やってしまった。と、授業を受けながら白野は頭を抱えていた。ラウラの要求を軽率に引き受けるんじゃなかった。学年別トーナメントをやるということは、少なからず外部の、企業や各国大使が見に来るということだ。そんな状態で所属無の専用機持ちである私が出れば、我先にとオファーが来るだろう。
正直に言うと、面倒くさいのである。今やIS保有数=国の全軍事力みたいなこんな世界情勢に自分から飛び込むのは嫌なのだ。実際に見てはいないがどこも裏では忙しなく動いているに違いない。ただこのまま無所属でいるのは後々まずいことになるのは間違いない。どんな被害に会うかたまったもんじゃない。もし所属するなら、本当に信頼できる場所、と決めた。
さらに、もう一つ悩み事がある。しかも絶賛進行中の問題が
「岸波さんちょっといいかな」
「なに?」
「少し話があるんだ。お昼休みの時間いいかな?」
「分かった(やはり、か。昨日の今日だから覚悟はしてたつもりだけど)」
昨日の騒ぎ。詳しくは知らされていないが当分の間第5アリーナの使用を禁止するとSHRの時間に連絡があった。だからそれについてのことだろう。
当事者にしか分からないことだ。
「デュノア君が岸波さんと話してる」
「抜け駆け?」
「いや、岸波さんはデュノア君にアプローチかけてないけど」
「ということは……」
「告白!?」
違います。全然違います。外面からだとそう見えなくもないが、内面が全く違います。これは、少し用意しておく必要があるかもしれない。
(書くもの用意しておいて)
(え? 分かった)
小声で伝えた後、私たちは席に戻った。それはそうと
(一体何をしてるの? アーチャー?)
朝早くから「少し席を外すぞ」とだけ言いネットワークへとダイブしてしまった。
そして、昨日の戦闘中で分かったことが二つ。私がいた世界で唯一残っていた魔術『魂の霊子化』ができること。そして、あの月にムーンセルが眠っていることだ。おそらくだがムーンセルはどこにも見つかっていない。ただ地球を観測している状態だろう。現状でアクセスできるのは自分だけ。別に使おうだなんて思っていない。だが、たぶん今後も何度かアクセスして英霊を呼び出すかもしれないけど。
(アーチャーは大丈夫だから、私はこっちに専念しないと)
どう話せばいいだろう? と思いながら次の授業を受けた。
デュノア社社長アルフォンスは自室で仕事をしていた。その最中、使っていたパソコンが動かなくなる。故障か? と思いしばらく待っていると画面は真っ白になり、どこかと通信状態となった。画面には『SoundOnly』とだけ出ている。なんとなく察した。これは脅迫の類だと。
≪フランス企業デュノア社社長、アルフォンス・デュノアだな?≫
「……誰だ」
≪誰、と聞かれてもな。もとより私に名前などない。当の昔に捨てた≫
聞こえてくるのは青年男性の声。しかも声が僅かに高いから20代くらいだろうか。ボイスチェンジャーなしで話してくるとは、記録される危険性を考えていないのか。それともその程度のことなど相手にとって意味がない物なのか。
「で、一体何を要求する。何が目的だ?」
≪その前に………これを見ろ≫
「―――!!」
渡されたデータが開きある動画が再生される。それを見たアルフォンスは驚きのあまり立ち上がった。そこの流れているのはシャルロットそっくりの誰かとラファールに乗り応戦するシャルロットの戦闘の姿が流されていた。
≪落ち着け。先に言っておくが彼女は無事だ。この戦闘は学園にも知られていない≫
「いろいろ知っているようだな。こちらの事情を」
≪それともう一つ付け加えておくが、彼女を真似たこの敵は無人機だ。彼女を狙っていた≫
「無人機だと!?」
アルフォンスはイスに座り直し、画面に映る敵の顔を見る。外見は各国のものと大きく異なるがラファールに乗る娘と渡り合っているからおそらくISだろう。それに『ISにはISしか対抗できない』という常識が浸透しているから間違いない。
そしてISを動かすには人が乗らないと動かない。無人で動くISを完成させたなんて報告は聞いていない。
これを開発できる人物は、一人しか考えられない。
≪君たちが何をしているか、この人形は誰の差し金か、あえて口にしないが、ここで止めた方がいい。彼女のためにもな≫
沈黙が部屋全体を覆う。アルフォンスが一番恐れていたことが起こったのだ。そしてその秘密を知る人物が今目の前にもいる。
「それで、そちらの要求は?」
≪要求?≫
「そうだ。これだけこちらを揺さぶる材料があるのだ。一体何を求めるのだ」
すべてを知られている以上私に対抗策なんてない。これは完全に私の負けだ……
≪そのようなものなどない≫
「なに……?」
≪私からデュノア社に要求するものは1つもない。いや、強いて言うなら2つある≫
「なんだ」
≪織斑一夏へのスパイ活動を止めること。そうすれば今後彼女への被害も減るはずだ。もう一つは父親である貴方から彼女に伝えておいてほしい。今見せたあの戦闘、他言無用だ。とな≫
「………分からん。その二つの要求の真意はなんだ? 二つ目も謎だが、一つ目にどうして娘の配慮がある? どのみち私たちは犯罪をやろうとしていたのだぞ」
そう。そこが疑問だった。これだけの材料があれば公式非公式に関わらずデュノア社を潰すことなど容易い。なぜすぐに警察なりに教えないのか?
