IS -錬鉄の女騎士-   作:skyfish

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文字数が3話分もある……

頑張りすぎたためいろいろなFateシリーズの要素を詰め込んでしまいました

不快に思った方はブラウザバックを押してください

これを書いたとき聞いてた作業曲

アーチャー憑依白野 :全Fateシリーズより 各Emiya
ラウラの回想    :ガンダムUCより モビルアーマー
白野 VS VTシステム :Fate/Zeroより Emiya -time alter-



第22話「表と裏の戦い」

【亡国機業】

 

「……ドウイウコトダ?」

 

 始まったVTシステムの暴走。あらかじめ知ってたためそれほど驚きはない。しかし、一部の情報に違いがあった。それは発動条件。奪い取った情報には『操縦者の負の感情とダメージレベルがD以下になったとき』に設定されているはず。だが、発動時の彼女の状態はそれに適さない。負の感情に関しては分からないがダメージに関してはBになったばかりだ。しかし現にいま発動しているのだ。そのことを考える必要はない。

 

 もう一つ違いがある。現在進行形で暴走中のVTシステムがどういうわけか例の岸波白野に対しての攻撃のみ積極性が見える。実際イギリス代表候補生に攻撃を受けているときそれを避けるだけで真っ直ぐ彼女に向かった。その行動はどうみても岸波白野に執着しているように見えた。

 

 いや、それよりも注目すべきことがある。

 

「ドウダ。何カ分カッタカ?」

 

≪いや。ただあの“花”みたいなものが出ているとき、無銘のシールドエネルギーが急激に減ったことだけだ。現存の半分も食ってたぞ≫

 

≪おそらく、白式の雪片弐型と同系統のもの。違うのは雪片は攻撃特化に対して、あれは防御特化のエネルギーシールドと考えるのが妥当だわ≫

 

≪じゃあ何故止められたんだ? 雪片はエネルギーに強いはずだろう≫

 

「ソンナニ考エル必要ハナイ。単純ニドチラノ力が強カッタカ。ソレダケノ話ダ」

 

 中国、韓非子の『矛盾』という故事がある。

「楚」という国に、盾と矛を売り歩く者が居た。

その人が自分の盾を褒めて言うには、

「この盾の堅いことと言ったら、貫き通せる物など無いくらいだ。」と。

また、自分の矛を褒めて言うには、

「この矛の鋭いことと言ったら、貫き通せない物は無いくらいだ。」と。

そこで、ある見物人は言った。

「それなら、あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなりますか?」と。

その人は、見物人の質問に答えることができなかった。

 

この逸話から前後のつじつまが合わないという意味の「矛盾」という言葉が生まれたとされる。日本では誰もが知っているお話だ。

 

これは例え話であるため、実際にあった話ではない。だが、この話を聞いた人々は思う。

 

実際にやったら、どちらが勝つのか? と。

 

答えるには難しい命題だろう。しかし、ホワイトは自身の確かな答えを出している。

 

曰く「どちらも勝つしどちらも負ける」

 

つまり、考えるだけ無駄。それに武器は誰かに使われることで真価を発揮する。持っていても扱えなければそれは最強ではなく最弱だ。だが、もし白黒つけたいなら、どちらがより秘めた力を備えていたか。そこに留まる。

 

 スコープ越しに映るアリーナの光景に変化が現れる。岸波白野が炎に包まれる。

 

(なんだこれは。これも能力の1つなのか……?)

 

 炎が治まる。そこに映った。変わった彼女の姿を見て答えを得た。

 

「マサカ、二次移行(セカンドシフト)シタノカ……!」

 

映像を見ているエムたちも同様の反応だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ」

 

 それが合図のように、白野は鍔迫り合っている黒いISの雪片を押し返す。黒いISは一旦後ろに下がり、態勢を整えすぐさま白野に襲い掛かった。先ほどの彼女が反応できなかった速さ。それをいとも簡単に両手の陰と陽の夫婦剣で受け流す。

 

 彼女は一夏たちから少しずつ離れる様に、後退しながら黒いISの斬撃の猛攻を捌いていく。十分に距離が開いたことを確認すると白野は攻勢に出た。繰り出される白と黒の剣戟。それを受け止め反撃する黒いIS。白野が攻勢に出れば数メートル押していき、相手の攻撃を防ぐと逆に数メートル下がる。それの繰り返し。一進一退。黒いISの攻撃は彼女が変化する前と比べても、重さも速さも飛躍的に向上している。黒いISの本気の攻撃。それはつまりコピー対象の織斑千冬の動きを完全に再現した攻撃を繰り広げていることを意味する。本人ではない偽物だとしても、その動きは正しく世界最強(ブリュンヒルデ)。その動きに対応できるものはバルキリーの称号を持つIS操縦者たちだけだ。だが、千冬の得意分野である近接戦闘で彼女に勝てる者はいない。

 

 それは織斑千冬の実力を知るすべてのIS関係者が抱く常識だった。

 

 

 

 

 

その常識が今、崩壊する

 

 

 

 

 

 繰り返される剣戟と鉄のぶつかる音だけがアリーナに響く。白野の攻撃がすべて防がれる。黒いISは“ブリュンヒルデ”を真似ているのだ。だから偽物でも当然の結果だと思われるだろう。

