幻想妖美伝   作:Lan9393

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二十話:襲われる少年と救う少女

琴羽side

 

 バッと飛びのき、急に現れたそれを視認する。

醜い肉片の塊のように見受けたそれは、うめき声をあげてこちらに迫ってきていた。

いや、怖いんですけど?!

 

「どうしよう・・・戦う術とか無いし・・・」

「シャーンハーイ」

 

そんな鳴き声が聞こえた。

僕はとっさにそっちの方に視線をやった。

小さな、かわいい人形。

洋風の人形が、そこにぷかーっと浮いていた。

なんだ、なんだなんだ。

 そう言えば、かの『アリス』さんは、人形遣いだという話だ。

もしかして、この人形は、その『アリス』さんの人形なのかもしれない。

そんな期待を抱きながら、人形を見つめる。

人形は肉片の塊・・・の化け物を知ってか知らずか、こちらを見つめ、こてんと首を傾げた。

 

「えっあ、ちょ――――」

 

化け物が腕を振り上げた。

標的は、おそらく人形。

僕は思い切り化け物に向かい風をふかせてやり、人形を抱えてまた一歩、一歩と交代する。

じたばたと暴れるその人形をそっと開放するといつのまにやら、その子は銀色の槍を手にしていた。

 

「え?」

 

やる気を出した人形が前へ突進していく・・・。

僕はそれを手でつかもうとした。

しかし当然届くはずもない。

 

 

「上海。行きなさい」

「シャンハーイ!」

 

女性の声が耳に届く。

僕の後ろに立っていたのは、金髪の女性だった。

凛とした表情。

蒼い双眼がこちらを一瞥し、ふいと前を見やる。

僕は慌てて立ち上がって、化け物と戦っているらしい人形を探す。

いた。

 大ぶりな化け物の攻撃を軽くかわし、ちくちくとついている―――ドンッ!

大きな球体が化け物にぶつかる。

 

「上海!」

「シャンハイ?」

「ほら、おいで」

 

女性が腕を広げると、嬉しそうに人形はその腕の中に飛び込んだ。

ぽうっと彼女の手のひらに球体が出来上がる。

弾丸のようなそれをただまっすぐ化け物に投げつけた。

断末魔の叫びをあげながら化け物は倒れ、灰になる。

 

「・・・あ、あの!」

 

それを見届けた僕は、とっくに歩きだしていた女性を呼び止め、こちらを向いたのを確認して頭を下げる。

 

「ありがとうございます。助けていただいて!」

「・・・・・・魔理沙のところの居候でしょう、あなた」

「?はい」

「ちょっと聞きたいことがあるの。うちへ来なさい」

「い、いいのですか?」

「ええ・・・いいって言ってるんだから来なさいよ」

「は、はい!では、お言葉に甘えて!」

 

 

☆  ☆  ☆

 

「自己紹介が遅れたわね。私はアリス・マーガトロイド。アリスでいいわ。あなたは?」

 

彼女は僕を椅子に座らせ、その目の前にお茶菓子と紅茶を淹れておいてくれた。

簡単にお礼を告げ、僕も名乗る。

 

「志賀琴羽といいます・・・えっと、外来人?です」

「見てればわかるわ。こんなところをほっつき歩く魔理沙の居候だもの。そうとしか思えないわ」

「あはは・・・。ところで、魔理沙さんのお知り合いの方なんですか?」

「まあ。同じ魔法使いだし・・・」

 

 なんと。

人形遣いと聞いていたのだが、まさか魔法使いだったとは。

まさか、この人形たちも魔法で操っているとか・・・?

糸らしいものが見つからないと思っていたら、そんなカラクリがあっただなんて!

 

「それで・・・聞きたいことって?」

 

僕は、アリスさんが僕を家に招いた理由を思い出し、口に出した。

アリスさんは忘れていたようで、お茶菓子をつまみながら「ああ、そうね」としゃべりだす。

 

「あなた、飛べたりするの?」

「まあ、風さえあれば」

「・・・ふぅん」

 

アリスさんはこちらをじぃっと見つめたのち、ぽつりとつぶやくように警告してくれた。

 

「厄介事は避けて通りなさい。命がいくつあっても足りないわ。・・あと、・魔理沙が誘った時はだいたい目的を聞いてから同行すること」

「・・・?」

「異変には、絶対巻き込まれないで」

 

確かに、彼女はそう言った。

僕は異変?と首を傾げ、そういえばそんな単語を魔理沙さんが出していたな、と思い起し、うなずく。

 

「できる限り善処はします。魔理沙さんのことですし、僕も僕の立場があったりするので・・・有無を言わさずがあったりしたら、破っちゃうかもしれません」

「いいのよ。心がけてくれれば。一回くらい、痛い目見るとこりごりだって思うわ」

「はは、確かにそうかもしれませんね」

 

僕たちの世界(げんだい)では、もうそれはそれは教師に追いかけまわされたことだ。

どんなルートを通ってもどこかに鬼教師が潜伏してる可能性があるので、市街地に逃げることにしたのはもう数週間前の話だ。

たとえ忌み嫌う能力であっても、使わなければ宝の持ち腐れというもの。

・・・それが、嫌いなことに変わりはないのだけれど。

 

「・・・お茶、ありがとうございました。話が終わったのなら、魔理沙さんの家に帰らなくては」

「ああ・・・そうね。送っていくわ」

「あ、いいんですか?」

「どうせ迷って妖怪に出くわしたのでしょう?周辺は妖怪が活発化してる。危ないから、しばらく人をつけて動いたほうがいいかもしれないわね」

 

さっきの化け物も『妖怪』に入るんだな・・・。

僕は改めて「ありがとうございます」と頭を下げてから、彼女の家を後にした。

尽きぬ話題。

帰り道は、それなりに楽しかった。

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