第2話「衝突」
授業が始まり山田先生が教鞭をとる。幼さが見え隠れしてしまう顔をしているが今の姿は教師そのものだ。教室にいる皆が先生の言葉を聞き逃さないとノートを取っている。
「それではここまでで分からないところはありますか?」
その質問に誰も手を上げなかったため誰かを指名することにした。
「それでは…織斑君、どこか分からないところ分かりますか?」
「え、俺!?」
突然の指名にあたふたしているように見える。そして自信なく
「あの…すいません。全然分かりません」
「え……全然ですか?」
「はい。全然です」
一夏の言葉にがっくりと肩を落とす。どこに不備があったのかと自分を問い詰めているようだが真耶のせいではない。ただ単純に一夏の頭がついていけなかっただけである。
「織斑、入学前に渡された参考書はどうした」
「あの分厚いやつですか?…掃除のときに間違って捨てました」
バシーン!!!
今日だけで何度目か分からない音が響く。
「必読と書いてあっただろう。再発行してやるから1週間でマスターしろ」
「いや! 1週間であの量はむr」
「やれと言っている」
「…はい」
そのあと一夏に参考書の再発行が出されることとそれを1週間で覚えろとの命令が下された。
授業の後、私は次の授業に向けての準備をしていた。その間前に座っている織斑一夏は教室の外からの視線に疲れ果てていた。彼の気持ちは分からなくもない、いまの教室の構図は他人が見れば動物園の珍獣を見に集まる観客そのものである。
「ちょっとよろしくて」
「ん?」
艶やかな金髪の女性が一夏に話しかけてきた。彼女は確かイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんだ。自己紹介のときが印象的だったのだから覚えている。上から目線のような口調だったからだが。
「聞いていますの? お返事は?」
「ああ、聞いてるけど・・・君は?」
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも至極光栄な事なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
セシリアは信じられないと相手が自分のことを知っていて当然だと言わんばかりの態度で接している。明らかに女尊男卑に染まっているようだ。
「そんなことを言われても、俺君のこと知らないし」
「わたくしを知らない? このイギリス代表候補生でこの学年の主席たるセシリア・オルコットを!?」
「おう、知らん」
彼女もそうだが一夏も一夏だ。あの自己紹介を聞いてないし、今の彼女にそんなことを言えばどうなるか目に見えている。
(というか居づらいなぁ・・・)
IS学園に入る以上女尊男卑の風潮が濃くなるのは覚悟していたが初日からこれだと先が思いやられる。別のところに移動したいがチャイムまであと1分を過ぎているため教室から出ることはできない。
「まあ、私は寛大ですし。教えて差し上げてもよくってよ? 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「あれ?俺の倒したぞ教官」
「…はい?」
あ、セシリアが固まったまま動かない。そんなにショックだったのだろうか。
「私だけと聞きましたが」
「いや、俺が避けたら相手が壁にぶつかって終わったから倒したとは言えないと思うけど・・・その情報間違ってるんじゃないか?俺みたいに運よかったやつとかさ」
「う…あ、あなた!あなたはどうだったのですの?!」
一夏の他にもいるかもしれないという言葉にセシリアは慌てながら彼の後ろの席である私に話を持ちかける。
「え、私ですか?もちろん負けましたよ。というか勝てるわけないじゃないですか」
「ええ、そうでしょう。やはり実力で勝てたのは私だけ、貴方のようにまぐれでそう簡単に勝てるわけが」
私の返事を聞いた途端セシリアは機嫌を取り戻した。
「そのときの相手が織斑先生だったから」
織斑先生だと言った瞬間、2人は何とも言えない視線をこちらに向けてきた。なんというか少し私のことを憐れんでいるようなそんな目。
「あの、その…申し訳ありませんでした」
「いや、そんなにかしこまらなくても」
「なんというか、俺もごめん。千冬姉相手とかご愁傷様だな」
完全に冷めた状態になると授業開始のチャイムが鳴った。
「まだ言えてないことがありますのよ。 逃げないことね! よろしくて!?」
一夏にそう言いながら彼女は自分の席に戻って行った。
「授業と始める前にひとつ決めなければならないことがあってな。再来週に行われるクラス対抗戦にでる代表者を決める必要がある」
クラス対抗戦? 聞いた限りだと代表の人が他のクラスの代表と闘うのだなと自分で理解した。
「織斑先生、代表は何をやるのですか?」
「そのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみに、クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」
ただひとつ分かったことは面倒なことを多く任されることだということだった。さらにイベントで代表として戦わされるそうだ。
