽い体重の一部が手に加わる。

 軽く引き上げるように少女の体を持ち上げる。

 ふわりと軽やかに椅子に座す。靡く長髪。頬を掠める芳醇な少女の薫りと、柔らかな感触。

 ただ座るだけなのに。決して上品とは言えないはずなのに。どうしてこんなにも気品が溢れ出るのか。

 美しい横顔を拝顔し、対面に座する。

 ケネルは一瞬迷うが、私と少し距離を開けて隣に座った。

 

 

「そもそも、私の家でもなんでもない。しかも無条件で住まわせてもらうのですから、非常に申し訳ないんですけどね」

 

 

 一番初めに口を開いたのは、イザナギ様だった。

 こうやって、堅苦しさを消そうと気軽な声色で語りかけてくださる。

 幾分か慣れてきているので、相槌を打つ程度に抑えるよう心がける。

 ケネルは自分の想像する天使像とのギャップと戦っており、まだどのような問いを投げかけるか悩んでいるようだ。

 懐の深さを考えれば、大概のことを許してくれるだろうが、相手が相手だけに深く考えてしまうのが普通の反応だ。

 

 

「ですので、私でも出来ることをしたいのです。そのためには、最大の権力者であり支持者であるローグス王の協力が不可欠。

 どうか、貴方のお力をお貸しいただきたい。私に出来るのは貴方に感謝し貢献し、私の存在を証明し、この素晴らしい王国を今よりも磐石にし、発展させること」

「イザナギ様自らそのようなお言葉を頂けるとは。王国に住まう貴族、民もお喜びになるでしょう。今はこの私ローグスが代わりに御礼を申し上げます。

 御身の偉大さはすでに街中に知れ渡っています。私の権限がそれほどの影響を与えるとは思えませんが、民衆はすぐにでも御身のために尽力することでしょう」

 

 

 一つの方針が決まったところで、イザナギ様がちらりとケネルを見た。

 とうとう来たか! そんなケネルの内心の叫びが手に取るように伝わった。

 すっと席を立ち、ケネルが一歩身を引く。全身がイザナギ様に見えるよう配慮したのだ。

 

 

「二度目となりますが、我々の国の説明も含め、彼の紹介をさせてください。

 彼は本国――リ・エスティーゼ王国の王都から派遣された王国屈指の水の神官長ケネル・ウェンディ・リ・ドメイン」

「紹介に預かりました。リ・エスティーゼ王国、水の神官長ケネル・ウェンディ・リ・ドメインにございます。

 まずは先ほどの無礼を――ありがとうございます。この度は、ローグス王からの依頼ならびに本国の王からの命令で御身のご確認に参りました」

 

 

 イザナギ様はケネルの謝罪を一蹴。私自ら非礼を行ったのだから、貴方が非を感じる必要はないと。

 

 

「私の確認というのは?」

「はい。我が国において天使様の光臨は歴史上初と言えるでしょう。諸手を挙げて喜びたいところですが、信仰心の厚いスレイン法国を差し置いてなぜ我が国にとの戸惑いが強いようです」

 

 

 イザナギ様の機嫌を損ねぬようにケネルは慎重に言葉を選んでいるようだった。

 矮小な人間としては、失礼とは分かっていても強大な力を持つイザナギ様を警戒してしまうのだと。

 イザナギ様の存在を疑っているのではなく、少しでも未知の恐怖をやわらげるために調査してしまうのは人間の本能であると。

 ただの平民どころか、王も神官長も混乱するのだから本国が混乱するのは当然だ。

 これほどの事態となれば現国王が自らおいでになられるべきなのだが――イザナギ様に隠し事は通用しないと踏んだのだろう。

 国王に泥が被らぬよう、それとなしに国王が身に置かれる立場を説明し、非礼を詫びた。

 

 

「いえいえ、全然構いません。むしろ、来ていただかなくて助かりました。国王まで来たらプレッシャーのあまり失禁してしまいます。

 礼儀の欠片もございませんし、笑いものにでもされたら泣いて一生山に引き篭もって過ごすことになってしまいます。天使の名を失墜させたと滅されても文句は言えないでしょう」

 

 

 本当にそう思っているのだろうか?

