俺はこの日、なんとなく気が乗らなかったためか、縁側に出ることもなく神社の中で茶を飲んでいた。
狩りに出向く気すら起きない。
部屋の中でうだーっと寝転がり、銃を抱えてごろごろと部屋を転がりまくった。
(暇だ・・・なんかないかなぁ・・・)
そうそう何か事件があっても困るのだが。
基本そういったことは霧雨が持ち込んできたりするので、霧雨が来るか来ないか、少しだけ賭けのように考えながら、ただ時が過ぎるのを待っていた。
―――ふと、耳が音を拾う。
霊夢が、縁側で独り言を言っている。
独り言?いや、会話をしていた。
会話をしているらしいもう一人の声も、きちんと俺の耳に届いていた。
でもそれは、よく来る魔理沙の声でもなければ、哨戒を抜けて出てくる犬走の声でもなかった。
もっと大人の女の声だった。
しかし、どこか聞き覚えのある声。
どこで聞いていたっけか―――俺がちゃぶ台に寄り掛かりながら、記憶を漁っていた。
そんな風に、何かをしている間も耳を傾けていたとき、ふいにその言葉が聞こえてきた。
「だから、うちには緋乃なんていないわ」
霊夢によるセリフが、俺の耳に残る。
(・・・は?緋乃はいない?)
愕然とした俺は、何を思ったか持っていた銃を握りしめる。
そして、ふと怒りが湧き上がってきた。
(こちとら心配までしてやったというのに・・・!なんだっていうんだよ・・・それなら、本当にいなくなってやろうか?!)
憤慨する俺。なぜか拗ねるという選択肢を選んでしまい、俺は荷物のために――霊夢の声を聞きたくないために、歩きだした。
音もなく神社内を駆け、荷物を整理した。
整理してから、『約束』が頭の中をよぎったが、頭を振ってその言葉をどこかへ飛ばす。
(いなくなったって、金はあるんだ。―――霊夢なら、生きていけるだろ)
俺は、神社を出ていった。
☆ ☆ ☆
歩いてしばらく。
いつも、俺が霊夢に頼まれて買い出しに寄っていた人里につく。
賑やかな人里の空気。
その空気に、俺は少し和む。
「さて、ここでどうするか・・・」
人里には、店の人の知り合いしかいない。
泊めてくれる場所を思考の中で片っ端から探る。
・・・――――いない。
今更戻るのもあれだし、なんかなぁ・・・。
とりあえず、なんとなく森へ行ってみようと思ったのだ。
後々、霊夢に霧雨の家を訪ねたところ、人里近くの森、『魔法の森』というところにいるらしい。
どんなところにいるんだよ、あいつ・・・。まったく、めんどくさいったらありゃしない。
彼女のもとに急ごう、そう思い、俺はその場の思い付きと勢いで森へ足を踏み入れた。
それからしばらくたって、俺は同じところを何回かさまよってしまっているという結果になってしまった。
何故だ?いやまあ、もとより森に来たのだから、案内人もいないまま初めて来て、そのまま霧雨の家を訪問できたらそれはそれですごいことだよな・・・。
なんてどうでもいい事を考えながら、足はどんどん違う方向へ進んでいく。
もう戻ろうか、なんて考えすらも怒らなかった俺は、どんどんどんどん迷っていく。
(妖怪に出会ったら危ないな・・・人里に戻ろうか・・・?)
なんて考え始めたその時、目の前の空間が裂ける。
その空間の裂け目の中から、一人の美しい(?)女が現れた。
金髪、ちょっと個性的な帽子、スタイルの良さが際立つような服。
聞いたことのある子。聞いたことがあるような気はするのだが。
『うわぁ!妖怪!?マジで出た!』
俺が驚き、その場を数歩下がる。
と、その女性は少し口角をぴくぴくさせながら、
「あっらァ、・・・ずいぶんなご挨拶ね、緋乃」
『はは、すまないな。ところであんたは誰だっけか?』
俺はその怒りをなだめようと試みる。
女性はそれを見て落ち着いてくれたか、コホンと咳払いをして会話を続けた。
「私は八雲紫よ。あなたたちをあの空間に連れ出した張本人」
『ああ、あの・・・。その時はどうもありがとう。あいつらをすぐに連れてこなくって、助かった』
「そうなの?」
『・・・まぁな。あいつらには、恩があるから』
「そう」
八雲紫と名乗ったあの時の声の主である女性は、俺の暗い表情に特に追求することなく疑問を俺に投げつけた。
「どうしたってここに・・・ああ、買い出し?でも、こんなところにはこないわよね・・・どうしたのかしら?」
「・・・」
その質問に、俺は答えられなかった。
ただ拗ねて出てきただけとはさすがに情けなさ過ぎて言えないだろう。
・・・拗ねてるだけって、認めちゃったよ。
「おおかた、霊夢に覚えられてなかったから、ショックで飛び出してきたんでしょう?霊夢も心配してる・・・」
『してないだろう?』
彼女は、ゆっくりと霊夢が心配していることを告げた。
それを遮るように、俺は音をかぶせる。
前に、出て行った時はどう思うかという問い。
ただ、怒るとだけ言われたのだ、問いを投げかけた時。
心配という文字は出てこなかった。
だから、俺のことを心配することはない。
あいつにとって、俺はただの保護対象でしかないのだ。
少しだけ、少しだけだが・・・悲しい。
「してるのよね。それが。ほら・・・霊夢は照れ隠しする癖がついててね。心配、とか・・・あんまり言わないのよ」
『へえ・・・』
「霊夢、あなたがいないまでの間、笑みを零すことが少なかったの。・・・あなたが来てから、嬉しそうになった」
(あいつが、嬉しそうに・・・?)