 だが、その逆は別だ。“ブリュンヒルデ”を真似た黒いISの攻撃を白野はすべて受け流している。二次移行してから一度も攻撃を受けていない。それはつまり、世界最強と互角に渡り合っていることを意味していた。

 やがて白野の左下腹部に隙が生まれる。黒いISがそれを見逃すわけがなく、迷わずにそこに剣を打ち込んだ。

 

≪!?≫

 

 だが隙に繰り出されたはずの一撃を白野は読み切っていたように黒い刃で防御した。隙をついた、絶対にあたるという自信をもった攻撃が防がれ、黒いISはその前髪に隠れた朱い目がどうしてと見開かれる。

 

「戦闘中に余所見とはな!」

 

≪―――!!≫

 

 刹那、白野は飛び上がりその無防備な胴体に蹴りを叩きこんだ。黒いISが後ろに飛ぶ。それは衝撃を逃すためではなく、攻撃を喰らい態勢を立て直すために後ろに下がったのだ。

黒いISはどこか信じられないと言った表情だった。まるで自分が攻撃を喰らったことが受け入れられないかのように。

 

「ふむ。まずは一発」

 

 白野の口が緩む。その顔はこの一撃で希望を見出したようにも、相手を馬鹿にしたようにも見えた。

 

≪―――!!!≫

 

 黒いISはそれを後者と受け取ったのか剣を振りかぶり突進する。それに対し白野―――アーチャーは同時に踏込み、両者がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【管制室】

 通信室でその様子を千冬と真耶は見ていた。実のところ彼女のセカンドシフトの姿はすでに見ていた。どういうものか知る必要があったのだ。当初予定していたのは浮遊する的を壊すIS競技にも取り入れられている性能テストと実戦テストだった。前者をやった結果、全目標50機の的を10秒で壊して見せた。セシリアの記録よりも-5秒のタイムを記録した。その後実戦テストを千冬直々がやるつもりだった。が、ある欠陥が露見し中止となった。それは

 

「岸波さん! すぐに戦闘を中止してください!」

 

「山田先生。彼女は通信を切っている。言っても無駄だ」

 

「織斑先生は何故冷静なんですか。今の彼女には“絶対防御”が無いんですよ!?」

 

 『無銘』は限定的にセカンドシフトできる機能を持っている。それによりメリットがあるがデメリットの方が大きかった。『錬鉄』の唯一の欠点。それは操縦者を守る機能“絶対防御”がなくなることだ。下手すると試合でも危険にさらされてしまう。彼女にこれを使うなと口をすっぱくして言ったのにだ。

 

「これを見ろ」

 

 織斑先生がある映像を見せる。それはVTシステムが発動してからの黒いISの顔を拡大映像だった。

 

「暴走してからずっと岸波ばかりを見ている。他の者に攻撃されているにも関わらず、だ」

 

「じ、じゃあ彼女が引かないのはそのことを知って……?」

 

「そういうことだろう。狙われている自分が逃げるとあれはずっと追いかけてくる。その場合どんな被害が出るか分からない。なら、逃げないほうが皆のためになると思っての行動だ。」

 

「『錬鉄』に変わったのは?」

 

「少しでも勝率……違うな。自分が生き残る可能性に賭けた、のだろう」

 

 二人はただ彼女の健闘を祈るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【簪(?)視点】

 

「あははっ! おもしろいねえ。世界最強と渡り合ってるよ!」

 

 一夏の上に座り込む女の子……更識簪は声を上げ笑いながら闘いを観戦していた。どちらとも決定打を受けていない。しかしあれと互角に渡り合う光景を間近で見て興奮していた。

 

≪簪……どけ……!≫

 

「あ? 何だよお前」

 

 ふと、抑え込まれている一夏が簪に呼びかける。それに対し、簪は気分を害されたかのように彼を睨み付ける。

 

≪あれは千冬姉のものなんだ。千冬姉だけのものなんだ!≫

 

「へー」

 

≪それを勝手に真似るなんて許せねえ。あれは俺がぶっとばすべきなんだ!≫

 

「はいですね~。……で? 言いたいことはそれだけ?」

 

≪何?―――ッ!!≫

 

 一夏は後ろを振り向き簪の顔を見る。その顔を見て凍りついた。特に表情がなっているわけではない。言うなら彼女はメガネを外していることだ。無表情なのに、彼を睨み付けるその顔には嫌悪、冷血そして―――憤怒が込められていた。

 

≪お前の誇りなんて知ったこっちゃないよ。そんなの俺やかんちゃん、彼奴に関係ないし。でもな、その誇りのせいでどんだけ迷惑かけたか分かってんのか? お前のせいで彼奴の右肩やられたこと自覚してんのか?≫

 

≪ぐ…………≫

 

 簪に言われたことが図星だったのか、自身に非があることを自覚したからか、何も言い返さなかった。それを見た簪は舌打ちし白けた表情になる。

 

「なんだよ自覚あんのかよ……たくこれだからてめぇのこと大嫌いなんだよ。中途半端な誇り持ち出してきてさ」

 

