幻想妖美伝   作:Lan9393

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三十二話:青年を取り巻く環境は

秋兎 side

 

 いつも通り、図書館で仕事をしていた。

本を運んで、パチュリーの手伝いをして・・・ていうだけの簡単な仕事。

最近は来客が増えたと思う。

 魔理沙や琴羽が訪れるし、この間出会った妹様も来る。

そしてその妹様や自分の様子を見に咲夜さんも来るのだ。

・・・さすがに、レミリア様は来そうにないけれど。

 

「・・・はぁ」

 

深くため息をつく。

意外にも知り合いだった魔理沙と妹様が二人して本を読んでいたのだ。

ひたいに手を当て、自分は呆れて物も言えない、と言わんばかりに、再びため息をついた。

 

「おいおいどうした秋兎?そんなため息ついて」

「誰のせいだろうな」

 

苦笑した魔理沙が自分のほうを見上げて問いかけてきた。

呆れ気味に自分は返す。と、

 

「?誰のせいだ?」

「お前のせいだな」

 

とぼける魔理沙に、ただうなずいて言ってやる。

面白くなさそうな魔理沙が唇をとんがらせて、「なんだよケチだな」なんてつぶやく。

それを黙って流し自分は自分の仕事に戻る。

通りかかりに、自分が魔理沙のほうを向いて、

 

「そうだ。元あった場所に戻せよ、魔理沙」

 

そう言った。

あっちこっちにやられると、どこに行ったかわからなくなる書物も出てきてしまう。

それだけは勘弁してほしい。ここの整理も自分の仕事の一つでもあるのだから。

 

「なぁ、それ、私だけかよ?」

 

自分の注意に対して、魔理沙は隣を向いて笑った。

たしかに、同じように妹様も本を読んでいる。

だけれど魔理沙とは違って、妹様は、

 

「・・・妹様もだぞ」

「は~い!」

 

こういった風にだ言ったら素直に言うことを聞いてくれる。

安堵した自分は、ちょうど手に持っていた本を読み終わったのかパタパタと駆けて本を戻しに行ったのだろう、妹様を見やって、魔理沙のほうを一瞥した。

 

「・・・ちぇ、素直な奴」

 

どことなく不満だという感情を隠せない魔理沙に対して、追い打ちをかけるように自分は同じようなことを繰り返し言う。

 

「お前も読み終わったら片せよ」

「わかってるよ。お前もまじめな奴だよなー」

「まじめじゃない。ただ仕事をしてるだけだ」

「はいはい、秋兎はそう言うやつだよ」

 

本を片手で持って読み途中なのか、間のページに指を挟んでいる。

そのままやれやれと嘆息すると、彼女はまた本を読みだした。

 

「トキト!片してきたよ」

「ああ、ありがとうございます」

 

駆けよってきた妹様を見て、自分はつい口元を緩めてしまう。

 と、そこで後ろから肩をたたかれて、そちらのほうを向いた。

そこには咲夜さんがいて。

 

「ちょっといいかしら、秋兎?」

「なんでしょうか?」

 

首をかしげて用件を問えば、咲夜さんは、

 

「これから買い出しに出てもらいたいのだけれど、いいかしら?」

「かまいませんよ。今日は何を?」

「じゃあこれお願い。人里までの移動手段は―――彼女を使うのはどうかしら?」

「・・・彼女、か」

 

咲夜さんの視線の先をたどるとそこには魔理沙がいて。

魔理沙のあのスピードなら、落ちなければ(・・・・・・)、無事に早く戻ってくることが可能だろう。

少しばかり、自分に付き合ってもらおう。

 

「・・・え?」

 

☆  ☆  ☆

 

 彼女の乗る箒に一緒に乗せてもらって、自分は目的地まで向かっていた。

速度があるからか、吹き付ける風がとても気持ちいい。

こうして毎日のようにこんなに気持ちの良い思いをしているのか、と少しうらやましい気持ちになった。

人里まで、走って歩いて、たどり着けない距離ではないけれど、やはり乗り物(魔理沙だったり、早かったりすると特に)は楽だ。疲れない。

 渡されたメモ用紙と小銭をポケットに納めながら、自分は風を感じていた。

 

