シャルロットの回想を書いているときに魔法使いの夜より「遠い疵」&「甘い痛み」を聞きながら書きました。
曲と文章の雰囲気はあっている………と思う
2人の転入生が来て2週間たった。
シャルルは部屋の浴室でシャワーを浴びていた。今日のアリーナで織斑一夏と模擬戦を行った。そのときに彼のISについて軽く知ったが正直言ってあんなにおかしなISは初めて見た気がする。一次移行で単一仕様能力《ワンオフアビリティー》が使用できるという利点があるにしても武器があの剣だけではどうにもならないではないか。それに彼の実力は素人同然だ。そんな初心者に近接武器一つだけとは白式を開発した倉持技研の技術者はどういう神経をしているのかと思ってしまう。
代表候補生として様々な訓練と多くの武器を使ってきたから言えるが、初めのうちはより多くの道具を使わせてそこから個人にあうものを選択していくのが普通だと思うのだ。あれでは彼の実力を制限してしまうのでは? と思いながらシャルルは浴室から出て体を拭いた。ふと携帯をみるとなにやらメールが来ている。デュノア社からの連絡だろうか、でもメールでするなんて今まで一度もなかったのに。疑問に思いながらシャルルは届いていたメールの内容を確認する。
「…………!!!」
それを見て一瞬顔を強張らせた。そこに書かれていた内容とは
『シャルロット・デュノア。君の秘密を知られたくなければ第5アリーナ更衣室まで来い』
と書かれていた。
(正体がばれた!? でもそれなら先生たちに知らせればいいのになんで呼びつけるんだろう………とにかく、行くしかない)
今まで男としてシャルル・デュノアを演じてきたが思い返す限りどこかへまをしたところなんて無かった。でもこうして誰かが私の正体を知り呼び出している。そこに書いてある通り指定された場所、第5アリーナ更衣室に行くことにする。
もしものために護身用として持ってきていたベレッタ92を制服の内ポケットにしまい部屋を出た。
誰もいなくなった部屋。置いて行った携帯が勝手に動き出し、先ほどのメールが完全に消去された。
シャルロットは小学まで彼女の母親、ソフィーの二人で暮らしていた。だが、シャルロットが中学に上がった半年後、母が倒れその1カ月後に亡くなった。もともと病弱な体だったらしい。突然の母の死に私は頭が真っ白だった。
そんなときだ。家の前に黒塗りの車が止まったのは。そのときに私は知った。フランスの大企業デュノア社の社長アルフォンス・デュノアが私の父親だということ。自分が彼と母親の不倫の結果生まれた不貞の子だと。その時の彼女は自分がこの世から、そして世間からも消えてしまうのだと思った。
だって相手はデュノア社という大企業だ。そしてその社長が自分の父親。自分はその人にとってただの汚点。だからこのまま誰にも知られずに殺されてしまうのだと。だがデュノア社から来た人は私に何もせず、それどころか丁寧に私を車に乗せた。車を走らせること数時間。私はデュノアの屋敷に着いた。屋敷に入りすぐ綺麗な洋服姿の女性に会う。周りの人は「奥様」と呼んでいた。すぐに分かった。この人が父親の正妻フローラ・デュノア。彼女は私を連れてきた人と少し話をすると私のほうへと近づいてくる。そして右手を動かしたとき目をつぶった。叩かれると思った。私のことを「泥棒猫の娘が!」と罵倒すると思った。だがそのあとに感じたのは、どこか亡くなった母の温かさに似た、頬に触れる手の感触だった。おそるおそる目を開けると女性は優しい目で私を見ていた。そして呟く。
「あの人と同じ眼の色をしているのね……」
それだけを呟き「ついてきなさい」と言い歩き出す。そのあとをついて行った先の部屋に入る。そこにはデュノア社の社長、アルフォンス・デュノアがいた。会うなり彼は私に言った。「ここが今日から君の家だ」と。
私はそれを受け入れた。なぜ? と聞くだろう。“不貞の子”という自覚は無かったのか? と思われるだろう。私だってそんなことは分かっている。だが、あの時の、母親という温もりを無くし、深い絶望に堕ちていた自分にとって汚れたレッテルが張り付いていても、なにか別の温もりがほしかった。何かに縋り付きたい思いで受け入れたのだ。例え自分への対応が最悪であってもそれを受け入れるつもりだった。
