幻想妖美伝   作:Lan9393

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四話:現れたのは黒羽の男

 俺は、いつものように口を真一文字に閉ざし、縁側でゆっくりしていた。

それだけ。

境内を眺め、掃除する霊夢を見やる。

喉を震わせて声を出せなくても、彼女も、霧雨も何も言わなかった(後者は声について突っ込むこともなかった。気づいていないのか?)。

この世界は、どうしてこうも過ごしやすいのか・・・俺が思考していると、霊夢の声が響いた。

 

「緋乃!来なさい!」

『なんだなんだ、なにがあった?』

 

霊夢の声がした方向へ行く。

すると、境内に倒れ伏す黒い格好の男性を視認する。

マントのようなものだろうか?それを羽織り、詰襟の黒い服を身にまとった男性。

顔色が悪い。

それらを確認すると、俺は少し顔をしかめて見せた。

 

「こいつ・・・外から来たみたいなの。ただ、人じゃない―――とりあえず、中に入れて。『紫』と話してくる!」

『え?え?あ、ああ、わかった!』

 

俺は霊夢が抱えてきた長身の男性を引きずって中へと入れた。

なんでそんな焦ってるんだか・・・。俺にはよくわからないけど、言われたとおりに動く

布団を敷き、そこに寝かす。

荒い息の彼は、何やら少しの声量でつぶやいているようだが、聞こえない。

なので、音を拾うことにする。

 

「コロス・・・!」

 

拾おうとした瞬間、彼がぐわっと目を開き、俺の首元をつかんでいつの間にやら持っていた斧の刃をその首に突き付けてきた。

俺は絶句するも、落ち着いて彼に声を聴かせる。

 

『俺を殺すのか?』

「・・・違う、彼女たちじゃない・・・すまない、忘れろ」

『ああ、そうする』

 

目元をごつい手で覆った彼は、はあと息を吐いて、布団に倒れこんだ。

今気づく。

その背中には、彼の背丈ほどある大きく黒い羽があったのだ。

 

 

『・・・天使か?』

「天使じゃねえさ、俺は。・・・お前らから見たら、どれも同じか」

『輪っかは無いのか?』

「あってほしかったか?」

 

皮肉を言うような顔をして、彼は苦しそうな息を吐きながら言葉を紡ぐ。

俺はいや、と声を作って聞かせ、彼に問う。

 

『体は大丈夫なのか?』

「まあな。結界を一回壊してきたから、力を使いすぎただけだ」

『結界・・・?』

「この幻想郷には、『博麗大結界』って言うのがあるんだよ・・・博麗の巫女の力でその結界を維持するんだが・・・謝りに来たらこのざまだ」

 

博麗の巫女の力で、その結界を維持する?

それが大事なものだから、霊夢は焦っていたのか?

いや、そうじゃないとしたら、なんでだ?

 

 そもそも、博麗大結界とは?

 

『・・・でも、俺らが来た時にはそんなもの―――』

「だって、あんた紫に連れてこさせられたんだもの」

 

彼と話をしていた時、霊夢の声が聞こえてきた。

部屋の入り口で呆れたように彼を見下ろす霊夢。

俺は今までの話を聞いていたのかと問う。

 

「まあね。それで?あんたは誰なの?結界に穴をあけられたんですもの、ただの人間じゃないでしょ」

 

人間じゃないって判断基準は結界を壊して入ってこれたかなんでしょうか、俺にはわかりません。

霊夢に問われた男は、「やれやれ」とつぶやいて、返事を返す。

 

「ヴェルディ・シャルフリヒター。堕天使だ。・・・博麗霊夢と、お前は誰だ?『閉口の狩人』」

『・・・篠崎緋乃さ。そこまで仰々しい仇名をつけるなよ、照れるだろ?』

「それくらいで照れるか」

『うっせえ』

 

俺は口元がついひくひくと動くのを口元を覆うことで隠す。

ヴェルディとやらはなにやらニヤニヤしており、霊夢が口を開くのを見ると、すぐに真剣そうな顔をする。

 

