ではどうぞ~
深い緑の中に僕は放りだされていた。
高い木々、新鮮な空気。
僕らが住んでいた世界とはまるで別次元。
実際そうなのだろうが、なんとなく実感がわかない。
あまり遠くへ行かないため、どんな場所があってどんな景色が見えて・・・そんなもの知らない。
木々の向こうに見える空は青く、とても澄んでいた。
「・・・すごいなぁ」
僕はそんな声を漏らし、何も考えず歩き出す。
☆ ☆ ☆
やがて、明るく開けた場所に出る。
遠くに家が見える――もしかしたら、人がいるのかもしれない!
そうやって期待を抱きつつ、僕が一歩踏み出すと、がくんと足元が不安定になる。
気が付けば真っ逆さまになっていて、地面ぎりぎりで止まっていた。
「・・・なんでこうなってるの?」
「あらあら、簡単にはまってくれるのね」
「!・・・その声はいつぞやの」
笑いを交えた声に僕はムスッとして見せる。
いつぞやの暗い空間で声をかけてきた女性ではないですか。
金髪の美しい女性が僕の目の前で笑っていた。
その近さに僕はぐっと体をのけぞらせる。
「ち、近いですよ!」
「ふふ、失礼。あなた、ずいぶんからかい甲斐がありそうだったから」
「だからってからかわないでくださいよ・・・まったくもう」
「ごめんなさいね、志賀くん」
「・・・僕のことは琴羽でかまいませんよ。名字で呼ばれるの、好きじゃないんです」
僕は笑みを浮かべたまま女性にそういう。
新鮮でいいなぁ、とはおもうんだけれど、なんとなく『あの人』が頭をかすめるから嫌だ。
まあそんなことは置いておいて。
女性が「わかったわ」と笑うと、続いて言葉を発した。
「私は八雲紫。あなたと篠崎緋乃をここ、『幻想郷』に招待した張本人よ」
「!緋乃・・・。そうですか、あなたが」
「別に、あなたたちで何かがしたいってわけじゃない。貴方たちが欲しいであろうものを提供するだけよ」
「・・・『僕たち
八雲さんは目を丸くした。
まさか、当たってる?なんて肩をすくめながら彼女を見上げて首をかしげる。
「あなたは、『もう一人の存在』を知っているの?」
「そりゃあ緋乃たちから聞きますから。きっと、僕だけが彼を知らない」
苦笑しながら、僕はそう言った。
八雲さんがどこか思うような表情を見せると、パァッと笑顔を浮かべた。
「じゃあ、あなたの住む家を探しましょう。緋乃は何もしなくても見つけたけれど、あなたはそうもいかないでしょう?なら、私も手伝って差し上げようと思って」
「それはありがたいです。アテがあったりはしませんかね?」
僕は安堵の息を漏らす。
八雲さんが苦笑して僕を見やると、問いに答えてくださる。
「そりゃああるわよ。・・・貴方がお気に召すかはわからないけれど、ね」
「? 僕の問題なんですか?」
「後で説明するわ。彼女はこの時間帯はっと・・・」
くいっと手を振るとブゥンと音が鳴って謎の空間の切れ目が出現した。
その後、彼女に再び問うとこれは『スキマ』というらしく、彼女の能力らしかった。
きっと僕をここへ運んだのもこの『スキマ』のおかげなのだろうと推測。
「うおあっ!」
そんな声が聞こえてきた。
スキマの真下にしりもちをついて回りを見渡す少女。
「ったく・・・なんだ、紫かよ。パチュリーにどっかに飛ばされたのかと思ったぜ」
「あのひきこもりさんにそんな魔法使えたかしら?」
「あいつの知識欲は相当だからな。もしかしたらもしかするかもしれないぜ?・・・ッと。紫、一つ聞いていいか?」
僕抜きで会話が進んでいく。
金髪の美女と金髪の美少女が話しているのを見て少し後ずさっていると、少女が僕の腕をつかんで問いかけていた。
「こいつは誰だ?お前の新しい式神とか?」
「まさか。ただの人よ。ちょっとあなたにお願い事があってね」
「お願い事、だと?珍しいな、私になんて」
「ふふ、そうかしら」
僕が黙っていると、トントンと会話が進んでいくのは気のせいだろうか―――いや、事実だろう。
仕方ないので挙手して口をはさませてもらいます、すいません。
「・・・まさか、この方がアテ・・・?」
「ええ、そうよ。彼女は霧雨魔理沙。あなたを落とした『魔法の森』に住む人間の魔法使いよ」
「魔法使い、ですか・・・」
いぶかし気に問えば、八雲さんはyesと返答した。
霧雨魔理沙というらしい金髪の少女。よく見てみれば、その帽子も服装も、どことなく魔女っ娘の物のように見える。
「そうだぜ!魔理沙って呼べよ。・・・お前は?」
「志賀琴羽。よろしくお願いします、魔理沙さん」
