白野達がモノレールで向かい、あと数十分ほどで目的の駅に到着する頃。先に来ていたシャルロットとラウラの2人はラウラの服の買い物と昼食を済ませ、あとは白野を待つだけ……だったのだが。
「いらっしゃいませ。お客様。2名様ですか? では席にご案内します」
喫茶店の1つで有名な@クルーズというお店のお手伝いをしていた。昼食していたレストランでガッチリ手を掴まれて「バイトしない?」と聞いてきた。ホントは断りたかったが女性のオーラが怖くて一時間だけという条件付きで了承してもらった。お願いした当人は残念がっていたが、“例のお客様”さえ凌げればそれでいいとのこと。シャルロットは執事服、ラウラがメイド服だ。シャルロットの方は男装していた経験もありそつなくこなし、ラウラは男性客のお誘いに絶対零度の接客を取っている(クレームが来ないのに不思議に思うが)と思っているとお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ。3名様ですか?」
「そうだ」
「では、お席にご案内します(大きい人だな)」
入ってきたお客様は3名。男性1人の女性2人。見たところ家族連れのようだ。男性――父親の方は身長が180cmを超えているのが分かるくらい背が高い。キリスト教司祭が着込むカソック服を纏い、着慣れているように見える。女性――母親は白を基調に淡い紫の今どきの服を着ている。もう一つ特徴を上げるなら肌が異常なほど白い。まるで白百合のように真っ白な肌と透き通るような銀髪をしていることだ。女の子は母親と同じ銀髪のロングヘアー。彼女の服装はどう見てもシスターが着る服だ。見た目からして中学生くらいだろうか。
「御注文はお決まりですか?」
「イチゴのショートケーキとアイスティーをお願いします」
「私も妻と同じケーキを、ブラックコーヒーを頼む」
「イチゴショートケーキ二つと、アイスティーとブラックコーヒーですね。そちらのお客様は」
「カフェオレと、イチゴのタルトケーキ、エクストラでお願いします」
「カフェオレ1つとイチゴのタルトケーキですね(エクストラ? あとで聞いてみよう)」
初めてなだけにエクストラの意味を知らないシャルロットは取りあえず注文を受けて厨房に伝える。
「オーダーです。20番のお客様イチゴのショートケーキ2つ。ブラックコーヒー、アイスティー、カフェオレ1つずつ。あとイチゴのタルトケーキのエクストラですが何ですか?」
「エクストラぁ!? どんなお客様が頼んだの?」
「銀髪の女の子です」
厨房で働いていた女性が血相を変えて20番テーブルを見た。
「全店員に通達。パターン銀(シルバー)パターン銀だ。プランBに移行する!」
「はい?」
パターン銀とかプランBとか分かるわけないシャルロット。その間にも厨房は大忙しに動いていた。
『今日はこっちか! 何頼んだの!?』
『イチゴタルトケーキです』
『急いで作るわよ!』
『了解!』
先ほどとは比べものにならないくらいに動き回る厨房の人たち。自分たちに頼み込んだんだあの店長に話を聞いた。
「あの、これどういう状況ですか?」
「あれが“例のお客様”よ。あのお客様だけわけありでね」
「クレーマーですか?」
「違うわ。問題は娘さんと父親のほうよ。ほら。足元を見て」
20番テーブルに座るお客様を見る。一見仲睦まじい家族の会話をしている。父親と娘さんが盛大に蹴り合いをしていた。え、何で。
「とにかく仲が悪いのよあの親子。母親の前だとそうでもないけど。もう一つは娘さんの注文ね。彼女一人で店のホールケーキ……エクストラサイズを食べるのよ。それも毎回。でも体型は変わらない。キー羨ましい!!」
はぁ。とシャルロットは口を洩らす。いろいろ難しい家族なんだな~と思った。
『20番の御注文できました』
「はい。これラウラちゃんお願いね」
「ちょ、でか!?」
「分かった」
エクストラサイズのイチゴタルトケーキを見て驚愕する。それは一般的なホールケーキの2倍の大きさだった。これを1人で食べるのか。
「注文を持ってきたぞ。ありがたく思え」
「なってないな。一部の者の評価はともかく、君の接客対応は不合格だ」
「なんだ。文句があるのか………」
「まあまああなた落ち着いて。ラウラちゃんって言うの。ありがとね。その服。似合っているわ」
女性客の聖母を思わせるような笑顔を向けられ、少し顔を赤らめるラウラ。こんな顔見せたくないと背けて戻ってくる。その後出されたケーキを楽しみながら(2人は蹴り合いながら)話をする。そのとき、シャルロットは驚きの物を見てしまった。
とぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
(ん? タバスコ!?)
男性が懐から出したタバスコをコーヒーにかけていた。他の始めてきたお客様、事情を知らないお客様全員がその光景を目の当たりにし固まる。
「もうダメよ。コーヒーにタバスコは美味しくないって言ってるでしょ」
「ふむ……いささか味が薄かったのでな」
「逝かれてますね。お父さんの舌」
「それだけ甘いもの食べて何ともないお前の方が十分イカれていると思うがね」
罵りながらタバスコをかけたコーヒーを一口飲む。だが全く顔が優れない。やっぱりコーヒーにタバスコが合うわけ―――
ぐいっ
(直接いったーーーーーーー!?)