「――なあ、お前さ」

 

 その沈黙に耐えられなかったのか、魔理沙が口を開いた。

自分は「なんだ?」と聞く。

 

「あそこで働いてて、楽しいか?」

 

そんな魔理沙の質問に対して、自分は特に声音も表情も変えず、ただ返答した。

 

「まあな。・・・お前のほうこそ、琴羽と一緒にいて楽しいのか?」

 

返答と一緒に、ついでに質問をしてみる。

その質問の意図がわからないのか、魔理沙はこちらを向いて首を傾げた。

 

「?楽しいけど」

「そうか、ならよかった」

 

自分がため息交じりに「よかった」というと、

 

「・・・?変な奴」

 

それだけ、返された。

 変な奴でも構わない。少しだけ、自覚しているから。

友人が嫌われてないと知れただけで、自分にとっては得な情報を知れたろう。

今は、それだけで満足しておくことにしよう。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

side out

 

 焦げ茶の髪が風で揺れる。

一人分しか人の影が見当たらない、その学校の屋上で、彼は座っていた。

一人で、だ。

 屋上に訪れる人は珍しく、彼もまた、訪れる人の一人だったのだが、今は一人だ。

 この一年間で彼の知人は―—いや、彼の知人たちは姿を消した。

学校中は大騒ぎになったのだけれど、すぐに騒ぎは収まった。

 我が学校の生徒指導の先生の一喝。鶴の一声ほど優しくはないそれだ。

 

(あの先生もいい先生なんだけどな・・・あんまりあの三人は好きじゃないみたいなんだよね・・・)

 

 屋上の手すりに背を預け、目を腕で覆った。

まだ日は高いのだが、今の季節は冬。屋外はやはり寒い。

白い息を吐きながら若干のびたセーターの裾で手を隠し、ズボンのポケットの中に突っ込んだ。

もう一人でも人がいれば、トランプやカードゲームやらで暇のつぶし甲斐があったろう。

でも仕方がない。自分は人とそういう関係を築くのが苦手なのだ、と苦笑した。

 

(・・・さて、そろそろ最終下校時間だ。家に帰らないと)

 

友人の一人がもたれかかり、外れてしまった手すりは今ではもう直っている。

彼が重いわけではないのにこの手すりは外れてしまったのだろう?そんなことを思いながら、彼はその場を離れた。

 

 自分の家の扉に手をかけて、重苦しいため息をつく。

押し開こうとした瞬間、「あらあら」と背後から声がした。

 

「私の息子じゃない。遅かったわね?」

「ああ・・・母さん。ただいま」

 

厚化粧をした自らの母に笑いかけ、彼は扉から手を離して、一歩後ろへ下がった。

ツカツカと歩いてきた母は彼と同じように笑い、彼の代わりに扉を開きながら、彼に言葉を返した。

 

「ええ、お帰りなさい。最近はゆっくりと帰っているみたいだけれど、勉強は大丈夫なのかしら」

「大丈夫。今度のテストは、前の点数をキープできると思うよ」

「あなたも大学に行くのだから、頑張って頂戴」

「・・・うん」

 

一拍おいてうなずき、母は満足したように一層笑みを深めて中へ入っていった。

その様をぼうっと見つめ、再び、ため息をついた。

 

「大変そうね」

 

別の女性の声がかかった。

 

 彼の友人は皆、今年の内に姿を消した。

春には彼らの中心核であった青年が。夏には皆と一緒に笑っていた気弱な青年が。秋にはあまりここではしゃべらなかったおとなしい青年が。

なら、冬には?

 

「さて、そろそろ行きたいでしょう?」

「待ちわびましたよ。あの時の女性ですよね?」

「・・・・・・そうね、行きましょうか、天寺詩季」

 

彼は自分の名前を呼ばれて、笑みを浮かべた。




というわけで、秋兎編はこれにて終了です。
一応この子のヒロインは咲夜さんのはずなのですが・・・あれ?
あと、秋兎の場合はあまりネタがなく、文字数も少なめになってしまいました。反省しなければ・・・。

次のお話は、最後の一人、詩季のお話し。
彼は幻想郷にきて何に巻き込まれてしまうのか?!

それでは、次話をお楽しみに!
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