後日。フランドールの部屋にて。
ヴェルディは斧を片手に迫りくる『それら』にイライラしていた。
なぜかというと、だ。
「だあああああああああああ!!!!!!ずっと弾放ってきやがって!俺が反撃する隙すらねぇじゃねえかよ!!!!」
・・・そういうことである。
現在、彼は斧をぶん回し弾幕をやり過ごしている。
その濃密な弾幕の向こうで笑う少女、フランドールは快活に言い放った。
「お兄さん、その斧をぶんぶん振り回してるだけ?だったら、咲夜にも負けちゃうのも納得できるよ!あははは♪」
「・・・フランドール・・・テメェ・・・」
「ふふー♪」
ぴきぴき、とその挑発に乗ってしまうヴェルディは、その手に弾幕と同じような濃い光の塊を生成する。
それを目の前にかざし、大きく叫んだ。
「・・・死にさらせこのクソ吸血鬼妹がァアアアアアアア!!!!!」
「あはは!怒ったぁ♪」
えらく上機嫌なフランドールが弾幕を消すと、飛んできた光の塊をよけまくる。
右へ左へ、上へ飛んだかと思いきや降下して。
本当に楽しそうにフランドールが『遊んでいる』。
「・・・・・・フランドール、真剣に弾幕ごっこをしようじゃねぇか」
「ふふ、怪我しても知らないよ?」
「それはこっちのセリフだな少女。大人の底力みせてやろうじゃねえか」
ぴきぴきと青筋を立てながら、ヴェルディは斧を地面に食いこませながら両手でそれぞれ光の弾を生成。
フランドールは棒を振り回しながら、そこから弾幕を放つ。
パンッと両手で柏手を打ったヴェルディの手元から、思い切り破裂した弾の破片が飛び散る。
「スペルカードはどうする?私無しでいいよ?」
「フンッ、ハンデなんていらねぇよ。一枚VS一枚でやろうじゃねえか、フランドール?」
「ふふ~。いいよ、いいわよ?あなたが後悔するだけだもの!」
ふよふよと飛んでそう笑ったフランドールが、一枚の札を取り出した。
ヴェルディも同じように札を構え、フランドールが宣言する。
「禁忌『クランベリートラップ』!」
宣言した瞬間、弾幕が放たれる。
様々な場所に置かれていた魔法陣が一斉に弾を放ち始める。
「おっと、これは・・・。ふむ・・・」
「ふふ、よけられるかしら?」
「もちろん。そうじゃなければ、お前を幻滅させるだろ?殺されたくはないからな」
ヴェルディはニヤッと口角を上げ、その飛んでくる弾をよけていく。
斧でいなし、身をひるがえし・・・。
「ッッッッッッッッッッ!!!」
目を見開いて、ヴェルディはよけた弾の後に迫ってくる、大きな弾の存在に気づく。
斧を前へ持っていき、守りの態勢をとる。
どうやっても、これは少しかすってしまうだろう。
見開いていた目を閉じ、だんだんと弾が迫ってくるのを感じた。
「ふふふ、やっちゃえ~!」
フランドールの楽しそうな声。
ヴェルディはしてやられたと思い、小さく舌打ちする。
そんな時。
バンッ「フラーン、邪魔するわよー」
開け放たれた扉。それと同時に破裂する弾幕。
扉向こうには、紅白の巫女がいて。
そして、破裂した弾幕の軌道上に博麗の巫女がいて。
「・・・おいっ、博麗の巫女、危な―――――」
カンッ
軽い音がして、弾幕がはじかれた。
それは、物の数秒のことのような気がする。
惚けてその様を見ていた彼は、気の抜けた声を上げてしまう。
「な・・・?」
「なによ。ずいぶんな歓迎っぷりじゃない、ヴェルディ」
ヴェルディはしまったと顔をしかめる。
霊夢から、ひしひしと何かを感じる。
彼女が放っているのは、おそらく怒気であろう。
「ああもう、美鈴め!いるじゃないのよ!」
「なんだなんだ、何の用だ霊夢」
「れーいむー!今日も遊びに来てくれたの?ねえ!」
フランドールは弾幕を消し霊夢に飛びついて、嬉しそうに声を弾ませた。
霊夢はそれにぎょっとして引きはがさんとフランドールの肩をつかむ。
しかし、吸血鬼の腕力だ。そうそう外れることはないだろう。
「あーもー、フランうっさい!緋乃をレミリアに会わせてやろうと思ったから、ついでよついで」
「でも、フランドールのところにきてるあたりなぁ・・・」
「あんた、滅されたいの?」
「滅相もない」
手を上げ、ヴェルディは答える。
とがった大幣を構える霊夢は溜息をついて離れたフランドールに問う。
「なんでこいつがここにいるのよ」
「私の遊び相手なのよ?」
「そう」
「とっても面白いの♪」
「そう・・・?」
「疑問形か」
いや、面白いといわれるのもあれだが、と付け加え、ヴェルディは大きくため息をついた。
「もー、私があなたを遊び相手にしなかったら、あなたはずぅっとあの部屋にいたんだから。感謝してほしいくらいよ」
「はいはい、アリガトウゴザイマシター」
「感情がこもってないのよ、お兄さんは!」
「吸血鬼ごときに込めてやる感情などない」
「まあ、・・・なんていうの?」
