翌日の山田先生の授業でISについている機能についての話を聞いていた。
「皆さんもご存知だと思いますが、ISは宇宙での作業を想定して作られています。宇宙空間には空気がありませんから、宇宙服だとほんのちょっとの穴が開いただけでも致命的です。ですがISは見ての通り、装甲で全身を覆っているわけではありません―――」
山田先生の話を聞きながらノートを取る。
ISはその機能の一つとして、皮膜装甲というものがある。目には見えないのだが操縦者の周りに不可視のシールドを張ることで、例えなにかにぶつかったとしても今までの宇宙服のように破れることがないため高い安全性が保障される。
だが、それがISが軍事利用される理由の一つでもあった。
「それともう一つ大事なことは、IS、正確にはそのコアには、意識のようなものがあります。操縦者がそのISのことを理解していくに連れ、ISも操縦者のクセや考え方、気持ちなどを理解してくれるんです」
このことを中学のときに知った私はただただ疑問に思うばかりだった。ISコアに意識のようなものが存在する、これはISコアの謎の一つだ。IS《インフィニット・ストラトス》は今では第三世代の試作機ができるほど開発が進んでいるが、いまだに謎が多い機体である。そのあまりの性能ゆえにそれを無視して利用しているが、民間ならまだしも軍事関連においては問題ではないのだろうか? と当初私は疑問に思っていた。それにその謎の塊であるISコアは開発者の篠ノ之束がブラックボックスにしているため解明されていない。
開発者である篠ノ之束自身もそれについて分からないのか、それとも知られてはいけない何かがあるのか。
「どんな競技でも、チームワークはとても重要です。そしてチームワークで重要なのは、チーム全体が分かり合い、一つになることです。そしてISもそのチームの一員であり、皆さんのパートナーなんです」
パートナー・・・
その言葉を聞いたとき、私の心はひどく落ち込んだ。自分でも分からないのになぜかそう思ったのだった。
「ところで織斑。お前の専用機だが、少し待て」
「へ?」
授業を始める前に織斑先生は開口一番に言った。
「織斑、お前の使えるISだが予備機がない」
「え?」
「よって専用機が渡されるそうだ」
専用機が渡される。その言葉に教室にいる生徒はザワザワと騒ぎ始めた。
「せ、専用機!? 国家代表候補生でもないのに!?」
「やっぱり、世界唯一の男のIS操縦者だから・・・」
「政府からの支援があるってこと? それにしても、いいなあ、専用機」
なるほどなと私は思っていた。なにしろISを動かせるという点で彼は唯一の例外だ。女性にしか動かせないという謎を解決するために少しでもデータがほしいのだろう。前に彼の話を聞いたが、ISが動かせると報道された時マスコミが家に押し寄せ、さらには遺伝子科学研究所の人から
『あなたを調べさせてほしい』
と言われたそうだ。丁重に断ったそうだがもし了承していたら今頃彼は生きたままホルマリン漬けに…………いや、考えすぎか。
「専用機もらえるのってそんなにすごいのか?」
織斑君はこの時でも場違いのようなことを言っている。ISの知識は何もないのだろうか。
「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表決定戦、私とあなたとでは勝負は見えていますけど、さすがに私が専用機あなたが訓練機だとフェアではありませんものね!」
セシリアさんが織斑君の前に立ち高らかに演説染みて言っている。というか、いつの間に移動したんですか。
「私はすでに専用機をお持ちですわ。世界にあるISは全部で467機。その中でも全人類60憶いるなかで専用機を渡されることはエリート中のエリートなのですわ!!」
