序章もそろそろ終盤、どうなっていくのでしょうか・・・?
ザァアア、と雨が降り続く。
憂鬱な気分になるとよく振る雨は、木の幹に寄り掛かって座る彼の体を濡らす。
偶然が重なってそうなるのではない。それは、彼自身の体質―――ほかの人にはない、特別な力が備わっているからだった。
それが彼を不幸な目に遭わせるのだが、まあそれは今はいいだろう。
そんな時、目の前に傘が現れた。というよりかは、誰かの手によって渡されたというべきか。
彼はその傘を受け取りながら、「どうも」と返した。
誰かの建物が視界に入る。・・・あれは誰の家だろうか。そんなことを考えていると、傘を差しだした女性がくすくすと笑みをこぼした。
「すごく寂しそうね」
「・・・実際、心細いですよ」
「安心しなさい、貴方のことを頼んだ人はすぐに現れる」
「そうなんですか?」
「ええ。だから、不安に思うことはないわ。きっと、上手くいく」
「・・・だと、いいのですけれど」
気が付けばその人はどこかへいなくなっていた。
嘆息して、傘を抱きしめる。
その傘を縛るベルトを外して、開こうとは思わなかった。
彼は枯葉を少しつけた木を見上げて、そしてうつむいた。
「―――風邪、ひくわよ」
先ほどの女性の声とは違う声が降ってきた。
うつむいていても靴が見えた。近くに、誰かが立っているのだ。
「・・・?」
「不思議そうな顔しないで。なんで傘を持ってるのにささないの?」
「・・・雨に、打たれたかったから」
「変な人。家の前にずっといられても気になっちゃうから、家の中に入りなさい。代わりの服とか、タオルとかなら出してあげられるわ」
「あぁ、ありがとうございます」
声をかけてきた女性の顔を見る。
金髪碧眼の美少女、といった風か。どこか大人びた印象を受けた。
長いスカートで足は隠され、青が基調となったその服装がとてもよく似合っている。
(――なんだか・・・人形みたいだ)
見とれる彼を知ってか知らずか、現れた彼女は「早く入って」と急かした。
その言葉に従い、彼は彼女の家へと上がっていく。
☆ ☆ ☆
「それで、貴方の名前は?」
替えの服を用意してもらって、それに袖を通した後近くの椅子に座らせてもらうと、彼女にそう問われた。
「・・・天宮詩季」
少しぶっきらぼうに返してしまったが、彼女は気にしていないようで、「そう」とうなずいた。
彼女の目を見上げ、「貴女は」と問いかけた。
「私はアリス・マーガトロイド。アリスって呼んでくれていいわ」
「えっと、アリス・・・その、」
なんでここに入れたのか。
どうしてそんなに準備が良かったのか。
なんで怪しまなかったのか――――。
どれから質問しようかと悩んでいると、アリスが口を開いた。
「貴方のことについては、八雲紫から聞いてる。ここで暮らすのよね?」
「あ、ああ。そうなるのかな・・・?」
あの女性―――おそらく、八雲紫だろう、彼女が言っていた人とは彼女のことだろうか。
「まあ、行く当てはないでしょうから、うちで預かるのはかまわないのよ」
「・・・ありがとう」
「いいわ、別に。放っておけないからだから」
「そっか・・・」
彼女はクスリとも笑わず、そう言った。
(・・・彼女と暮らしていけるんだろうか?)
そんなことを思っていると、「詩季」と声がかかった。
詩季がアリスのほうを見やると、アリスが部屋の外に出ようと、手招きしていた。
「貴方の部屋まで案内するわ」
「余分な部屋、あるの?ソファでも何でもよかったのに」
詩季は不思議そうにそう言った。
ソファでも構わないなんて言われて、アリスは呆れたようにため息をついた。
「それはだめでしょう・・・。とにかく、その部屋には暮らす上で必要な家具はそろってるから、安心して」
「あ、ありがとう」
「お礼なんていいのよ」
「・・・」
そう言われてしまって、つい口をつぐんでしまう詩季の真横を、何かが通り抜けていった。
「!?」
咄嗟にそちらのほうを向くと、そこにはかわいらしい西洋の人形が
詩季は目を丸くした。
はて、これはいったいなんだろう、と。
「ああ、ごめんなさい。この子は上海、私の人形よ」
「人形・・・?そういえば、さっき棚にすごい量の人形があったような・・・」
「私、人形遣いだもの」
「そうだったんだ・・・。すごいね」
「・・・そうでもないわ」
上海を抱え、そっぽを向くアリスは、どこか恥ずかし気に見えた。
詩季は首を傾げながら、「部屋はどこらへんかな?」と問いかける。
「っ、あ、そうね。・・・そこの部屋はどうかしら?」
部屋の扉を開けて、中を見せてくれた。
その中は質素で、不必要なものはなさそうに見受けられた。
あまり使わない部屋なのだろう、特に不自由なく過ごせそうだ。
「ん。大丈夫」
「何か不備があったら言ってちょうだい、なんとかするわ」
「うん、ありがとう」
そうお礼を言うと、アリスは嘆息して、「じゃあ」と口を開いた。
「私、夕食の支度してくるわ。できたら呼ぶから」
うなずいて返すと、彼女はそのまま部屋を出ていった。
それを黙って見送ると、扉を閉める。
いまだに実感がわかない。
本当に自分は自由になれたのだろうか。平和なところにこれたのだろうか。
(決して変わることのない平和)
・・・なんて、要求してはみたけれど、本当にそれは手に入るのだろうか。
彼女は、どうしてここに置いていったのか。
そんなことを考えて、近くにあった椅子に腰かけた。
ここはあんな世界とは違う世界なんだ。
詩季は、唇をかみしめた。