黒の魔王〜アヴァロン王子改変記〜   作:空騒

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 本作は原作者である菱影代理様から二次創作許可を得て書いております。


第一話

 

 

 命は巡り巡る物だと誰かが言っていた。

 俺はその考えを、死という絶対の終焉を終わりとせず、その先を夢想する事で無意味な安心感を得るためでしかない無駄の極みだと、そんな風に思っていた。

 死んで消滅することの何がそこまで恐ろしいのだろうか。消えようが巡ろうが関係ないが、人間の魂を態々輪廻転生させる理由もないのではないか。

 だから死後や輪廻転生なぞ存在しないのだと根拠もなく確信していた。

 

 さて、混乱しすぎて意味不明な持論を考えるのは止めないとな。

 うん、何この状況。

 気が付いたら凄まじく豪華な部屋のベットに寝ている。この時点で息が止まって心臓が急速に全身へと血液と良く分からん何かを巡らせた。

 その御蔭が分からないが次の瞬間には冷静な思考ができる程度に落ち着いていた。

 そして冷静に考えた結果が今の輪廻論だ。大丈夫だろうか俺は。

 

「……」

 

 現実を直視するも、一向に自分がどんな状況なのか掴めない。

 誘拐された、というのが最も納得の出来る想像だが、それならこんな王宮みたいな部屋のベッドに寝かされているのは不自然が過ぎる。

 そもそも俺なんかを誘拐したって何になるんだろうか。どう考えても一銭の得にすらならな――

 

「……ん?」

 

 もっと根本的な問題を見落としている事に気が付いた。

 そもそも、俺って誰なん?

 冷静に思考を巡らせていても、いくつかの思い出や記憶が断片的に浮かぶだけで俺自身の関わる詳細な記憶は一切なかった。

 てか思い出が殆どアニメ鑑賞か読書ってなあ。お陰でマトモな記憶が一切無い。

 あんな痛い持論を考えられるのに自分の事が思い出せないとか不自然極まりない。

 幼くなった体に強い違和感を覚えるのの、以前の自分の姿も、自分の年齢や性別も、全て思い出せない。

 ヤバイ混乱が振り切れそうだ。

 緊張で心臓が激しく鼓動を刻み、小刻みに呼吸する。するとさっきと同じように何故か思考がクリアになった。

 いっそ取り乱せたら楽なのに。

 クリアな思考で部屋を見渡す。無駄に広い室内には絵画や壺などの調度品が置かれ、清掃が行き届いているのだろう塵一つ落ちていない。

 見ている程に居心地の悪さを感じる。場違い感が半端じゃない。

 そう思って視界を動かしていると部屋の隅にクローゼットと姿見を見付けた。

 自分の姿を見たら思い出したりするんじゃないか? と思い、ベットから降りる。よく見たらパジャマも高そうだ。着心地が良いが、こんな物を着て本当にいいのか不安になる。

 一応クローゼットの中身を確認しようと扉を開けた瞬間、パジャマより豪華で仕立ての良い服がズラリと並んでいるのが見えた。見なかった事にして扉を閉める。下手に触って弁償とかなったら死ねぞこれは。

 無駄な事をしていると気付いて、ようやく姿見に自分を映した。そして絶句する。

 適度に伸ばされた黒髪に、幼いながらに整い過ぎた美貌の少年。

 記憶に残っているアイドルと比べても、いや、比べること自体が愚かに思える程の美形だった。

 誰だよお前。少なくとも俺ではない。

 黒い髪をしている。これはいい、俺は日本人だった気がするから見慣れている。

 だが他がおかしい。

 黙っていても女性が黄色い悲鳴を挙げそうな美貌が姿見に映り、やる気の無さそうな紅い視線を俺に向けている。そんな表情すら様になっていて思わず睨み付けると少年も睨み付けてきた。

 ちょっと怖いじゃないかイケメンコノヤロウ。

 仕返しに美貌が台無しになる程の変顔させていると、ふとある人物が脳裏に浮かび上がった。

 

 ネロ・ユリウス・エルロード。

 小説『黒の魔王』に登場する皆に愛されるヘイトタンカー。

 かなり幼い気もしなくないが、どの道ムカつくこの顔は奴に違いない。変顔と相まって更に酷い。

 

「ょ、よりにもよってコイツかよ……っ」

 

 突っ込む所はそこじゃないのは分かっていたが、自然と声が出た。無駄に良い声なのが腹立たしい。

 

 顔も思い出せない俺のお父さんお母さん。俺は何故だか愛読書のカマせ王子になってしまっているようです。

 

 夢なら本気で覚めてくれ。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※  

 

 

 

