幻想妖美伝   作:Lan9393

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二十四話:彼女の言葉と幸せ者

 息を切らして、家の壁にもたれかかる琴羽は、本をしっかり持ったままそのままずるずるとずり下がっていった。

 

(魔理沙さんは、無事に逃げられたのだろうか・・・)

 

パチュリーが起こっている様子は、何度も同じことをする悪ガキを叱っているようだと思った。

彼女は怒っているというよりすでに呆れているようだったが、琴羽はそれを「まあなんだっていいか」と隅に追いやる。

 とにかく、とドアをノックして、「アリスさん、いらっしゃいますか」と呼びかける。

疲れ果て、やや声は出ないがそれでもしっかり聞こえたらしく、アリスが出迎えてくれた。

 

「・・・なにをしたの?」

「いやぁ、パチュリーさんの元で本を盗む・・・もとい、借りてきちゃって・・・魔理沙さんに荷物を嫌々押し付けられて今に至ります」

「私を巻き込むつもり?」

「いや、とんでもない。魔理沙さん、本を持って行った後はアリスさんと話すつもりだったみたいで・・・」

「?・・・そう。とりあえず上がりなさい。お茶と甘い物持ってくるから、そこらへんに座っていいわよ」

「ありがとうございます」

 

微笑みながら、琴羽はその好意に甘えて椅子に座って本をテーブルに置く。

お茶を人数分と、クッキーが皿に乗せられて運ばれてくる。

 

(・・・クッキー)

 

本をちらりと見やる。

確か、あの本にもクッキーが出てきていた。

 

(・・・・・・この子は、幸せ者だな)

 

眉を寄せて、琴羽が読んだ本の表紙を指で撫でる。

その動作を見ていたアリスが口を開いた。

 

「本、好きなの?」

「・・・どうなんでしょうか?物語とかはよく読みますけど」

「そう。・・・その本に何か思い入れでもあったりするのかしら」

「いえ・・・つい先ほど見つけたばかりですし」

「・・・」

 

アリスは琴羽の答えを聞いてすっかり黙ってしまう。

琴羽がアリスの様子に気づくと、「あの?」と声をかけた。

 

「なんでもないわ」

「そ、そうですか」

 

先ほどのやさしい言葉とは打って変わって冷たい一言に、琴羽は少しばかり嘆息した。

なにが気に食わなかったのだろう?なにか変なところがあったのだろうか?

・・・彼女に、嫌な思いをさせてしまっただろうか。

琴羽の頭の中はそんな思考がぐるぐるしていて、軽く混乱していた。

 早く魔理沙が来てほしい。

そう願いながらもうすでに、三十分は経っていた。

 

(なんでこんな遅いんだろう?彼女のスピードなら、もう十分前についててもおかしくないはずなのに)

 

彼女の家もここにあるのだ、迷うなんてことは到底ありえない。

琴羽はそれがわかっているからこそ、なおさらおかしいと感じたのだった。

 

「・・・魔理沙、来ないわね」

 

黙っていたアリスがそうつぶやくように言った。

 

「そうですね。・・・心配だなぁ」

 

琴羽は何も考えず、そう返しながらアリスの表情をうかがおうとして―――目を丸くした。

 彼女はなぜか驚いたような表情をしていた。

こちらを見て、予想外とでもいうように、動きを止めて。

 

「・・・え?な、なにか?」

「貴方、あいつに振り回されてるのよね」

「あー。確かにそうかもしれませんね」

「なのに、心配なの?」

「心配することと、振り回されてることってなにか関係があるんですか?」

 

本当に不思議そうに琴羽がいうものだから、アリスはこれ以上追及する気が起きなかった。

「そう」と短くつぶやき、会話を終わらせる。

彼は「またやってしまったか」といった表情を見せるが、アリスは逆に満足げだった。

 

(・・・この子ならきっと――――いえ、魔理沙がそばにいるのだし、きっと―――)

 

「すまん琴羽、遅れた!」

 

バンッと扉を開け放ち、少女の声が響いてくる。

その声を聞いて琴羽が「魔理沙さん?!」と椅子から立ち上がり声のほうへ駆けて行った。

琴羽を見た魔理沙はどこか安心したように表情を緩ませ、「あー、うん。悪かった」と笑った。

 

「悪かった、じゃないですよ。大丈夫だったんですか?」

「まあ、あいつが体調崩しちまったから逃げられたんだけどな。いやぁ、助かった」

「えっ」

「心配するな。あいつ、体弱いからさ。しかたないんだよ・・・あっアリス!私にもお茶くれっ!」

「はいはい・・・いま持っていくわよ」

「助かるぜ~」

 

琴羽の隣にドカリと座って、深々と息を吐いてリラックスしている魔理沙に、琴羽はクスリと笑みをこぼした。

そんな琴羽が目に入ったのか魔理沙は不機嫌そうに唇をとがらせて「なんだよ」と言う。

 

「いや・・・魔理沙さん、我が家みたいにくつろいでるから」

「そうかぁ?」

「そうね。人の家だっていうのに、何よそのくつろぎよう。少しはわきまえなさいよ」

「私にそんなことができると思っているのか?・・・ったく、わかってないぜ」

「ああ、私がバカだったようね。貴女にそんなことできるわけないものね」

「・・・言ったな?」

「ええ、なにか?」

 

「あ、あわわわ・・・」

 

二人とも笑みを浮かべながら己の得物を手にする。

そんな二人を見て琴羽はひどく困惑してしまっていた。

 

「お、お二人とも!落ち着いてっ。ここ、屋内ですしっ」

「・・・なら外行くか。インドアな魔法使いに適度な運動させてやらないとな」

「おあいにく様。普段から私、体動かしてたのよ?もしもの時(・・・・・)のためって」

「そうかよ。・・・じゃ、いくぞっ!」

 

もしもの時(・・・・・)・・・?)

