インフィニット・ストラトス その選択の果てに 作:ウォーリー
ゆっくりとですが進めていきたいと思います。
──某日、都内
楯無は東京都内にある料亭へと赴いていた。案内された部屋は20人程が入れる大部屋であった。すでに部屋には何人も集まっていた。
「お役人方と暗部の面々がこれほど揃う機会とは、事態はかなり深刻なようだ」
「全く、何を分かり切ったことを」
楯無が席に座り、彼の言葉に答えたのは護衛を生業とする暗部、敷杜家当主の
防諜の更識、情報収集の祇鏡、情報統制の拭賀谷、護衛の敷杜の四家は国と非常に関わりがある暗部として繋がりは深い。楯無と佳護も当然周知の仲であった。
役人にも楯無の知った顔がいくつかあった。公安関係、各省庁情報部関係といった者たち。そして彼らとは対照的に明らかに異質な存在感を放つものが数人─暗部に属するあるいはその当主たち。
(外事〈警察庁警備部外事課〉や公調〈公安調査庁〉、自衛隊情報部隊関係といったところか。そうそうたる顔ぶれだな。)
どの所属にしても日本という国家の裏に暗躍する者たちである。諜報組織の連絡会議は定期的に行っているが、今回はそれとは違い、緊急的に招集されたものだった。しかも、何人かは現場指揮官以上の立場の顔も揃っていることから、事態の深刻さが窺えた。
全員が集まったことを見計らってか、男が立ち上がる。長身の痩せ型、眼鏡を通した目は鋭い。いかにも役人の風貌であった。
「内閣情報調査官の
煩わしいとは思いますがご容赦ください。と根津の言葉に続き、その場にいた者たちはそれぞれの所属する部署といった挨拶を行う。暗部に所属している者は大層面倒であることを隠さずに適当に済ませていた。形式的な挨拶が終えたところで根津は本題へと話を進めた。
「白騎士事件、これにより現在、わが国は最悪の危機に陥っています。もはや一刻の猶予もない。対外関係を拗らせれば、間違いなく戦争になります」
「戦後最大の危機か。これまでの外交云々で保たれてきたものが一瞬で水の泡だな」
長年続く外国との数々の問題。ISの出現は、それらを一層泥沼化させ、収拾がつかないものにした。IS登場以前、外交で他国が強硬的な姿勢を見せる中で、日本は綱渡りで何とか対外関係を維持してきた。それこそ、日本という国の存続のために諜報組織や暗部が合法、非合法手段を問わず尽力してきた。
「米国は安全保障体制をいいことに情報開示を迫ってきている。かの国をはじめとした大国も早急に技術開示を求めている状況です。それ以外の国々も静観しているものの、時間の問題でしょう。すでに手荒な手段を取る者も出る始末です。外事や更識、敷杜のおかげで被害は最小限なものに収まっていますが…」
「現在わかっているだけでも、米、中、露、欧州の国々と世界中の諜報員、工作員がこの国に続々と入っている。彼ら以外にも、テロ情勢は進行しているのだ。現在、わが国は予断を許さない状況と断言していい」
根津の言葉に続き、外事課の男が言及する。
白騎士事件以降、世界各国が外交ルートでの圧力を掛ける一方で、情報機関による作戦行動も増加の一途をたどっていた。さらに日本を脅かす重大なテロの脅威が高まりつつあるのが現状だった。
すでに功を焦った者たちは、篠ノ之束もしくは彼女に近しい者たちの誘拐や脅迫といった強引な手段に出ていた。しかし、外事を中心とする公安や更識はすでに何件もの事件を水際で防いでいる現状であった。
それらの目的は全て、ISの技術を得るためであった。登場から僅かな間に世界に恐るべき性能を見せつけたこともあり、各国政府どころか、犯罪組織すらその技術を欲し、行動を起こしつつある。
「その上、各国も対応に苦慮しているのが現状。加えて、テロの危険も増える一方。長引けば日本にとって不利になるばかりだな」
「そこで、緊急での国際会議の場を設けることになります。むろん、篠ノ之束氏にも出席してもらいます」
「彼女がそれに快く了承するのか? 」
「すでに、彼女からも公の場、それも全世界規模での発言の場が欲しいとのことです」
問いかけられた言葉に根津は答える。その答えに何人かが反応する。いずれも條ノ之束の人となりを知る者たちであり、まさか彼女から接触があったことに少なからず驚きを感じていた。
