幻想妖美伝   作:Lan9393

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二十三話:お気に入りの本はありますか?

 空を飛べたら、どんなに気持ちいいことだろうと思ったか。

すがすがしい空気の中を、自らの体だけが浮いていて、自由に動くことができたら。

誰にも縛られずに、どこにも閉ざされることがなかったら。

―――――どれだけ、幸せなことだろう。

 

 少女は窓の外から空を見上げた。

 

「・・・ぼくは、どうして一人なの?おかあさま」

 

少女の悲し気なつぶやきは無駄に広いその部屋に吸い込まれるように消え、どこにも響くことはなかった。

手元の本をポトリと机に置いて、窓を見やる。

どこにも行くことは許されない。

だれにも話すことは許されない。

幼いながら、親の束縛ががんじがらめに彼女の四肢を縛り付けているのだ。

 

「だれか、だれかいないの?ぼくは・・・いつまで一人なの?」

 

少女は泣きそうな声を上げながら、窓枠に手をついた。

 

「・・・・・・ぼくは、だれなの?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 魔理沙に連れられながら、真っ赤なお屋敷にたどり着く。

 

『琴羽。・・・愛してる。私のかわいいカワイイ―――』

 

懐かしい声がフラッシュバックして、琴羽は眉を寄せた。

その声の主を思い出しながら、魔理沙が「降りるぞ」と声をかけてきたので、風を起こして体のバランスを保ち、その場に仁王立ちになって空中で停止した。

魔理沙は先に地に足をつけ、「おーい」と琴羽を呼ぶ。

琴羽はその声を聞いてからだんだんと高度を下げていき、地面に着地した。

 

「屋敷かぁ・・・」

「?どうした、琴羽」

「いいえ、なんでもないですよ」

「そうか。それじゃあ私はここの図書館に用があるから、・・・こっちだぞ!」

「図書館?そんなところもあるんですか、ここ」

「そうだな。そこから私も本を借りてるんだ。気のいい魔女がいてな。異変で出くわした場所も図書館で、珍しい本がいっぱいあったから意気投合して、それからちょっと借りたりしてる」

 

ニコニコと笑う魔理沙に、琴羽も微笑みながら、「じゃあ返さないんですか?」と問うた。

魔理沙は首を傾げ、「返す?」と問い返す。

 

「そうですよ、借りたら返す。これは常識だと思いませんか?」

「・・・そんな常識、聞いたことないぜ。あの魔女は早く返せとせがんでくるが、そういうことなのか?」

「返してほしいって言ってるんだったら早く返しましょうよ!」

「えーっ。まだ読んでない本だってあるんだぜ?そんなの、もうちょっと読んでから返すに決まってんだろ」

 

からからと笑う魔理沙に、あきれ顔で「そうですか・・・」と返す琴羽。

琴羽はため息を少々こぼして、苦笑してみせる。

 

「そこまで言うなら仕方ないですけど・・・。しっかり後で返してあげてくださいよ?」

「おう、わかった。いやぁ、物分かりがよくて助かるぜ!」

 

琴羽のその言葉を聞いて、途端にぱぁっと表情が明るくなった彼女に、つい琴羽も破顔してしまう。

 

「・・・まあ、別に。あっちでも、結構本の返却期限すぎてたこともあったし・・・かまわないか」

 

小声でそうつぶやきながら、そっと空を仰いだ。

 現実(あっち)にある本がいっぱいの空間―――。

そんな光景を脳裏に映し出しながら、ふと疑問が浮かんだ。

 

(・・・"彼"は、本が好きだったのかな・・・?)

 

本を大量に部屋に残したまま亡くなった、まだ見ぬ少年を空想しながら、琴羽は嬉々として歩いてゆく魔理沙の後をゆっくりと追った。

 風がざわついている。

琴羽は顔をしかめてから、耳に届いた自分を呼ぶ声に一言返し、魔理沙の隣へ並ぼうと駆け足になった。

 

☆  ☆  ☆

 

(やっぱついてくるべきでなかったのかもしれない――――――ッッッ!!!)

 

 涙目で琴羽は自分の体のバランスを保ちながら窓の外へ飛び出す。

すぐさま横に跳ねるように風を吹かし体を移動させると、もともと体があった場所を弾が通過する。

 先ほどまで彼はいたって普通に図書館の中まで歩けていた。

それが、飛ぶ羽目になった上に―――自らの腕で盗品を持って、逃げなければならない事態に陥ってしまった。

すべては当事者である魔理沙が悪いのだが、それに琴羽も巻き込まれてしまったわけで。

 

 事の直前、珍しい本に目がいっていると、近くで言い争う二人の少女の声が聞こえたのだ。

 

「魔理沙。・・・そもそもここは貸出禁止なのよ、それを一回だけ許せばこのありさま・・・」

「おいおい、返すのにゃまだ早いぜ?・・・まだ読み終わってないんだ。勘弁してくれよ」

「あんたが持ってった本の中には本当に貴重なものも含まれてるのよ。どっかにやったりしたらただじゃおかないわよ」

 

琴羽には見覚えのない少女が青筋を浮かべながらそう言う。

魔理沙はその言葉を聞いて、ふむ。と考えるそぶりを見せた。

 

「安心しろ。私は本の扱いは丁寧な方だからな。ほら、前に一冊返したろ?状態よかったじゃないか」

「それとこれとはまた話が違うのよ。ほら、さっさと寄越しなさい」

 

