『今日は非常に非常に素晴らしい日である、この私の10年の長きに渡る長年の成果がようやく形になったのである。アインズ様の為。アインズ様の、この私の最も敬愛ィ△%◆$==(興奮の余り筆跡が乱れている) ……のだ。デザインも、人員は……まだその数は少々心もとないものではあるが、我が手塩にかけし軍団はデザイン、戦力、その他もろもろの面から鑑みても必ずや主のご満足頂けるものと確信するものである。ここに簡素ながら我が溢れる想いを記すものなり』
宝物殿・応接の間にて パンドラズ・アクター
「つぅいにっ!この日が来ました!!」
サラサラリと書き記すとパンドラは手帳を懐に仕舞いこみ、バッと両手を高々と掲げた。
「おっ……」
ブレイン・アングラウスは声を荷を両手に抱えたまま、そちらを見て足を止めた。
地下深く長い通路が何本も交差する。足元は石畳、その気配は乾いた中に死者の匂いを内包する墓地のそれである。
「どうしたでござるかブレインどの?」
「んー、ああ、どうやら
「おおー
ハムスケの一抱えもあるような大きな瞳がくりくりと動く。
ざっざっざっざっざ、一糸乱れぬ規則正しい足音と共に影が伸びている。
またぞろ何かあるのかねぇ。
男は高級そうなアンティーク調の家具――人間の成人男性が6人がかりでようやく動かしそうなテーブルを軽々と持ち上げながら、ひょいと片手をはずし顎を掻いた。
「何をぐずぐずしているのです、急いで運びなさい、シャルティア様がお怒りになられるわよ」
「おっと、はい、ただいま!」
「はいでござるよ!」
滑るように先を行っていた
背中に大きな風呂敷包み――中身は下の工房で作ってもらったシャルティア様の怪しい玩具が入っているはずのハムスケも慌てたように歩き出す。
「言うまでもありませんが、急いだからと言って角をぶつけたりでもしたら、お前の首を撥ねますからね」
そんな権限は彼女には無い、勝手な事をすれば、それはそれで彼女の身の破滅だ。だがそんな事はおくびにも出さすブレインも答える。
「もちろんシャルティア様の御使用になるもの、私としても細心の注意を払って運ばさせていただきます」
明るく元気良く、笑顔でブレインは応えた。「ふん」と言うとぷいと顔をそらし、
「こないだまで赤ん坊だったあれらも形になるのか……」
もう一度チラリとそちらを見た、時の経つのは早い、
「ブレインどの急ぐでござるよ」
「おう、今行くよ」
ざっざっざっざっざ、足音はブレイン達から、遠ざかって行った。
―少女A
私のもっとも古い記憶は鋼の小手が視界に広がり自分の体が持ち上げられる感覚。その手の正体がクソッタレな
私が未だこのナザリックの土の一部になって居ないのは助命して下さったニグレド様、ペストーニャ様、及び何かと我々に目をかけて下さるセバス様ほか上位の方々のお陰だ、何を置いてもあの方達だけには恩を返さなくてはいけないと思う。
ともかく私は生まれた時から逆賊の子と言うありがたくもないご身分だったのだが。つまり私は10年程前、赤子の頃にナザリックに捨てられていた。魔法によって残された映像にはアインズ様も少々驚かれたそうだ。
癖のある金髪の髪を肩の辺りで切りそろえると赤い目といい、あの時の無礼な女、つまりお前の母親にそっくりだ……とは戦闘メイド・プレイアデスの一人、ナーベラル様のありがたいお言葉。
当時はもう、かの『カッツェの大虐殺』の後であり。アインズ様が魔導王としてエ・ランテルから勢力を拡大なされれいた頃だから……
が、んなわきゃない。どうせめんどくさくなったか、もしくは鳥の一部には託卵と言って他人に自分の子供を育てさせる行動があるそうだ。その辺りだろう。死んでればいいのだが、未だ行方不明だ、生きていたらぜひ殺してやりたい。それがナザリックにとってもあれにとっても恩返しと言うものだ。
―少年B