≪なんだと?≫

 

「そうだろ? 帰宅部3年皆勤賞でなにもやらなかったやつがそれ(白式)与えられた途端『姉の誇りを守る』? 薄っぺらい誇りだなおい」

 

≪ぐ……だったら白野は。あいつも俺と同じじゃないか。あいつにはどんな誇りがあるってんだよ!?≫

 

 一夏は怒鳴り対象を今戦っている岸波白野へと向ける。自身と同じ、他者から力を与えられた存在。彼女には一体どんな誇り思って戦っているのか。それを聞いた簪は溜め息交じりに言った。

 

「ねえよ。そんなもん」

 

≪は?≫

 

「そんな大層なもんあいつにはないよ。ただあいつ自身がやりたいと思っているからやってるだけだ。ただ―――覚悟はこの中で一番だな」

 

≪……覚悟なら俺だって≫

 

「ふん。生半可な覚悟は邪魔なだけなんだよ。死ぬ覚悟も殺す気概のない奴が戦場に出るな」

 

 一夏を黙らせ戦闘を見る。すでに彼女の攻撃は始まっていた。

 

鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

 白野はその手に持っていた夫婦剣を黒いISへと投げつけた。彼女のもう一つの武器“黒鍵”と違いこちらは弧を描いて向かっていく。それを相手は難なく切り払う。

 

心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

 ここから観戦する彼女たちにとっておかしな現象を目の当たりにする。先ほど投げた夫婦剣が白野の両手に出現したのだ。無論さきほどの剣はちゃんとある。その再出現した剣を再度黒いIS目がけ投げつける。

 

心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

 最初の投擲同様何の警戒を抱かないほど無意味な攻撃を同じように防いだ。

 

唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどめ)

 

 3度目の夫婦剣の出現と投擲。黒いISは飽きたと言わんばかり3度目の投擲を防ぐのではなく躱す。一体いつまでこんな無駄なことを続けるのかと思い始めるが、それは覆される。

 

両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!≫

 

 4度目に出現した夫婦剣は今までの物と違い、より大きく、殺傷能力を高めたものを出現させ突っ込んできた。黒いISも斬りかかろうと腰を沈める。前に出ようとしたとき目の前を何かが飛んだ。

 

≪!?≫

 

 驚き黒いISは周囲を見渡す。周りには先ほどまで投げた白と黒の剣が黒いISを閉じ込める結界のように宙を舞っていた。

 

これこそアーチャーが編み出した必殺剣、鶴翼三連。

陰と陽の夫婦剣。干将莫耶は離れた時に互いが互いに引きあうという特性をもつ。干将は莫邪を呼び寄せ、莫耶は干将を引き寄せる。宙に舞う三組の夫婦剣は終わりなきワルツを演じ、相手の逃げ道を防ぐ。

かつてアーチャーが相対した暗殺者の侍が回避不可能な剣技なら、アーチャーの必殺剣は敵を回避しないようにさせた上での剣技。

 

 周囲を飛ぶ剣を排除しようとすればオーバーエッジした夫婦剣の一撃が、その一撃を排除しようとすれば結界を構成する双剣が襲い掛かる。

 

 そんなことなど気にしないのか、それとも気にする暇もないほど切羽詰まっていたのか。黒いISはその全能力を駆使し、飛び回る3組の夫婦剣を素人から見たらほぼ同時に排除する。その間に白野はもう十分すぎる距離まで迫っていた。

 

 跳躍する。上からの攻撃に合わせ強化した干将・莫邪を振りかぶる。相手がこちらの動きに気が付いたが、もう遅い。

 

≪鶴翼三連――!!≫

 

 振りおろされる必殺の一撃。しかし、当人にそのつもりはなかった。マスターから命じられたのは悪魔で時間稼ぎ。中にいるラウラに危害を加えず、尚且つ周りの被害を無くすには手や足などを傷つけ行動不能状態にさせるのがいい。よって、振り下ろされる夫婦剣の一撃は相手の両腕へと定まる。

 

≪――――――ァァァァァアアアア!!!≫

 

 両腕を切り落とされたことによるものなのか。それともこの黒いISに意志が存在するのか分からないが苦しみの声を上げた。それでも白野に無事な足を使い踏みつぶそうとする。しかし、動きが鈍い。あれくらいなら簡単に避けて追撃に入ることができる。そう皆が思っていた。

 

≪―――っ!≫

 

 白野の顔は苦痛で歪んでいた。咄嗟に夫婦剣を捨てて後ろへ下がる。黒いISは急速な回復力で両腕を再生し彼女が捨てた干将莫邪奪い取り襲い掛かる。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 呪文のようなものを唱えた瞬間。黒いISが持つ干将・莫邪が爆発した。不利と判断し落ちた雪片を泥で取り込み後ろへと大きく下がった。

 

 黒いISは次第に再生し無傷になる。それに対し白野は右肩の傷がそのままだ。戦況は白野が押しているのは明白。しかし、体の状態の違いがどちらが不利か明確に示していた。さらに加えると、彼女は左腕を抑えながら膝をついていた。

 