手を差し出す紫色が基調の衣装をまとった少女、パチュリー・ノーレッジを見やった魔理沙は、自らが抱えてる本を一瞥して、ただ一言「嫌だよ」と言い放った。

 琴羽はそんな様子をうかがいながら、ちょうど取っていた本をどうするか思案する。

パラパラとページをめくると、それは意外にも挿絵の多い物語文だったので、ついめくる手を止めて文章をじっくりと読んでしまった。

内容としては、簡潔に言えば・・・箱入り娘が勇気を持って外に飛び出し、色々な物事を経験して心身ともに成長していく物語。

そんな内容にどこか憧れ(・・)を抱きつつも、共感(・・)しながら、琴羽は文を目で追うことに忙しくなって、少女たちの声も遠くなっていってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 リリはいつも独りぼっち。

 過保護なおかあさんとおとうさんが、「外は怖いところだよ」「一人で出ててはいけないからね」「リリにはおとうさんとおかあさんがついているから」と言って、外へ出してくれないのです。

 

 外へ出れないせいでおともだちもすくなく、リリにはお部屋にある絵本を読んだり、おかあさんが淹れてくれるおいしいお茶や、おとうさんが焼いてくれるおいしいクッキーを食べるしかないのです。

 

「ああ、わたしにもおともだちがほしい」

 

お空は綺麗な水色で、お部屋の外にある庭の芝生は緑色。

そんな光景を見るだけでも、リリのまんまるな瞳はキラキラと輝いていました。

 

「ああ、わたしもおそとにでたい」

 

おかあさんがくれた新品の革靴を眺めながら、リリは椅子に座って足をぶらぶらさせて

います。

 ある日、リリはあることを思いつきました。

 

「そうだわ!わたしが―――――――――――――――――――――――――――――――――

                                      』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――」

「・・・・・・」

「―――っ」

 

とんとん、肩がたたかれる。

 

「・・・・・・?」

 

文章に夢中になっていた琴羽はその感覚に文章から目を離し、肩をたたいた人物を探す。

その人は後ろにいて、「何を読んでいらっしゃるのですか?」と微笑みながら問うてくる。

彼女が首をかしげると、赤く長い髪がふんわりと揺れる。

 

「・・・あ、すいません。ちょっと気になったので、読んでたんですけど・・・これです」

「ああ、そのお話ですか。面白いですよ、それ。・・・パチュリー様には内緒で貸し出しちゃいましょうか?」

「え?」

 

小さな羽が生えて、少しいたずらっ子のような表情を浮かべる少女。

少女の言葉に、琴羽は唖然として、聞き返してしまう。

 

「なんとなく、あなたに読んでほしいんですよ、その本。私の勘ですけど」

「・・・・・・ええっと」

 

戸惑う琴羽に、赤い髪の少女は笑いながら、「遠慮しないでください」といった。

 内緒で貸し出してくれるそうだが、本当にいいのだろうか?

この本が気になるのは確かだ。しかし、魔理沙が現在この図書館の主に叱られている原因といえば、明らかに本を勝手に持って行かれていることだろう。・・・いや、本が未だに帰ってきていないことのほうが重大かもしれない。

 

「・・・すいません、じゃあお言葉に甘えて」

 

少々考えたが、自らの欲求にはあらがえず、肩をすくめて本を借りることにした。

少女はそれを聞いてより満面の笑みを浮かべ、「そうですか!」と喜びをあらわにした。

 

「あの、名前は?」

「小悪魔です。パチュリーさまからはこあって呼ばれてます」

「こあ、さん・・・ですか。ありがとうございます。できるだけ早く返しに来ますね」

「ゆっくり読んでいただいて構いませんよ。読み終わったら感想を是非~♪」

「はい!」

 

本を抱えていたら、それが目に入ったらしい魔理沙が彼の元へ歩み寄る。

 

「ほれ、これ持って先アリスんとこ行ってろ!後で行くからな!」

 

にっこりと笑みを浮かべたままそう言われて、急なためか是非も言えずそのまま背中を押された。

 

「えっあっ、魔理沙、さ―――――ッ?!」

 

ビュンッと顔の横を通過する弾。

それは完全に殺す気で放たれたソレだ。

 

「――――ッッッ」

 

絶句した。

足が震えて仕方がない。

 

「早く行けよ琴羽!」

 

そんな魔理沙の声に弾かれるように琴羽は開けられた窓から入ってくる風を指で操り、その場に浮きあがった。

風が周りに吹く感覚を覚えながら、ゆっくりと加速し、開いている窓から外へ飛び出し、そして今に至る。

 

「・・・アリスさんのところは魔法の森の少し奥・・・早く行っちゃおう」

 

抱えている本の中に見えた、先ほど借りてしまった本。

小悪魔の顔がよぎる――――あの、自分の過去を見通されたような感覚を覚える、笑顔。

特にそういうわけではないのだろう。

 暖かい笑顔を浮かべた少女が描かれたその本の表紙を見ながら、ぽつり、とつぶやいた。

 

「・・・・・・僕に読んで欲しい、か」

 

初対面の人相手に、ずいぶんと変なことを言う人だ。

嘆息しながら、琴羽はゆっくりと魔法の森へと進み始めた。

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