インフィニット・ストラトス その選択の果てに 作:ウォーリー
現在も執筆リハビリ継続中。
安定した更新スピードが欲しい。
一夏が誘拐されてから三週間が経とうとした頃。
あれからで二週間ほどで退院した一夏。その回復力に医師は舌を巻くほどであった。
退院できたことには一夏は安堵していた。姉である千冬は毎日、見舞いに訪れてかなりの負担をかけてしまった。それも退院したことで幾分かは減るだろう。
ちなみに一夏が入院していた期間、千冬はある性格等に問題有りの友人宅にお世話になっていた。大層不服そうであったが…
退院してから学校も夏休みに入るとすぐ、楯無に連絡を取った。もちろん楯無に鍛えてもらうためである。
そうして現在、自宅から指定された場所へ歩を進めている最中であった。
一夏が入院している間に大きな事件があった。白騎士事件である。あの時は日本をはじめ世界中が混乱に陥った。今はそれが嘘のように世界は、今まで通りの日常を取り戻していた。変わったといえばISの登場である。日本を救い、世界各地で圧倒的な力をみせたIS。その存在が世界を激変させるものであろうことは多くの人が予感した。
一夏もISには興味をもった。 白騎士事件の時、TVでISの活躍を見ていた一夏。その姿はまさしくヒーローであった。しかし、ISよりも間近で見た楯無の活躍の方が印象強かった。その楯無に鍛えてもらうことで一夏の頭はいっぱいだった。
(そういえば、束さんがIS開発したんだっけ。前に見せてもらったよな。最近千冬姉が忙しいのもそのせいかな?)
白騎士事件後に開発者である篠ノ之束が大々的にISを発表。瞬く間に注目を集めることとなった。何故かは知らないが姉の千冬もその時期から多忙になっているようだった。
そんなことを考えながら指定された場所に着くと、楯無が車で待っていた。
簡単なあいさつを済まし乗車する。外の景色が見えない作りの車。
安全面などを兼ねてのことだと楯無は話す。
車で揺られること1時間は経って目的地たどり着いた。
でかい、一夏の感想はそれに尽きた。
一夏の住む家の何倍かと思う楯無の家。更識の家は同業と比べれば歴史は浅いと言われているが、それでも旧家といえる歴史を持っていた。
現代ではあまり見かけない武家屋敷。現代の日本の家の様式に慣れ切った一夏には物珍しかった。
楯無に此処で待っていてくれと客間と思われる部屋に案内された一夏。
おとなしく待っていると、突然後ろから声を掛けられた。
「ふーん、君が簪ちゃんの言っていた男の子ね」
一夏が振り向くと少女が一人。少女は顔立ちや髪や目の色は簪に似ていた。しかし纏う雰囲気は違っていた。簪が内向的なら目の前の少女は正反対の印象。
「えっと、誰…ですか?」
「簪ちゃんの姉の刀奈よ。よろしくね、一夏君」
「あ、よろしくです」
握手を求めてきた刀奈。目の前の人懐っこい様を見るとやはり簪とは別人だと一夏は思った。
「んふふ、聞いてるわよ、君の活躍。簪ちゃんを助けてくれてありがとうね」
「えっと、助けたのは楯無さんで、俺なんて……痛っ」
一夏は何もしてないと言いかけるが、扇子で頭を叩かれていた。
「こら駄目よ、一夏君。人の感謝は素直に受け取りなさい」
「は、はい」
押し切られる形で返事をする一夏。自分の姉とは違ったタイプで、何だか逆らえない不思議な雰囲気を刀奈は出していた。そんな時に部屋の入り口からひと声。
「あ、お姉ちゃん。先に一夏の所に行くなんて」
簪が刀奈にジト目をむけ立ちつくしていた。どうやら刀奈が抜け駆けをした様子であった。
「先に御礼を言いに来ただけよ。それに簪ちゃんも一夏君に言いたいことがあるんでしょ」
ふふふ、とあっけらかんとした態度の刀奈。
「ほら、こっちきてちゃんと言わなきゃ」
「う、うん」
刀奈の手招きに一夏の前へと移動する簪。目の前に来て一呼吸。
「……一夏、ありがとう。あの時、助けてくれて」
「あ、あぁ、うん。」
感謝して頭を下げている簪の後ろでは刀奈がほら、しっかり受け取りなさいと睨みを利かしている。一夏も先ほどのやり取りもあって素直に受けかえす。
しかし、刀奈は二人の状況を見て、何か思いついたのかわずかながら笑みを浮かべた。
「で、助けてもらった簪ちゃんはご褒美に何をあげるのかなぁ~?」
「ご、ご褒美って。え、えっと…」
いきなりのことに簪は焦ってしまう。
「ほらほら────してあげるのよ」
「ぇええ、無理だよぉ」
何やら簪に吹き込んでいる刀奈。見た限りをからかっている。しかし当の簪はあたふたするだけ。
止めるべきかどうか一夏が決めかねている間に楯無が戻ってきた。
「こらこら刀奈、そう簪を困らしてはいけないよ」
「あっ、ごめんなさい父さま。簪ちゃん、冗談よ、冗談」
父親である楯無に注意されて流石に調子に乗りすぎたと刀奈は反省し、すぐに簪に許しを請う。
「うー、お姉ちゃんのイジワル」
「ごめんね、簪ちゃん。この通りね」
姉の悪戯に若干ご立腹の簪とヘコヘコと頭を下げる刀奈。そんな二人の姿を見て微笑ましく感じた一夏。
