少々急展開です。
ふわぁ、と彼があくびをする。
朝はそこまで早く起きたわけでもない。いつも通りといった感じだ。
彼、ヴェルディ・シャルフリヒターは憂鬱そうにあくびによる涙を拭きとった。
のびをしながらつぶやきをこぼす。
「あー・・・博麗の巫女の言っていたことは、本当なのだろうか」
彼は首元から下がる『それ』をぎゅっと握り、その場に立って館を見上げた。
目が痛くなるほど真っ赤なその館は、紅魔館というらしく、寝ぼけた門番と完璧なメイドに・・・吸血鬼姉妹がいるという話だ。
とても気になるし、吸血鬼姉妹―――その姉―――は彼の目的の人物でもあるので、ここにはどうせのことよらなければならないのだ。
「・・・嘘だったとしても、悪魔を狩る言い訳にはなるわな」
ガシガシと後頭部を掻き、ヴェルディは握っていたそれを手放す。
「・・・ノア。今、お前の無念を晴らすからな」
暖かい笑みを浮かべ、彼は黄色い宝石に何やら模様の描かれたペンダントに口づける。
彼は、ペンダントを着ていたコートの奥にしまった。
マフラーのように肩らへんに巻きつけたマントをもう一度巻き直す。
「さて、どうするか・・・。門番もいるしな・・・珍しく起きてる・・・」
ふいと門を見やれば、紅い髪の女性がこちらを警戒しているようで、ちらちらと見てくる。
「羽を隠して・・・いけるか」
羽を消して、マントで念のため背中を隠す。
用心深く門へと近づく。
「どちら様でしょうか?」
おそるおそるといった風に、女性が話しかけてきた。
彼はそれに少々面食らってその女性に対応する。
「すまない、少し用があって・・・ここの家主に会わせていただけないだろうか?」
敵意を表に出さないよう、気を配りながら彼は言葉を発する。
彼女はこちらを見ると、門にもたれかかっていた体勢から変える。
何をするのだろうかと注意深く見ていれば、刹那の間に、眼前に拳が突き付けられていた。
「ッ!?」
「失礼」
こぶしを引いた彼女が、また元の態勢に戻る。
「・・・咲夜さん!いらっしゃいますか?」
門の向こうに彼女が声をかける。
「何よ、美鈴。・・・そちらの方は?」
「えっと、お嬢様に御用があると」
「そうなの・・・お客様、少々お待ちください。お嬢様・・・レミリア様は今、少しばかり気が立ってまして・・・」
「いや、大丈夫だ。急に押しかけたこちらにも非があるからな」
ついヴェルディはくつくつと笑みをこぼした。
急に現れた銀髪のメイドと美鈴はそれに首を傾げ、お互いに顔を見合わせた。
「・・・こいつは失礼した。不信感を抱かせるつもりはさらさらないんだが・・・ただ、まあ・・・・・・いえ、なにも」
口元を隠したヴェルディは再び苦笑すると、ふぅと一息ついてメイドがお嬢様という人物に確認しに行くのを見送った。
笑みを浮かべたままでいると、ヴェルディはややあって表情を引き締める。
「あなたのお名前は?」
美鈴がヴェルディにそう問う。
少し躊躇しながら彼は答えた。
「ヴェルディ・シャルフリヒター」
「ヴェルディさんですか・・・」
「ああ。・・・あんたは、美鈴でいいんだっけか」
「ええ」
笑みを浮かべながら美鈴はうなずく。
「・・・お待たせしました。お嬢様が会ってから話すか判断したいと」
「了解した。案内を頼む」
「はい、かしこまりました」
ヴェルディは現れたメイドについて、紅魔館の中へと足を運んだ。
☆ ☆ ☆
「入りなさい、咲夜」
「はい・・・どうぞ」
「あ、ああ」
彼は咲夜に促され、扉のノブをつかんで捻る。
開いた扉の向こうには、少々偉そうな少女がいた。
――刹那、彼の頭が真っ白になるほど、内側からの強い感情が現れる。
