幻想妖美伝   作:Lan9393

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三十話:買い出しのその翌日

秋兎side

 

 ひたいに、ぬるい何かが乗っている。

いったい何が乗っていたのだろう?と、だるいと訴える体を起こしながら、ひたいに乗っているそれをとった。

濡れたタオルだった。濡れた、といっても、しめっているだけだから、よくはわからない。

着ていた服はしわになっていて、やはりまだ濡れている。

布団も被害にあっているではないか!掛け布団に手を当て、がっくりと肩を落とした。

 

(・・・そうだ、仕事に行かなきゃ。すごくだるいけれど、休んでなんていられない)

 

 替えの服に着替えて、濡れた元の服を自室の風通しの良いところで干す。

頭がくらくらしてぼうっとするが、支障はない、はずだ。

自分にそう言い聞かせて、ドアに手をかける。

 

(そういえば・・・誰がタオルを乗せてくれたんだろう)

 

誰かが近づいて物音を立てれば、気づいて起きそうなものだが。

そんなことを思いながら、自分の部屋を後にした。

 

 

☆  ☆  ☆

 

side out

 

「あら、遅いわね。ゆっくり眠れたかしら」

 

 図書館に現れた秋兎の姿に、パチュリーが第一声、そう問いかけた。

秋兎はうなずいた。

 

「?ああ」

「そう。じゃあ、いつも通りこれらをお願いするわ」

「わかった」

 

ぼうっとした頭でパチュリーの指示を聞いた秋兎は、パチュリーに指示された本を持って、ふらふらと歩き始めた。

 はて、この本をどうすればよいのだったか。

いつも通りということは、この本を運べばいいのだが、どこに運べばよかったか。

 そうしていると、小悪魔が近寄ってきた。

 

「どうしたんですか?立ち尽くしてますけど」

「いや・・・」

「あ、その本受け取りますよ。パチュリー様の言っていた本ですよね?」

「たぶん」

「たぶん、ですか・・・?ま、やっておきますね」

「ありがとう」

 

ぺこりと頭を下げて、小悪魔にお礼を言う。

小悪魔はちょっと不思議そうな顔をしたけれどすぐ苦笑して、本を抱えて飛び上がった。

こんなに本棚の背が高いのだから、そりゃあ飛べたほうが楽だろうな、なんて。

どうでもいいことを考えて小悪魔を見つめ、ぼうっとしていると、図書館の入り口から元気な声が聞こえてきた。

 

「よーっす!今日は客としてきたぜーっ」

 

扉を開け放ち、笑顔で現れた魔理沙が本棚の元へ駆ける。

そんな魔理沙の様子を見たパチュリーが嘆息して声をかけた。

 

「あら、珍しいわね。盗んでいくことがないように」

「わかってるって。最近じゃ琴羽もうるさいからなー。しばらくおとなしくしてるよ」

 

肩をすくめて言う魔理沙に、パチュリーは呆れたように言った。

 

「しばらくじゃなくて、これからずっと」

「はいはい、・・・ん?秋兎、どうしたんだ?」

 

こちらに気づいたらしい魔理沙がこちらに近寄ってくる。

おとなしく入ってきた魔理沙に言うことがない秋兎が、「ああ、よく来たな魔理沙」というと、魔理沙が一歩後ずさった。

 

「おいおい、お前どうしたよ・・・?」

「何もおかしいことは言っていないと思うんだが?」

 

秋兎の発言に対して少しビビり気味の魔理沙に、秋兎は眉を寄せて言う。

「悪い、ちょっと大げさだったな」と謝った彼女を見て、「まったく」とこぼした。

ふと、ぐらりと世界がゆがんだ。

目元を手のひらで覆い、秋兎は顔をゆがめた。

 

(・・・あー、なんかぐらぐらする)

「おい、お前熱ないか?」

 

ぴたり、と秋兎と自分のひたいに手を当て、魔理沙は熱を測ろうとする。

自分のひたいより、魔理沙の手のほうが冷たくて、秋兎は目を細めた。

手袋もしていない。外の涼しさで冷えたのだろう。

 

「うおっ。おでこ、熱いぞ?」

「・・・しっ」

「なにが、しっよ。咲夜に言って今日は・・・いえ、熱が下がって体が楽になるまで休んでいなさい」

「・・・・・・わかった」

 

パチュリーの言葉に素直にうなずいた秋兎が歩き出す。

 

「いや、私が言ってくるぜ。お前は先に部屋で休んでいろ」

「・・・助かる、魔理沙」

「んにゃ、気にするな!」

 

ニコニコと笑った魔理沙に報告を任せ、秋兎は自室へと向かった。

 

☆  ☆  ☆

 

 着ていた上着を脱ぎ近くの椅子に掛けて、シャツとズボンだけになって、ベッドに倒れこんだ。

朝起きたばかりだからか、湿った布団が邪魔臭い。

ベッドに腰かけると、ふと思う。

 

(―――まさか魔理沙に言われるとは)

 

 何もおかしい発言は(彼的には)していないし、普通にしていたつもりだった。

たしかに今日、頭が働かなくって仕事も満足にできていなかったような気もするけれど、それでも普通だったと言い張りたい。

 