 両手をひらひらとさせて謙遜しているように振舞っているが、先程の重圧を考えれば「国王ごときが来てなにすんの? 面倒くさいから、したいことさせて」の意にしか見えない。

 てきとうな振る舞いが目に見えて多いが、今までのことを考えると――何も考えていないようで何十手先も読んでいるだろう。

 あくまで、わざと無知を振舞って他の者に対してのプレッシャーを軽くしているのだ。

 

 

「まさかこの老いぼれが生きている間に天使様と相見えるなどとは思ってもいませんでした。ましてや、真――人の姿をした天使様など見たことも聞いたこともありませぬ」

「人の姿をした天使がいない?」

「御身は我らが知る世界とは異なる、遥か上位の存在だとお見受けします。なにせ我らが知る天使とは、言葉も交わせず、ただ命令に付き従う存在なのですから」

 

 

 イザナギ様が机に肘を着き指先を口元に当てて思い悩む。

 天使が同属の天使を知らないとはどういうことだろうか。

 天使には天使の、干渉すら許されぬ一線を画する階級があるのだろうか。

 

 

「ちなみに、現在確認されている最上位の天使は誰でしょうか? もしかすると知った仲かもしれません」

「今や神話の世界の話ですが……かつて、魔神をも一撃で葬ったと伝えられる最高位天使ドミオニオン・オーティリt――」

 

 

 ゴガーン! 盛大な音を立てて、イザナギ様が頬杖から頭を滑らせて額をしたたかにテーブルに打ち付けた。

 

 

「はあっ!? そんなゴミが最高位!?」

「はいぃ!?」

「ほぁっ!?」

「……………………――げほん。失礼。思わず汚い言葉を」

 

 

 ゴミ!?

 今、あの伝説の魔神を倒したドミニオンをゴミって言いませんでした!?

 ぶつぶつと何事か呪詛のようなことを撒き散らしている。

 最高位も何も低級だろ。あのくそやろう。警戒して損した。あのゴミで喜んでるくらいだし。

 などなど、伝説に残る天使が口々に罵倒されていく。

 どうやら、お知り合いらしいが……扱いのひどさから察するに、イザナギ様から見て遥か低級の存在らしい。

 ぞわりと背筋が凍る。

 

 

「……………………この世界に来てからの皆さんの驚きぶりがどういうものなのか、十分に把握いたしました。

 これ以上の混乱を避けるには、お二方には天界の最低限の知識を持っていただかなければなりません。でなければ、私がいちいち疲れてしまいます」

 

 

 半開きの据わった視線が突きつけられ、思わず背筋がぴんと伸びる。

 その瞳には、本物の天使も知らずにゴミごときの秤で我のことを計っていたのか、という憤りを通り越した呆れがあった。

 返すべき言葉も見つからない。

 ケネルと視線を交わすが、高位のものとよく目を合わせる彼でもどう対処すればいいのか分からないようだ。

 

 

「私に対していったい何を期待されて突然こんな世界に突き落とされたかは調査するしかありませんね。いずれはここを出ることになるでしょうから、それを念頭に置いておいてください」

「イザナギ様ほどの天使様が――何の命令をくだされていないんですか?」

「そうですよ? 当たり前でしょう。派遣先の調査も含め、全部ぶん投げです。何をすれば良いかも含め、全て自身の目で判断し処理する。

 善悪の判断もつかない、何を成すべきかも分からない、必要とされるモノの分別を自分で付けられない天使など存在する価値もないでしょう」

 

 

 故に、ドミニオンごときに対して与えられる仕事は『ゴミ掃除』程度。ゴミだそうだ。

 ご、ゴミ……………………頭がくらくらしてきた。

 嘘だ。嘘だと言って欲しい。

 もしくは、本当にイザナギ様が超次元の存在であることを証明する何かを叩きつけて、我々の意識に変革をもたらして欲しい。

 

 