いやあああああああ とその光景を見ていた全員が心の中で共通の悲鳴を上げる。タバスコを直接飲んだ男性はほんの少し微笑んでいた。
「少しお手洗いに行ってくるわ」
(マリア様が席を離れる!? もう終わりだぁ!!)
(ちょっとどうしたんですか!?)
母親が席を離れたところを見て(お客様の見えないところで)天に祈りを捧げる店長。あんた何やってんの? と思うがすでに異変は始まっていた。
「ところでカレン……さっきからお前の足が私の脛にドスドス当たるのだが……?」
「そういうダニ親父こそ、わたしの髪にクリームを付けるのをやめてください」
「いや失礼、つい手元が狂ってしまうのだよ。まぁお前の髪も白いし、別に目立たないだろう?」
「ふふふふ、何を言うのかしら……これは愉快♪ 愉快♪」
「はーっはっはっはっはっ」
父と娘はお互い笑いながら青筋浮かべ嫌がらせを止めずどんどんエスカレートしてゆく。どんだけ仲悪いんだこの二人は、帰って家でやれ! と思い始める。だが、それを中断させる出来事が起こった。
「おら、騒ぐんじゃねぇ!」
銃声が響く。突然のことに悲鳴を上げる客たち。すばやく身を隠したシャルロットとラウラはこの状況をどうするか話し合っていた。
(どうするラウラ。相手は4人。リボルバー式が二丁、サブマシンガン一丁、ショットガン一丁だけど)
(日本は比較的治安が良いと聞いていたのだが……そんなことはどうでもいい。問題はショットガンだ。流れ弾の被害を考えるとあれをどうにかするしかない。私が近づいて奴等の注意を引きつける。お前はそのスキをついて制圧しろ)
(わかった。サポートすればいいんだね)
ラウラとシャルロットが小声で打ち合わせをする。自分達の受けた対人制圧用訓練を思い出せばこの程度の状況どうってことはない。どう見ても相手は素人だ。行動開始しようとしたその時、予想外の事態が起こった。
「あらあら。なにかしら?」
「誰だてめぇ!?」
(嘘!? ラウラ!)
(手洗いに行ってたあの客か、くそ!)
そこまで頭に入っていなかった。犯人は女性客を掴み銃を突き付けて外にいる犯人に大声で叫ぶ。
「おい聞こえるか警官ども! 人質を開放したかったら大人しく車を用意しろ!! もちろん追跡車や発振器なんか付けるんじゃねぇぞ!!!」
「きゃーーーー、たーすーけーてーー(棒)」
マジになって警察に要求する犯人に対し、彼女はビビった様子もなく、なんだか人質と言う滅多に味わえないものを楽しんでいるようにも見える。だが、これではやりづらくなった。人質を取られてはもう打つ手なんて――
「そこまでにしたまえ」
「あ?なんだおっさん」
(ラウラ!)
(あの男死ぬ気か!)
犯人たちに声をかけたのは人質にされている女性の夫だった。
「これ以上罪を重ねるのは君たちのためにならない。仮にも神職を務めた身だ。迷える子羊を導くべきだと今でも考えている」
「うっせーよ。おい」
リーダー格の男がショットガンを持った仲間に指示を出す。ショットガンを持った男が銃口を向けながら近づいていく。
「そうか………残念だ」
俯いて溜め息をもらす男性客。
「―――言葉は不要か」
刹那。5m先にいた男性客が目の前に現れた。
「へ?」
ショットガンを持った犯人はその接近に気が付かず、男性客が繰り出したパンチを腹に思いきり喰らった。あまりの衝撃と痛みに銃を手離し、リーダー格の犯人の横を通り過ぎて壁に激突した。何が起こったのか分からない犯人たちと隠れる代表候補生の2人。二人から見ても一瞬にして犯人との間合いを詰めたように見えた。状況をやっと理解した犯人たちが銃を神父に向けた。
「テメェ!」
容赦なく引かれるトリガー。それと同時に迫る発砲音。普通の人ならここでやられる。そう、普通なら。
「失礼」
神父は周りのテーブルに置いてあったテーブルナイフとフォークを持つ。それを指と指の間に挟んで――
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンッ!
