お待たせしてしまって本当に申し訳ありません。
あまり重い話にもほのぼのした話にもならない気がしますが、お楽しみいただければと思います。
では、どうぞ!
なんて季節に呼びつけてくれたのだ、あの女は。
心の中でそう毒づいてしまう。
肌寒いその季節に、彼は体を震わせていた。
こちら側に落とされて、しばらく。
視界の端に中々奇抜な色をした建物があるのはわかるのだけれど、そこまで動く気力がないのだ。
右も左もわからないこの地で、うかつに迷いでもしてみろ、うっかり飢え死にましたなんていったら友人たちに笑われてしまう。
(さて、どうしたものか)
腕を組み、眉を寄せて思案する。
通行人が現れるのを待つしかないのか、いや、それだと長い間ここで暇をつぶさないといけなくなるだろう。
・・・深く、ため息をついた。
☆ ☆ ☆
「どうしてあんたはその能力を移動で使わないのよ」
「あなたが私の隣を歩いているからでしょう。あなたもさっさと飛んで館へ行って帰ればいいものを。・・・彼が待っているんでしょう?」
「あいつは関係ないでしょ」
「そうかしら。賢者さんから聞いたわよ、あなた、彼がいなくなったからって血相変えて探し回ったのだって?大切にしてるんじゃない」
「・・・ここでやりあいたいわけ?」
「お気に召さなかったかしら」
そんなやり取りをしながら、二人の少女が道を歩いていた。
片や、紅白の装束を身に着けた気だるげな巫女。
もう一人はというと、クールにくすくすと笑うメイドだった。
どうしてこの二人がこんなところを歩いているのかというと、メイドは買い物帰り、巫女はメイドの勤め先に用事があり、ちょうどばったり会ったからだった。
メイドの言葉が気に食わなかったか、巫女はイライラしているらしく、ふいっと顔をそむけたが、そんな態度ですらメイドにとっては面白いものに映ってしまう。
自分はイライラしているのに、と巫女がメイドをにらみつけると、メイドは肩をすくめて「ごめんなさいね」といった。
「彼のことを言っただけでどうしてそんなに怒ってしまうのかしらね」
「・・・」
「素直じゃないから?」
「うっさいわよ、咲夜」
「ふふ、そんなに怒らなくたっていいじゃない」
「・・・・・・咲夜」
「なに、どうしたの霊夢?」
咲夜を呼んだ霊夢が指を指した。
その方向は前だ。
指したその先を目でたどって、彼女が指したものを確認した咲夜は目を丸くした。
それは人だった。
今にも意識を失ってしまいそうな、薄着の青年。
シャツ一枚と黒いズボン。伸びた黒髪。
「・・・霊夢、ちょっと時間もらっていいかしら」
「別にあんたに関係する話じゃないからいいけれど、そいつを連れて行くの?」
「さすがに目の前で倒れかけてる人を見捨てられるほど薄情じゃないつもりよ。・・・あなたも、そういう人でしょ?」
「・・・私は特に興味を引かれたわけじゃないし」
「はいはい」
仏頂面の霊夢を置いて、咲夜は青年の元へ近寄る。
青年は咲夜に気づいていないようで、何かをうわごとの様につぶやいてから、フラリと気を失った。
瞬間、咲夜は彼の体を抱きとめた。
「しっかりして、・・・・・・体が冷えちゃってる」
「生きてる?」
「生きてるわ。目の前で死なれても目覚めが悪いし、ちょっと運ぶわ」
「ええ。私のことは置いていってね」
「わかってる」
次の瞬間、霊夢の目の前から二人の姿は無くなった。
多少の違和感を感じたものの、霊夢にとってその違和感も些細なもので。
「・・・ま、私も早く行っちゃいますか」
☆ ☆ ☆
はて、ここはどこだ。
見慣れない天井。明らかに自分の自室よりもきれいな内装。
こんな家、記憶にないぞなんて思いながら、青年は今自分が置かれている光景に目を疑った。
「・・・つまり、この人をこの館で面倒を見ろというのでしょう?私の一存では決められないわ」
そんな声が聞こえてきた。
頭をちょっとだけ動かしてそちらのほうを見やると、綺麗なメイドが眉を寄せて誰かと会話しているようだった。
「貴方の主になら前もって話を通してあるわ。それなら問題ないでしょう?」
「問題はないけれど、でも急すぎて・・・しかも、どうしてそれなら彼を紅魔館の近くに置いていかないの」
