「お前は働かねえのか?」
そう俺に問いかけたのは、現在博麗神社で休んでいる堕天使、ヴェルディ・シャルフリヒター。
よく見たら傷だらけで、右腕が包帯でぐるぐる巻きになった彼は、どこか親友を思い出すような無表情で俺に問うたのだ。
『・・・狩りには行ってた。一回でやめさせられたけどな』
へぇ、と声を漏らしたヴェルディに、なぜか嫌な予感しかせず、俺はついとっさに声を作った。
『まあ、別に、俺はまた怒られるくらいなら神社にいるくらいでいいんだけどな?!』
「そんな遠慮するなよ。俺も体がなまっちまう。狩りなら俺が付き合うぜ?」
『遠慮するぞ。お前は一応けが人なんだからな?』
俺はのんびりと楽な体勢を作った俺は、あきれた声でヴェルディを諭そうとする。
―――失敗に、終わるわけなのだが。
「関係ない。こんなに面白そうなこと・・・もとい、俺に都合のいい事をほっといてたまるか」
『どっちにしてもお前ひどいな』
「褒めるな」
『褒めてねぇ!』
ヴェルディは左手で俺の腕をつかんで飛び上がった。
神社内から障子を突き破って境内へと飛び出る。
掃除中だった霊夢と俺の目が合い、霊夢が口を開け竹ぼうきを取り落した。
楽し気に鼻歌を歌うヴェルディは霊夢に気づいておらず、そのまま山の方向へと飛んでいった。
これは・・・俺もヴェルディも外出禁止を言い渡されるな・・・。
☆ ☆ ☆
「ここは妖怪の山というらしい。天狗たちがいるところらしいが、・・・まあ、気にしないで狩りをしていこう」
『本当に大丈夫か?!霊夢にも見られていたぞ?!』
「俺の単独行動だ、気にするな」
『それに俺を巻き込むな!』
俺は着地したヴェルディに文句を言って、持っていた銃やら罠やらを準備する。
ノリノリじゃないか、と苦笑したヴェルディにうるさいと怒ってやる。
「・・・ふむ。どうだ?」
『ここに罠はしかけた。ほかの場所に行くぞ』
「ああ、了解だ」
ヴェルディに手を引かれ、山の上へと飛び上がった。
刹那、「いったぁあああああああ!!!!」という悲鳴が聞こえてくる。
は?!何事だ?
「・・・お前の罠は、人をひっかけるのか?」
『誤作動だ、たぶん』
「誤作動か・・・見に行こう」
『そうだな・・・』
俺は手を放され、空中に投げ出されるも、疎い枝につかまって降りていく。
と、先ほど設置した罠には白髪の犬耳の少女が引っ掛かっていた。
『・・・わんわん?』
「あなたですか、妖怪の山にこんなものを設置したのは!」
『・・・どうしようヴェルディ、ケモ耳少女って本当にいたんだな・・・!』
「お前、そんな趣味か」
「何をおっしゃっているのかは知りませんけど、早く解放してください~!!」
近くに剣やら盾やらが散乱している。
解放した瞬間、バッサリいかれることはないか・・・?