「とまあ、このように話すたびに己の正気を疑ってばかり話が進みません。ですので、とっとと視点を引き上げていただきましょう。

 貴方方ですらこうなのですから、一般の民衆はこれ以上なのでしょう。――人間界では誰も知りえない情報の開示となります。くれぐれもお気をつけて」

 

 

 とん、と天使様の指先がテーブルに突き立つ。

 指先を中心に、書斎を埋め尽くす巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 

 

「な、あな、なんなんじゃこりゃあああ!?」

「ちらっと耳にしましたが、この世界には全部で10の位階魔法が認知されているんでしたっけ。その上に存在する第1超位魔法の秘匿魔法です」

「……………………」

 

 

 驚きの限度を超えると、極端に冷静になるらしい。

 なんだろう。もう、このお方なら「私は創造神です」と言ってもすんなり信じられる。

 歯車のように幾重も重なり、2層、3層と魔方陣は展開されていく。

 視覚化された魔法の理。

 それが、己の体を突き抜けて何事もないかのように刻一刻と姿を変えながら歯車のように廻るのだ。

 イザナギ様が目を閉じ、魔法詠唱とは異なる――自己へ、あるいは世界へと没頭し魔法を浸透させていく。

 ここは、もはやただの世界ではなかった。

 神話の世界の一端を見せ付けられ、人間の常識の壁が破壊された。

 これだけの超常現象なのに、一切の魔力が感知できない。

 真の魔法とは、魔力だけを振りまくのではない。

 自己と世界を融合させ語り合い、交渉の果てに現象として引き起こされるのだと知った。

 視界が白く染まる。

 何層にも重なっていた魔方陣が突然の光の爆発とともに四方八方に飛び去っていく。

 

 

「もっと初めに使うべきでしたね。何者かが私達を偵察していたようです。

 同じ超位魔法でこの部屋の魔法隔離が破壊されない限り、ここで語ることは誰にも知られることはありません……貴方方が話さない限りは」

 

 

 それは遠まわしに死を突きつけているようなものだった。

 ここまで来て、黙っている自信はありませんのでお断りします。などと言う選択肢はない。

 重圧に重圧を重ねられ、喉はすでにカラカラに渇いている。

 テーブルに水があるものの、イザナギ様が一口も飲んでいないのだから、我々が割きに飲むわけにもいかない。

 厳かに頷いて喉の渇きを誤魔化す。

 そうして天使様は語りだした。

 

 この世界の上には、天上界『ユグドラシル』なるものがあり、そこにはそこの神々や天使、悪魔がいること。

 下界と同じく10位階の魔法はあるが、ほとんどの者は5位階魔法を最下位と見て、それ以上のものを扱うという。

 超位魔法と呼ばれるものを扱える者は優に1000を超え、お互いにその特性を把握しており、簡単に対処できてしまうのだという。

 他にも、天上の世界でも国があり、領地を争い合うこともある。

 争いの元となるのは、天上界基準である神の秘法である。全部で何百とあるらしいが、至高の神々ですら易々と見つけられるものではない。

 その中でもとんでもない力を発揮するものがあり、『二十』との言葉を聞けば至高のアイテムである最強各の20個のアイテムであると誰もが知るそうだ。

 

 で。

 我々の物差しでは到底理解できない世界から、神々の尖兵であるイザナギ様が送り込まれた。

 わざわざ下界に送り込まれた理由としては――

 

 

「私達の世界から邪神の一柱が降り立ったと考えるべきでしょう。であれば、すでに人々はその毒牙にかかっており、無意識の内に、何も思わず同属である人間を差別し嫌悪し、殺しあっているはずです」

「な、なんと……今まで何も思いませんでしたが、我々はすでに邪神の手にかかっていると言うのですか」

「王でしたっけ。その階級別けも邪神の魔法の影響でしょう。同じ人間でしょう? 母なる大地に等しく生れ落ちた赤ん坊でしょう? なんの差があるというのですか」

「たしかに天使様の仰られる通り……むぐぅ。こうして言われるまで何とも思わない自然さこそが真の恐ろしさなのでしょうな」

 

 