正直に言おう。うるさい。そんなこと言わなくても誰でも(織斑君以外)知っていることを大声で言わなくてもいいのに。しかも、“エリート”という言葉をかなり強調してる。
「まぁ、岸波さんは訓練機ですから私は手加減しますわよ」
「セシリアさん」
「なんでしょうか?この際ですからなんなりと言っt」
「うしろ」
「え?」
白野にしてきされてセシリアは後ろに振り返る。そこには鬼が降臨していた。
「授業中に勝手に席を立つとはいい度胸しているな、セシリア」
「す、すみませ」
「もう遅い」
そしてセシリアに織斑先生の渾身の一撃が炸裂した。
「なあ、白野、ISについて教えてくれないか?」
その日の昼休みに一人で食事をしていたら、そばに篠ノ之さんと織斑君が座りそう言ってきた。篠ノ之さんの顔がなんでか不機嫌になっていた。
「私はそんなにISの知識はないよ? なんで私に?」
「いや、だって白野もセシリアと闘うじゃん」
そういうことですか、と内心ため息をつく。それに私は巻き込まれた側だと思うのですが。
「待て、一夏。それなら私が教えてやる。今日の放課後、剣道場に来い」
「いや箒。俺はISのことを」
「そのほうがいいと思うよ。ISを使うにおいて搭乗者の実力がそのまま反映されるから、知識よりも実戦を積んだほうがいいと思う。いい例が織斑先生だし」
ああなるほどと納得し、岸波の言葉で今日は剣道場で稽古をすることになった。
放課後、剣道場で剣道着と袴に着替えた一夏はあることに気が付いた。
「あれ? 白野は?」
ここにいるはずの岸波白野がいないことに気が付いたのだ。その疑問にすぐ箒が返事を返した。
「岸波の奴なら遅れてくるぞ。なんでも調べなきゃいけないことがあると言っていた」
「へ~」
一体何をしているんだろうな。と思いながら、垂れ、胴、面、籠手をつける。そして立ち上がり何十回か素振りをしてから、既に準備を終えた箒と向き合った。
「構えろ、一夏…始めるぞ」
「お…おう」
2人は向き合い竹刀を構える。見来ていた他生徒の合図で試合が始まった。
自室に戻った白野は部屋に鍵をかけて自分が持ち込んだパソコンを開いきキーボードを走らせていた。彼女が今していることは自己紹介で言った情報収集だ。
「…侵入成功。検索、代表候補生リスト………」
最も皆に自慢できる方法ではないが、と思いながらも彼女の指は止まらず走り続けた。彼女がしているのは情報収集という名のハッキングだ。イギリス政府の軍のコンピュータにハッキングし、セシリア・オルコットの専用機の情報を探っていた。
「…あった」
ハッキングを開始してから数分もかからずにそれを見ける。
「セシリア・オルコット、イギリス代表候補生、専用機は第三世代型IS ブルー・ティアーズ(蒼い雫)、第三世代兵器「BT兵器」のデータをサンプリングするために開発された試作機……」
白野は素早く自身に必要な情報のみを探し出す。それと同時に足跡を残さないこともちゃんとこなす。
「武装は特殊レーザーライフル スターライトMk.Ⅲ、ビット型自立機動兵器 ブルー・ティアーズ…性能上はレーザーを曲げる
その他に近接用ブレードがあったがこれは非常用の可能性があったのであまり追及しなかった。そして、パソコンの電源を落とし白野は剣道場へ足を向けた。
「どういうことだ!」
剣道場の扉を開いたとき最初に聞こえた声がそれだった。見ると篠ノ之さんが織斑君に怒鳴っている。
「…なにがあったの?」
「あ、岸波さん。実は――」
見物していた生徒の話を聞くと、篠ノ之さんと織斑君が試合したのだが篠ノ之さんの独壇場で終わったらしい。
「どうしてそこまで弱くなっている!? 中学は何部に所属していた!?」
「帰宅部! 3年連続皆勤賞!」
(……これはIS以前の問題かもしれない)
一夏を見ながら白野はそう思った。ISを動かすにおいて自身の運動量も重要になるが、これでは動かすだけで終わるかもしれない。