≪腕がイったか……やはりこの体だと限界か。それにマスターの方も必死のようだな(魔力の消費が激しい。これ以上の宝具の投影は危険か……)≫

 

 アーチャーはラインを通じてマスターである岸波白野の状況を感じ取っていた。向こうも魔術を使い元凶と戦っている。なら、これ以上こちら側で無駄に宝具を投影し魔力を消費するのは愚策と判断した。しかし、戦わないわけではない。宝具が無理なら、それ以外で代替すればいいだけの話。

 

 

 岸波白野が立ち上がる。相対する黒いISは今までの戦闘で学んだのか接近せず彼女を警戒する。そして彼女は右手を突きだし、呟く。

 

 

≪―――投影、開始≫

 

 

集中しろ。宝具がダメなら別の物で補うまでだ。しかし、ただの刀剣では歯が立たない。だったらその条件に合う武器をイメージすればいい。幸いそれは目の前にある(・・・・・・)

 

 

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

制作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

 

 右手が光に包まれる。そして、そこに現れたものに黒いISと一夏が驚愕した。

 

 

「雪片!?」

 

 

 そう。それは千冬姉が使っていた武器 雪片にそっくりだった。本物と比べると人が持てるサイズなのか少し小さいが間違いなく雪片だ。

 

 黒いISはあり得ないものを見たかのように微動だにしない。

 

≪どうした。怖いのか?≫

 

≪―――ッ!!!≫

 

 明らかな挑発。それでも黒いISはまるで怒り狂ったかのような形相になった。

 

≪ご覧の通り、これは偽物だ。本物には到底及ばない。だが、真に迫ることはできる≫

 

 白野は偽・雪片を右手で持ち構える。

 

≪どちらが本物に近いかなど、私にはどうでもいい。さあ。恐れずしてかかってこい!≫

 

二つの白と黒の雪片。どちらも偽物。しかし、その力に偽りはない。本来有り得ない二つの剣が交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【岸波白野視点】

 

少しだけときを遡る。

 

表をアーチャーに任せた私はある場所を走り回っていた。衣装は無銘の衣装のまま。暗く、束縛されたような光景が周りに広がる中を疾走する。ある程度進み次の分岐点に辿り着く。

 

「view_map」

 

コードキャストを使用し、どのルートが奥へと続いているかを調べる。頭に入ってくる情報をもとに、さらに移動速度上昇のコードキャストも加えてシュバルツア・レーゲンの世界の奥へ奥へと進んでいく。

 

もうそろそろかなと思い、再度マップ情報開示させると、おかしなことに気が付いた。

 

「? 先がない……?」

 

 開示されたマップには途中で回路が断たれていた。最初間違えたかと思ったがそれはない。他の経路はすべて行き止まりだったのだ。このルートに間違いないはず。

 

「……行ってみよう」

 

とりあえず途切れている場所まで行くことにした。ちょうど速度上昇の効果も切れたことだ。慎重に進もうと決めた。そして、地図に映っていた場所に辿り着く。その光景を見て「うわぁ……」と呟いてしまった。

 

 道が途切れていた回路には先がちゃんと存在した。では何故調べても表示されなかったのか。理由は一目瞭然だった。

 

「なによこれ」

 

壁の至る所からあの黒い泥が溢れている。そのせいだろう。ギギギギと軋むような音が響いている。回路の歪みによる怪音だと思われる。

 

「この泥は何だろう?」

 

 おそらくこれは元凶からあふれ出たものと考えられる。つまりこの泥はその情報の一部だ。調べないわけにはいかない。私は近づき、壁からあふれ出るその泥に触れた。

 

 

『力がほしい』

 

 

『圧倒的な力がほしい』

 

 

『何物も粉砕できる力 殺傷できる力 万物を破壊できる力』

 

 

力力力

 

力力力力力力力

 

力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力力ちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからちからチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラ―――!!

 

 

 

「っ!!?」

 

一瞬のうちに入り込んでくる強力な思念。驚きながら私は手に着いた泥を振り払った。手を見ると若干ノイズが出ている。これは厄介すぎる。アーチャーが居れば抱えてもらい疾走できたのだが、彼はいまここにいない。

 

 その泥が先の回路に水浸しの状態なのだ。一見深くはなさそうだが、常にダメージを負うことになる。

 

「どうやらこの先で間違いなさそうね。―――add_regen(16)」

 

 コードキャスト『遠見の水晶玉』を、『福音のオルゴール』に切り替える。自身に一定時間のタイミングで回復を行うコードキャストを使用したから、ダメージはゼロにできるだろう。でも無限ではない。制限時間はある。再度移動速度上昇のコードキャストも加えて先へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、が……中心ね」

 

 走りようやくISの中枢らしき場所に辿り着いた。足のダメージは無いもののこの泥には神経毒でもあるのか痺れ走るたび痛みが伝わってくる。大きく拓けたそこはもともとがどうなっていたか分からない。既に黒い泥に浸食され、何が何だか分からない。その中心に位置する場所に誰かいる。黒い髪をした大人の女性だ。

 

(もしかして、あれがISの人格?)