だが、今回の事態の収拾を図るため、国際会議が望ましいと考えられた中で、開発者である篠ノ之束の提案は渡りに船であった。すでに、極秘裏に各国に向け、日本における国際会議を行うこと連絡し、承諾まで託けている。この場で知らなかった者もいた事から、相当内密かつ迅速に行われたことが伺える。
「はっ、一人にこうも振り回されるようじゃあ、おめぇさん方も耄碌したもんだなぁ」
「彼女を舐めない方が賢明だぞ。あれは気配を消しているこちらの護衛にも気付いている。はっきり言って底知れないぞ、彼女は」
「そして一個人が持つには大きすぎる力を持っている。それも、年端のいかない少女がだ」
暗部の一人が篠ノ之束を見くびった発言に対して佳護と楯無は一蹴する。佳護は比較的近い距離で彼女の護衛を任されたが故に気付いた彼女の特異性故に。楯無は一人の少女がISという強大な力を振るうことができる、その危険性故に。後者の考えはこの場の多くの者が持つ認識であった。
「そして今回、日本における世界会議、その後の情勢安定までの間、各機関、組織が協力体制を取ることになります。これは官邸や“会議”でも決定したことです」
根津の言葉にその場にいた多くの者が少なからず驚愕を覚えていた。日本には多くの情報機関が存在する。本来、諜報機関というものは独自に動いているため、他の機関とは一定の情報共有や連携などの利害関係しかなかった。むしろ、牽制する関係ですらあるのだ。ただ共通することは国の為に存在するということだけ。
だが、白騎士事件から現在までの世界情勢、そして日本で開催する国際会議をきっかけに大規模な協力体制を築くことは前代未聞のことだった。国の最高意思決定機関の後押し、過去に例を見ない事態、その場の誰もがことの重大性を再認識することとなった。しかし、それを理解しつつも賛同しない者たちもいた。
「しかし此度の件、我らには関係のないこと故、干渉しないことでよろしいかな? 」
「俺も面倒ごとは勘弁だ」
暗部の一人が発言し、何人かがそれに続く。各省庁に所属する何人かがその発言に対して、眉をしかめる。
更識家などの比較的、政府との関わりが強い暗部もある一方でそれは例外だった。本来、暗部は完全なアウトローというべき立場、諜報組織や政府において彼らは不要な接触を避けるべき対象であった。それでも、この場に応じた彼らはまだ暗部の中でも話が通じるぐらいに稀有な存在でもあった。
だが、彼らもただ単に拒否をしたわけではない。下手に敵対的な行動を取れば、日本の各諜報機関全てを敵に回すことになり、それがどういう事に繋がるかは理解していた。
また、国家に属する者たちにとっては彼らの発言は不躾なものであった。激昂したものはいなかったものの、腹の内では彼らに対する苛立ちや罵倒の言葉の一つぐらいは秘めているに違いない。それに対し、暗部は相手になるというのか不敵な笑みを浮かべる者、気にもしない者と様々であった。奇妙な緊張感がその場を支配しようとした時、根津が話を切り出す。
「無論、貴方がた、暗部全てがこの件に協力するとは思っていません。肝心なのはお互いに落としどころをつけて欲しいだけです。こんな時ですからね、厄介ごとは極力抑えておきたい」
「つまり、私たちのような暗部はこの件に関して妨害するような行動をしないと、これでよろしいかな? 」
「ええ、その通りです。我々はあなた方と事を構えないようにします。今回の案件に関してね」
「はっ、邪魔ものは引っ込んでろか。俺やここにいる奴らがそれを呑んでも、この場にいない奴のほうが多い。そいつらはどうするつもりだ」
「それを起こさないために我々がいるんですよ」
そういって根津は不敵に笑う。その受け答えに対して、呆気を取られたのか暗部の男は軽く笑う。だが、それだけの自信をみせる根津に対して何か思うことがあったのか、それ以上追及はしなかった。
その後も会議は続き、暗部との落としどころをつけながらの調整を続けた。もっとも、協力体制といっても現場レベルの協力体制で動くのは警察庁警備課、警視庁公安部を中心としたいくつかの諜報組織であり、ほとんどが各組織の不要な衝突を避けるといった規約関係にとどまることになった。
(やれやれ、ひと波乱どころでは済まないな。日本どころか世界を巻き込んだ大ごとじゃないか。)
楯無はこれから続くISを巡る動乱、それに今後関わる自らの娘たち、そして織斑姉弟に思いを馳せた。