「鍛え直す! IS以前の問題だ。これから放課後3時間みっちり稽古をつけてやるからな!」
篠ノ之さんの決定に反論できない一夏なのだった。
「ごめんね遅くなって」
「ん? ああ、白野か。用事は済んだのか?」
「うん。まあ一応」
自分の犯罪染みたことを言えるはずもなく、それとなく返事をする。
「お前もやるか?」
「本業は弓道だからお手柔らかにお願いします。少し待ってて」
「一夏は休んでおけ。終わったら稽古を始めるからな」
「…分かった」
白野が着替えている間、2人は少しの休憩に入った。一夏は先ほどの箒との試合で疲れたのかゼェゼェと息を切らしている。
「しかし、ここまで弱くなっているとは思わなかったぞ」
「仕方ないだろ。こっちの勝手だろ?」
2人は会話するがそこに外野からの声が聞こえてくる。
「織斑君て、結構弱い?」
「代表決定戦大丈夫かな~?」
「うっ…」
外野からの言葉にぐさりと少しだけ落ち込む一夏。
「まったく、お前が不甲斐ないからだ」
「少しは優しく言ってくれよ、箒」
「ふん」
そんなこんなで待つこと数分後、白野が着替え終えて更衣室から出てきた。そのまま素振りを始める。
「動きがきれいだな。剣道をしていたことがあるのか?」
「弓道部に入っていたけど、少しだけかじったことが」
「よし、じゃあ始めるぞ。一夏、合図を」
「おう」
白野と篠ノ之が竹刀を構え向き合う。
「始め!」
一夏の言葉で試合が始まった。
結論から言って、私は負けました。私の付け焼刃のような実力では去年の全国大会優勝者である篠ノ之さんに勝てるはずありません。
「だがいい太刀筋をしていた。少なくともいまの一夏よりははるかにましだ」
「いや、篠ノ之さんそれはさすがに言いすぎじゃ」
まさかここまで褒められるとは思わなかった。そして織斑君のほうは
「弓道部の人以下の実力って…」
かなり落ち込んでいた。
「よし、じゃあ一夏! 稽古を始めるぞ」
「ちょっと待って篠ノ之さん。少し伝えなきゃいけないことがあるの」
「なんだ? 伝えたいことって」
「セシリアさんの専用機の情報について…といえば分かる?」
その一言で2人は静かになった。なにせ1週間後に戦う相手の情報だ。気になるのは当然である。
「もしかして、調べものはそれだったのか?」
「そ、相手の情報があったほうが少しは対策できるでしょ」
少しだけ微笑みかける。他人から見ると少しだけ小悪魔染みた顔だったとか。私はハッキングして分かったことを知られないようにして2人に話した。
「それでなにが分かったんだ?」
「うん。まずセシリアさんの専用機は第三世代、遠・中距離射撃型のISらしい。あとこれはどんなものか分からないけど特殊武装があるみたい。たぶん射撃に関係したものだと思う」
「その特殊武装はおそらくイメージ・インターフェイス搭載のものだな。分からないのが痛いが厄介なものに変わりはない」
私が言ったことに篠ノ之さんは自分なりの分析を口にする。だがそれについていけない人が1人。
「すまん…イメージ・インターフェイスってなんだ?」
「はぁ、イメージ・インターフェイスとは操縦者の思考、イメージに合わせて動かす第三世代型ISの武装の一つだ」
「まだ実験段階の域を出てないけどね」
箒を白野の言葉に理解……たぶん理解した一夏だった。
「とりあえず、セシリアさんは射撃専門だからそれを考慮したほうがいいと思う」
「でもどうすんだよ。射撃の対策って分からないぞ」
一夏の言葉にすこしだけ考える。銃を人に向けるわけにはいかないし、弓道でやるのも危ない。
「それは私に任せてくれないか」
「?」
「なにか方法があるのか?」
篠ノ之さんが何か思いついたようだ。
「剣道だからこれしか思いつかないのだが…」
篠ノ之さんは考えた方法を二人に言う。
後日、稽古に取り入れてやることになり一夏の生傷が増えることになった。