「・・・あんた、謝罪するだけ?」

「ま、あんたはわかるよな。俺は仇をとりに来たんだ」

「誰?」

スカーレット姉妹(吸血鬼ども)だ」

「・・・レミリアたちね」

 

まだまだ俺が知らない連中がいるようで、俺はなんだかワクワクしてくるが―――二人の表情は、そんなことが言えるようなものじゃなかった。

一触即発の雰囲気ではないものの、片や殺気や恨みなどが目に見えるし、片やめんどくさそうにするし。

俺は黙ってその二人を見やる。

 

「教えてあげてもいい。ただ、私は関与していない。いいわね?」

 

霊夢の言っていることがわからない。

 

「ああ、わかっている。お前が教えたということは俺は忘れよう。その代りに―――ほら、金」

「わかってるわね、さすが天使。その純粋そうな肩書とは真逆の黒い腹を見せてくれてありがとう」

「・・・悪魔のほうが、まだ純粋なのがすごいよな」

「ふふ・・・まあ、そうなのかもね」

 

俺は二人の言っていることがわからない。

霊夢がわいろを渡されるのはまあわかる。

天使が黒い?悪魔が純粋?

何を言っているんだろう?

 

「まあいいわ、こいつが困っているようだし」

「そうか、すまない」

『いや、大丈夫だ・・・だけれど、ヴェルディ』

「ん?」

『おまえ、その体の状態で吸血鬼?に戦いを挑むのか?』

「だめか?」

 

ヴェルディは俺を見て首を傾げた。

いやいや、そんなきょとんとするなよ、おかしいだろ。

 

『吸血鬼、かたき討ち・・・やっぱ強いんだろ?万全の態勢で臨まないとダメじゃないか。って言うかレミリアってだれだ?』

 

俺は一人ごとのように声を作ってから、霊夢に向けて声を聴かせてやる。

すると、霊夢は「ああ」といって、教えてくれた。

 

「レミリアって言うのは、最近―――夏に、『異変』を起こした張本人のことよ。異変のことは教えたわね?」

『あ、ああ』

「吸血鬼どもって言うのも、彼女に妹がいるから――だから、よね?」

「ああ」

 

忌々し気に吐き捨てたヴェルディが、そっぽを向いて俺らの会話を聞いていた。

そんな嫌そうにしなくって良いだろ。まあ仇だとは言っていたけれど。

 

「・・・アイツは―――レミリアは俺の最愛の人を殺した。私怨だ。一刻も早く殺さなければ、あいつは報われない」

『・・・』

「はあ・・・緋乃、掃除の続きをお願い。こいつと話して置くわ」

『わかった』

 

俺は、その場から離れる。

境内へ降り、霊夢が手にしていたらしい竹ぼうきを持ち、掃除を始める。

こちらでは、夏が終わった後なのだろうか?

過ごしやすい陽気の中、俺は長袖のパーカーの袖をめくり、本格的に掃除をしようと思い、体を動かした。

 

 黒い羽。あれが堕天使の証なんだろうか。

 私怨しかない彼が、これから博麗神社で休養することになったと知ったとき、俺は少しほっとしたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なあ、なんであいつを神社においておく?」

 

ヴェルディがそう問う。

それに、霊夢はしばらくした後、答えた。

 

「さあ、なんででしょうね」

「気まぐれか?」

 

あいまいな返事に、ヴェルディは少々苛立ちを覚えながらも、霊夢にさらに問い詰める。

 

「ここに置いておくと、私に良いことが起こるらしいわ、素晴らしいわね」

「気まぐれ・・・いや、ただの勘か」

「ええ」

 

肯定して見せた霊夢の顔は、「くだらない」というようで、ヴェルディはどことなく、達観しているように見えた。

だからなのだろうか?

ヴェルディの口が滑る。

 

「・・・勘に任せて動けば、後悔するぞ」

 

真剣な表情。

 

「私を誰だと思ってるわけ?」

「・・・まあ、いいけどな」

 

軽く笑って見せた霊夢に、ヴェルディは肩を落とした。

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