それは初耳だ。
嬉しそうに、とかそれ以前に、笑顔すらも見たこともないんだけど・・・確か。
彼女が言ったことは、霧雨でも、言わなかったことだ。
・・・ん?霧雨?
「照れ隠しも、笑みも、保護者立場にいる私だからわかる。・・・あの子、寂しがりやなところあるから、離れないであげて」
(さみしがりや・・・離れない・・・・・・ッ!?)
彼女のそのセリフで思い出す。
霧雨と出会った時、俺がなぜか連れ出されて・・・その時の会話ーーいや、お願い。
『あいつ、寂しがりやだからさ。一緒にいてやってくれないか?』
なんで、忘れていたんだろう。
あんなに大事なことだと、思っていたのに。
霧雨が、必死に考えて、俺にそれを頼んだというのに!
俺の脳は、なぜか「離れないで」という頼みに対して、「任せろ」とは返そうとしなかった。
ひねくれた、言葉の羅列。
『でも、あいつは俺の名前すら憶えてなかったんだぞ?それなのに、一緒にいるだけであいつが満足感を得られると思っているのか?』
「ええ・・・そう思ってるのかもね」
八雲のその言葉に、つい思考が停止する。
思っている、のか。
俺はそんな音が出せずに、ただうつむいてしまった。
(俺以外にも、満足感が得られるだろーに、なんで・・・・・・聞くか)
とりあえずと俺は音を作り、八雲に問うこととした。
『そもそも、だ。なんで俺と親友たちを連れて行こうとした?』
知りたかったこと。
なぜ、あの四人だったのか?それに、理由があるとするのなら、ぜひとも聞きたいものだ。
「あなたは、自らを汚いと思う?」
疑問にかえってきたのは、また疑問。
何が聞きたいんだか、俺にはよくわからない。
ただ・・・その質問に答えるとするのなら、『イエス』と答えるだろう。
「・・・思っているって顔ね」
顔に出ていたか、こりゃ失礼。
俺は顔を手で覆い、指の隙間から彼女の表情をちらりと垣間見る。
クスリ、と楽し気に笑んでいた。
何が楽しいんだろう?
『まぁな・・・あいにく、アッチのほうで得したことといや、あいつらに会えたことくらいだよ』
「そう・・・。ほかの外来人からはあまり聞かない言葉」
『こういうのもあれだけど・・・俺らは【異端】だからな』
腕を組み、あっけらかんと音を発してやる。
八雲はそれに面食らうわけでもなく、ただ淡々と言葉を有らべた。
「だからよ。【異端】であろうがなんだろうが関係なしにもう、
『―――?一度?どういうことだ、俺ら以外にも、同じような輩が・・・?』
「それは、自らが求めて知ることよ。きっと、必然的に知ることになるでしょうけど」
『意味不明なことを言うなよ』
「ふふ・・・それはさておき。幻想郷は、あなたのような贔屓も差別もしない、公平な人間を欲した、それだけよ」
『それだと、あいつらの説明がつかないぞ』
八雲はめんどくさいと言いたげにため息をこぼした。
「あなたたちはあの世界の中で、特に純粋な人の部類にあったわ。あんなひどい目にあっていたとしてもね」
『・・・純粋、ね』
俺の質問の答えとは違うような言葉を返された。
俺は組んだ腕を組み直し、八雲を睨むように見つめる。
「・・・彼らは、彼らの望むものがあったからよ」
『そうか』
俺は少し興味が失せてしまったらしく、八雲から視線が外れた。
それを感じ取ったか、八雲はつぶやく。
「あなたたちのその思いが、生き方が・・・・・・彼女たちに刺激を与えてくれそうだったから・・・」
『・・・?彼女たち?誰のことを言って・・・』
「さて、あそこ見なさい」
話をそらされた・・・。
俺は、不機嫌になりながらも、首をかしげて、彼女が指さした方向を見やる。
「なんだよ?霊夢がいるわけがないのに?」
「いるのよ」
また苦笑して見せた女が口元を扇子で隠した。
その方向には紅白の衣装を身にまとった少女が、こちらに気づいたのか腕をぶんぶん振りながら憤慨する姿があって。
「こらっ!また襲われたりしたらどうするのよ!」
俺を知らないなんて言い張ってくれやがった、素敵な巫女様。
その表情は怒りの色一色で、俺はこれから彼女の手にある大幣でしこたま殴られるんだろうなぁと思うと、少しばかり悲しくなってきた。
「ちなみに、緋乃なんかいないってセリフだけど・・・」
『?ああ』
「単に、あなたの名前を覚えてなかっただけみたいよ?」
『は、はぁああ?!』
八雲に告げられた事実に、声を荒げる。
それはあんまりだろ?!
