幻想妖美伝   作:Lan9393

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とうとう詩季編、始まります。
序章もそろそろ終盤、どうなっていくのでしょうか・・・?


三十三話:冬の雨に打たれながら

 

 ザァアア、と雨が降り続く。

憂鬱な気分になるとよく振る雨は、木の幹に寄り掛かって座る彼の体を濡らす。

偶然が重なってそうなるのではない。それは、彼自身の体質―――ほかの人にはない、特別な力が備わっているからだった。

それが彼を不幸な目に遭わせるのだが、まあそれは今はいいだろう。

 そんな時、目の前に傘が現れた。というよりかは、誰かの手によって渡されたというべきか。

彼はその傘を受け取りながら、「どうも」と返した。

誰かの建物が視界に入る。・・・あれは誰の家だろうか。そんなことを考えていると、傘を差しだした女性がくすくすと笑みをこぼした。

 

「すごく寂しそうね」

「・・・実際、心細いですよ」

「安心しなさい、貴方のことを頼んだ人はすぐに現れる」

「そうなんですか?」

「ええ。だから、不安に思うことはないわ。きっと、上手くいく」

「・・・だと、いいのですけれど」

 

気が付けばその人はどこかへいなくなっていた。

嘆息して、傘を抱きしめる。

その傘を縛るベルトを外して、開こうとは思わなかった。

彼は枯葉を少しつけた木を見上げて、そしてうつむいた。

 

「―――風邪、ひくわよ」

 

先ほどの女性の声とは違う声が降ってきた。

うつむいていても靴が見えた。近くに、誰かが立っているのだ。

 

「・・・?」

「不思議そうな顔しないで。なんで傘を持ってるのにささないの?」

「・・・雨に、打たれたかったから」

「変な人。家の前にずっといられても気になっちゃうから、家の中に入りなさい。代わりの服とか、タオルとかなら出してあげられるわ」

「あぁ、ありがとうございます」

 

声をかけてきた女性の顔を見る。

金髪碧眼の美少女、といった風か。どこか大人びた印象を受けた。

長いスカートで足は隠され、青が基調となったその服装がとてもよく似合っている。

 

(――なんだか・・・人形みたいだ)

 

見とれる彼を知ってか知らずか、現れた彼女は「早く入って」と急かした。

その言葉に従い、彼は彼女の家へと上がっていく。

 

☆  ☆  ☆

 

「それで、貴方の名前は?」

 

 替えの服を用意してもらって、それに袖を通した後近くの椅子に座らせてもらうと、彼女にそう問われた。

 

「・・・天宮詩季」

 

少しぶっきらぼうに返してしまったが、彼女は気にしていないようで、「そう」とうなずいた。

彼女の目を見上げ、「貴女は」と問いかけた。

 

「私はアリス・マーガトロイド。アリスって呼んでくれていいわ」

「えっと、アリス・・・その、」

 

なんでここに入れたのか。

どうしてそんなに準備が良かったのか。

なんで怪しまなかったのか――――。

どれから質問しようかと悩んでいると、アリスが口を開いた。

 

「貴方のことについては、八雲紫から聞いてる。ここで暮らすのよね?」

「あ、ああ。そうなるのかな・・・?」

 

あの女性―――おそらく、八雲紫だろう、彼女が言っていた人とは彼女のことだろうか。

 

「まあ、行く当てはないでしょうから、うちで預かるのはかまわないのよ」

「・・・ありがとう」

「いいわ、別に。放っておけないからだから」

「そっか・・・」

 

彼女はクスリとも笑わず、そう言った。

 

(・・・彼女と暮らしていけるんだろうか?)

 

そんなことを思っていると、「詩季」と声がかかった。

詩季がアリスのほうを見やると、アリスが部屋の外に出ようと、手招きしていた。

 

「貴方の部屋まで案内するわ」

「余分な部屋、あるの?ソファでも何でもよかったのに」

 

詩季は不思議そうにそう言った。

ソファでも構わないなんて言われて、アリスは呆れたようにため息をついた。

 

「それはだめでしょう・・・。とにかく、その部屋には暮らす上で必要な家具はそろってるから、安心して」

「あ、ありがとう」

「お礼なんていいのよ」

「・・・」

 

そう言われてしまって、つい口をつぐんでしまう詩季の真横を、何かが通り抜けていった。

 

「!?」

 

咄嗟にそちらのほうを向くと、そこにはかわいらしい西洋の人形が浮いていた(・・・・・)

詩季は目を丸くした。

はて、これはいったいなんだろう、と。

 

「ああ、ごめんなさい。この子は上海、私の人形よ」

「人形・・・?そういえば、さっき棚にすごい量の人形があったような・・・」

「私、人形遣いだもの」

「そうだったんだ・・・。すごいね」

「・・・そうでもないわ」

 

上海を抱え、そっぽを向くアリスは、どこか恥ずかし気に見えた。

詩季は首を傾げながら、「部屋はどこらへんかな?」と問いかける。

 

「っ、あ、そうね。・・・そこの部屋はどうかしら?」

 

部屋の扉を開けて、中を見せてくれた。

その中は質素で、不必要なものはなさそうに見受けられた。

あまり使わない部屋なのだろう、特に不自由なく過ごせそうだ。

 

「ん。大丈夫」

「何か不備があったら言ってちょうだい、なんとかするわ」

「うん、ありがとう」

 

そうお礼を言うと、アリスは嘆息して、「じゃあ」と口を開いた。

 

「私、夕食の支度してくるわ。できたら呼ぶから」

 

うなずいて返すと、彼女はそのまま部屋を出ていった。

 それを黙って見送ると、扉を閉める。

いまだに実感がわかない。

本当に自分は自由になれたのだろうか。平和なところにこれたのだろうか。

 

(決して変わることのない平和)

 

・・・なんて、要求してはみたけれど、本当にそれは手に入るのだろうか。

彼女は、どうしてここに置いていったのか。

そんなことを考えて、近くにあった椅子に腰かけた。

 

 

 ここはあんな世界とは違う世界なんだ。

 

 あの人がいないだなんて言いやがる(・・・・・・・・・・・・・・・・)あんな世界とは違うんだ。

 

詩季は、唇をかみしめた。

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