それから私はデュノア家のお嬢様として暮らし始めた。最初のころは礼儀作法を義母からみっちり教わった。父親とは最初のころに会ったきり顔を見ない。だがこれでいいのだと私の中で思っていた。
ある日。髪を結ぼうと一人で頑張っていたところを義母に見つかり「私がやってあげるから」と結んでもらうこと時があった。その時の会話を今でも覚えている。
「何故髪を結ぶのかしら?」
「い、いえ。特に理由はありません。髪が伸びてきたから結ぼうと思いまして…」
「………あなたのお母さん、ソフィーに似ているから、かしら?」
「!」
突然お母さんの名前が出てきたことと彼女の指摘にビクッと体を震わせた。そう。シャルロットとその母、ソフィーは本当に似ているのだ。ソフィーが亡くなってしまった今シャルロットは彼女の生まれ変わりではないかと周りの者が思うくらいそっくりだ。だがそれを義母が見れば複雑な思いをさせてしまう。しかしシャルロット自身自慢に思っているこの髪を切りたくはない。この髪だけがお母さんの形見だと彼女は思っている。その両方を捨てたくない思いで考え付いたのが髪を結ぶことだった。
「図星のようね」
「………恨んでないのですか」
「はい?」
「私は、貴女が愛している男性と母さんの間に生まれた不貞の子です。恨んでいないのですか。怒っていないのですか」
シャルロットは思い切って言った。デュノアの人間になったあの日から思っていたこと。なぜこんなにも自分を優しく扱ってくれるのか? お母さんと私のことを恨んでいないのか? 憎んでいないのか? と。義母は少し考えるそぶりをしてシャルロットに真っ直ぐ向き合い言う。
「憎んでいないと言えば嘘になる。けれど、それでもあなたは夫の、アルフォンス・デュノアの血をひく女の子だということは変わらないわ」
「――――――」
言葉が出なかった。それは義母の言葉が美しく見えたからなのか。それとも義母の心の広さに感銘を受けたからなのか。今でも分からない。ただ一つだけ分かることは、彼女は本当にシャルロットを自分の娘として接してくれているのだということだった。
「―――あ、れ? なん、で……」
目の前に置いてある鏡を見る。そこには自然と涙を流す自分の顔が映っていた。
「ほら。あなたは泣き顔より笑顔のほうが似合っているんだから」
義母からハンカチが渡される。それを受け取り涙を拭いた。このとき私は義母になにかを言いたかったが言えなかった。何を言えばいいのか、最適な言葉が見つからなかった。自身の心から湧き上がる様々な感情を感じ取りながら思った。
私の居場所はここにあるのだ、と
それから義母と少しずつ話すようになるが父親とは変わらなかった。だから私のことを嫌っているのかと思い相談したがそれを笑いながら義母は言う。
「夫はああ見えて貴女のことを思っているのよ。ただどう接したらいいのか未だに分からないだけ。あまり自分を責めないでちょうだい」
「怒らなかったのですか。その………不倫のことを」
「それはもう……怒ったわよ。でも私は『男は絶対不倫する』と思っていたからそんなにショックでも無かったわ。けれどさすがに怒ったからあの時彼の腰に蹴りいれてやったわ」
「…………………………………………はい?」
「さ。この話はこれでおしまい」
義母が話を終わらせたせいでその時は何もわからなかった。だが後日メイドの人に内密にという条件で聞かせてもらったのだが、父アルフォンスが妻フローラにソフィーと不倫の関係だったこと。そして彼女との間に子ができたこと。亡くなったソフィーへの贖罪としてシャルロットを養子としてデュノア家に向か入れたいことを話したらしい。そしてもともと心が広いフローラはそれを承諾したものの怒りだけは抑えられなかったらしい。
『分かりました。ですが一つだけお願いがあります』
『なんだい?』
