机の上のそれらが片付いた後。
ヴェルディは、椅子に深く腰掛け、ふぅとリラックスした。
敵の住む館でリラックスするというのも変な話だが、飯を出してもらったのだ。それなりに感謝はせねばならない。と、ヴェルディの中で割り切ることとした。
コンコン、と扉がノックされる音がする。
「・・・誰だ」
問いかければ、キィとそれは開く。
その向こうから姿を現したのは幼い吸血鬼。
恨んでいた相手が、笑みを浮かべながら部屋の中へ入ってきた。
「・・・・・・あら、不服そうな顔ね」
「嫌いな奴が無断で部屋に入ってくるんだ。嫌に決まっているだろう」
「私はこの紅魔館の主よ?この館は私の物。好き勝手していいじゃない・・・・・・主に、客とも呼べないような不届きもの相手には」
ピクリ、とヴェルディの眉が動く。
「ほう?ここでお前自ら俺を殺すと?」
「極端な思考ね。嫌いじゃないわ。今にも殺されそうなエサが、自分の立ち位置を把握したときみたいな・・貴方には、いまいち恐怖が足りないけれど」
口元を隠し、くすりと笑んだレミリアは、ヴェルディの不快感をあおるだけだった。
椅子に腰かけながら、呆れたように言い放つ。
「恨む相手に恐怖など抱いていたら、殺すものも殺せないだろう」
「ノアがそんなに愛おしかったの?」
笑みを浮かべたままのレミリアのセリフ。
それは、ヴェルディの表情を消した。
次の瞬間、
ドンッ「テメェッ!!!」
机をたたき、ヴェルディの顔が怒りの色に染まる。
「忘れたフリだったのか?!それとも、ただの好奇心?!舐めてんじゃねえぞ!」
「さっき、咲夜にしてやられたただの天使風情が私を相手にできるとでも?」
「・・・チッ」
とても愉快そうにレミリアは、舌打ちするヴェルディを見やった。
「・・・・・・ここに俺を置いといていいのかよ?」
「なぜいけないの?」
「・・・いや、一応命を狙った身としては、情けで生かされるのは」
「情け?そうじゃないわ」
ヴェルディが睨むと、それを見返すレミリアが言葉をつづけた。
「あなたに興味が出たの。ノアのことは差し引いてでも、あなたの運命を見てみたいの思ったのよ」
「・・・運命を?」
「ええ。運命を、ね」
「・・・趣味ワリィな」
「そうかしら?」
くすくすと笑みをこぼすレミリアに、ヴェルディは一層表情をゆがめた。
「・・・まあいい。今回はそれを言うために来たのか?」
「それもあるけど、ちがうわね」
「違うのかよ・・・」
「まあね。・・・一つ、忠告しに来ただけよ」
首を傾げ、ヴェルディはレミリアの言葉に耳を傾けた。
その際、寄りかかっていた椅子がキィときしむのが聞こえてくる。
「ノアのことは知ってる」
「・・・」
「ただ、ノアを殺した人物が誰なのかは知らない。だから、私を殺すというのは無駄な行為よ、諦めなさい」
「なっ!?」
ヴェルディは目を丸くして、レミリアの言葉を聞いた。
レミリアはそれだけ言うと、「じゃあね」と部屋を出ていく。
「お前に――――、仇に言われて、素直に信じることができるというのか、お前は!!!!」
「私はただ、私が仇ではないといいたいだけよ」
「・・・チッ・・・」
「わからないようならただのバカ。わかるのならまあ偉い方ね」
「テメェ、何様だ・・・!」
「レミリア・スカーレット。高貴なる吸血鬼にして、この紅魔館の主様よ」
「・・・そうか」
忌々し気にしながらも、そう絞るように吐いたヴェルディは椅子から立ち上がり、レミリアに近づく。
胸ぐらをつかみ上げ、ギロリとにらみつけながら彼はつぶやく。
「ノアを殺した相手がわかるまで、テメェを敵視することは変わらない。テメェがいつまで俺をここに置いておくかは知らんが、覚えておけ」
仇が違う存在だったら、そいつを殺すからな。そう早口で付け加える。
その言葉は本心の様でどこにも冗談めいた空気はない。
「・・・そう」
それでいいんじゃない?とどうでもいいようにその手を払ったレミリアは、スタスタと扉のほうへ走っていく。
――――――ガンッ
「「!?」」
扉が何かに打ち付けられたような音を発する。
その音を聞きとったヴェルディとレミリアは同時に扉を見やる。
二人は呆然としつつ、扉の向こうにいた『何か』について会話を始めた。
「・・・誰だ?」
「・・・・・・さあ」
「ただの通行人か」
「いえ・・・聞かれてたのかしら?」
「ふぅん・・・」
興味が失せたか、ヴェルディはそっぽを向いてベッドのほうへ歩いていった。
レミリアはそのまま扉を開け、外へ出ていった。
「・・・ノア・・・お前の仇は、絶対」
幼い頃優しく接してくれた『彼女』の姿を思い浮かべながら、ヴェルディはベッドへ身を投げた。
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???side
どうしよう、どうしよう。
さっきから、そんな言葉だけが頭の中をめぐっている。
「はぁ、はぁ…ッ」
息も荒くなり、そろそろ体力が限界だと脳が体に伝達する。
せめて、せめて『あの部屋』に!
そう思って速度を速める。
彼の部屋は、少々離れにあるらしく、日は当たらないものの、紅魔館より少し距離のあるところにまた小屋のようなものを作り、渡り廊下でそこをつなげた。
小屋は本当に一部屋しかないと思うほど小さく、いかにも「閉じ込めておくには都合のいい」建物であると思える。
さて、なぜ私が必死に走っているかというと。
先ほど彼と姉の会話を聞いてしまったからだ。
「・・・はぁっ」
バンッ!
音を立て、扉をあけ放つ。
私はそのまま歩いていくと、近くの机の下に身を縮こまらせて忍び込んだ。
かぶった帽子をつかみ、顔を隠すようにうつ向いて。
静かに息を整え、自然と息が口からこぼれる。
「フラン」
私を呼ぶ声。
いつもこの部屋で過ごしている魔法使い、パチュリーが、机の下を覗き込んでこちらをうかがっていた。
「・・・また、何かあったの?」
「・・・・・・ちょっと」
「そう」
「・・・今日も、ここに居させて」
「わかったわ。静かにしなさいね。あ、魔理沙が来たら遠慮なくやっちゃっていいわよ」
「うんっ・・・」
私はパチュリーの声にうなずいて、机の下で楽な体勢を作った。
静かな時間が過ぎるうちに、私はだんだん瞼が落ちていくのがわかった。