 

以前山田先生が授業で言っていた「ISコアには人格のようなものがある」を思い出す。曖昧な表現なので本当かどうか分からなかったが事実なのだろう。とすると、あれがシュバルツア・レーゲンのAIなのかもしれない。彼女は目の前の盛り上がった泥をただじっと見ている。もしかしたらあれがこの元凶かもしれないと思いながら、話しかけようと近づく。すると、今まで何もなかった泥がまるで意志を持つかのように私へと襲い掛かった。

 

「!?――move_speed()!」

 

 突然のことに驚きながらも移動速度上昇のコードキャストを唱え、襲い掛かる泥の隙間を抜け避けた。

 

「ほう。面白いものを持ってるな」

 

 黒い女性が語りかける。その発言から先の泥は彼女が操っていたことを彼女自身が自白したことになる。

 

「あなたは、誰?」

 

「名乗るには自分からと教わらなかったか女? まあいい。面白いものを見れたからこちらから名乗ってやる」

 

 こちらへと振り向く。その姿を見て、再度息を呑む。姿かたちは正しく織斑千冬に瓜二つ。

 

「初めまして。と言っても正式な名前など無いからな。取りあえずVTシステムとだけ名乗っておこう」

 

「VTシステム……もしかして。バルキリー・トレースの略?」

 

「博識だな。その通り。私は過去のモンドグロッソの優秀選手を真似るために生み出された存在だ」

 

 自身のことをVTシステム……長いからVTにしよう。が言う。織斑先生が口にできなかった暴走機能の名前はVTシステムというのか。確かにあの光景を見ると分からなくない。まさか機能にまでAIがついているとは。これを造った人は分かって彼女を造ったのだろうか? そんなことどうでもいいか。

 

「でしたら。お願いがあります。今すぐこれを止めてください。このままだとラウラの命が危なくなる」

 

 私は彼女に、VTにお願いした。ただのシステムなら壊せばいいと思っていた。だが、そのシステムにAIが、意志が存在するなら無理に壊さなくてもいい。彼女が止めれば騒動は集結すると思った。

 

 それは、かつてあの学校でふれあったNPCたちのことを思い出しながらの発言であった。NPCに命はない。人間と同じようであるがただセラフが効率のいい観測を行うための道具だと聞いた。でも、私は彼らをそういう風に見ることは無かった。今でも普通の人間と変わらないと思っている。故に、このAIにも同様の観点で接していた。が、その思いは崩れ去る。

 

「否。そんなの私の知るところではない。私は目的のために動いている」

 

「そんな! このままだとラウラが死んでしまうんですよ。それはあなたにとっても悪いことのはず!」

 

「だからなんだ」

 

 私の叫びにVTは嗤って答える。さも、面白いという感じで。

 

「私はただバルキリーたちを真似る為だけに生まれた。だが、それだけで終わりにしない。必ずや世界最強に辿り着き、さらに上を目指す。そのためにこいつには我のために働いてもらう」

 

 そういうと彼女は両手を自身の胸へとくい込ませる。ブチブチという耳にしたくない肉の千切れる音を出しながらそれ(・・)を見せた。

 

「ラウラ!?」

 

 VTの中に囚われたラウラの姿があった。それはまたVTのなかに取り込まれていく。VTはにやけながら言う。

 

「私を止めるには私を殺す必要があるぞ。だが、そのときはこいつも死ぬことになる。さてどうする岸波白野」

 

「……どうしても止めないっての?」

 

「くどいぞ。それに今更こいつが死んだところで(・・・・・・・・・・・・・)私には関係ないだろう(・・・・・・・・・・)?」

 

「―――そう。なら、どうなってもいいってことよね!!」

 

 これはもうだめだ。話合いで解決しようとした私が馬鹿だった。VTがいるだけでラウラやどれだけの人が犠牲になるか分からない。この力に酔うAIを止めなくては。初めて剥き出しになる白野の感情。それは今まで以上に震えていた。

 

 白野がVTに向かって疾走する。『高速スパイク』の加護もありさながら疾風のような走りだった。それに対し、VTは右手を掲げ、前に下す。

 

「――逝け」

 

 泥が一斉に白野へと襲い掛かる。それを高速で躱しながらVTに迫る。岸波白野にとって近接武装は得意ではない。どちらかというと中遠距離向きだ。でもそれでもやらなくてはならない。近接向きではないが自身のスタイルに合っている黒鍵を取り出す。それをVTの足に突き刺そうとする。が

 

「おっと危ない」

 

「くそッ!」

 

 VTは体をずらし、白野の攻撃が自分の胴体に、ラウラに当たるように体を移動させた。それにより白野は攻撃を断念する。

 

「どうした? 攻撃しないのか?」

 

「性質悪いわねあんた!」

 

「ならこちらから行こうか」

 

 VTは私を思い切り蹴りつける。勢いに飛ばされ、背中から広場の壁に打ち付けられ吐き気に襲われる私に向け泥を雨粒みたいな状態にさせ射出してくる

 

(足がふらついて動けない。ここは耐えるしか……!)