『蹴らせてください』
『―――は? 何をいってウボハアァ!!!?』
アルフォンスの悲鳴を聞いてドアを開けたときメイドが見たのは、ドロップキックをかまして宙に浮くフローラと、体をくの字に曲げて飛ばされるアルフォンスの姿だったそうな。その日以来父アルフォンスは腰痛に悩まされているらしい。
思わずクスリと笑ってしまう。実際に見たわけではないがいつもの2人とは違う何かを垣間見えた気がした。それから私はデュノアの人間として暮らしてきた。父とは相変わらず会話は少なかったが私のことを思ってるのだと分かっていた。二人には内緒でデュノア社を見に行った。興味本位で動かしたISの判定はAだった。会社の皆と仲良くなっていった。
自分を生んでくれたお母さんに感謝している
不器用ながらも私を思っているお父さんに感謝している
実の娘のように接してくれる義母に感謝している
私の生まれを気にせず接してくれるデュノア家に仕える人たちや会社の人たちにも感謝している
いつしか自分でも知らない間に、自分の世界ができていた。そのなかで笑っている自分がいた。
だがそこに曇りが見え始める。デュノア社のIS開発の不振。フランス政府から突き付けられた最後通告。もし進展がなければデュノア社は解体される。
いやだ
自分の世界を守りたい
手に入れた温もりを無くしたくない
今度は私が皆に何かをしてあげたい
そして私は、否、僕はいまここにいる。名前を偽り、性別も偽り、クラスメイトに嘘をついて。自分がしていることは犯罪なのだと自覚している。だから思うのだ。自分自身のためとはいえ、こんなことをすると決めた自分は死ぬときは、きっと、惨めな最期になるんじゃないかなって。
そんなことを思っているうちに第五アリーナの入口に到着した。入る前に心を落ち着かせる。
(大丈夫。こうなることは分かっていた。誰だか知らないけどもしものときは―――)
そこまで思いシャルルは内ポケットと首から下げるネックレスに手を当てる。そしてシャルルは第五アリーナの建物の中に入って行った。
その数分後、IS学園の制服を着たブロンド髪の生徒が入口の前に立ち止まる。“彼女”はほんの少し、クスリと笑い第五アリーナ建物へと入る。
そして、ゆっくりとシャッターが下りた。
通路をゆっくりと進んでいき目的の場所へと到着した。更衣室は明かりがついている。
誰かがいる。入口の影に隠れながら中の様子を伺う。そこには椅子にベッタリと張り付くように座り込む人物が1人。
(あの人は確か…)
一夏の後ろの席にいる、ISとは思えない専用機を持っている生徒、岸波白野さんだ。彼女が私を呼びだしたのだろうか? 疑ったが彼女を見てその考えはなくなった。遠くから見ても彼女の疲労感が分かったからだ。大きく肩で息をし、汗で顔が汚れている。辛い訓練を受けた後のように見えた。なんとなく拍子抜けする。しかし場所はここで合っているはずだ。もしかしたらという事もある。なのでシャルルは白野に近づき話をすることにした。十分に用心しながら
「こんばんは岸波さん」
「はぁ…はぁ…シャルルさん、どうしたの……?」
「1つ聞きたいんだけど私を呼び出したのって岸波さん?」
「呼び出した……? いえ、私はずっとアリーナで訓練していたけど」
「そうなんだ。あれ?」
唐突に電気が消えた。視界が真っ暗になる。けれど非常用の電源が作動し明かりがついた。しかしあくまで非常用なためかなり薄暗い。
「停電するなんて珍しい―――――」
「どいて……!!」
「痛! いきなり何するっ……!?」
白野に突き飛ばされるシャルル。かなり強引にやられた彼は白野の横に倒れる。突然の白野の行動に少しばかりの怒りを込めて顔を上げる。
だが、彼女が目にしたのは
「っ、ぁああぁああ――――――!!!!」
自分の後ろから伸びる“何か”に撃ち捉えられ、悲鳴を上げながらロッカーの壁に激突する岸波白野の姿だった。
コメントどしどし来い。
批判どんと来い
応えられるかどうかは別にする(おい
最後まで読んでいただきありがとうございます