 天上界もまさにその状態なのだと言う。

 ケネルと共に実感の湧かない悪の魔法の威力に唸る。

 威力という威力は感じられない。突然魔性の者へと変貌するわけでもない。

 これをいきなり邪悪な神の施した魔法と言われても、悪影響を感じられないのだ。

 だからこそ、その邪神の巧妙な手口がおそろしいのだが。

 

 

「まあ、魔法なのか、二十に頼って発動した儀式かも分かりませんが、そうですね。昨日、私が言ったように人間が人間を憎み合う『負の連鎖』は始まっています。

 『ダーク・スパイラル』とでも適当に名付けてしまいましょう。それが何年、何十年、はたまた何千年前に発動されたかは不明ですが、戦争が起こっていることを考えれば――」

「すでに、並々ならぬ影響を受けているわけですね」

「しかも、誰も疑問に思わぬほど意識に刷り込まれた……危険とすら感じぬまま人類が人類の手によって自滅する魔法」

 

 

 邪神は、それにさえ気付かず破滅していく人間の姿を見るのがこの上ない興奮を覚えるのだという。

 愚かだとさえ気付かぬ愚の真骨頂。

 他人のせいにして真の悪さえも、耄碌した目と頭で気付けぬまま同属に呪いを吐き、さらに増強された呪いを撒き散らす。

 その積み重ねの結果、成仏すらできぬ怨霊が発生し、アンデッドや魔獣も蔓延る世界になってしまう。

 最終的にどれだけ危険な魔物が存在しようと、それでも人同士の争いは絶えない世界となる。

 

 

「それだけではありません。こうやってまともな天使が派遣されたのが今の今です。

 ドミニオンをゴミと。報告もできないゴミ掃除しかできない使えないやつと言った意味が分かるでしょう?」

「は、はあ……………………」

 

 

 イザナギ様の言う邪神とは、敵対する聖なる天使達にさえその存在を悟られなかった隠密性を持つ。

 そして日ごとには気付けない。年を重ねれば常習化し異常を異常とすら感じられなくなる。

 当たり前となれば、指摘されても「何を言っているんだこいつ」と逆に反感すら持つようになってしまう。

 天使様に指摘されなければ気付くことのできない歪を、湖に一滴一滴泥を垂らすように綿密に計画を進めていく。

 こうして天使様の一柱が光臨なさったのであれば、一思いに滅することが可能なのではないか? そんな疑問は情け容赦なく切り伏せられる。

 自分達よりも遥かに下等な存在であるのならば、とうの昔に滅ぼしていると。

 聖と邪は互いに互いを滅する反属性同士。

 むやみやたらに突撃しても、相手がいったいどこでどれだけの規模の軍勢となっているのかも分からない。

 無駄な疲弊をしたところを突かれるぐらいならば、天使は天使で邪神によって汚染された地域や人々を浄化し勢力を増していくべきであると。

 着実に規模を拡大しているのは、先程の超位魔法によって何者かの監視を弾き飛ばした時点で確定している。

 昨日、今日で出現したばかりのイザナギ様を感知し、第8位階相当の諜報魔法を幾重にも張り巡らしていたという。

 これで邪神軍に天使様の光臨は気付かれた。

 邪神の動きが活発になり露見するか、今以上に慎重になって何百年何千年規模の水面下の戦争となるのか。

 それらを大きく左右するのは、それを知った我々だと言う。

 尤も、知る知らないは関係なく、この地に天使が光臨した時点で無関係ではいられない。

 ――この地は、天使が光臨できるほどの何かを秘める、守るべき拠点であり……攻め入られる弱点でもある。

 これだけ重要であると話してくださったイザナギ様が、自身を鼻で笑った。

 

 

「ふふっ。存在するだけで国にとって害悪となり得る。天使とは悪魔と大差ない傍迷惑な存在でしょう?