(・・・さて、咲夜さんになんて言われるかな)

 

説教されるのが目に見えている。

ナイフは嫌だな・・・深くため息をつくと、コンコンとノック音が響いた。

 

「秋兎、私だ。様子見に来たぜ」

 

 

魔理沙の声がドア越しに聞こえてきた。

「入っていいぞ」と声をかけると、ドアを開けて魔理沙が入ってきた。

 

「おいおい、何で横になってないんだよ。寝るのが一番だぞ」

「そう言われてもな・・・」

「うわっ、何でベッド湿ってんだよ?!」

「こういうことだ。昨日湖に落ちてそのままだったからな・・・ベッドが濡れてても仕方ない気がするけれど」

「それじゃねえかっ」

「え」

 

指を指され、秋兎は飛び上がった。

それ、とはなんのことだろう。

 

「お前が熱出した理由だよ。大方、お前休んでないだろ」

 

指摘されて、一瞬確かにと納得しかけたが、秋兎はすぐ言い返した。

 

「といっても、いつも仕事は図書館の手伝いだけだ。そんなハードでもないぞ」

「本持って移動して、それを戻してっていう仕事だぞ?」

「そしてお前から本を守らなきゃいけない」

 

魔理沙の言葉に、一言付け加えると、魔理沙は目を瞬かせた。

そして、自分を指さして、

 

「・・・私が仕事増やしてる?」

「ああ。お前が仕事増やしてるな」

 

うなずいてやると、魔理沙は気まずそうに視線を逸らした後、「ああ、そうだ!」と露骨に話題を変えた。

 

(・・・誤魔化そうとしてるな。まあいいけど)

「咲夜に言ったら、手が空いたら一言言いに来るってさ。あと、替えの布団ないのか?」

「さあ?ないんじゃないか?」

「そか。じゃあ、隣の部屋から掛け布団だけでも持ってくるぜ」

「隣は確か空き部屋だったな・・・」

「わかった。じゃあちょっと待っててくれ」

 

ぱたぱたと部屋を出ていった魔理沙が、やがて両手で布団を抱えて帰ってきた。

 湿った布団をベッドの隣にたたんで置き、持ってきた布団をベッドの上で広げた。

秋兎がその布団の中に潜り込む。

 

「よし、このままおとなしく寝とけよ。私は琴羽を置き去りにしてるから、帰んなきゃいけないんだが・・・大丈夫だよな?」

「・・・動いて、あとでひどくなったら咲夜さんにもっと怒られる。大丈夫だ」

「わかった。じゃあな!」

「ああ」

 

手を振って部屋から出ていく魔理沙を見送ってから、秋兎はもぞもぞと布団の中で体制を変えた。

 

(・・・あの二人――いや、チルノだったか?・・・今度会ったら、少し怒っておこう)

 

 お前が勘違いしたせいで、自分が風邪をひいて説教される羽目になったんだぞ、と。

そうやって考えているうちに、だんだんと瞼が重くなっていく。

 

☆  ☆  ☆

 

 水の音が聞こえて、目が覚めた。

何かを絞っている音だ。

足音も聞こえてきた。・・・こちらに近づいている。

ひたいに、冷たいなにか――タオルだろう、それが置かれる。

冷たさに小さく声を上げてしまった。

 

「・・・起きたかしら?」

 

聞き覚えのある声が近くで聞こえた。

魔理沙ではない。魔理沙はとうに家に帰っているだろう。

目を開けて、その声の主を探す。

 

「咲夜さん」

「なに?」

 

あきれたような表情をして咲夜がそこにいて、秋兎は苦笑した。

ついに説教を聞く時が来てしまったのかと。

 

「どうしてここに?」

「魔理沙に様子を見るようお願いしたのだけれど、まあ居なくなると思ったからよ。大丈夫、今日の仕事はあらかた片づけたから」

「そうですか・・・」

「どこかの誰かさんのおかげで少し早く仕事を終わらせることになってしまったわ」

「すいません」

 

頭を下げることはできないので、言葉だけ謝る。

咲夜は「別にいいわよ」といった。

 

「それで、昨日はびっくりしたわ。部屋に入ったらあなたがベッドに倒れてるのだもの」

「ああ・・・今朝のタオルはあなたが」

「ええ。熱が出てたみたいだから、自分で気づいて休むなりするだろうと思っていたのだけど」

 

そこで、はあとため息がつかれる。

仕事をするとは、到底思わなかったのだろう、だから咲夜は呆れていたのだ。

 

「・・・自分がここに住んでいるのは、咲夜さんに恩を返すためですし・・・その、」

「私の行いに対して、恩義を感じる必要はないわ。目覚めが悪くなるから、ここに運んだだけだもの」

「そうだとしてもです。助けていただいたのには変わりないですし」

「・・・そう。・・・私に恩を返したいのなら、無理はしないことね」

「わかりました。咲夜さんが心配してくださったようですし、早く治して仕事に戻れるようにします、ね・・・」

「そうするといいわ。それじゃあ―――あら、」

 

 秋兎が目を閉じ、寝息を立てていた。

言葉を続けようとしていた咲夜は口を閉ざし、桶を持って部屋を出た。

 

「おやすみなさい、秋兎」

 

その言葉を残して。

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