秋兎side
パチュリーと魔理沙の目の前に、そっと紅茶を置く。
今日も飽きずに窓から侵入してきた魔理沙を絞め、おとなしくするように忠告すると、さすがに魔理沙も暴れる気はないのかそのまま居座った。
暴れられると体を動かさなきゃいけないし、服を台無しにしたくもないし、迷惑なんだが・・・おとなしくしてもらえるととても助かる。
それにしても、久しぶりに紅茶なんて淹れた。おいしいかはわからないが、咲夜さんをわざわざ呼ぶわけにもいかない、勘弁してもらおう。
早速カップを持ち上げて中身を飲んだ魔理沙は「悪いな」とにっこりと笑った。
今日は魔理沙しか来ていないようで、友人の姿はどこにも見えない。
「そういや、お前のこと、霊夢は把握してるのか?」
「霊夢?」
「ん?なんだ、知らないのか?」
「ああ。誰のことだ?」
きょとんとこちらを見て、首を傾げた魔理沙。
自分は首を横に振って聞き返した。
「えーっと、博麗神社の巫女だ。博麗霊夢って言ってな」
博麗神社・・・。あいつがいるところか。
「へぇ・・・。会ったことがないな」
「そうか~。賽銭でも入れてくるといい、何らかの形で返してくれるぞ」
「・・・そんなののために賽銭を入れたくはないんだが・・・」
ちらり、とパチュリーを見やる。
パチュリーは紅茶を含んでいて、こくりとうなずいた。
それを見て、自分は「じゃあ今からでも行ってくる」と笑う。
魔理沙がぐいっと紅茶を飲み干して、
「なら家に帰るついでだ。送るぜ」
「頼む」
魔理沙の厚意に素直に甘えることにした。
☆ ☆ ☆
ぽつんと境内に取り残されて、ふと思う。
何気に、これが初めての外出ではないだろうか。
咲夜さんに了承を取る勇気があまりなかったからか、『外に出たい』という要求を言えずにいたものの、図らずこんな機会が訪れるとは思わなかった。
魔理沙の提案に感謝しつつ、境内を歩く。
がらんとしたその神社は人の気配をあまり感じさせない。
ぼろいわけではないから、人がいるのだろうとは思うのだけれど、どうしてここまで人気がないのか。
まあ、魔理沙に飛んで連れて行ってもらっていた時にちらりと見えた集落(?)とここは離れているように見えたから、それが原因になっているんだろうけれど。
「と、せっかく神社に来たんだ。参拝しないと」
そんなことをぼそりと言いながら、自分は懐を探る。よかった。小銭が残っている。
財布の中にあった小銭を取り出して、賽銭箱に近づき、その中に放る。
いつも賽銭箱に金を入れる時に鳴る音が聞こえ、自分はとりあえず手をたたいた。
(・・・こんな人気のない神社、御利益があるかなんてわからないけどな)
小銭を入れた音に気づいたか、神社の中で足音が聞こえた。
ああ、よかった、人はいたんだな。
きっとアイツか巫女のどっちかが姿を現すだろう。
そう思って、しばらくそのまま待っていると、中で声が聞こえた。
「あんたはちょっと中で待っていて、私が出るわ」
『ああ、わかった』
そんなやり取りの後、紅白の巫女が姿を現した。
こちらを見て、「あら」と声をこぼす。
「あなたはいつぞやの。なに?わざわざここに来たの?」
「・・・えっと、自分のことを知っているのか?」
微笑んで、賽銭箱に寄り掛かる巫女に、自分は問いかける。
巫女はその体制のまま、
「ええ。そりゃ、あなたを見つけたのは私だもの」
そう答えられた。
あまりにもなんでもないことのように言うから、一瞬聞き逃しかけた。
自分は小さく「えっ」とこぼす。
「あれから咲夜から何も言われなかったから死んだかと思ったわ」
クスクスと笑う巫女に対して、自分は訝しむように言った。
「ひどいことを言う巫女だな。・・・というか、あんたが自分のことを見つけてくれたのか」
「そう言ってるじゃない。人の言葉を素直に信じられないタイプの人?」
「確認しただけさ。その節は本当にありがとう。見つけてもらえなければ死んでいるところだった」
こちらをからかうように言う巫女に対して、頭を下げて礼を述べた。
照れくさそうにした巫女はそっぽを向いて口を開いた。
「この中途半端な季節で少し眠ったからって死にゃしないわよ。死んでも最悪、死体が食われるだけだし」
「物騒だな・・・ここは」
「幻想郷は妖怪やらが共存してる世界よ。弱肉強食なところがあったっていいじゃない」
「・・・そういうものか」
出しっぱなしにしていた財布を懐に入れながら、巫女の話を聞いていた。
「そういえば、申し遅れた。自分は神居秋兎という。紅魔館で働き始めた」
「ん、ご丁寧にどうも。私は博麗霊夢。この幻想郷の素敵な巫女様よ」
「霊夢か。よろしく」
「ええ。・・・そうね」
うなずいてから、何か思いついたのか、「ちょっと待っていて」なんて残して霊夢は神社の中へ戻っていってしまった。
はて、なんなのだろうか。
待っていろと言われたから、おとなしく待っていることにする。
「ほら」
戻ってきた霊夢に渡されたのは、札だった。
何の札だろう?書いてある内容はさっぱりわからないが、でも霊夢が用意したものだというのはわかる。なんとなく、だ。
「これを服の内側に張っておきなさい。賽銭のお礼よ」
「・・・ありがとう。それにしても、これはなんだ?」
「まあ、強いて言えばお守りよ。あなたのためになるでしょうね」
「そうか」
納得して、その札を財布と同じ場所にしまった。
もしものときに持っていこう、なんて思って。
「それじゃあ、これで失礼する」
「帰れる?」
「魔理沙に連れてこられたときにだいたい道は把握した。・・・たぶん」
「そ。気をつけて帰りなさいよ」
「ああ。また暇を見つけて賽銭を入れに来る」
「楽しみにしてるわ」
苦笑すると、そのまま彼女は帰ってしまう。
自分はそれを見送ってから、神社を後にした。
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『お帰り、霊夢。誰だったんだ?少し話し込んでいたみたいだったけれど』
「ちょっとこの間見つけた外来人。紅魔館で働くことになったんだって」
『そうか・・・・・・なあ、そいつの名前って』
「?神居秋兎って言っていたけれど」
『・・・。あいつか。じゃあ、もう・・・』
「変な奴。ほら、さっさと片づけなさいよこれ」
『悪い悪い』