秋兎side
数日経って、ようやく熱が下がって、図書館に顔を出した。
頭がすっきりして、ようやくまともに仕事ができそうだ。
自分がいない間に魔理沙が再び犯行に及んでいたらどうしてやろうか、なんてことを考えながら、図書館の中にいるはずのパチュリーを探す。
しかし、いない。
・・・え、なんでいないんだ。
ひたいをつついて、さっそく仕事に戻れるようになれたのにと落胆する。
「・・・ん?」
視界の端に揺れる金の髪を見つけた。
・・・はて、この館に金髪なんていただろうか。
近づくと、その正体は少女だった。
少女が、こんなところに何の用だ?
「・・・どうしたんだ?」
「あなた、だあれ?」
か細く、そう問われる。
「神居秋兎だ。君は?」
「フラン。フランドールよ。」
確かに、彼女はそう答えた。
「フランドールか」とうなずいて、自分は少し内容を変えて、もう一度質問した。
「どうしてここに?」
「・・・お兄ちゃんを、探しに来たの」
紅い目がこちらを見つめる。
その目を見つめ返して、聞き返した。
「お兄ちゃん、を?」
「ええ」
(こんな小さい子がわざわざここまで探しに来たのか)
よっぽどできた兄なのだろうと思いながら、考えるしぐさをする。
しかしまあ、この紅魔館で男を見た覚えはあまりないので、手伝いようもないのだけれど。
人里に行ったこともあるのだが、あんな多くの人の中で特定の人を探すだなんて無理難題だ。
「お姉さまに言っても、全然探してくれないの」
(・・・ん?)
今、なんて言っていた?
お姉さま?
兄と一緒に姉がいるのか?
それで、なんでここまで探しに来た?
「どうしてトキトはそんな格好をしているの?」
「えっと・・・紅魔館・・・ここで働いてて・・・」
「そうなの?」
きょとんとした様子で、フランドールは聞き返してきた。
自分はうなずいて返す。
「じゃあ、あなたはお姉さまの物なのね」
(・・・・・・まじか)
まさか、会いたいとこぼして、つい怒られてしまった件の『妹様』に会ってしまった、なんて。
☆ ☆ ☆
硬直していたら、いつのまにかフランドール――妹様の部屋に来てしまっていた。
・・・あれ、おかしいぞ?
「ねえねえトキト!あなたのお話を聞かせて?あなたのお話!あなたは今までどんな生活を送っていたの?」
「自分の話、ですか?」
「ええ!・・・いや?」
「いやといいますか、なぜ自分の話を・・・?」
「だって、ここにずっといるのは暇なのだもの」
やれやれと、とため息をついた。
してあげるような話もあまりないのだが、まあ、何かを話してあげても問題ないのかもしれない。
自分のことをすべて話す必要などないのだ。
「・・・自分、は・・・」
そう切り出して、次にどう繋げるか、一瞬迷った。
ああ、そういえば、話す内容は『自分がどんな生活を送っていたか』だったな。
「・・・『普通の』人間です。こことは違う世界にある、学校の生徒で、少し不真面目な奴でした」
普通の、を強調して、まず自分の説明からはいる。
簡単にだけれども。
首を傾げた妹様が、身を乗り出して質問してきた。
「そうなの?あなた真面目そうなのに」
「本当に真面目なのは自分の友人ですよ。琴羽って言うやつ。・・・そいつも含めて、三人の知り合いがいました」
琴羽、すまん、名前を出して。
心の中でそう謝りながら、話を続ける。
「・・・彼らには、その世界には『存在するはずのない不思議な力』がありまして。そのことで昔、皆いろいろあったみたいで」
―――アイツには音、琴羽には風、もう一人には天気。
特異な能力が備わっている・・・こんなの、いらないなんて言うけれど。
「学校をサボるんです。学校には行くんですけど、いつも屋上でゲームしてばかりで」
「おさぼりはいけないって咲夜が言ってたよ」
「ええ。いけないんですよ?だから自分らは、先生に追いかけまわされてたんですよ。『この問題児ども!』って感じで」
肩をすくめて、先生の口調を真似して言う。
あの先生は怒りやすくて、ちょっと固すぎるところがなければ普通に慕われるいい先生だと思うのだけれど。
「戻りたい?」
「え?」
妹様の質問に、つい聞き返してしまった。
何を言った?
「その世界に、帰りたいと思うの?」
「いえ」
即答した。
帰りたいとも思わない。
ここで雇って、暮らせるだけで十分なのだ。これで満足なんだ。
また元の世界に戻って、だらだらと無意味に過ごすのはもう飽きた。
「・・・ここで、ゆっくりと働きながら暮らしていたいですよ、自分は」
「そう・・・なら、よかった!」
「?なぜ、よかったと・・・」
「え?だって、咲夜が楽しそうなんだもの」
咲夜さんが?
つい首をかしげてしまった。
なんで、自分がここで暮らしていきたいと思うことと、咲夜さんが関係あるのだろう。
「詳しくは教えないわ。知りたかったら自分で咲夜に聞くことね♪」
「は、はあ・・・」
「じゃあ、トキト、私は寝るわね」
「はい。おやすみなさい」
ベッドで横になった妹様が、やがてゆっくりと眠り始める。
それを見た後、自分は部屋の外へ出た。
ふうと一息ついた後、自室へ向かおうとすると、そこで咲夜さんと出会う。
「・・・大丈夫だったようね」
「ええ。こちらの話に興味津々でしたよ」
そう言って笑えば、咲夜さんはうなずいた。
「そう・・・。あなたも早く休みなさい。明日も仕事があるわよ」
「はい、じゃあ失礼します」
ぺこりと頭をさげて、その場を離れる。
なにか咲夜さんがつぶやいていたような気もするけれど――聞こうとは思わなかった。