自己紹介をしているところは何回か居合わせたはずだし、霧雨にも何回か呼ばれてて・・・それで、覚えてないと?!
「まあ・・・探しにくるってことは、それなりに大切なのよ?霊夢は、ね」
肩をすくめてこちらの表情をうかがってきた八雲に、俺は溜息しかつけなかった。
大切、そう思ってくれてるのだろうか?
仕事が増えるだのなんだの、『心配』とは程遠いキーワードしか聞こえてこなさそうだな。
俺はやれやれともう一度ため息をついた。
「そうそう、ねぇ」
そう、八雲が俺に声をかけてきた。
「霊夢に、あなたが緋乃だって言ったら、どう言ったと思う?」
『ん?』
「『ああ、あいつそんな名前だったっけ』」
『・・・はぁ』
俺は顔を覆って、行き場を失った感情を外へ吐き出すように、ため息をついた。
なんだか、それを言っているときの霊夢がありありと想像できる。
「こら!あんた約束は――」
近づいてきた霊夢が俺の目の前に大幣を突き付け、腰に手をやって顔をしかめた。
大幣の先がとがっていて、俺は少しだけ背筋がひやりとする。
危ないじゃないか、まったく。
俺は何も言えず、視線を逸らして言葉を詰まらせる。
『う、・・・だって・・・』
「だっても何もないわよ、馬鹿!私が名前忘れたくらいで拗ねるんじゃないわよ」
『・・・面目ない』
「約束を忘れないで頂戴。わかったわね」
『はい』
霊夢にそう怒られ、俺は肩を落とす。
怒っている人に何か言っても火に油を注ぐだけだ(特に、それが霊夢だと弾幕ごっこどころではなく殺されてしまいそうだ)。
「ふふ、仲いいわねぇ」
『よくはねえぞ・・・』
「そうよ。どこ見て言ってるんだか」
「ふふ、そう?霊夢ってば、『また緋乃が妖怪に襲われてるんじゃ』・・・って血相変えて飛び出したのに、知らん顔で何言ってるんだか」
「なっ・・・!」
八雲に告げられた言葉に、俺はつい『マジで』と声を作ってしまい、それを言われた霊夢はカァッと顔を赤くさせた。
「何言ってんのよこのBBA!あんたの目は節穴なのかしら?こいつが一度妖怪に絡まれてたからなんとなく来てみただけで、別に血相変えてなんか・・・」
饒舌になった霊夢が、突然言い訳をしだす。
八雲は青筋を浮かべていたが、その様子にくすりとまた笑んでいた。
俺もなんだか笑えて来て、『何言ってんだよ霊夢』と苦笑した。
「うっさい!・・・まったく、心配して損したわ・・・ほら、帰るわよ!」
『はいはい、了解しました。・・・・・・八雲』
「うん?なにかしら?」
『さんきゅ、な』
「何もお礼を言われるようなことはしておりませんもの。まあ、気にしないで頂戴」
『はは・・・そうならいいんだが』
会釈をして俺は八雲の前から去った。
霊夢にもう一度謝って、今晩の食事は豪勢にしてみよう。
・・・喜ぶといいな。
(・・・誰か、【異端者】がすでに来ている・・・?俺をカウントしていないのなら、あいつら以外に、誰が・・・?)
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side out
八雲紫はただ一人、森の中で彼らの姿を見送った。
ほほえましい限りではあったが、八雲紫は物憂げな顔でつぶやく。
「――そうね、あなたも愛を認めて・・・幸せになりなさい、緋乃」
というわけで、ここまでの八話分が緋乃の幻想入りから幻想郷になじみ始めるまでのお話です。
リメイク前よりもだいぶ設定も性格も変わったかな?と思います。
前の作品の話を訂正したり、新しく話をはさんだりしたので、どこかに違和感がないかが少し心配です。
ほかのキャラもところどころ変わっているので、その辺も含めてみていただけると大変うれしいです!
ここまでで、お気に入り登録が五件も!本当にありがとうございます!
がんばっていくので、よろしくお願いします!
では!