「レミリア・スカーレット・・・」
「ええ、そうよ。あなたは?」
くすくすと彼を見下ろす彼女の眼。
細められた紅い眼光に、ヴェルディは。
二人の様子がどことなくおかしいのに気づいた咲夜は、「お客様?お嬢様?」とあわあわと互いを見やった。
「・・・そうか、あんたが・・・」
「なに?この私が聞いているのに、人を見てすぐ睨むなんて失礼にもほどがあるんじゃない?」
「そうだな、すまない」
ヴェルディは一度目を閉じ、ふぅと息を吐いてから改めて言葉を発した。
「ヴェルディ・シャルフリヒター。・・・あんたに用があってきた」
「用、ねぇ・・・貴方が何の用?」
興味なさげに彼女は傍らに有ったカップで遊び始める。
終いには割る始末。
ヴェルディはそれを一瞥してから、確かに告げた。
「あんたに死んでほしい」
「・・・」
「なっ・・・?!」
咲夜がスッと下半身に手を伸ばしたのに気が付かないヴェルディは、正常な思考ができないほどの負の感情を押えこみながら声を絞り出す。
「・・・あんたは、自分が殺した女の名前を覚えているのか・・・?」
レミリアは顔をしかめる。
腕を組み、考えるように俯いてから、彼女はつぶやく。
「私が殺した?・・・見たところ、貴方は人の様だけど。残念だけど、ここ最近人を殺した覚えは――――」
バサッ。
大きく広げられた黒羽。
彼は羽をはためかせ、その場に飛び上がった。
その手には大きい斧。
コートから黄色い輝きが漏れる。
「・・・テメェ」
「あなた、人じゃないのね、やっぱり」
彼の黒羽を見て目を丸くしたレミリアに、ヴェルディは苛立ちを募らせるばかりだった。
その態度にも、その顔にも。
(なんで、なんでだ・・・レミリア・スカーレット!)
ギリッと歯ぎしり。
ヴェルディは強くレミリアをにらみつけた。
「ノアを、なぜ忘れるッッ!!!!!!!」
思い切り叫び、彼は斧を構えた。
もう片方の手には眩く輝く光球が練られていた。
「昇符『天力』ィイ!」
怒りに身を任せたヴェルディの宣言。
ググッと両手で練った光球を刃にまとわせた斧を大きく振りかぶってから、それを投げつけた。
レミリアはそれを見ながら、その場を一歩も動かない。
それにまたイライラしつつも、ヴェルディは「当たった」と、確信した。
――――――気が付けば斧は地面に落ち、ヴェルディは組み敷かれている状態だった。
「ッ!」
「ふふ、よくやったわ、咲夜」
「お嬢様、お怪我はありませんか・・・?」
「ええ・・・」
「・・・チッ」
首元に突き付けられた銀のナイフが、ヴェルディの視界に入る。
ふいとそっぽを向いた彼は、「忌々しい悪魔の連中どもが・・・」と吐き捨てた。
「悪魔、ねぇ・・・残念だけど、咲夜は人よ」
「!・・・じゃあ、なぜ・・・?」
「私は、純粋にお嬢様を敬愛しているの。貴女ごときが理解できることではないわ」
首元のナイフがツーっと首の皮を裂く。
血が流れ落ちる感覚が嫌に痛みを伴っていて、ヴェルディは顔をしかめた。
「・・・理解はできねぇな」
「そう。ならしかたないわね・・・お嬢様、この不届きものはどうしましょう?」
「別の部屋に閉じ込めておきなさい。・・・そいつの運命が気になるから」
「わかりました」
咲夜はヴェルディを瞬時に縛り上げ、そのまま運んで行ってしまった。
彼女のどこに大の大人を運べるほどの力があるかは不明だが、ヴェルディはそれすら気にすることなくイライラとしていた。
「・・・ヴェルディ・シャルフリヒター・・・【黄眼の処刑人】・・・ね・・・」
「どんな運命をたどるのか・・・楽しみだわ・・・ふふ…♪」