 いえ、悪と断じられる者と違って、仮にも人類の味方になり得るだけに、追い出したくても無碍にはできないのだから悪よりも性質が悪い」

「そ、そんなことはありませんとも! 私は……ケネルも同調してくれるようです。我々はイザナギ様のために尽くすと誓いましょう」

「――けれど、貴方方の決定に対し、民は諸手を挙げて私を支持すると人生を家族を投げ打って戦ってくれるでしょうか?」

 

 

 ……そ、それは。

 口ごもると同時に、そこまで我々のことを考えてくださるイザナギ様に、何度目とも分からぬ感謝の気持ちに包まれた。

 

 

「ですから、内部崩壊だけは回避したい。現状はこれらのことを伏せていただき、民達が自ずから私とはいったい何なのか知りたがった時にこそ真実を言うべきでしょう」

「天使様ほどの聡明な方がそう判断するのであれば、それに間違いはないでしょう」

「私から見てもイザナギ様の判断は遥か何年と先を見通した考えだと思います。しかしながら……ローグス王国だけの問題では済まされない」

 

 

 されど、他の2大国家はおろか、本国ですらこの事態を重く見るのか危ういのが世情である。

 悲しくも、イザナギ様の存在は我々でいう『御伽話』の世界をさらに超える『夢物語』か『空想』レベルの話なのだ。

 

 

「ローグス王が考えている通りでしょう。ですから、私は人類の意識を着実に高め、自らの名を一気に広げなければなりません。

 笑い飛ばすような御伽噺を広め、一瞬で現実と成す。それには綿密な計画も必要ですし、人界の世情も知らねばなりません。改めて――」

 

 

 至らぬ身ですが、御二方の力を貸していただきたい――言って、席を立ち我々の元まで歩み寄った。

 差し出される少女の手。

 見た目だけは少女なのだろう。

 しかし、その小さな手と体に世界の命運が圧し掛かっているのだ。

 ――人間ごときに、イザナギ様が背負う重みをどれだけ軽減できるというのだろう。

 ケネルと視線を交わす。

 若かりし時と同じ決意の眼。

 魔物が現れた王国を再び手中に治めんと、各地で研鑽を積み、遂に今のローグス王国を取り返したあの時のような。

 今、目の前にいるのはたしかに強大すぎる天使なのかもしれない。

 されど、同時に年端もいかない少女であることも事実。

 

 

「我々にできることは少ないかもしれません。ですが、なんなりとお申し付けください。全力で成し遂げて見せましょう」

 

 

 私達の言葉を受け、天使様は私とケネルと丁寧な握手を交わし、演技などではない――本当の、少女の笑顔を見せた。

 

 

「よろしくお願いしますっ!」

「こ、こちらこそよろしくお願いしますとも!」

「天使様の御力になれるなど、このケネル冥利に尽きます!」

 

 

 両足を揃えて、勢いよく礼をする姿は紛うことなき幼子のもの。

 振り乱れた髪を整える少女の姿に、光が見えた。

 あまりの神々しさか?

 年端もいかぬ少女が背負う過酷な運命にか?

 乱れる心が誘う涙の真意は分からなかったが、これだけは言える。

 一人の人間として、全力で彼女を支えようと。

 

 

 会談と言うべきか、会議と言うべきか。

 三者の意思疎通も終わり、ようやく一息つく。

 大部分はイザナギ様と我々人間の認識の違いの改め。そして人界のことを教えることだったが。

 

 

「さて、これで御二方は私のことを知る重要人物になってしまいました。何か聞かれても、自身は記憶操作でも喰らったのか、全然何も知りませんを貫いてください。

 そしてなぜか私の身体的特徴や本名を知る者に関してはすぐにでも私と会わせるように。それ以外は従来通りの仕事をしてください。私はそのお手伝いをさせていただきましょう」

「それでは手筈通り、ローグス王国内ではイザナギ様の御心を広め、支持を集めることでよろしいでしょうか。まあ、すでに半分以上目的を達しているような気がしますけれど」

「……本国では、天使様も絶句するほどの堅物共に辟易するでしょうな。できれば入念な計画の上で帰還したいと思います。

 本国に帰還してある程度のことまで話したら、天使様に必要とされているということでこちらに家族共々住まわせていただきたいのですが……」

「おお、ありがとうございます! あそこの綺麗な湖を見て、水の神官長を天使が迎え入れたいと伝えれば一発ですかね!? 後日、話を詰めたいですね」

 

 