謁見の間には多数の仲間が集まっていた。訓練された我々ではあるが緊張と興奮で軽くざわめいている。ここには何度か大人数が集まった事があるのだが、そういう時、外様の僕達は大抵最後列の壁際なので、最前列に来たのは初めてだ。
こんな玉座のすぐ下に集まり整列した我々は、黒と金を基調にした隊員の服装もあり、それなりに華美で大人数なのだが、この広い空間内では中央に寄り集まったようでなんとも心もとなくも思える。
おっと自己紹介が遅れてしまった。僕達は年齢が10から15歳前後の少年・少女からなる、200名ほどの見習いの集団である。最低でも第2位階の魔法を操り、魔法以外の才能、特定武技やタレントを見出された者や、同じ魔力系でも信仰魔法5位階まで使いこなす者なども少数居る。
上位10名ほどは4位階まで操る超エリート集団である。そして自分はその上位の10名のリーダー格と言うわけで一応男子組でも最強なのである。地上ならオリハルコンクラスの冒険者ぐらいは楽勝で殺せるのではないかと思う。女子組のトップは魔法こそ第3位階だが最年少でありながら武技を3つも使いこなす天才猫娘なども居る。
客観的に見ても自分達は地上における人間の大人の最強集団に匹敵するものだと、そういう自負があり、それは事実だと誰もが信じている。200名そこらではあるが、戦い方によっては数千の帝国騎士団でも殲滅できるのではないかと。
構成メンバーのほとんどは10年前の王都の事件……つまるところデミウルゴス様による
将来的には主にナザリック外にて活動を行う予定なのだが――と上の方より説明を受けている。
ざわめきが止まり一斉にみな膝を突いた、触れの声がこのナザリック地下代墳墓の最上位者、アインズ・ウール・ゴウン魔導王様がデミウルゴス様などと伴われて来た事を告げた。
「まずはお前達の親代わりである二人から代表してニグレドから話がある心して聞くがいい、ニグレド」
呼ばれて場所を代わったニグレド様はいつになく厳しい表情に見えた。と言ってもお顔の表皮が無いので少々わかり難いが、長年の付き合いでそのお優しさは隊員の誰もが知っている。今更怖がる者など誰もいない。だが今日は少々様子が違った。
「あなた方は今日までナザリックに育まれ、私およびペストーニャを親代わりとしてきました。私達も本当にあなた方をわが子のように大事に育ててきたつもりです、しかし今日よりあなた方が子供である事は終わりとなります。本日これよりは命令次第でその場にて躊躇無く死ぬ事も厭わぬ兵士となるのです。そう命じられる事もあります。そしてそれを命じるのは私達かもしれません……」
それから始まったニグレド様の演説は最初は考えるように穏やかに話していたのだが……口調がだんだんに熱を帯び、最後の辺りは叫ぶような場面まであった。生まれて初めて見る慈母の鬼気迫る姿に半ば恐怖を覚えて涙ぐむ女の子まで居たぐらいだった。
「……お前達は死を恐れますか?ナザリックのため、いいえアインズ様ためにその心臓を捧げる事が怖いですか!」
「否、断じて否ですニグレド様!」「私達は死など恐れません!」「愚かな地上の者どもを導くのは我らが責務!」「死ぬのがアインズ様の為になるのならば、ご恩この場にて直ちに!」「全員命にて証明いたします!」
それらの言葉を聴いたニグレドは身を震わせた。
「ああ、ああ、何て素晴らしい子達なの!それでこそ私の愛し子達。今日が最後です、だからあえてそう言いましょう!今日より兵士となる我が子らよ、この場に居ないペストーニャも同じ想いであると確信して言いますわ!ありがとう、そしてナザリックとアインズ様にその命を捧げるのです!」
感情の極まったニグレドが舞台役者のように両手を上げる。わが身を抱きしめ、再び片手を天上に捧げるように高く差し出す。両目からは涙が顔筋だけの頬を伝う。皆もその激情に身を委ねる。
ニグレド様!、ニグレド様!ペストーニャ様!ペストーニャ様!アインズ・ウール・ゴウン万歳!ナザリックに栄光あれ!