迫りくる銃弾の全てを弾き、逸らした。
「ば、化け物……」
「どうする! もう弾が」
「馬鹿野郎! こっちには人質が……てあれいねぇ!?」
犯人たちが神父に釘づけになっている間にシャルロットが人質を救い出していた。すぐさまラウラが2人に人体の急所を狙い行動不能にする。残ったのはリーダー格の男のみ。
「こうなったら、手前らも道連れにぶっ飛ばしてやらぁ!」
男が体の下にあるジャケットを大衆に見えるようにして広げる。その体に巻きつけられているのは大量の爆薬だ。その有線式のスイッチを押そうとしたら、衝撃を感じ壁にぶつかった。
「な、なにが……」
男は自分の体を見てゾッとした。体の至る所、体の線をなぞるようにナイフとフォークが刺さっていた。その全てが肌にギリギリ触れるか触れないかで服を貫通して壁に刺さっている。身動きが取れない状態で目の前にあの神父がやってきた。
「あ、あの……」
「さあ、懺悔の時間だ」
男の口にタバスコが盛大に注がれた。
「qzwぇcrvtbyぬみ、お。P・@アw背drftgy富士子lp;座sxdc愉悦fvgbhんm、l。;・――――――――!!!!!!!(ガクッ)」
犯人は理解不能な声を上げて気絶した。
「警察に関わると面倒だ。裏口から出るぞ」(妻をお姫様抱っこする)
「あらあらこんなのいつ以来かしら」
「クソ親父。私も運びなさい」
「お前は肩にでもしがみついていろ」
男性が妻を抱えて、その後ろに娘がしがみつき厨房を通り裏口へと出て行った。
「ラウラ。僕たちも行かないとまずいよ」
「そうだな」
代表候補生である2人が厄介ごとに関わると後々面倒になる。着替えるのを後にして二分達の荷物を持ちその場から離れた(逃げた)
そして、近くの公園。そこにはあの家族がいた。
「この場ですまないが、妻を助けてくれてありがとう」
「いや、僕たちはただやっただけですから畏まらなくても」
「それより神父。あの技。どこで習った?」
ラウラは店内でやったあの大道芸(?)に興味が湧いたらしい。
「私の父から学んだ。なに、神職に務める者はこれくらいできて当然だ」
(いやいやいやいや。おかしいから、ただの神父がテーブルナイフで銃弾を捌くなんて無理だから)
(いや、教官ならできる)
(織斑先生すご!)
「あれ? ラウラにシャルどうしたのその恰好」
聞きなれた声がしたので2人は後ろを振り向く。そこには白野と布仏さんと水色髪の知らない人がいた。
「お~二人とも似合ってるね」
「でも、結構、目立つ」
「あ。いや、これにはいろいろ事情があって」
シャルロットが事情を説明しようとする。白野は二人の後ろにいる人物に気が付き驚く。
「あれ皆さんどうしてここに」
「やあ岸波君久しぶりだな」
「白野ちゃん元気にしてた?」
「両手に花ですか、相変わらずですねあなたは」
まさかの白野の知り合い。一体どんな関係なのか気になる。2人の雰囲気を読んで紹介する。
「以前バイトしていた“紅洲宴歳館・泰山”の店長さん」
「言峰綺礼だ。妻のクラウディア、娘のカレンだ」
「言峰クラウディアです。さっきはありがとう」
「言峰カレンです。以後お見知りおきを」
あとがき
簡単なキャラ設定
言峰綺礼
元神父の紅洲宴歳館・泰山 日本店店長。初めての男性客は激辛というルールを決めた。激辛大好き
基本的人間関係は良いが、娘との間が悪く、隣店の個人経営ハンバーガー店の店長と中は最悪
言峰クラウディア
言峰綺礼の妻。綺礼がイタリアにいたときにであった。生まれつき病弱であるが今はそれなりに回復している。味覚は普通。好きなことは家族と会話しながらの食事。夫と違い隣のハンバーガー店の奥さんとは良い仲
言峰カレン
2人の娘。今年で中学3年生。理由は分からないが父親のことが大嫌い。食事のテーブルで足を蹴るなど当たり前。毒舌。隣のハンバーガー店の娘さんと交友がある。
因みにハンバーガー店の名前は『時間短縮 フォン・バーガー』
以下駄文
ボツになったストーリー
@クルーズで女性客を人質にとった犯人グループは警察に用意させた逃走用の車に乗って逃げた。緊急事態と判断したシャルロットとラウラはISを機動。犯人たちの追跡を開始。港のコンテナ置き場に追い詰めた。人質は車に置いたまま解放されていた。代表候補生2人をうまく撒いた犯人たちは笑い声を上げながら用意した逃走用の車に乗り込む。だが、その車が動かなかった。
「おいどうしたんだよ!」
「エンジンがかからない……」
『私が壊させてもらった』
「あ!?」
聞こえてきた声の方角をみる。そこには神父が着るカソックを身に纏った男が立っていた。
「おっさん。俺たちを怒らせたこと後悔してもオセーゾ!!」
犯人たちが光に包まれる。なんと、全員が全身装甲のISを装備していた。
「セレブリティ・アッシュ。いけるぜ」
「サベージ・ビースト。いくぜ!」
「マッハで蜂の巣にしてやんよ」
それを見ていた神父は全く動じていない。溜め息ひとつ
「面倒だが仕方ない…………………きゃおらっ!!!」
意味不明の言葉を叫ぶと神父が爆発した。白い煙をだし、何が起きたか分からない。しだいに晴れてその姿を現す。
「え、ちょ、ま……」
「聞いてねえぜこんなの!?」
「おいおい嘘だろ夢なら醒めて」
煙から合わられたのは純白の全身装甲に蒼い目を光らせるISだった。
≪メインシステム。戦闘モードを起動します≫
「許しは請わん、恨めよ」