インフィニット・ストラトス その選択の果てに 作:ウォーリー
9月25日ISの性能、欠点を追加
更識家にある道場から響いてくる甲高い音。楯無と千冬が手合わせを行っていた。
お互いが牽制を繰り返し、木刀を打ち合うその光景は見る者を魅了する域に完成されていた。
「やるね、千冬さん。君ぐらいの年代でここまでの技量、大したものだ」
「楯無さんこそ、凄まじい腕ですよ。私はまだまだ、若輩です」
「これは仕事柄、否応なしに鍛えられたものだからね。謙遜しなくていいよ。純粋に培った君の技量は素晴らしいものだ」
双方が間合いを取り、息を整えながらお互い笑みを浮かべて会話をする二人。
「それじゃあ、ペースを上げてみようか」
「そうですね」
その途端、空気が変わった。少なくともその場にいた全員が感じていた。二人は共に正眼の構えを取る。その場を静寂が支配する。
音が鳴った。果たしてどちらが先に踏み込んだろうか。一瞬で二人はお互いの間を詰め、お互いの剣が打ち込んでいた。片方が仕掛ければ、もう一方が受ける、躱す。互いに攻防を繰り返し、剣戟は続いていた。
「手加減はしてるけど、父さまとあれだけ打ち合えるなんて」
「…千冬さんも凄いね、一夏」
「千冬姉ぇ、剣の腕なら今まで負けなしだから、って二人ともあれ普通に見えてるのか…」
二人の稽古に魅入っていた刀奈、簪、一夏は各々思った事を口にする。楯無の実力を知る姉妹は驚嘆や賛辞を。一夏は姉の実力を誇る言葉の裏でその強さに憧れも感じていた。
また、一夏は二人の稽古の凄まじさに目で追うのがやっとだったが、目の前にいる姉妹二人には苦もなく見えているようだった。姉妹そろって慣れで見えるよと言っていたのは、さすがに鍛えられてるなと思うしかなかった。
「でも、一夏君は、まだまだね」
「……すぐに追いついてやる」
「ふふ、まだ負けてられないわ、でも頑張る姿勢は素敵よ」
楯無と千冬が木刀による稽古をしていた一方で、一夏と刀奈、簪は交代で組手を取っていた。姉と一緒に通っていた道場では、剣以外でも無手の古武術も教わっていた一夏。その甲斐あって、姉妹との組み手も中々に様になっていた。
刀奈は余裕の表情を浮かべて入るが、内心ではいつ追い抜かれてもおかしくないと思っていた。この組み手の最中、一夏に何度か一本を取られそうになった。実践的な訓練を受けた刀奈相手に、無手も習った経験があるとはいえ、一夏の筋は目を見張るものがあった。
「よし、もう一回だ」
「さぁ、いつでも来ていいわよ」
立ち上がり、再戦に挑む一夏。刀奈もそれに答える形で向かい合い、双方は構えを取る。
一夏は正眼に構え。一方の刀奈は構えという構えはしていなかった。ただ構えを取る一夏を見据え立ちつくす。しかし、一夏は油断できなかった。未だ目の前の少女に対し、白星をあげることができていないのだ。
「───っシ」
踏み込み、刀奈へと接近しその勢いをのせての打撃─いわゆる正拳突き─を繰り出す。
だが、刀奈はその一撃は払うことで最小限に受け流し、掌底。一夏も受け流すことは承知し、上半身を後ろにそることにより回避し、攻勢を続ける。右からの打撃から下突き、裏拳、掌底と複合技から足払い。しかし、刀奈はその攻撃を受け流し続け、足払いに対しても後退し対処する。
「っ、また」
「まだまだ、まっすぐな攻撃ね。次の手がバレバレ」
「──っう、そういわれても」
お互いに距離をとる。そして、今の動きを刀奈に指摘され、一夏はバツを悪い表情を浮かべる。
「基本をしっかりと叩き込まれてるのは、私でもわかる。それに君の性格もあってわかりやすいの、はっきり言ってね」
それはけして悪いことではないけどねと刀奈は付け加える。
「後々修正していけばいいことだから、今はもっと自由にやってみればいいんじゃない。型は気にせずにね」
「もっと自由に、か……」
一夏は深く息を吸い、呼吸を整えた。高ぶった感情を、意識を鎮めていく。純粋に目の前の彼女と戦うことに、体を突き動かすことだけに意識を突き詰める。
一方の刀奈も飄々とした態度を崩さなかったが、目の前にいる一夏の攻撃に対処は怠らない。
「───────。」
「ふふ、いい調子になってきたじゃない」
変わった。少なくとも刀奈はそう感じた。
一撃が鋭いだけではなく搦め手を入れ始めてきた。無論、刀奈も感心するばかりに気を取られずに攻撃を躱し、自らも打撃を放つ。攻防を繰り返す二人の表情は見るからに楽しそうな笑みであった。