 ケネルが唸る。

 イザナギ様も言わんとすることを悟り、本国がそれほどまでにひどいのかと苦笑いする。

 ケネルの言いたいことを大っぴらに言うとこうだ。

 「国や民、貴族の関係などどうでもよく、自分さえ良ければ全てよし。悪しは全て言質で他人にぶん投げて我関せずでふんぞり返るクズとは一切関わりたくない」

 イザナギ様がこの国に光臨したことで、私達にとって非常に都合が良い。

 私達に都合が良いということは、総じて天使様にとっても都合が良くなる。

 そうすると本国の貴族共の立場は一気に後退するため、彼らにとっては非常に不都合な存在となる。

 互いの利益になり、不利益になるのであれば隠す必要がない。

 もちろん、利益に限らず不利益の情報も全て開示し、3人で知恵を絞ればより良い解を得られるだろう。

 尤も。イザナギ様の叡智だけで事足りてしまいそうなのだが。

 

 

「ありがとうございます。貴方ほどの王だからこそ、私はここに……運営もここを拠点とすべきと私を送り込んだのでしょう。

 そして、本国の状態を憂いて、立場的にも柔軟な対応をしてくださるケネル神官長を巡り合わせてくれたのでしょう。正直、上はそんな崇高な頭の持ち主ではないので、単なる偶然――」

「――されど運命、ですかな。いえいえ、私ごときがどれほどの役に立てるかは存じ上げませんが、出来る限りのことはしましょう」

「言葉は捉え様によっては悪くなってしまいますが、天使様が光臨なさり私共は非常に助かっております。些細なことでもなんなりとお申し付けください」

 

 

 どうしてこんなにも冷静に会話できているのだろうか。

 相手は史上最高位天使。対等に居られるはずがないのに。

 ふと疑問に思うが、それこそがイザナギ様の話術が成す業なのだろう。

 初めに感じていた天上の存在と下賤な人間の溝はない。

 それは当然だ。

 イザナギ様は初めからそんなことを微塵も考えておられない。

 初めから、このような関係になれることを望んで諭し、対等に接してくれるよう立ち振る舞ってくれたのだ。

 ……そもそも格が違うのだから、懸念する時間が無駄だと現実を突きつけられた気がしないでもないのだが。

 

 

「んー……ローグス王は非常に賢いので、私が振舞う演技の支援をしていただきましょう。付け焼刃のホラ吹きでも構いません。

 勢いだけでも構いません。支援さえいただければ立ち振る舞い易いのです。民衆を騙すようですが、真実の意味では騙しでもなんでもないですから――」

 

 

 

「――だって、嘘ではないんですから」

 

 

 片目を閉じ、人差し指をちろりと舐めてウィンク。

 ぞわりと背筋に悪寒が奔った。

 どうして、こう、見た目は幼いのに熟した貴族のような妖艶さを醸し出すのだろう。

 わざとやっている硬さはなく、素でやっているのだから余計悪い。

 魔性の美。妖艶。魅惑。これらは彼女のために用意された言葉に違いない。

 ただ、できれば。できればだが、妻子もいるのだから男心を鷲掴みにして離さない誘惑的な言動は控えて欲しいものだ。

 

 

「ではではっ。さっそくですが内政に携わる者と使用人を最低10人ほど。内政に磨きをかけるには、生活基盤の最下層から手がけるに限ります――が」

 

 

 天使様が視線を左右に、上にと泳がせる。

 何かあるのだろうかと目で追うが、特に何かあるわけでもない。

 

 

「その、前に。非常に図々しいお願いなんですが、その……」

 

 

 顔を紅潮させ、俯いて小さく呟く。語尾にいたっては全く聞こえないほどか細い。

 何とか湯浴みと聞き取れ、合点が行く。

 風呂だ。

 風呂という言葉を使わないのだから、なんだかんだ言って高貴な生まれであり、それに準じた言動が見受けられる。

 こういう、控えめな女の仕草というか言動が危険なのだと思ってすぐにこれである。

 無意識だから無理なんだろうけど――諦めの息を漏らす。

 

