幻想妖美伝   作:Lan9393

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二話:『仕事に行ってくるよ奥さん』「黙れ」

 居候が決定してから数時間。

神社にたどり着いた緋乃は、出されたお茶を飲み下し、落ち着かないようにそわそわしていた。

 

「・・・なによ、気持ち悪いわね」

『ひどいな。女がいる家なんて慣れてないんだよ。しかたないだろ』

「あーはいはい、そうなのね・・・って、何してんの?」

『落ち着かないからなァ・・・少し出かけていいか?』

 

緋乃が猟銃を背負い直し、ふぅと息を吐くと、その行動に疑問を覚えた霊夢が緋乃の背負う銃を見て、今からしようとしていることを把握した。

霊夢が銃を指さし、口を開いた。

 

「・・・狩りに行くの?」

『ああ、まあな。怪我はしねえし、見知らん物体や人に出会ったら速攻逃げるから』

 

苦笑して、緋乃は銃を見やり、準備が整ったと表へ出る。

縁側まで出てきた霊夢が戸に寄りかかりながらそんな緋乃を見る。

 

「・・・あっそ。じゃあ何も言わないわ」

『ん。じゃあ、行ってきます』

「はいはい、いってらっしゃい」

 

霊夢はどうでもいいというように緋乃を送りだすと、持っていた湯呑を置き、境内を見やる。

 

(・・・ああいう挨拶、いつぶりかしら)

 

友人は来るには来るものの、そんな挨拶はせず、一方的に「またな」といって帰ってくだけだった。

そのせいか、さっきのような自然の掛け合いをこなせたことは、霊夢も自分で少しばかり驚いている。

元気よく駆けていく緋乃の後ろ姿に、霊夢は少しばかり不安を抱いた。

なにか起こりそうで、何かやらかしそうな予感。

 

「・・・くだらないわね、こんなの」

 

そう吐き捨てて、霊夢は神社の奥へ引きこもっていった。

 

 霊夢にとっては、外来人を一日泊めておくことすらおかしいと感じるのに。

いつもなら、『彼女』を呼んで、現代に戻すのだ。

それなのに何故、「戻すことも考えている」などと口走ったのだろう?霊夢は首をかしげる。

 

 

(・・・あいつ、現代に帰りたくないみたいだし・・・はぁ・・・めんどう)

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

(よし、順調だな)

 

 先ほどとらえた獲物を持ちあげて、満足そうに緋乃は笑みを浮かべた。

青々とした木々の中を潜り抜け、罠を設置しては木の上で罠を見張る。

そしてウサギがかかると嬉しそうにそれを回収した。

木の上を飛ぶ鳥を銃で打ち抜き、そしてそれをキャッチして次の場所へ移動した。

 野山にいるような動物は、基本的に食べられる牛・豚・鳥のどれでもない(鳥は空を飛んでるのをとらえる)が、調理をすることで本当においしく変わる。

それが楽しくて、緋乃は狩りを続けている―――のかもしれない。

 

(結局のところ、俺もなんで狩りをしてるかなんて覚えてないんだよなぁ・・・。まあ、『あの人』と一緒にしてたから、はあるけどな)

 

幼いころを思い出し、苦笑する。

 

(・・・元気にしてるよな、みんな)

 

ふいに浮かんだ、『元の世界』の親友たちと『その人』。

数少ない(・・・・)友人たちはおそらく、今もあの醜い世界にいる。

そう思うと、なんだか申し訳なるとともに、心配に思えてきた。

 

(鬼教師たちも、あいつらも・・・悪い奴らじゃないし、仲間だ。だけれど、ほかの連中は―――)

 

そこまで考え、緋乃は苦い顔をした。

なるべくそれを考えないようにぼんやりとしていながら、てきぱきと罠を設置していく緋乃。

一度思考がまとまらなくなり、はぁと深いため息をつくと、現状を振り返る。

緋乃は今、神社から少し離れた野山で狩りをしていた。

異形等に気をつければいいという話だったからか、「どうせそんなものはでない」という証明のためか。

とにかく、緋乃は調子に乗ってしまったのである。

 獲物が多く獲れたためか、少々舞い上がっていた緋乃は周辺を確認するのを失念していた。

――――唐突に現れた殺気。

バッと後ろを振り返った緋乃は、今まさに迫っていている脅威に目を丸くし、そして事態を把握した。

迂闊だったと冷や汗を浮かべ、緋乃はその場から飛びのき、そのついでと近くにおいた銃をとった。

緋乃が先ほどまでいた場所に『鋭い爪』が振り下ろされ、置き去りにした獲物の行方が分からなくなる。

舞い上がる砂ぼこりに、緋乃は気がとられないように襲ってきたものの正体を知るべく目を凝らした。

 