 

琴羽はアリスの言葉に引っ掛かるところを感じながら、外に出て行ってしまう二人を見送った。

 お茶を一口含み、小悪魔に勧められて持ってきたその本を手に取り、ページを開いた。

 

 

(僕にも・・・あの時、この子みたいな勇気があったら)

 

――――――――――――――――――――――

 

『ああ、私の子』

 

 思い出したくない声が自分の集中をかき乱してきた。

ぱたん、と本を閉じて、息を吐いた。

すっかり時間が経っていたようだ、お茶が冷め切ってしまっていた。

そういえば二人はまだ帰ってきていないのだろうか?

近くにある窓から音の様子をうかがう。

 二人の姿はどこにもない。

 

「・・・?」

 

首をかしげて、もう一度見渡す。

しかし、見える光景は変わらない。

 

「・・・・・・おいて、いかれた?」

 

そんな考えが頭をよぎる。

どうしよう、と言葉が頭を駆け巡る。

 

「・・・勝手に帰るのはいけないよね」

 

アリスのことだ、本を返してくれるかもしれない。

そんな期待を抱きながら、近くの紙とペンを手に取って、紙にペンを走らせる。

 

『お茶、ありがとうございました』

 

そんな簡潔な内容を示して、先ほどまで自分が読んでいた本だけを手に取ってアリスの家を後にする琴羽。

 やはり、風がざわついている。

 

(・・・残してきた彼らは、大丈夫かなぁ)

 

肩をすくめて、一緒にトランプゲームで遊んでいた彼らを思い出す。

 そんなこと、こちらの世界にきてしまった彼にはもうわからない。

とにかく今自分がすべきこととは、『この世界でどうにか生き抜いていくこと』だった。

妖怪(と言われていたが明らかにバケモノである)に襲われて、その目標の大切さがわかった気がする、と苦笑する。

 

(あの世界に、帰ろうだなんて思わないしね)

 

どこかすっきりしたような面持ちで彼は帰路についた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

???side

 

 緋乃に引き続き、琴羽まで姿を消した。

屋上に二人、のんびりしながら授業中の暇をつぶす。

何もすることがない。

トランプゲームもあらかたやり終えたし、ゲーム機なんかは校則上持ってくることなんてできない。

 

「ねえ」

「なんだよ」

「次はたぶん、君だと思うんだ」

「なんでそう思う?」

 

嘲笑するように鼻で笑えば、「まあ根拠なんてないんだけどさ」とそばにいた彼が笑う。

根拠がないことを言うな、なんていつもの口調で言えば申し訳なさそうな声音で「ごめん」と言われて、少々戸惑った。

 

 ィーンコーン・・・ァーンコーン

 

 

チャイムが鳴るのが耳に届いた。

今日は誰も来なかったな、なんて笑いあいながら屋上を去っていく。

・・・もう、帰るしかない。

 

 

☆  ☆  ☆

 

「あら、奇遇ね」

「・・・あんたか、二人をさらったのは」

「さらっただなんて言い方がひどいわ。正確には『つれていってさしあげた』のよ?」

「変わらないだろ」

「まあ、たしかにそうね」

「・・・」

 

金髪の女が扇子で口元を隠しているが、笑っているのはすぐ見てわかった。

このまま連れて行かれるんだろうな、と頭でわかっていたので、肩をすくめてやれやれと嘆息してやる。

 

「・・・・・・琴羽は無事なんだろうな?」

「勿論よ。彼は活発な女の子の元でちゃんと生活してもらってるわ」

「それならよかった」

 

ふと笑みが浮かんでしまう。

口元を腕で覆い隠しながら、その笑みを我慢することはしなかった。

 

「あなたって、そんなに彼がお気に入りなの?」

「その言い方は気に食わない。・・・大切だが、なにか?」

「そう。そんな心があるのに、今の生活に満足してないのね」

「そりゃそうだろ」

 

女の言葉に、おどけたように言ってやる。

 

「琴羽もあいつらも、まだ幸せじゃない。そんな生活に満足感なんて感じられないね」

「・・・じゃあ幸せになりなさい。あなたが向かうべき場所へ、しっかりと運んであげるから」

「そりゃあありがたいが・・・なんでだ?」

「?」

「なんで、自分なんかを運ぶ?自分なんかこの場に置いていったっていいはずだ。あいつらのなか(・・・・・・・)じゃあ、一番幸せだからな」

 

女はじぃっとこちらを見つめてくる。

その視線にどこか居心地の悪さを感じながら、「なんだよ」と問いを投げかける。

 

「まあいいわ。ここでお話はおしまいよ」

「・・・なんだって自分勝手なんだ。女ってやつは」

「そうかしら?」

「自分が何言ったって聞かねぇんだろうし・・・好きにするといい」

 

扇子をパチン、と閉じる音が聞こえてきた。

視界の中に、女が笑って指をくいっと動かすのが入ってくる。

 

―――――ブゥン。




これにて琴羽編は終了となります!
ヴェルディの時よりもほのぼのとしたお話にできたかな?なんて思ってます。
魔理沙の設定とうとう、ちょっとおかしいところがあるかと思いますが、どうか大目に見ていただけると何よりです。
ヘタレ琴羽編は、魔理沙との距離感、そして後半三話ほどでつめこんだ過去やら勇季やら・・・そこらへんが自分として書いてて楽しかったです。
リメイク前のようになんかしてやらないんだからねっ。

 えっと、次は若干キャラが変わってる気がしてならない秋兎編です。
では、お楽しみに!
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