 天使様の湯浴み。民衆からすれば女神様。そんな御方の湯浴みとなれば、さすがに男の出る幕はない。

 指を鳴らし、メイドを呼びつける。

 メイドを呼びつける時は大抵、大貴族の女性陣が関わった時である。

 その意味を理解したであろうメイドは顔を青ざめさせ、己に課せられた大業にふらふらと貧血を起こしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「か――っ!?」

 

 

 ケネルが目を大きく見開き、目玉が飛び出しかねないほどの驚愕を見せる。

 大口を上げ、喉の奥を晒すという痴態もなんのその。

 目の前の光景を見て、驚かないものなどいるものか。

 なお、私は除く。

 なんか、もう、イザナギ様なら大地を砕こうが湖を永久凍土にしようが「まあ、天使様だし」で片付けられるくらい開き直ってしまった。

 

 目の前には巨大な広間ほどもある大浴場。

 王族にあてられた風呂は体を休めるには豪華すぎて本来の用途からは落第だと仰られ、水すら張っていない浴場を見てもらった。

 これほど巨大な大浴場に水を張るのに3時間。湯を沸かすのには、さらに5時間。

 要するに、前日あるいは朝早くから準備しなければ使用できない――特殊な場所なのである。

 ここはリ・エスティーゼ王国が誇る最大の避暑地である。

 高貴な方々が、羽を伸ばすために一家全員が同時に風呂に浸かることがあるのだ。

 そうでなくとも、ダンスなどの社交の延長として貴族達が互いの自慢の宝石……女を連れ寄り、お披露目することもある。

 ローグス王国とは、避暑地であり観光地であり、隠された大貴族の社交場でもあるのだ。

 これを言うのも言わないのも、どうも口にするに憚られる。

 そんなことを悩んでいる間に、天使様の悪魔の一言。

 

 

「『神の禊』ならびに『炎天大火』」

 

 

 儀式も事前詠唱もなにもなしに発動したのは、水系神官魔法。第8位階魔法『ホーリー・スプリング』――神の禊。

 アンデッドが蔓延る死都で休息を取るために唯一講じられた手だと伝え聞く伝説の浄化特性・回復特性を持つ『水と光』の特性を併せ持つ究極の一。

 周囲一帯を聖なる領域に浄化し、水域の中心地に近ければ近いほど強力に傷を癒すという。

 アンデッドであれば近くによるだけで浄化消滅。視界に入れるだけで苦痛に襲われ悶え苦しむという。

 それを。準備なし無詠唱。

 かるーい挨拶程度の素っ気無さで使用し、大浴場を霊験あらたかな聖水で満たしてしまった。

 水面からはきらきらと球状の光が立ち上り、浄化の光で室内を輝きで満たす。

 有り余る魔力はそのまま魔法にすらならず、窓から差す光を乱反射させるヴェールとして充満している。

 

 同時に発動したのは同じく第8位階魔法。火の神官系魔法。『サン・ジ・インフェルノ』――炎天大火。

 周囲一帯の自然属性を無理矢理に火山地帯レベルの炎熱に書き換える天候操作の魔法である。

 発動させるだけで国はおろか、周囲一帯のエリアを不毛の大地を通り越し『砂漠』と呼ばれる再起不能の大地を生み出すとされる禁忌。

 間違ってでも、風呂を沸かすためだけに使ってはならない凶悪無比。絶望の魔法である。

 周囲一帯に影響を与えるような自然系の強大な魔法は、ドルイドとしての知識も必要である。

 

 

