インフィニット・ストラトス その選択の果てに 作:ウォーリー
申し訳ないと思いつつ、ゆっくりと書いていきます。
楯無の家に住むことを勝手に決めた一夏であったが、これには姉の千冬は頭を痛めた。誘拐事件の折に、ことの顛末を楯無から聞いて更識家の事情を知ってはいる。彼女としては、一夏には危険と隣り合わせになるような世界に足を踏み入れてほしくはなかった。
当然、彼女は一夏の決めた事に反対した。しかし、一夏の意思は固く、説得することは出来なかった。そこで、楯無に連絡を取り、今回の事で話を設けることにしたのだった。
───更識家の客間
楯無と対面する千冬の表情は硬い。
「一夏君から話は聞いていると思う。千冬さんとしてはそれを止めさせにきた、そうだね?」
「その通りです。一夏を預かることはやめていただきたい。一夏から言い始めたことなのはわかっています。ですが、お願いします」
頭を下げる千冬。しかし、楯無もそう断るわけにはいかない理由がある。
「うん、千冬さんの言いたいことも分かる。だけど、今は君たち姉弟の立場が危うい状況なんだ。理由はわかるね。君の友人である篠ノ之束さんの存在だ」
「……はい。それは、わかっています」
千冬の脳裏には傍若無人な友人の姿が浮かんでいた。その彼女が止む無くとはいえ引き起こしたことが、彼女の周りに危険を招いていることも、千冬は理解していた。
「そして、彼女の開発したISは知っているはずだ。全世界にISの力を見せたことで彼女は世界中で注目の的だ。いい意味でも悪い意味でもだ。日本としても彼女を無下に扱うことは出来ないからね。篠ノ之家とその周辺には当然護衛が配置されている」
篠ノ之束がISを開発したことが判明し、本人もそれを世界に発信したことから世界的に最も重要人物となった現在。日本政府としては要人として彼女とその周囲を扱わざるを得なくなった。当然のことながら警察関係者の護衛が配備され、その他にも護衛を生業とする敷杜家などが周囲を警護している。さらには対内外の問題の対処に外事課など警察庁警備局や公安調査庁、情報収集を生業とする祇鏡家が動いていた。
「そして、彼女とその周囲の調査で浮上してきたのが君たち姉弟だ。篠ノ之束の身内以外の人間に対して無関心といった人となり。そんな彼女と親しい関係にある姉弟。それを狙おうとする者たちが出てくることは容易に想像できる」
篠ノ之束自身やその親族を狙うことはもちろんのこと、織斑姉弟を人質に取ることで篠ノ之束を脅すような行動を起こすことも十分考えられる。それほどまでにISの技術は魅力的なものであった。
「世界中の諜報機関、犯罪組織などが今回の事で動き出している。もちろん、周りに護衛を配置したりして、今まで通りの生活もできるように尽力しよう。それでも限界はある」
「…………」
「だから僕たち、更識家に来てほしい。そうすれば、どこの機関や組織だろうと迂闊に手を出しづらくなるからね。」
楯無の言葉に千冬は黙ったまま聞き続ける。だが内心ではどのように決めかねていた。友人である束から受け取ったものを使えば障害など振り払えるだろう。もしもの事態が起こったとしても…………が使える。 だが、一夏は自分の様に身を守る手段がない。
提案を受けるか受けないか。一夏のためと思えばどちらが最善なのか。
千冬は考え込んでしまう。
そんな中、千冬の考えを読み取ったのか楯無が話を切り出す。
「僕個人としては、一夏君の願いを汲みとれればいいと思っている。そして君たちも保護という名目じゃなく、君も含めて僕のところにきてほしい。」
「それは、………どうしてですか。貴方たちの争いに巻き込んだ罪滅ぼしですか?」
「罪滅ぼし…か。確かにそうかもしれない。一夏君をこちら側に巻き込んだ。そうして、彼が強さを求めてしまうきっかけを作ってしまった」
はっきり千冬にはっきりと言われてしまえば、その通りだった。
更識楯無が織斑一夏に肩入れするのは、本来ならば関わりない世界に巻き込んだから。