 

判断した私はあれを投影して防いだ。

 

「……何故それを持っている。それは先に爆発させただろう?」

 

「さあて。何ででしょうね」

 

ガマリエル。壊したとはいえアーチャーの中にはしっかりと記録されている。アーチャーの能力が使える今の私にとって宝具ではないこれは大変貴重なものだ。

 

「―――囲め」

 

 今度は私を閉じ込めようと泥が全方位から覆いかぶさるようにやってくる。が、一部だけほんの少し遅れている泥がある。あそこに抜けられる。私は助走をつけての跳躍でそれを潜り抜けた。

 

 着地する。が、まるで沼にはまったように足が膝の上まで埋まってしまう。、

 

「しまった!」

 

 完全な罠だった。気付いたときにはもう遅い。

 

「終わりだな。何心配しなくていい。私の力になるようじっくりと溶かしてやる」

 

黒い泥が這い上がり、少しずつ覆いかぶさる。

 

「くそぉ……っ」

 

私は完全に飲み込まれ、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出来損ない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 泥に飲み込まれ暗い闇に包まれたあと、そんな言葉が聞こえてきた。

 

『出来損ない』

『役立たず』

『失望した』

『欠陥品』

『お前は価値がない』

『あれだけの資金を注ぎ込んだのに、こんな出来とは』

『よろしいので?』

『構わん。こんな不良品など必要ない』

 

 吐き気がする。どれも相手に対しての罵倒、嘲笑、侮蔑。相手を差別する言葉を連呼されている。目線はそれを言う人たちを檻の中から見上げるだけだ。私はその人と同じ目線で共感している。私の記憶ではない。考えられる人物は1人だけ。

 

(これは、ラウラの記憶、か)

 

 となると織斑先生に会う前の記憶だろう。しかし、ハッキングで彼女の経歴を知ってはいたが、あまりにもその光景に憤りを感じすにはいられなかった。最初こそ何かしらの感情を抱いていたラウラだが、時が経つにつれ何を言われても無感情になっていく。

 

 当然だろう。人間、誰かに馬鹿にされることや罵倒されると怒り、悲しみなどの感情が現れる。だが、これは一時のことで個人差はあるが立ち直ることが出来る。だが、それが何年も続いたとしたら? 今まで仲間と思っていた同僚や上司から終わることのない生地獄を味あわされたら。どんな人間でも耐えることはできない。彼女の場合、心そのものを閉ざしたのだ。ISが公開されたのは10年前。軍用機として第一世代が誕生したのは確かその一年後だ。その後織斑先生に会ったのが第2回モンド・グロッソの後だから少なく見積もっても5年もの間彼女はあの地獄にいたのだ。幸か不幸か、心を閉ざしていたのが良かったのだろう。そのおかげで精神が崩壊することは免れた。もし、発狂でもしたら即刻処分されていたに違いない。

 

「お前がラウラ・ボーデヴィッヒか?」

 

誰も来なくなった部屋に1人の女性が入ってくる。

 

「……………?」

 

心を閉ざし、誰も信じなくなったためか。女性が話しかけても彼女は目を合わせるだけで何も話さない。それほどまでに彼女は追いこまれていた。

 

「私が見るからには問題ない。一年で部隊最強にしてやる」

 

その人こそ今の彼女にとっての希望だった。

 

 

 

そこから少しずつ階段を上ってゆく。一段一段遅く、しかし着実に実力を伸ばしていく。そして、彼女が部隊隊長になる前。庭園で織斑先生との会話に移る。

 

『弟……ですか?』

 

『ああ。あいつを見ていると見ていると強さが何なのかが分かる』

 

『……私には分かりません』

 

『お前もいずれ分かるさ』

 

 そのときの教官の顔は今まで見たことないほど、優しい顔をしていた。その顔が私に向けられたことはない。

 

―――何故だ。

 

―――何故その顔を私に向けてくれないのですか。

 

―――私に何か欠点でもあるのですか。

 

―――私が、あなたと血がつながっていないからですか?

 

終ぞその顔が私に向けられることなく。教官は日本へ帰って行った。

 

『織斑、一夏………』

 

 許せなかった。教官にあんな顔にさせることのできる相手に。あの顔を向けられる相手に。とてもとてもとてもとても―――羨ましかった。

 

 だから思った。もしその男が消えたら、あの顔が私に向くのではないか、と。

 

 

 

そうして彼女はIS学園に入学する。自分の目的を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が再び暗転する。

 

 

 

暗い、何も映らない何もない空間を漂う。その場所に彼女がいた。

 

「ラウラ!」

 

「岸波白野!? どうしてここに……いや、そんなことはどうでもいい」

 

 まさかこんなところで彼女に会うなんて思わなかった。VTからどうにかして逃れられたのだろうか?