(でも、言葉一つでコレなら、怖いぐらいね。飲み込みが早いってレベルじゃない。どういう鍛え方したらそうなるのかしらね……)
組手の最中、一夏の飲み込み具合にふと疑問を持った刀奈。しかし、組手の楽しさにその疑問は頭から抜け落ちていたのだった。
組手が一区切り終わり、一夏は床に寝そべっていた。
「結構いい線いってたわよ。やればできるじゃない」
「綺麗にコンボを食らった後に、褒められてもなぁ……」
「こらこら、重要なのは組手で勝つことじゃなくて、強くなること。目的をはき違えてはダメよ」
「……お姉ちゃんと一夏、楽しそう……」
「あっ、……ごめんなさい。簪ちゃん、次は私とやりましょ」
二人の空間になっているのを、傍から見ていた簪が不貞腐れ気味に呟く。
とっさに刀奈は謝罪する。先ほどまでの一夏との組手の疲れもなんのその、すぐに対応するところは妹思いなのが見て取れた。
一方で、一夏たちの組み手の顛末を見守りながら、楯無と千冬は打ち合いを続けていた。
「ところで、千冬さん。君はどう思ってるのかな。今回の友人の篠ノ乃束さんの行ったことは」
「友人というより腐れ縁といったほうがいいかもしれませんが……。ISのことは詳しくは教えられていませんし…何とも言えませんが、今回のことはやりすぎだと思っています」
打ち合いを続ける中、世間話をするように楯無が篠ノ乃束の行いについての意見を聞く。千冬はそれに対し表情が暗くなりつつも答える。
「……ですが、束も何か考えがあって行動したと思います。いつも唐突に何かし始めて、迷惑をかけて、人の言うことを聞かない奴ですが……。それでも今回のことはいつもの行動とは違った感じでした」
「そうか、信じているんだな、彼女のことを。だが彼女の行ったことは世界に良くも悪くも変えていくだろう。当然、彼女の立場は非常に危ういものになる。世界中で彼女を祭り上げたり、はたまた敵となるかもしれないよ」
「わかっています。それでも家族以外で一人ぐらい束自身を信じてやる、味方になる奴がいたっていいはずです」
「ふ、そうか、要らぬ節介だったようだね。そう信じられる友人は大事にしたほうがいい。」
若干苦笑いも混じりながら話す千冬。いつもはた迷惑なで自由奔放な束を相手にして苦労しがちな彼女だが、それでも束は彼女にとってかけがえのない友であった。楯無は束の友人であることから彼女自身の心配も兼ねて聞いたつもりだったが、曇りのない返事が返ってきたため、杞憂だったと軽い笑みを浮かべていた。
また真剣な眼差しに戻り、二人は手合わせを続けた。
篠ノ乃束を交えた国際会議は目立った問題も起きることなく無事に行われた。日本は警察、諜報機関が持てる力を総動員して動き、会議に参加する各国もまた今回の会議に備え自国の情報機関を動かしていた。その動きが功を奏したのか、主だったテロ組織、犯罪組織は動きを見せることはなかった。
そして、世界各国の首脳、閣僚らを交えた場において、篠ノ乃束は自らがIS─インフィニット・ストラトス─を開発したことを改めて宣言した。
宇宙空間をはじめとする過酷な環境下での活動を想定したパワードスーツ。その存在と性能は白騎士事件において実証されているため疑いようがなかった。しかし、改めて提示された資料と本人の解説から驚異的な性能が明らかになった。
長時間の宇宙を含めた環境での単独行動を可能にする運動性能。操縦者の知覚を補う高性能のセンサー、レーダー技術。人体を無理やりに傷つけることなく脳への通信を可能にし、自らの手足を動かすのと変わらない操縦を可能にするナノテクノロジーやデバイス類。
そして、『量子収納』と『PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)』、『操縦者保護機能』、ISに使われる技術を成り立たせ、さらには単独での自己進化を可能にする中枢部『コ
ア』。これらの技術はその場にいた者たちを驚かせた。
『量子収納』──その名の通り、ISの装甲や武器を量子化し収納できるというもの。各国でその手の研究はされていたものの、未だ実用段階には至っていなかった技術であった。
『PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)』──物体に対する慣性を操作する装置群。これと推進翼を組み合わせることにより、自由な三次元飛行を可能にしている。
『操縦者保護機能』──操縦者の人体や機体そのものを保護する防御機構の総称。人体を保護する皮膜装甲。ダメージから機体を守るエネルギーシールド。さらに『絶対防御』と呼ばれるものに至ってはあらゆる攻撃を防ぐ、文字通りの防御を行う機構も搭載されている。これに関しては極端なエネルギーの消耗が発生することからISの防御機構、最後の砦といってもいいものである。
だが、肝心の『コア』に関しては彼女から構造、製造方法は語られることはなく、その一方でISは女性“しか”扱えないということが語られた。
ISの要といえる『コア』と呼ばれる中枢機関。束からはISにはなくてはならないものということであった。
後に各国の技術者や研究者たちがコアの解析を試みたが、結果は失敗に終わっていた。
そして、強引な手段で解析をする者たちのことを見越してか、束はISの情報公開時にある言葉を残していた。
──もし、『コア』を無理にこじ開けようとしたら……ボンってなるからね。気を付けたほうがいいよ。取り返しのつかないことになるからね~。
そもそも、コア自体も特殊な金属でできており、破壊することなく中身を見ること自体困難だった。しかしながら、提示されたISの情報からコアがISを動かすには不可欠な動力機関であると同時に、PICをはじめとした機体制御や量子収納などを可能にする高度な演算処理能力を持った機関であることは間違いなかった。そして、もしもこのコアを破壊した場合、一定の範囲を消滅できるほどの爆発を起こすエネルギーを持つことは明らかであり、束の言葉を裏付けていた。
コア以外の装甲等の部品や技術は一部を除き、既存の技術の先端を行くものではあったが、この『コア』は違った。このコアこそISの驚異的な性能を可能としていることが解析を行った者たちの総意であった。
そして、ISが女性だけにしか使えないということは束自身が原因不明と語った。コア自体の解析とともにこの原因を探り、男性にも使えるようにする試みも行われたが、失敗に終わっていた。このISの欠点ともいえることは多くの者を落胆させたが、その欠点をもってしてもISの性能は魅力的だった。
当然、コアの情報を秘匿した彼女に反感を抱いた国は少なくはなかった。だが、それを表立って発言した国はなかった。その理由は至極当然のことだった。相手は一個人でありながら、数千のミサイルを無力化した上に、各国の既存兵器を一蹴し、世界大戦を未然に防いだ存在を生み出した人物である。下手に刺激すれば、その力を己が国に向けられるのではないかと考え、彼女に対し強硬な姿勢を取れずにいた。
そんな中で彼女から提案してきたことが後に、世界を大きく変えることとなる。
──後からとやかく言われるのは面倒だから、各国にISのコアを配布するね。ある程度のことは教えるから、後は勝手にやってね。
なんとも横暴な言いぐさではあった一方で、これは各国にとって渡りに船であった。世界に見せつけた力を向こうから渡してくれるのだ。
しかし、既存兵器を上回る存在を世界各国に提供することが、現状の軍事バランスを崩壊させることに繋がることは容易に想像できた。また、女性にしか扱えないものとなることで、従来の宗教や思想を反映し、男性を優位とする国家では社会構造そのものがいっぺんすることも考えられた。各国はそのことを危惧し、ISの運用やそれに伴う条約を取り決めることに尽力することになる。主だったのは軍事力や経済力、技術力の高い先進国の国々だった。
すでに各国にコアを渡すことは開発者により国際会議の場で発表され、これに各国が口を挟む段階はとうに過ぎていた。それならば、運用や保持の制限を設けることによって現状の世界情勢に近いバランスを保とうしたのである。主だった先進国の思惑はこのことにおいては一致しており、早急にそれに伴う組織の設置と条約の締結が進められた。
──これが後の国際IS委員会、アラスカ条約と呼ばれることとなる。
また、研究や開発は各国独自で行われる一方で、IS自体の基本的な技術理解や発展のためにオープンな機関も作るべきだという声(その多くが途上国であった)も上がり、これがIS学園の基盤の一つになった。