それは楯無自身一番自覚している。だからこそ、楯無には責任がある。織斑一夏という少年の人生を狂わせてしまった償いが。
「守るために強くなりたいと思う気持ち、それは尊いものだ。しかし、彼はそのことに酷く囚われている。もし僕が鍛えることを拒否しても、別の方法を見つけてでも強くなろうとするだろう」
一夏の思いは直接聞いている。彼は考えを変えることはないだろうとも楯無は感じていた。
「だからこそ、彼を誤った道に陥らないように、力に溺れないように導く。それが僕の贖罪であり、責任だと思っている」
楯無は千冬に頭を下げる。それは更識家の当主として、一個人としても彼女には誠意を見せなければならないという楯無の実直な考えかたゆえの行動だった。
「千冬さん、あなたには本当に申し訳ないと思っている。だがその上で、一夏君そして君を向かい入れさせてくれ」
楯無を見据える千冬は厳しい表情のままである。
沈黙が部屋を支配する。
幾ばくかの間をあいてその沈黙を破ったのは千冬だった。
「例え、私が何かしたところで、一夏を止めることは出来ないでしょう。だから一夏にもしものことがあった時は……、私が持てる全て使ってあなた方を潰します」
「もちろん、護衛も兼ねて預かる以上こちらも最大限尽力する」
千冬の出した答えは楯無の提案を受け入れることだった。
「よろしく、お願いします」
深く頭を下げる千冬。
かくして織斑姉弟は更識家にお世話になることになった。
更識家の人たちが手伝ったおかげで、必要なものを更識の家に運び入れることはできた。
織斑家は留守の間は監視をつけるように楯無が手配している。
「何もかもお世話になってすいません」
「いや、これぐらいは容易いことだよ。これからは自分の家だと思って使うといい」
礼を述べる千冬に対して当然のことだという楯無。
ちなみに、千冬は更識家の面々ともすでに挨拶を済ませている。その際、ブラコン気質を出してしまったのだが、それは別の機会に。
一方、一夏はというと体力づくりに勤しんでいた。刀奈と簪は一夏のお目付け役として一緒に付いてくれた。一夏は体力に多少の自信があったが、課せられたトレーニングは予想以上のものだった。今は、ランニングを行っている最中であった。一夏は息が上がりそうになっているが、二人の姉妹は全く疲れも見せず涼しい顔をしている。
「体力には、ぜぇ、自信あったん、だけどな」
「あらあら、私たちはもうこれぐらい朝飯前だからね。頑張りなさい男の子なんだから」
「一夏、頑張って」
「ぐっ、……まだ、やれるぞ」
刀奈はともかく簪に体力面で負けるとは一夏は予想外であった。見かけによらず、伊達に暗部の家系ではないということか。
一夏は疲労を感じながらも、二人の鼓舞もあり、ちっぽけなプライドで何とか体を動かした。
「でもすごいわね。一夏君。普通私たちぐらいの年だと音をあげるぐらいにはきついんだけどね。うかうかしてると、私たちも追い抜かれちゃうわね」
「うん、負けてられない」
「…はぁ、そんな、平気そうな顔で、言われ、てもな」
息を切らせながらも、トレーニングについていく一夏に刀奈は感心し、簪は負けていられないと意気込む。
楯無は一夏に基礎的な体力づくりを課していた。一夏の年齢の体に負担を掛けないように。それでも同年代からみれば、かなりの運動量を課し、ついてこれる一夏の様子を聞いた楯無はさらに一夏に量を増やすことになるのだった。
ちなみに一夏は、更識家の料理を手伝うことになった。お世話になっているのでせめて家事を手伝おうとし、更識家の者は快く受け入れた。以前から姉の千冬のためにご飯を作っていた一夏である。彼の同年齢の子では考えられないほどの料理の腕前を持っていた。そんな一夏の料理を食べた更識家女性陣はというと…
「くっ、負けた感じがするわね、年下の男の子でこんなに料理がうまいなんて」
「……おいしい」
「これは、流石に負けますね」
「もぐもぐ、うーまーいーぞー」
更識家の女性陣(一人を除き)はその事に危機感を覚えたのか、料理を教わり始めたとか。