恐る恐る彼女に問う
『・・・斬らない?』
「今すぐ助けてくだされば斬りません」
『そうか、じゃあ待ってろ』
俺は手際よく罠を解除する。
痛むらしい足を抑える彼女に、すまないと謝って、応急手当てを施した。
「・・・なんでここに罠なんかを?」
『こいつがここに連れてきた。天狗がいるとは聞いたが、食える生き物がいないとは聞いてないので、狩りを行おうとした。罠を設置して様子を見ようとしたらあんたが引っ掛かった。なんで引っかかったんだ?』
「・・・侵入者が来た、と思ったらうっかりして・・・」
「・・・間抜けか」
「言わないでください」
彼女は恥ずかしそうに身を縮こまらせる。
俺は頬を掻きながら頭を下げた。
『すまない・・・』
「いえ、大丈夫です。・・・ところで、自己紹介がまだでしたね」
ほほえみながら彼女は言葉をつづけた。
「私は犬走椛と申します。白狼天狗で、哨戒の真っ最中でした。あなた方は?」
『あーっと、俺は篠崎緋乃。んで、此奴は』
「ヴェルディ・シャルフリヒター」
『・・・だ。まあ、よろしく頼む。ってか、一つ聞いて良いか?』
「はい、なんでしょう?」
自己紹介を済ませ、俺は一つ質問をするべく声を上げる。
先ほどのことを忘れてしまったかのように、彼女は何もなかったような笑顔で首を傾げた。
『白狼天狗ってどんなのだ?天狗って言ったら、なんとなく鴉天狗が真っ先に出てくるんだが』
「鴉天狗より身分が低かったりしますね。ほかの言い方では、木の葉天狗とも呼ばれています・・・たしか!」
『へぇ・・・』
俺は犬走の言ったことを頭にいれ、相槌を打つ。
ヴェルディは周りをきょろきょろしていた。
「そろそろ、妖怪の山から出てください。先輩に見つかると、ちょっとめんどくさいことになりますので」
『ん?・・・そうか。まあ、神社に戻るのも怖いが・・・いいよな、ヴェルディ』
「ああ、そうだな。そろそろ飽きたし」
『・・・テメェ』
「ふふっ。また次に来たら、その時は落ち着いてる時だと思いますので。では!」
犬走は茂みの中に身を投じた。
俺はヴェルディに声をかけて、彼によって神社へと連れ帰ってもらった。
☆ ☆ ☆
「んで、ノコノコ帰ってこられたわけね・・・?」
「いやあれは、俺が悪かったんだ。俺が勝手に連れてった。緋乃は怒るな」
「そんな動きたいなら、弾幕ごっこでもすりゃあいいのに・・・何で山までいってるのかしら・・・?」
「俺の気分」
「・・・」
霊夢の説教を半ば聞き流すヴェルディ。
俺あその様子を見て、ふと疑問を抱く。
―――弾幕ごっことは?
俺には聞きなれない単語だった。
なんでそんなもんを霊夢は進めるのだろう?
考えていると、ヴェルディの顔がこちらを向く。
「おい、緋乃。お前弾幕放てるか?」
『弾幕ってなんだ?銃でも撃てばいいのか?』
二人はがっくりと肩を落とした。
なんだなんだ、俺が何かしたって言うのか?
「弾幕ごっこって言うのは、まあ・・・妖怪と人間が均等に戦えるように私が編み出した、一つの決闘の方法なの。自分の力を弾にして放つ。これだけの話なの」
『だけといってもなぁ・・・』
「空に飛んだ方がいろいろ楽だったりとかはあるけどね」
『それだ!!!!』
「え?」
俺が声を作ると、霊夢はびっくりしたように目を丸くした。
『なんでお前ら飛べるの?!』
「羽」
「能力」
『じゃあなんで霧雨は飛べたんだ?』
全然縁のない単語が返ってきて、俺はがっかりした。
それじゃあ、参考になることすらないじゃねえか。
「あいつは・・・まあ、箒があるし。っていっても、この世界の住民はほとんど飛べて当然よ?」
『理不尽極まりない!』
「だって常識から外れた世界だもの」
そうあっさりと言い捨てられる。
え?!なに?!俺の疑問これで終わり?!
『・・・とりあえず、弾幕を撃つ方法と飛ぶ方法を教えてくれ』
「そうねぇ・・・」
と、霊夢はスッと右手を差し出してくる。
畜生!この手には逆らえねえ!
俺は財布からまた千円を出して彼女の手に乗せた。
「♪・・・わかったわ、教えてあげる。まあ、感覚的なのしか教えられないから、そこからは自力でやんなさい」
『ああ、それだけでも十分だ。ありがとな』
「ヴェルディは?」
「いや、俺はいい。そろそろ行く」
「そう、わかったわ」
ヴェルディが飛び上がり、どこかへ去っていくのを、俺は横目に見て、霊夢に教えを乞う。
☆ ☆ ☆
結局できたのは、弾幕を放つことだけだった。
飛ぶことができなかったのだ。
「なんでかしらね・・・」
『まあいいさ・・・弾幕ごっこはできるんだ、それで満足しとく』
「そう。・・・あなたも努力しなさいよ?」
『そうだな。善処はする』
「・・・」
俺の発言に眉をひそめた霊夢は、嘆息して神社の中へ入っていく。
(親友は自由に飛べるだろう。そんな能力だから)
(俺の能力は、俺のコミュニケーションにしか役に立ってないじゃないか)
(どうして?どうしてだ?・・・求めすぎるな、というのか?)
イライラを吐き出すように、弾幕を空へ放ち、俺はその場にへたり込んだ。