(―――ッチ・・・。獲物か、それ以外か・・・)

 

隠れられる場所を探し、すぐさまそこに飛び込む。

木の幹の影に隠れた緋乃は、そっと砂ぼこりの舞うその場所に目を凝らした。

真っ黒い影。

大きくはないので熊ではない、かといって小さくも無い。

ひょろっとしたシルエット。二足歩行で、腕が大きめ。

 

(俺の出る幕じゃねェ・・・ッ)

 

舌打ちをしてそそくさと銃をもってその場を離れようとする。

物音がするのはしかたないと動かす足をもっともっとと働かせ、狩場から転がるように出た。

後はもう無我夢中で足を動かす。

調子に乗ってしまったのがいけなかったと自覚する。

神社へ続く階段が見えた。

ホッとしたのもつかの間、ぐいっと引っ張られる感覚に緋乃はつい声を上げた。

 

(うおぁ!?)

「ニガサナイ・・・絶対・・・俺ノ・・・エモノ」

 

うなるのような低い声に緋乃はびくり、と体をこわばらせ、鈍く痛みを訴える足を見つめる。

そいつが大きい手グッと力を込めるとまた鈍い痛みが走る。

 

『ぐぅ…ハンッ。ドデケェ手で俺の足掴んでんじゃねえよバカ野郎!』

 

やけというように、緋乃はチャッと銃口をそいつの眉間に向ける。

そして調整も何もせず引き金を引いた。

 

―――パンッ!

 

案の定、狙いは外れたものの、それでも十分ダメージは与えられたと緋乃は感触を確かめた。

 

「ぐがっ」

 

痛みに手の力が抜けたか、拘束が緩む。

今のうちと緋乃は追いかけてきたそれから距離を置いた。

 

(こいつ仕留めたら霊夢の仕事減るよな・・・たぶん)

 

距離を置きながら、ぽわんと思いついた案。

その案を速攻採用した緋乃は再び銃を構えた。

のろのろと近づいてくるそいつに銃口を向け、緋乃はつぶやいた。

 

『・・・眉間で生きるのなら、甘かったってことだ。眉間、心臓部、四肢、脳天―――それぞれ、ぶち抜いてやるよ』

 

にっこりと笑んだ緋乃は、しっかりと焦点を合わせて―――引き金を引いた。

銃声と、そいつの悲鳴は重なり、やがて広い空に吸い込まれて消えていった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンッ。

 

霊夢の拳骨が緋乃の脳天を捉える。

それとともに鈍い音が神社に響き、緋乃は「ギャッ」と悲鳴を上げながら頭を押さえた。

先ほどのあれは、やっぱり妖怪だったらしく、霊夢の機嫌を損ねてしまっているわけで。

 

「・・・んで、妖怪を退治したと」

『ハイ・・・』

 

不機嫌そうな霊夢の声に、緋乃はびくびくしながら答えた。

正座している緋乃の足は限界だと訴えるものの、霊夢の厳しい視線に正座を解くことはできなかった。

 

「近くで銃声が聞こえると思ったら・・・。しかもすごいグロテスクな絵柄」

『スイマセン・・・』

 

額を抑えながらため息をつく霊夢に謝ると、視線がまた厳しくなる。

 

「『怪我はしねえし、見知らん物体や人に出会ったら速攻逃げるから』――――そう言っていたのは、どこのどいつだったかしら?」

『俺です・・・』

「そうね、あんた。・・・んで、あんたはどんな状態で帰ってきたのだったかしら?」

 

腕を組んで霊夢はそう問う。

 

『・・・足を握られて、足をおかしくしました・・・』

「そうよね。はい、大ばか者」

『ひどいですねハイ』

 

緋乃は正座しながら、ジンジンと痛みを訴える足を抑えながら、霊夢の厳しい声と視線にどんどんと縮こまっていた。

彼が反省してるとは思えなかった霊夢は、もっと睨むようにしながら、

 

「あんたはそれを言われるだけの行動をしたのよ!」

『していません!!』

「ふざけんなもっかい殴られたい?」

 

真顔で霊夢が緋乃を見下ろし、こぶしを構えながら、恐怖をもって認めさせようとするが、緋乃はそれを頭をガードし、拳骨を回避せんとする。

 

「・・・ま、いいわ。次はもう無茶しないように」

『は、はーい・・・・・・心配させてごめん』

「心配なんかしてないわよ」

『あっそうですか』

 

緋乃は落胆し、正座の姿勢を解く。

彼女が部屋から出たのを確認すると、彼はぼそりとつぶやいた。

 

(・・・心配、か)

 

天井を仰ぎ、やがて緋乃は後ろに倒れた。

大の字に転がり、そのままフッと意識を手放した。

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