 知らない者は知らない。知る者は知る。

 知っているのは、かつてミスリルにまで至った冒険者である私とケネルだけ。

 これに関しては完全に御伽話の領域だ。

 昔、冒険者として各地を転々としている中、火山活動が活発な地帯に住まう人々から語り聞かされた知識である。

 ケネルは水系神官魔法の王国屈指の使い手であり、これらの異常さを最も知ることができる人物。

 一度切りの使用ではあるが、ケネルは第4位階の魔法行使が可能なのだ。

 一度使うと1週間は再び放つことはできないし、2日間は日常系魔法すら使用困難になるほど著しい疲労を伴う。

 私ですら、”戦士が魔法を習得するのは困難”と言われる中、ケネルに魔法の教えを仰ぎ、第1位階魔法を習得し褒め称えられたのだ。

 その遥か天上の、本当にあるのかどうなのかも怪しい、けれど記録にはあるという魔法が、目の前で2つ同時に発動されたのだ。

 許されることなら、「なんじゃあああああああそりゃああああああああ!?」と、ありったけの想いを込めて叫びたい。

 喉が掻き切れんばかりにやけくその雄叫びを上げたい。

 どれだけ必死にこの気持ちを表現しようと思っても、魔法発動と同時に放出された魔力量に圧巻され、体が硬直して動かないのだ。

 中腰姿勢、前に手を突き出しガタガタを震える姿を見て、第三者はどう思うのだろう。

 使用人に至ってはもはや失神してしまっている。

 とうとう体も事切れる。

 腰が抜け、タイルが敷き詰められた床材にへたり込む。

 天使様ならなんでもできそうと吹っ切れたと思っていたのはただの思い込み。

 超位魔法なるものにも度肝を抜かれたが、知覚できる魔力を使った魔法は敏感にも異常性を訴えるのだ。

 

 

「だ、だだ、――っだ、第8位階魔法。神話でしか語られたことのない魔法が、今、私の目の前に……………………」

 

 

 ケネルが必死に紡ぎ出した言葉に、イザナギ様が振り返る。

 何言ってんだコイツと訝しむ視線がケネルを射抜く。

 

 

「アホみたいに魔法があるんですから、わざわざ覚えてすらいない5以下の魔法なんて普通使わないでしょう?」

 

 

 そして、トドメを差した。

 泡を吹き、ケネルが白目を向いて失神した。

 

 

「きゃああああ!? ケネルさん!? ケネルさーん!? ――ってローグスさんも魂抜けてるし! 使用人の――ってあんたらも失神してんのかよー!!」

 

 

 アホみたいに魔法がある? 個人ですら発動困難な第5位階魔法が、覚えておく価値もない低級魔法?

 あ、あひ。あひはは。

 笑うしかないでごじゃる。

 

 

 

 

 




『ローグス王国』
リ・エスティーゼ王国の西にある領地。
山脈付近にある小都市で全体的に涼しい気候で見晴らしのいい小高い丘にあり、近くに大きな湖がある。
一面は見晴らしの良い大草原であり、本国の貴族達が羽休めに多くやってくる。
トブの大森林がすぐ近くにあるものの、昔からなぜかモンスターが寄り付かない。
そのため、本国にとっては安全な避暑地であり観光地であり、隠された貴族の社交場でもある。

領主
ローグス・ギーク・ドゥクス・ニルダム王
一応、王と名乗ることを許されているのは巧い口車に乗せて貴族達に「下賤な冒険者上がり領主の見栄だから領地内で名乗ることぐらいは認めてやる(笑)」と言わせたがため。
都市として十分に出来上がるまでは貴族に散々にいびられ、仕上がると同時に受けた掌返しに貴族を嫌っている。
一応、見栄とはいえ小王国を名乗れるだけに本国からは重要視されている水資源、資材が豊富な都市。
立地的にも山や森林からのモンスターの侵入を察知できる重要拠点であるが、避暑地ごときにあるまじき兵と武装と、多くの備品は没収されている。


リ・エスティーゼ王国、水の神官長
ケネル・ウェンディ・リ・ドメイン
水系神官魔法の王国屈指の使い手だが、あまりない儀式用の清められた水の用意の他、王国内の水資源の管理、浄化など、神官の中でも一際ひどい扱いを受けている。
弟子も数人いるが、自らの出番すらないような雑務しかない。
一応重要役職かつ暇人で貴族受けがよかったので今回の重役の生贄として選ばれる。



web版とアニメ、掻き集めた情報でなんとか書いていますが、書籍版も読まなければ人間関係や力関係などにズレが生じそうな地点まで執筆。
しばらくは読者様の反応や指摘を確認しながら下地を書いていこうかと。
書籍版の完売っぷりやばいよ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:50文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。