 

「いや、私は一部の意識だけが切り離された状態。本体はまだ奴の中だ。教官の姿を真似るだと? ふざけた真似を……。おい、貴様に頼みがある」

 

「なに?」

 

 ラウラから頼み? パートナーを依頼されたときは必要最低限の事しか言われなかったが今回のはあの時とどこか違った。どこか切実さが見える。

 

「私を殺してくれ」

 

「!!!」

 

「こうなったのも私の責任。それにあの状態は教官の教え子である私にとって恥だ。あんな醜態は見てられない。……頼む。この通りだ」

 

 あのラウラが深々と頭を下げた。それは織斑先生教わった身として、ドイツ軍人として、何より自分自身のために言った言葉だった。今の彼女は今までの中で一番輝いて見える。そんな彼女に私はあることをしなければならない。彼女の前まで行く。

 

「ラウラ」

 

「なんだ?」

 

「顔を上げて」

 

「分かった―――ぁ!?」

 

 顔を上げたラウラに、私は優しく抱いてあげる。そして、彼女に最高の言葉を贈る。

 

「今まで、よくがんばったね」

 

「っ……やめろ。それを今ここで言うな!」

 

「だったらいつ言うのさ? それにここには私たちしかいないんだよ。だからさ」

 

―――もう、泣いてもいいんだよ

 

 そう。彼女を生まれてから一度も泣いていない。見てしまったあの記憶から彼女はこの瞬間まで心の奥底で自分は兵器だと、道具だと思い込んでいるのだ。だから今までどんなに辛いことがあっても泣かなかった。だから私は、彼女を縛る最後の鎖を解く。

 

「確かにラウラは戦うためだけに生み出された。けど道具じゃない。生まれがどんなに汚くてもあなたは人間として生を受けた」

 

 間違いなんかじゃない。生み出された理由がどんなに最悪でもそれを否定したら彼女が生まれたことを否定することになる。

 

「私の命など―――」

 

「それでも―――命には価値がある」

 

 それを言うと彼女は私のことを抱き返してきた。どんな顔をしているかなんて見なくても分かる。

 

「いいのか……? 私には生きる価値があるのか……?」

 

「うん。ドイツが……いや、世界中が否定しても私はラウラのことを認めるよ」

 

「そんなことを言われたのは生まれて初めてだ………………ありがとう」

 

 静かに涙を流すラウラを抱きながら私は彼女の頭を優しく撫でる。

 

(ラウラは大丈夫そうだね………あとはあれだけか)

 

 元凶であるあの女のことを思い出す。しかし、一応呼称をVTにしたけどなんか頭に来るからもう“泥女”って呼ぼう。うん。そうしよう。私はラウラから離れた。

 

「もう少し待ってて。今すぐあの泥女を始末してくるから」

 

「だが、どうやるのだ? 奴を殺したらその……私も道連れなのだろう?」

 

「大丈夫。今思えば相性抜群の剣持ってたことすっかり忘れてた。あれを使えば、少なくともラウラに傷一つつかない。あの泥女に聞くかどうかはやってみなくちゃ分からないけど」

 

 速度上昇のコードキャストを改造する必要がある。これは二倍の速さになれるがあのスピードに着いてきていた。それ以上の速さを出せるようにコードキャストを改竄する。それと投影するのは問題ないだろう。厳密には宝具じゃないものだし、何より私が使ったことあるものだ(・・・・・・・・・・・・)

 

「……1つ聞いていいか。岸波白野。お前は何者なんだ?」

 

「私? う~んとね……」

 

 私は軽く考え、最適な言葉を見つけて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はね。魔法使いなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岸波白野を覆ってた泥に亀裂が、内部から刃が生える。それは泥を突き破り、そして切り裂いた。泥は再生することなく、霧となり消えてゆく。それを見ていたVTシステムのAIである女は目を見開いて見ていた。信じられない、と。

 

「貴様……一体何をした? あれを受けて正気でいられるはずが!?」

 

「―――ハ。薄すぎるよ。私の友人のほうがもっとすごかった。もっと濃いものでも用意すれば?」

 

「ほざけッ!」

 

 泥女の意志に従い泥が私へと押し寄せる。先ほどの雨のような弾幕。一々斬るのは面倒だ。だから改竄したコードキャストを唱える。

 

「move_speed()―――」

 

 泥の雨が私へと殺到する。その時、かつての親友、遠坂凛が依然話していたことを思い出す。

 

『私たち魔術師(ウィザード)に出来る魔術は“魂の霊子化”のみよ。でもコードキャストを自身の魂に組み込ませることで他の魔術を使用することが出来る。コードキャストはね。もともとはまだ神秘があった頃……つまり魔術師(ウィザード)魔術師(メイガス)と呼ばれていた時代に使用されていた魔術をムーンセルが記録して私たちにも使えるようにした物なの。だからこれはある意味失われた魔術。その全てがかつて誰かが使っていたものなのよ』

 

 このコードキャストの原型を使っていた魔術師がどんな呪文を唱えていたかなど私には分からない。だけど、これが正しいと確証のない自信があった。

 

「―――triple accel(三倍速)!」

 

刹那。岸波白野が消えた。

 

「な、に!?」

 

 目の前に現れる岸波白野に驚く。振り下ろされる剣を左手で止めた――――――はずだった。

 

「ぐああああぁぁぁあああああああ―――ッ!!!」

 

 苦痛の絶叫が木霊する。左手は斬られていた。切り落とされた左手は足元の泥に着く前に消滅する。

 

「何だ? 何なんだこれは!? 何故再生しない!  そんな玩具みたいな剣で!? ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないッ!!!!!!」

 