しばしの沈黙の後、答えが返ってきた。
≪まだ未遂だ。なにもしていない。それに、彼女もたまたま性別を間違えただけだろう?≫
「………………正気か?」
≪私としては割と大真面目なのだがね≫
「いいだろう。その条件受けよう。だが、一つだけ答えてほしい。お前は一体何者だ?」
一度は拒否された質問。また聞いても応えてくれないかもしれない。だが、聞かずに入れなかった。この、正体不明の相手を。
「そうだな。強いて言うなら“正義の味方”だった罪人だよ。失礼する」
待て、というが相手は去って行ったのかパソコンの画面はもとに戻っていた。
昼休みになった。僕は身支度を整えて屋上に向かう。この時廊下を出たらまたいつものようにみんなに周りを囲まれるが今日は起きなかった。というか、何でか分からないけど皆から道を開けてくれる。いつもとは違う雰囲気と視線を感じながら屋上までやってきた。しかし、先に行っているはずの岸波さんはいない。どこか寄り道をしているのかな? と思うと上から声をかけられた。
「シャルル。こっちこっち」
見ると岸波さんが屋上のさらに高い場所に座っていた。壁に取り付けてある梯子で上ったのだろう。彼女に言われるがまま私も上った。
(くっ。まさか上に上るなんて。なんたる失態! 死角で話を盗み聞こうとした計画が!)
(でも。ここからでも十分聞こえるよ)
(でも全然話声聞こえなくない?)
野次馬魂なのか2人の会話を聞きに来た者共。その数は星の数の如し。階段には興味で来たもの。対抗心剥き出し出来たものなどなど……様々な目的で集まっていた。でも、さすがに見つかるのは嫌なので隠れて盗み聞こうとするものがほとんどだった。でもまさかイスに座るではなくさらに上をいくとは思わなかった。そのせいで階段は人ごみでごったがえしている癖に皆とても静かにしている。
先頭にいる人は恐る恐る下から2人を見る。と
(な、なによそれ!? 反則よ!)
(どうしたの!?)
(ひ……筆談していやがる!!!)
((((((((((な、なんだってーーーーー!!??))))))))))
野次馬共の全く響かない絶叫が轟いた。あくまで心の中だが
白野は他の誰にもこの話を聞かれないように用意したもの。それは紙とペン。密談するうえで一番手っ取り早い方法だ。デジタルの世界になった現代。相手との通信能力は飛躍的に向上した。が、その分セキュリティの問題も大きくなった。政治、経済、生活などなど様々な分野に情報が溢れており、またその奪い合いも日常茶飯事だ。ストーカー行為である盗撮盗聴から他国の極秘情報の奪い合いまで。デジタルでのセキュリティを高めて対策することに上限はない。なぜならどんなに堅いファイヤーウォールでも絶対に破られないなんて保証はどこにもない。
話を戻そう。誰かとの密会で周囲に気付かないようにするにはどうすればいいか。答えは簡単だ。1つは誰にも見れない聞こえない入れない完全な密室にいること。これが一番効果的だ。外部とのつながりを完全に遮断した空間なら心配いらない。それが無理なら他人に気付かれない方法を取ればいい。その結果がこれだった。しかも屋上の高い場所に陣取れば横からも後ろからも筆談の内容を見られることは無い。
【なんというか……すごい念の入れようだね】
【まーね。いろいろ聞かれると不味いでしょ。私も貴女も】
白野の”貴女”という言葉が書かれていたことにシャルルは少し動揺してしまう。それを見た白野は溜め息をもらした。
【なんとなく分かってたけど………シャルル隠し事下手だよね。もう顔でバレバレ】
【そ、そうかな? 一応いつも通りの顔にしてたけど】
【”顔”はね。でも目が泳いでた】
【よく見てるね。あ~あ。こんなに早くバレルなんて】
私から見たらよくばれなかったと思った。生徒たちはまだしも教師までなんで気づかないんだろう? と思った。
それよりも本題に入らなくては
【えーとね。シャル昨日の事なんだけどさ】
【そうだった。なんで昨日なにがあったの。正直に言って】
【あー、え~とね………】
やばい。いつものシャルルじゃない。目に力がある。しかも今アーチャーがいないからフォローしてくれる人もいない。
これは、言える範囲で言うしかないか
【シャルル。その前に1つ約束してほしいの】
【? なに?】
【このことは誰にも言わないでほしい。もちろん織斑先生にも】
シャルルは少し考えた後、分かったと返事を返した。シャルルの眼をじっと見る。白野は大丈夫だと確信し書いた。
【簡単に言うと、無銘の単一仕様能力を発動してアリーナから脱出した】
「………………ええ!? ワンおぷ!」
(声がでかい!!)
