幻想妖美伝   作:Lan9393

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三十四話:森に降る雨はやがて

 突然降りだした雨は未だあがらない。

窓の外を見ながら、アリスは眉を寄せた。

この雨はいつまで降りつつくのだろう?

先ほど、詩季を拾いに行ったころよりかは弱く降っている。

どうしたものか、このままだと洗濯物を室内で干さなきゃいけなくなってしまうではないか。

アリスがため息をついたのを、詩季は見逃さなかった。

 ついさっきまで食事を食べていた彼は、台所に皿を置いてアリスのほうを見ていた。

 

「・・・雨、やまないね」

「そうね。まあ、弱い雨は別に嫌いじゃないし――――どうしたの?」

 

椅子に再び腰かけながら、ぽけっとする詩季を見て、アリスは問いかけた。

 

「いや、雨が上がったほうがいいのかなって」

「?洗濯物は乾くし、いいと思うけれど」

 

そうアリスが言うと、詩季が窓の外を見やる。

どこか困ったように笑ってから、アリスのほうを向く。

 

「・・・そっか。大丈夫だよ、この雨はすぐに止むさ」

「?」

 

彼がそのような発言をするものだから、アリスはびっくりしたように目を丸くして、窓の外を見て笑う詩季を見やった。

 

 雨音が遠のく。

 やがて、窓に薄く光が差し込んだ。

 

その光景を目の当たりにして、アリスはつい詩季と窓の外を交互に見た。

詩季は肩をすくめて、「どう?」と問いかける。

 

「これで、大丈夫そう?」

「え・・・、ええ、大丈夫だけど、」

「ん?どうかした?」

「・・・どういう仕組み?予言か何か?」

 

言いよどんでから、そう質問をする。

詩季がきょとんとして、考え込むようなしぐさをする。

 

「・・・ちょっと、違う。・・・いや、だいぶ・・・?」

「・・・」

 

どっちだ、と言いたげなアリスの目と合わせられないのか、詩季は明後日の方向を向いて口を開いた。

 

「ついさっきのは俺が天気を変えたんだよ。なんでか、は説明できないけど・・・昔からそうなんだ」

「へぇ、そうなの」

 

あまり興味のなさそうに相槌を打たれて、詩季は苦笑した。

 

「笑える話だよね」

「ま、そうね。・・・貴方を迎えに行くとき、雨が降ったのはなぜ?雨にうたれたかったから?」

「・・・それもあるけれど、俺の感情に左右されるから、かな?・・・天気がさ」

 

窓の外を指さして、詩季はそう言う。

眉を寄せたアリスが、彼の言葉をもう一度つぶやく、

 

「?あなたの感情に・・・?」

「そう。悲しかったら雨が降って、怒ると雷が鳴って、色々だよ。・・・まったく、迷惑な奴さ」

「そうかしら」

 

嘆息する。

自虐的になった彼が見ていられなくなったとかそう言うわけではない。

ただ、思ったことを伝えようと思って――――。

言い訳に近いことを考えながら、アリスが続ける。

 

「わかりやすくっていいじゃない。悲しいのか、怒ってるのか、すぐわかるわね」

「・・・うん」

 

ぽかんと口を開けて、詩季は彼女が言ったことを聞いていた。

まさか、そう解釈されるとは思っても見なかった、と言わんばかりに。

その後複雑そうに顔をゆがませると、それを見ていたかアリスが「詩季?」と声をかけてきた。

 

「あ、いや、なんでもない。・・・なんか、ありがとう」

「いいのよ」

 

手を振って、気にしないでいいと伝えると、アリスは黙ってしまった。

アリスは詩季の使った皿を軽く水で流し、洗い始める。

 

(不思議な力を持ってる人もいるのね・・・。ん?彼ってそんな能力持っていたかしら―――?)

 

洗いものを片付けながら、先日も訪問してきた男を思い浮かべる。

そんな彼女に、再び詩季が声をかけた。

今さっき何かを思い出したかのように、「そういえば」と声を上げて。

 

「俺の友人が、夏とか秋とかにこの世界に来たと思うんだけど・・・わかる?その、えと、」

 

具体的な容姿の説明を始めようとしたのか、詩季がせわしく手を動かすものの、上手く言葉が出てこないようで困り果てていた。

彼の言葉をさえぎって、アリスが彼のほうを見やりながら、

 

「貴方の友人?・・・私が最近会った外から来た男の子なら知ってるけど」

「本当?!」

 

表情を明るくした彼に、「ええ」とうなずく。

 

「確か名前は琴羽といったはずだわ」

「そいつだ!」

 

嬉しそうに声を上げる彼を見て、アリスは少し微笑んだ。

右も左もわからない世界で、まだ初日だ。

不安に思うのもなんとなくわかった。

 

(・・・ま、こんだけ喜んでるのだし、教えてよかったわよね)

 

濡れた手を近くのタオルで拭きとる。

片づけを済ませて、詩季に言い忘れていたことを告げる。

 

「彼なら、そのうちここへ来るわよ」

「そうなの?」

「ええ。彼と、彼の住んでいる家の人は良く来るから」

「そっか」

 

 

 先ほどの雨が嘘だとでもいうような晴天。

そんな青い空を飛ぶ小鳥がちゅん、と鳴いたのが聞こえた。

頬杖をついてそれを眺める彼の顔は薄く笑んでいた。

―――彼の笑顔を見て、悪くないと思うのはなぜだろうか。

 

 

 

 

――—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「雨、上がりましたね」

「通り雨だったのか?ま、気にすることはないだろ!・・・琴羽?」

 

読んでいた本から顔を上げて、窓の外を見やった琴羽。

魔理沙は琴羽の言葉に反応してから、彼の様子が少しばかりおかしいことに気づく。

 

「・・・詩季くん?」

「?誰だ、そいつ」

 

首をかしげる魔理沙に、琴羽は苦笑して返す。

 

「いえ、こっちの話です。・・・あ、魔理沙さん、虹が」

「おおっ、どこだ?」

 

視界の端に入ったそれを指さすと、魔理沙が琴羽に近づいてその指の指し示す方向に視線をやる。

それでも探しているようだったので、琴羽はもうちょっとわかりやすいように少し体を引いて同じほうを指す。

 

「あそこです」

「あー、虹だなぁ」

 

七色の橋が緑の木の上にかかる。

それはやがてうっすらと消えていく。

 

「・・・また近いうちにアリスのとこ行くか!」

「え?あ、はい。わかりました」

 

なぜ急にそんなことを言いだしたのかわからないまま、また弾幕ごっこを始めるであろう二人のためにお菓子を作ろうと考える琴羽だった。

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