手を差し出されたので、それをとって握手に応じる。
にっこりと笑ってくれた魔理沙さんに僕も笑い返す。
―――ちらっと八雲さんのほうを見やる。
しかし、彼女はどこにもいない。
声もかけず、帰ってしまったようだ。
「あぁ、紫帰ったのか。それじゃあ私の家までは私が送っていくぜ」
「それは助かります」
「・・・・・・」
「? どうしました?」
「・・・いや!なんでもない。とりあえず歩いていくから、私についてくるといい」
魔理沙さんは先導して森の中へと入っていった。
僕もその後をついて歩いていく。
――しばらく歩くと、そこには一軒家が立っていた。
扉の上には看板が掛けられていて、『霧雨魔法店』と記入されていた。
「おっと、失礼」と看板を下ろし、扉を開けた。
「それじゃあどうぞ。少しばかり散らかっているけれど、気にせず踏んでってくれ」
それは、『少し』を超えていた。
汚い。汚いのだ。
「・・・掃除機と雑巾とバケツとゴミ袋」
僕はそうぽつりとつぶやいた。
「ん?」と聞き返した魔理沙さんは何かを探しているのか、ごみをひっくり返しては綺麗そうな場所にゴミが詰まっていく始末。
「・・・・・・魔理沙さん!この家で触ってはいけないところと入ってはいけないところは?!」
「ひぇっ?えっと、フラスコの中身に液体が入ってるものには触らないでほしいのと、入っちゃいけないのは鍵がかかってる部屋と私の部屋・・・だけど・・・」
「それじゃあ雑巾とバケツとちりとりとゴミ袋はどこです!掃除機はありませんか?!」
「ソウジキなんて知らねぇよ!雑巾バケツちりとりゴミ袋はそこ!掃除しようとして放っておいてたんだよ!」
「だめじゃないですか!魔理沙さんは家から出ててください、適当に掃除を、掃除を――――掃除をさせてくださいィ!!」
魔理沙さんを家の外へ放り出して僕は雑巾やらを手に持ち、清掃を開始した。
☆ ☆ ☆
「はぁ・・・心が洗われる思いです・・・」
僕が額の汗をぬぐって雑巾やらを片付けた時には、始めてからすでに数十分は経っていた。
おっと、これはしまった。
家の外にいるであろう魔理沙さんを入れなければと玄関へ向かう。と、目的の人物がそこにいた。
「あの~」
ドアをちょろっと開いて、その隙間から顔をのぞかせていた。
どこか申し訳なさそうな表情に、僕はつい笑ってしまう。
「すいません、追い出してしまって。きれいになりましたので、中へ入っちゃってください」
「いやあ、すごいなお前・・・ありがとな」
「いえ、別にこれくらいのことは。一応、泊めてもらう立場・・・のはずですし」
手洗い場でざっと手を洗い拭き部屋を見渡す魔理沙さんのほうへ歩み寄る。
魔理沙さんはしばらく対面してなかったであろう茶色の床に手をやる。
「・・物が詰まってない」
「そりゃ掃除しましたもん。整頓もしましたので、場所が変わってると思いますが後でお教えしますね」
「ありがとな!本当に!」
笑みを浮かべて喜ぶ魔理沙さんを見て、僕もまた苦笑した。
なんだろう。これくらいのことで喜んでくれるんなら、僕は
「あ、そうそう。お前の部屋に案内しておくな」
「ありがとうございます・・・ところで、魔理沙さん」
「ん?」とこちらを向かず移動したままの魔理沙さんの声が帰ってくる。
僕はなんとなく聞きたいと思った疑問をぶつける。
「・・・篠崎緋乃って知ってます?」
「ああ。霊夢のところに最近居候しはじめた男だよな?白いパーカーで、中にシャツ着てたぞ」
「・・・よかった。八雲さん、嘘をついてなかったみたいで」
そりゃあ学校にいたからシャツ着ているだろうけれど。
僕は胸をなでおろし、案内された部屋の椅子に座った。
「それじゃあ私は茸とってくるぜ」
「え?」
「どうした?」
「・・・いえ、なんでも」
今、茸をとってくるとか言っていたような・・・まあいいか、気にしないで。
手を振って送り出すと僕はボスンッとベッドに座る。
ちょっとゴミにまみれていたため匂いが気になるけれど、水でちゃんと洗って、日で干しておけばきっと大丈夫。
・・・ここって一応太陽の光、入るよね?
☆ ☆ ☆
花の茎を土に差す。
「あ、もう。ダメじゃないですか」
「ダメだった?」
「その花、成長しないし・・・」
「そりゃあ・・・『雪』だもんね」
「そうですよ・・・それにしても、最近機嫌がよさそうですね。紫様が先ほど訪れたのが原因ですか?」
「僕はとても楽しみなんだよ。八雲
笑顔を浮かべて、『彼』はそう言った。