ニグレドの熱演がようやく終わり壇上から去ってもその熱気は残っており。端で見ていたアインズも、普段そういう部下達の熱狂に慣れてる彼でさえ引くようなものが感じられた。
「ご、ご苦労」
「はっ」
入れ替わるようにアインズが出て行き壇上に立ち鷹揚に手を振る。泣き腫らしたような少年少女の団体に見つめられると言う妙な居心地の悪さを感じていた。
アインズの簡単な挨拶が終わり熱狂的な万歳の唱和が少年少女から上がりかけ、骸骨の手によりピタリと止まる
「す……素晴らしいぞ!皆の者、その忠誠、実に嬉しく思う。私としても、ナザリックの支配者としてその若い未来に非常に明るいものを感じる物だと、そう確信するものである」
ピカピカと数度精神安定のエフェクトが発生する。次の瞬間またわっと万歳三唱しそうな少年らを、幾分慌てて――決してその仕草には現れないように注意しながらであるが。制する。
アインズが感じるところだが、ある意味この少年・少女達の熱狂度はナザリックの者達とは別の意味で怖いぐらいすごい。
命を惜しまないと言う点では同じだが、何やらおかしな宗教団体の壇上にでも立っているような気分になる。いやより率直に言うと自分が大昔の独裁者にでもなったかのようで怖い。
「あー、ごほん、ではこの後はパンドラより具体的なこれからの説明を聞くといい」
ゆっくりと席を自分の作ったNPCに譲る。代わって舞台の袖に待機していたパンドラは恭しく頭を下げ、交代した。
壇上の袖から意外なほど静かなパンドラの訓示と言うか演説のようなものを見やりながら、アインズはヒッ○ラーユーゲントとしか表現しようの無い集団を目で示し何気なさを装い、そっと我が腹心達に尋ねた。
「その、何だ……デミウルゴスよ、あの集団のなんだがどう思う?
「どう?と申しますと」
パンドラの演説に時折、うんうんと頷きながら拍手していたデミウルゴスはアインズに向き直った。
「つまりその少々、熱意が大きすぎないかな、などとな」
「なるほど、しかしあれはアインズ様の偉大さとニグレド様達の慈悲に触れての事、普段の訓練は私もよく視察しましたが、地上のどの特殊部隊にも劣らぬ精神的強さもございます、心配はいらないかと」
「……そうか、ではそうだな、あの衣装だ、少々その何だ、あれらのものは現地のと比べて多少浮いてはいないか?」
二呼吸程の思考の後「ああ」とデミウルゴスは頷いた。アインズとしてはこの特徴的過ぎる制服を着た少年少女達が世界各国に魔導王の配下として集団で派遣される光景を想像すると。万が一仲間やプレイヤーが居てその目に止まったらと思うと。
アインズ・ウール・ゴウンが、と言うか俺が、おかしな思想に被れているようにしか思われないのではないかとかなり胃にくる光景だった。できれば止めてもらいたかった。
「……なるほど、アインズ様のご懸念はもっともかと、しかし彼らの任務は多岐に渡りますゆえ、諜報などには少々問題がある部分もあるやもしれませんが、返ってあれは公式な外交の場などでは十分に機能的かつ高貴な印象を与えかつ威圧的でもありますので、その方面ではかなり効果を発揮するものではないかと思われます」
ですのでまったく問題はありません。そう言われ、小さくアインズは頷いた。いやそうだけど、そうじゃないんだ。と別の方向に救いを求めた。
「アルベドよ……お前はどう思う?それでもだな、その思うに少し派手ではないだろうか?」
もう少しこう、せめてこの世界っぽく、と言いかけるアインズにアルベドは白い華の咲くような笑顔で応えた。
「あの衣装、まさに流石は仮にもアインズ様のお作りになられたパンドラの発案かと、アインズ様の美的感覚を受け継いだ見事な……ちょー美しい、斬新かつ華麗な中にも剛毅なものが感じられます。まるで美の理解できぬこの世界の下等生物どもの衣装など及びもつきません。まさに至高の衣装であると有象無象の虫どももアインズ様のご威光を思い知る事でしょう」
「そうか、そう思うか、まぁ、そうだな……」
力なくなりかけた声を無理に威厳をこめて言い、アインズは頷いた。この辺はもうしょうがないのかもしれないと半ば諦め気味だ。
この世界のと言うよりアインズを除く守護者全員を含めて全ての者があのデザインがカッコイイイと思っているらしい。それはもはや明白だ。しかし、だ……この光景。
どこから見ても第三帝国です本当にありがとうございました。
どうしてこうなった?