驚いて声をあげようとしたシャルルの口を手で覆い塞ぐ。これじゃあ周りに聞こえちゃう。
(言わないっていったでしょ。気を付けてよ)
(ご、ごめん)
シャルルが落ち着くまで待ち、筆談を再開した。
【それでアリーナを抜け出してめでたしめでたし】
【随分ざっくんばらんに説明したね。まあ要点は抑えてあったけど。それでその単一仕様能力は何なの?】
【それは無理。それでシャルルと取引がしたいんだけど】
【取引?】
白野はシャルルに取引の条件を書き渡した。
① 昨日のことは他言無用にすること
② 無銘の単一仕様能力について追及しないこと
そのかわり白野はシャルルの性別について誰にも告げないことを約束する。
【いいの? 僕は嘘ついてここに来たんだよ?】
【なんでそうしたか理由は察するけど、そんなの私が言える資格無いし。それにそういう趣味を持つ人も世の中いる】
「ち、違うよ!」
「……ぷ。あはははは」
自分が男装が趣味だと勘違いされて必死に弁明を図るシャルルを見て思わず笑い声をあげる。白野の笑い顔を見てシャルルはさらに顔を真っ赤にする。白野とシャルルはさっきまで密談していることを忘れていた。とそのとき放送が入る。
≪一年一組の岸波白野さん。至急職員室まで来てください≫
「呼び出しか。じゃ、そういうことでよろしくね」
白野は飛び降りて出入り口前に着地。人ごみを分けながら職員室へと向かった。
1人残されたシャルルは彼女が去ったのを見ながら不思議な人だな、と思った。
「デュノア君!」
「岸波さんと何を話したの?」
「教えて!教えて!?」
「ふぁっ!?」
岸波白野が去ったことで野次馬共はシャルルに押し寄せてきた。後に彼女はその時のことをこう語っている。
いろんな意味で地獄だった。と
職員室に来た白野に織斑先生がこっち来いと手を振っている。
「なんでしょうか?」
「岸波お前に来客だ。蒼崎と言えば分かると言っていたが」
「蒼崎?」
聞き覚えのある。いや、聞き覚えがある程度ではない。その名は私がいつもお世話になった人物の名前。
「ちょっといけません。勝手に出てもらってわ」
応接室の部屋のドアが開かれる。勝手な行動をされて山田先生が少し戸惑っている。が私はその隣にいる人に釘づけになった。
水色のショートヘア。メガネをかけ、ワイシャツにジーンズを着込み橙色のネクタイをしている。こちらを確認するなり笑顔で手を振った。
「はあ~い。元気? 私のこと覚えているかしら岸波白野さん」
魂の改竄。その場でただ見守るだけだった人物。蒼崎橙子がそこにいた。
あとがきですが、少し変えましてゲストをお呼びしました。
蒼崎橙子さんです!
「なんで私をここに連れてきた? わたしは忙しいのだが」
いえいえ。橙子さんをお呼びしたのはほかでもありません。さ! どうぞ!
「こんなのお前がやればいいじゃないか」
私なんかが言うよりも橙子さんが言ったほうが良いですから。それに伝言預かってるんでしょう?
「チッ………『空の境界 未来福音』本日9月28日(土)より指定の劇場で公開。もし見ないと、えー何々? 無差別級のへんな者が来きます?」
因みに対処法はハーゲンダッツストロベリー味×無差別級に殺られた数を献上すれば高い確率で見逃してくれるそうです。あくまで確率ですから責任は負いません。橙子さんありがとうございました。
「まったく。面倒なことを引き受けた」(ゴトッ)
………へ? あ、あのー橙子さん? その大きなカバンはど、どうしたんですか?
「ああ、この声の持ち主に用があってな」(カチッ)
≪へー、”痛んだ赤色”って呼ばれてるんだ≫by Skyfish
そ! それは!! でもなんで!?
「暇つぶしに『空の境界』の書籍、DVD、ブルーレイに特製の盗聴器を仕込んでな。おかげで『ブッ殺リスト』に名前が毎日更新して大変なんだ」
い、いやー橙子さん。ただの言葉のあやで(汗)
「私を”痛んだ赤色”と呼んだものは、例外なくぶち殺している」
イギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!