「簪が一夏君お礼を言ったようだから本題に入ろうか。二人ともちょっと離れてもらえるかい」
「はい、父さま」
「はい、お父さん」
楯無に言われ、部屋を出ていく二人。じゃあ、また後でと去り際に一夏に一言。
「ふう、刀奈に何か悪戯されなかったかい。事あるごとに何かしでかす性格でね。妻とそっくりだ」
一夏の正面に腰を下ろす楯無。さて、と一息入れてから、場の雰囲気が変わる。一夏もそれに気づき、自然と背筋を伸ばす。お互いに表情もこわばったものになる。
「一夏くん。前に鍛えてもらいたいといったね。今もその気持ちに変わりないかい?」
「…変わらないです。何もできずに後悔したくないんです」
以前と変わらない意思を示す一夏。楯無の表情は変わらず、一夏を見据える。
「そうか、最初に言っておくよ。守るための強さは単純に力だけではないからね。力だけではただの暴力だ。もし君が単純な力を安易に求めているなら、僕はすぐに君をここから追い出す」
楯無の言葉に重みが増した。さらには殺気を籠めて一夏に話しかけている。
一夏は手に力が入り、汗も拭きだす。今にも逃げ出したいほどであった。それでも、守れる強さを得たい。そのために逃げ出すわけにいかない一心で、楯無と向き合っていた。
「力を得るなら、その力を使うなら覚えてほしい。力を持つ者にはそれ相応の責任が伴うことを。力をむやみに使い、人を傷つけることは簡単だからね。そして、誰かを守りたいと思うならその心を、信念を持ち続けるんだ。そうすれば本当に正しい強さも得られるはずだから」
「……本当の、強さ」
楯無は話を続ける。
「そして、君にはその強さを持つ資格があると僕は思う。君があの時に簪のために動いたのも一つの強さなんだ。誰かを守ろうとする優しい心、そしてそれを為す勇気もある。」
楯無は一夏の胸を指さす。
「だから無くさないでほしい。その優しさを。わかったかい」
「はい!」
「いい返事だ。すまなかったね。君が本気で望んでいることなのか試したんだ。これからビシバシ鍛えていくからそのつもりでね」
パンパンと手を叩く。今までの重い空気から解放されて一夏はホッとした。
「それと、これからだけど、良かったら家に来ないかい。その方が時間をかけて鍛えられるからね」
ちょうど、今の時期は夏休みだからね。と付け加える楯無。
「はい、是非!お願いします」
ほぼ、即決で答えていた。一夏にとってもその提案は魅力的だったからだ。
「なら、決まりだ。二人とももう部屋に入ってきてもいいよ」
楯無が部屋の外へと声を掛けると、刀奈と簪が部屋に入ってくる。二人は部屋の前で待っていたようだった。
「これから一夏くんは家に泊まるのね。よかったわね、簪ちゃん。これからは一緒よ!」
「うう、一夏と、一緒…」
簪は少し恥ずかしくなっているのか顔が赤い。
「じゃあ、一夏君。これから私のことは姉だと思ってね」
「一夏…、これからよろしくね」
「よろしく!」
三人の姿を楯無は微笑ましく思う一方で苦々しい思いもあった。
(全く、大人の勝手な思惑に巻き込みたくはないんだけどね…)
実際、あっさりと一夏の頼みを承諾できたのは当初の楯無の考えとは別の思惑が働いていたことが大きかった。
インフィニット・ストラトス─通称IS─が世に出てからあらゆる機関がその存在を調べていた。すぐに篠ノ之束という人物がISを開発したことが判明された。さらに身辺を調べ上げていくうちに織斑姉弟の存在も浮かびあがっていた。身内以外の人間に対して無関心、人付き合いが良いとは言えない篠ノ之束が肉親以外に接点のある姉弟。各機関が無視することは出来なかった。どこかの勢力がISの技術を欲して、篠ノ之束と関係が深い織斑姉弟を狙うとも考えられた。
今回の一夏の申し出は実は更識家としては渡りに船だった。織斑一夏との関係は築くのは、篠ノ之束とのパイプ役としても、今や重要人物となった織斑姉弟の警護という意味でもだ。こちらで保護という形にしておけば、姉弟にも手を出しづらい状況になるだろう。
(護衛なら敷杜の管轄なんけどね。それに政府関係にも連絡しないといけないし)
このまま事を運べば、同業との軋轢を生みかねない。それほどまでに今回の事は重大なものであった。
自身の事なかれ主義が招いたことだと、楯無は溜息を吐く。
これから先、世界は変わるだろう。ISの登場によって。それがどのような結果を生むのか、今の時点では憶測の域を出ることはないだろう。
だが、楯無は予感していた。これから確実に何かが起きる。とてつもない何かが。
特殊な家業に長年就いていたからか、そう判断していた。
そして彼─織斑一夏はその渦中に巻き込まれるだろう。本人の意思と関係なく。
だから、自分は自分の役割を果たしていこうと思う楯無。
今は織斑一夏という少年を誤った道に行かせないように導いていけるように。正しく強さを持てるように。
(それでも本当は何ごとも起きない方がいいんだけどね)
自分の勘など外れてほしい、楯無はそう願わずにはいられなかった。