「ごめんなさいね。ちょっと場所を間違えちゃって」
「・・・わざとらしいわ」
「あら、そうかしら」
くすくすと笑う声に覚えがあって。
声の主を視線を動かすことで探すと、その人は金髪の女性。・・・あああの人だ、と記憶にあった、自分をこの世界に落としていった人と思い出す。
「あら、彼、起きたみたいよ」
「・・・!待ちなさい、八雲紫。まだ話は――――」
姿を消した金髪の女性。
はぁとため息をついたメイドは青年と目を合わせて、問いかける。
「もう具合は大丈夫かしら」
「え?・・・ああ、問題はない、ですけれど」
「そう、それならよかったわ」
「・・・どうして見ず知らずの人を助けたんです?」
「目の前で気を失われたら、心配にならないほうがおかしいわ。とにかく、間にあってよかった」
安心したように笑みを浮かべるその人に、青年はどこかおびえた様子で「ありがとうございました」と答えた。
御礼はいいと首を振ったメイドは、青年に対して質問を投げかける。
「貴方は誰?ここらで見ない顔だけど」
「・・・神居秋兎。逆に聞きますけど、あなたは?」
「私はここ、紅魔館でメイドとして働く十六夜咲夜よ」
「咲夜さんか。・・・よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、自己紹介をしてくれた彼女に、秋兎は反射的に頭を下げた。
彼の言葉と共に、咲夜も笑みを浮かべたまま返した。
「ええ、よろしく。まあ、しばらくはこの館で面倒を見ることになったようだから、わからないことがあれば聞いて頂戴」
「そうですか、お世話になります」
「・・・言っておいてあれだけれど、あっさり了承するのね。普通なら少し文句を言うものだと思うけれど」
「よくわからない場所に連れてこさせられたばかりなのに、文句なんか言ってられませんし・・・」
頬を掻いて、呆れたようにそう言うと、「確かにそうなのかもね」と咲夜は笑った。
「貴方が悪い人じゃないことはわかったわ。後で、私の主人のもとに顔を出してもらうわよ」
「かまいません。ここに居させてもらうのなら、挨拶はさせてほしいですから」
「今はちょっとここで待っていて。その恰好じゃ寒いだろうから、替えの服を持ってくるわ」
「あ、お構いなく。外に比べたら屋内はまだ暖かい方だし、問題ありません」
「・・・そう?なら、いいのだけれど」
部屋を出ていこうとする咲夜を引き留めて、秋兎は自らの格好で問題はないと告げる。
咲夜はそれを聞いて納得し、服を持ってくるのをやめた。
「そういえば、あなたを見つけてくれた人もここに来ているから、後で会う?」
「お願いします」
「わかったわ。それじゃ、お嬢様の元へ行きましょうか」
☆ ☆ ☆
「・・・それで、ここで面倒を見ることになった男がそいつで合ってるのね、咲夜?」
秋兎が抱いた感想は、『高圧的なちび』だった。
咲夜の主人というから、どれだけ威厳に満ちた大人かと思えば、羽の生えたちっちゃい子。
そうとしか見れなかった。
主人の問いかけに、咲夜は答える。
「はい。八雲紫がわざわざ出向いたほどですし」
「そう。・・・それで、神居秋兎といったわね?」
「は、はいっ」
しかし、いくら小さいといってもその体からひしひしと伝わるその力に、秋兎は緊張していた。
一歩間違えば、殺されるのではないかという緊張感。
「・・・私はレミリア・スカーレット。ここ紅魔館の主であり、吸血鬼だ」
「・・・」
「一般人が住むにはここは少々危ない気もするけれど、本当にここで暮らすのか?」
「咲夜さんに一度助けてもらった恩があります。せめて、その恩くらいは返させていただきたいと」
問いかけられたその質問に、秋兎は真面目に、しっかりと答えた。
「・・・わかった。咲夜」
「はい?」
「こいつを雇う。面倒を見るのは任せたぞ」
「かしこまりましたわ。それでは、失礼いたします」
咲夜が礼をして部屋を去っていくのを見て、秋兎も同じように部屋を去っていく。
「・・・まったく、あの賢者はなにがしたいんだ。・・・この紅魔館に、二人も訪れるだなんて―――なにか、狙ってることがあるのだろうな」
主人、レミリアはそう頬杖をついて重苦しいため息とともに吐き出した。