キラキラ光る少年少女のこちらを見る目から顔を逸らし、ゲッペルスのように上手いこと扇動してるパンドラを見てアインズは額を覆った。
この際
狂信的な人間の集団を幼年期から厳選に厳選を重ね育て上げ、のちのちにはナザリックによる人間社会全体の支配に役立てると言うデミウルゴスとパンドラの発案。
それ自体はいいと思ったのだ、何しろいくら何でもナザリックの人員だけでは世界全部は掌握できない、アンデッドは増やせるがそういった面では足しにはならぬ。絶対裏切らない、もしくはそれに近い現地の人間の確保は必要な事なのだ。ならば自家育成も悪くない。そう思った。
放置してパンドラやデミウルゴスに任せ、忘れていたらこのザマである。整列した子供達は初めて会った頃のエンリぐらいの年頃に見えるが、全員が煌びやかな、ネオナチ、ドイツ軍服のレプリカを着て誇らしく背筋を伸ばし、この世界でも美男美女の上にエリートの自負を持つ者に特有のオーラまで出ている。不覚にも「ちょっとカッコいいかも……」などと迂闊にもアインズも思ってしまうほど
見ればかつて自ら手を下したクレマンティーヌの子供も並んでおり、あれが女子組のトップなのだとか。あれの親を殺した。それ自体は何の後悔も無いアインズも、気がつけば鳥を殺したらその卵を見つけて、気がついたら雛が孵って懐いていた。みたいな妙な状態である。
思えば始まりは、一通り守護者の一同に労を労う品が行き渡った後の事。ふとパンドラにも平等にせねばと、欲しい褒美を言うよう命じたのだが、まさかこんな事になるとは。
「ひとつ聞きたいのだがパンドラよ、これはこれはどの程度までの規模を目指しておるのだ?」
「部隊規模でございますか?
「……おい?」
「は?いえ、ゆくゆくは師団、まぁ差し当たりは旅団規模はと考えております。もちろん団長は不肖、この私パンドラが責任を持って勤めさせていただこうと、旅団長が謎の人物の軍団と言うのもアリかな、と思うのですがいかがでしょうか?」
沈黙を持って答えたアインズは別の話題に転じた。
「……コキュートスのリザードマン軍団の事を考えれば、お前がそういった部隊を欲するのも仕方ないのかもしれないが……」
「ナザリックの博愛精神や、その思想の世への浸透の為にも宣伝なども力を入れ、ゆくゆくはそちらの部隊の設立するのも視野に入れるべきかと」
「……確かに宣伝活動や思想統制もある程度は必要なのかもしれないが」お前の先ほどの演説もやけにそれらしかったなとアインズ。
「資料作成のために
「図書館、なるほど……そうか」
そういう情報源もあったと思い当たるフシがある。仲間の中にミリオタや独裁者の歴史が大好きな人が居た事を思い出す、あの人の残した資料か……と見当をつける。
ありし日にはパンドラ作成の時にも色々とあの人と話が盛り上がったなと思い出す。懐かしい思い出だが因果が巡ってこうなったかと思うと、軽く頭痛がしてアインズはまた話題を変えた。
「それで、ペストーニャ達は自室に引きこもってしまったか」
「まぁ彼女の場合は子離れもさる事ながら、イメージが叩き壊されるのもあるでしょうから」とパンドラ。
叩き壊してる本人が言う事かとは思うが。本人達がやりたくない以上、厳しく親離れさせる儀式は必要である。
仮初の母子関係が続くとナザリックにとって好ましくない弊害が起きるので踏ん切りが必要なのでは?とはデミウルゴスも言っていた事。
「うむ、まぁペストーニャ達にも普段色々迷惑をかけている事だ……しばらくはそっとしておいてやれ」
アインズ様万歳!ナザリックに栄光あれ!アインズ・ウール・ゴウン万歳! ナザリックに栄光あれ!アインズ・ウール・ゴウン万歳! ナザリックに栄光あれ!アインズ・ウール・ゴウン万歳! ナザリックに栄光あれ!アインズ・ウール・ゴウン万歳! ナザリックに栄光あれ!
なおも続く謁見の間のネオナチ子供版の唱和の中で、パンドラ、デミウルゴス、アルベドの拍手も加わり、もうどうにでもなーれ。と思うアインズだった。
浚われた子供たちはどうなったのか?
子供―教育―パンドラ―軍隊。という流れでこのような話になりました。
男の子ばかりでも味気無いのでクレマンティーヌの娘入れてみました。10歳前後なら5年生ぐらいですかね。
まぁ魔法少女もそのぐらいから戦ってるからいいかなと。