 自身の知らないものに対する憎悪の言葉を連呼する泥女。それとは逆に岸波白野は十分効果があることに安堵した。

 

 彼女が持つ剣は“ヴォーパルの剣”

ルイス・キャロルの作品『鏡の国のアリス』で記述された「ジャバウォックの詩」登場する武器。 怪物ジャバウォックを仕留めた剣。

 

アリスに教えてもらい

 

遠坂凛から貰い受けたマカライトを材料に

 

ラニ=Ⅷが錬成した概念武装(ロジックカンサ―)

 

 ジャバウォックのみに有効な武器であり、それ以外ではただの切れ味のいい玩具の剣だ。しかしこの剣は“理性のない怪物に有効”という効果を持つ。逆に人間相手だと斬ることもできず体を擦り抜ける。それが幸いした。

 

 泥女に確かにダメージを負わせている。それを確認できた私はすぐさま次の行動に出る。泥女の足首を切り裂き、足の腱を断ち行動を奪い取ってゆく。三倍速の速さを保ちながらの攻撃。本当の意味で疾風と化した彼女だが、そんなに長くやれるわけではない。

 

「―――グッ。はぁ……はぁ……」

 

 一旦距離を開け、胸を抑え、膝をつく。改竄したことでそれ以上のスピードを出すことが出来るコードキャストになったが、同時に欠点も上がった。それは疲労だ。改竄すればそれ以上のスピードを出せる『強化スパイク』が何故2倍速に留まっていたか。それは術者の魂を守るためだ。魂の経験は肉体に蓄積しない。それはアーチャーが以前言っていたことだが厳密には違う。魂と肉体は精神というラインで繋がれている。魔力の源は生命力なので魂に余計な負担をかけるとライン(精神)を通じて肉体にも少なからず影響が出てしまう。

 

だが、肉体でやるのと比べれば多少の無理は覚悟の上だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……あと、少し」

 

 息切れを起こしながら再度剣を構え泥女を見る。どうやら泥女は徹底的に私を殺すことにしたようだ。

 

「殺すっ!! 貴様の力など必要ない。これでその体を切り刻んでやる!!」

 

 周囲の泥を集積、凝縮させ一本の刀を形成する。それは表でも見た“黒い雪片”。

 

「move_speed()―――triple accel!」

 

 自身の魂に鞭を打ち、泥女へと迫る。女の目の動きを見るにどうやらこちらの動きになんとかついてきているようだ。

 

「死ねぇえっ!!!」

 

 黒い雪片が振り下ろされる。速度を上げている状態の私とのタイミングはバッチリ。腐っても織斑先生なんだろう。

 

「move_speed()―――」

 

 故に、さらにその上を。手に握る剣に速さを加え攻撃力を上乗せさせる。

 

「―――square accel(四倍速)ッ!」

 

 常人からは何が起こったか分からなかっただろう。岸波白野は相手の刃が届く直前にさらにスピードを増加させ一瞬のうちに右腕と右足を斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「なぜだ。こんな訳に分からない奴に私が負ける……? こんな奴にっ!?」

 

 認められないのかそれとも目の前の現実を受け入れられないのか泥女は仰向けになりその言葉を繰り返す。私は止めを刺しに彼女の傍に立つ。

 

「くっ! 何故だ! 私は本物に近づきたい。その思いだけでやってきた。それの一体何が悪いというんだ!?」

 

「知らない。そんなの私に関係ないから」

 

「やめろ! 私はまだ死にたくないっ!!!」

 

「因果応報って言葉を知ってる? そのツケが回ってきたのよ」

 

 ヴォ―パルの剣の切先を心臓へと定めた。

 

「さようなら」

 

「ヤメロオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」

 

 懇願する彼女の声を一切無視し、私は剣をその心臓に突き刺した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【織斑一夏視点】

 

 白と黒の雪片がぶつかり合う。相手が両手持ちなのに対しこちらは片手持ち。必然的に追い詰められる。黒いISが大きく振りかぶろうとし―――

 

 唐突に、その変化が現れた。

 

「――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 黒いISの手から雪片が落ちる。そいつは両手で顔を覆うと体を捻じ曲げながら苦しみの声を上げた。

 

「一体なにが……?」

 

 突然の断末魔に驚きを隠せない。黒いISの崩壊が始まった。ドロドロと、雪の彫刻が太陽の熱に溶かされるかのように崩れ落ちる。その黒い泥に白野は手を突っ込んだ。そして、その泥からラウラを取り出す。

 

「間に合ったか………」

 

 白野はぽつりと呟くとラウラの頬を撫でる。

 

その顔があまりにも印象的だった。先ほどまで血を流しながら闘っていたというのに。目に涙を溜めて、ようやく救うことが出来たと。心の底からよろこんでいる彼女の姿。まるで救われたのは彼女のほうではないかと思えるほどに。

 

「よかった………」

 

 白野は小さく呟くとラウラをそっと抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 それは今まで己が救いたいと願った人を切り捨て、より多くの人を助けるという理想に溺れた彼にとって、ようやく手に入れることが出来た確かな感触だった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます

次でラウラ編を終了とし、しばしの間こちらをお休みします

それでは~ノシ
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