ヴェルディとフランドールの掛け合いに霊夢は少々あきれながらも口をはさんだ。
「仲よさそうでよかったじゃない」
「此奴と!!!!俺の会話の!!!!どこでそんな風に思ったんだよ貧乏巫女!!」
「あ゙?!口の利き方にも気をつけなさいよ堕天使」
霊夢の言葉に苛立ちを覚えたヴェルディが持っていた斧を一振りし、文句をつける。
その文句に含まれていた単語に霊夢は反応し、怒気を強めた。
「ふふ、二人は仲がいいのね」
「別に否定する理由も肯定する理由もないけれど・・・まったく」
「あいつと仲がいいと言われないだけマシだな」
フランが苦笑しながら言うと、二人がため息交じりにそうつぶやいた。
そんな二人の様子にまた笑いながら、フランはまた考え付いた『面白いこと』を言ってみようと口を開いた。
・・・が。
「そうだ――――――」
「霊夢、一つ聞きたいんだがいいか?」
「何よ」
それに気づかなかった二人が会話し始める。
フランドールは「あー」とうなり、黙り込んでしまう。
ベッドにダイブし、二人の会話を聞いていようと耳を傾ける。
「この世界に、もう一人か二人、吸血鬼はいるか?」
「さあ・・・?それ、紫とかに聞かなきゃ。なんで?」
「復讐のためだよ」
「レミリアじゃなかったわけ?」
「違うらしいぞ・・・まあ、どうかは知らないがな」
やれやれとヴェルディはため息をついた。
「ふーん」と霊夢は何か思うところがあるように考え込むしぐさをする。
「ねえ、二人とも」
「「?」」
フランドールが声をかける。
それに今度こそ反応した二人は首をかしげてフランドールのほうを向いた。
「なんだ?」
「私が犯人だとは、思わないの?」
「なんで今それを言うんだ?冗談にしてはたちが悪いぞ」
ヴェルディがフランドールをにらみつけながら、問う。
フランドールは笑みを浮かべて、言った。
「言ったでしょ?私は全部知ってるんだよって」
その笑みに、ヴェルディは無性に苛立ちを感じた。
何か言ってやろうと口を開いた時、続けて飛んできたフランドールの声。
「私が、ノアを殺したのよ」
どこか複雑そうな顔。
視線は、ヴェルディを見つめ、真実なんだと告げている。
「な・・・」
「本当よ?私がノアを殺したの。お姉さまじゃないもの、当たり前じゃない」
「なんでだ・・・?」
霊夢が困ったように「ちょ、ちょっと?」と声をかけるが、フランドールはそれに耳を傾けることなく言い放った。
「あなたが悪いの」
その時。
コンコン、とドアがノックされる。
それと同時に「妹様、失礼します」と優秀なメイド長の声が響いた。
「いいわよ」とフランドールが答えた。
もう少しで叫び散らし、暴れだしていただろうヴェルディは妙に冷静で、入ってきたメイド長、咲夜の姿を落ち着いて静観していた。
「では・・・・・・・・・霊夢、緋乃が呼んでるわ・・・・・・っと、申し訳ありません。お話中でしたか」
「いいのいいの!あ、お兄さんもお部屋に置いてきてくれるとうれしいかなッ」
「は・・・?おい、フランドール、話はまだ―――――」
パッと視界に入っている景色が少々変わった。
おそらく、ここは俺に用意された部屋だろう、すぐにわかった。
まっさきにベッドに飛び込む。
「・・・フランドールが、犯人・・・?ノアを、殺した・・・?」
全部知っているとは、どういう意味なのか。
自分が悪いとは、どういう意味なのか。
ぐるぐると彼女の言葉が頭をめぐり、起き上がって頭を抱える。
「確かに、・・・。何で疑わなかったんだよ。なんでだよ・・・ッ」
ヴェルディは手で顔を覆い、ギリッと自らの顔面をつかんだ。
この部屋には、彼の姿だけがある。
・・・ここに、彼が慕う少女が居たなら、どうだろう。
考えておきながら、答えはあっさり出る。
その少女が居ないから、ここにいるのか、と。彼は自嘲気味に笑む。
こんな憎しみを持ったのも。
フランドールに懐かれたのも。
全部が、あの少女を失ったことから始まっていた。
こんな風に考えると、涙が浮かぶ。
自分の未熟さが情けなくって、自分の無力さが身に染みてわかって。
何故そばにいなかったのか。
何故あの時別行動をとったのか。
何故レミリアたちと接触していたのを知らなかったのか。
何故、何故、何故ーーー。
感情が溢れ出て、止まらない。
「畜生・・・・・・!」
ベッドの白いシーツに、シミができた。
天使の頂点から期待される優秀な少女の重みを肩代わりできないのかと、何度も何度も。
どう願っても、何を願っても神は力だけの少年に何ももたらさなかった。
努力しても少女に届くわけはないとあきらめていた少年が突如変わった。
『私が、ノアを殺したのよ』
蘇る幼い声。
「・・・・・・殺す」
強く虚空をにらみつけて。
ヴェルディは小さく、小さくつぶやいた。
愚かな少年は、愚かな堕天使として、また一つ、大きくなった羽を羽ばたかせるのだ。