(争い事は嫌いだからパスね)
そう心の中で思った。
「はい! 織斑君がいいと思います!」
「私も」
「私もそれが良いと思います~」
「では候補者は織斑一夏、他にいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「ちょっと待て! 俺はやらな」
「推薦されたものに拒否権はない。ほかにはいないのか?」
織斑先生がほかに推薦する人、される人が出るかしばらく待ったが何もなかった。
「さて、どうやらこれ以上手が挙がることはなさそうだな。では――」
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
バンっ! と叩かれる机の音が後ろから聞こえて来た。振り向かなくても聞こえる声で誰が言っているかすぐに分かった。セシリアが怒っているのだ。
「良いですか。クラス代表は実力トップの人間が成るべき、それは私ですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
どうやら織斑一夏が代表になることにものすごく否定的なようだ。休みの時よりも起こっているように見える。
「大体、男がクラス代表だなんていい恥曝しです! 実力から行けば私がクラス代表になるのは当然、それを物珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります!」
あきらかに男を侮辱した言葉を聞き少しばかり苛立ちを覚える。落ち着け、少し落ち着け私。いきなり初日で騒ぎを起こすのはあまりよくない。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で」
「イギリスも大したことないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」
私より先に前の席に座る織斑君が切れた。まぁ、あれだけ好き勝手言われれば当然と言えば当然ですよね。
「あ、あなた! わたくしの祖国を侮辱するのですか!?」
「先に侮辱してきたのはお前のほうだろう!」
「決闘ですわ!」
「ああいいぜ。そのほうが分かりやすい」
とうとう決闘という名の喧嘩に発展した。
「で? どれくらいハンデやったほうがいい?」
「あら、さっそくお願いですの」
「いや、俺がどれくらいハンデつければいいのかと」
途端、クラスに笑い声が響き渡った。私とセシリアさん、あと確か篠ノ之さん以外の女子が笑っていた。その光景を見て織斑君は何で? という顔で周りを見る。
「アハハ、織斑君、本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのってISが出来る前までだよ?」
「もし男と女が戦争したら三日持たないって言われてるんだよ?」
みんな笑っている。苦笑、嘲笑、その他いろいろと織斑一夏の発言を馬鹿にしていた。皆がそろいもそろって男だという理由で彼のことを笑っていた。
「そうですわね、私がハンデをつけなくていいのかと思う所ですわ。日本人の男性はジョークがお上手ですのね。男性が女性に勝っていると」
もう我慢の限界だった。
「馬鹿じゃないの」
「…なんですって」
セシリアの、クラスの目線が私のところに集まる。そんなことは気にせず私は話を進めた。
「さっきから聞いていれば結構なこと言ってたけど、それはISがあればの話でしょ? それにISを使えることしか考えてないけど、ISに関係するすべてにどれほどの男性が関わっているか、ちゃんと考えてことがあるのですか? 女が男より強い? ISがなければそんなこと言えないのにそれでよく候補生になったものですね」
とにかく言いたいことをすべてぶちまけた。もしこのまま反論しないのは“彼ら”の侮辱になると思ったから。
「それとこれは別でしょう!? まったく極東の猿はどうしてこうも」
「イギリスって紳士淑女の人ばかりだと思っていたけどそうでもないんですね」
「な、わたくしのことを侮辱しましたね!」
セシリアは顔を真っ赤にして岸波のことを睨んでいた。貴族である彼女からすれば、淑女ではないという言葉がとても気に入らなかったのだ。そして、無意識にどこかで聞いたような言葉を口にした。
「セシリア・オルコット。代表候補生として振る舞うよりさきに礼儀作法から出直すことです」
「!! 言いましたね! いいでしょう。そこの男と2人そろって後悔させてやりますわ!」
岸波とセシリアの間に見えないながらも火花が散る。穏便に過ごしていこうと決めていた白野の思いは初日で崩れ去った。
「話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、岸波、オルコットはそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
織斑先生の授業を聞きながら岸波は
(う~、落ち着いて穏便に過ごそうと思ったのに、というかなんで私までやる羽目に・・・私のバカバカ!)
そう自分自身を責めていた。
型月信者の人って、食べるものはマーボー豆腐とカレー以外にあるんですかね?
あ、デザートはハーゲンダッツですよね