 好きな作品の登場人物になれる。

 そんな機会があるなら誰だって飛び跳ねて喜ぶのではないだろうか。

 現にその手の創作は数多く、無数に存在している分野だ。

 強大な力を振るい強敵を蹂躙したり。

 次元の壁が隔たっていた憧れのヒロインと恋仲に、または憧れの主人公と交友関係を築いたり。

 作品の新たな着眼点を発見し、魅力を再確認したり。

 その世界は自由と魅力に満ちている。誰もが一度は思い描く夢だ。

 彼も、そんな世界に夢を抱いていた。

 欲望に塗れた夢を。

 

 

 

 

 吹き荒れる吹雪の中で、巨大な影が荒れ狂っている。

 アヴァロン領の最北端に位置するここアルベス山脈は、無数のモンスターの跋扈する危険地帯だ。

 白竜(ホワイトドラゴン)銀狼(フェンリル)といった強力無比なランク5モンスターの存在もあり、晴れた晴天の中では美しく荘厳な雪景色を見せる山脈はランク5ダンジョンに数えられている。

 そんなダンジョンの激しい吹雪の中で、三つの影が動き回る一角だけ不自然に吹雪が遮られていた。

 一層激しく暴れる巨大な影は、白銀の龍だった。

 白竜(ホワイトドラゴン)の下位に属するランク4モンスター、雪原竜(スノウドラゴン)と呼ばれるドラゴンだ。

 下位とはいってもその強さは火竜サラマンダーと同レベル、今のように雪山であるのならサラマンダーを洞窟で相手するより格段に手強い。

 その美しい翼を広げて雪原を優雅に飛び回る姿はアスベル山脈の名物でもあり、その光景を見た者は漏れなくドラゴンの優れた視覚により発見されて戦闘になる事から『冥土の土産』とも呼ばれている。

 しかし、暴れる竜にそんな優雅さは一切無い。

 生半可な武技では傷一つ付かない白い竜鱗と甲殻は切断、粉砕され、傷口から大量の血を撒き散らして純白の雪原と竜の毛皮を赤く染めていた。

 美しい翼も皮膜が切り裂かれ飛行能力を奪われ、そして長くしなやかな尾も根本から切り落とされ、生々しい筋肉の断面を冷気に晒している。

 

「おぅらあっ!!」

 

 爆音を轟かせて、金髪の青年が雪原竜の頭に強烈な斬撃が叩き込んだ。

 生半可な武技や魔法では傷一つ付けることの叶わない堅牢な竜鱗は、巨大な顎による噛み付きを避けながら青年の放った斬撃によって爆砕された。

 

 ガァアアアアアアアアアアアッ!

 

 地響きのような雪原竜の咆哮。この戦闘が始まってから何度響いたか分からない。

 そしてその叫びはその翼が斬り落とされた事によって更に大きな悲鳴と化した。

 

「悪いな。痛えだろ」

 

 少し済まなそうな声音で、白刃の刀を握った青年が呟く。

 だが、次の瞬間には薄く霜の付いた黒髪を揺らして残されたもう片方の翼を切断された。竜の翼を切断するという無茶な芸当を実現する技量には、雀の涙ほどの慈悲も容赦も存在しない。

 黒髪の青年は美しい両翼を切断された激痛で叫びを上げる竜の悲痛な咆哮を背中に受けて、改めて刀、『霊刀「白王桜(はくおうざくら)」』を構えた。

 

「安心しろ、もう終わりだ――刹那一閃」

 

 光と風の二つの属性を合わせて放たれた斬撃は、薄く光り輝く刃となって放たれた。

 狙いは首。可動部であるが故に、分厚い甲殻ではなく美しい毛皮を纏っている雪原竜最大の弱点。本来ならそれでも分厚い筋肉の壁によって阻まれるが、大量の出血により力なく吼える竜に最早そんな力は残されていなかったようで、放たれた閃光の刃はあっさりと分厚い竜の首を刎ね飛ばした。

 竜が暴れて踏固められた雪の上に重々しい音を響かせて落ちた竜の首を見て、黒髪の青年は刀に付いている血糊の魔法で洗い流すと静かに黙祷を捧げた。

 不本意ではあったものの、拷問紛いの討伐を行ったことに偽善の心が痛むのだ。

 

「しっかしサフィの奴もひでーよなー。竜のアンデットを作る為の試験体の確保ってこんな作戦提案するなんてよ」

「全くだ。一体を嬲り殺して助けを呼ばせるなんて、拷問趣味でもなきゃやらないだろうな。普通は」

 

 そう愚痴を零して、二人の青年は溜息を吐き出した。

 青年、ネロ・ユリウス・エルロード、そしてカイ・エスト・ガルブレイズ。

 ここアヴァロン領を治めるアヴァロン王族の第一王子と剣闘国家スパーダの四大貴族ガルブレイズ家の嫡男である。

 王族と大貴族。大層な身分であるが、今は関係ない。

 貴族の責務や王族の責任と重圧から開放された、ランク4冒険者パーティ『ウイングロード』として、最近増加してきた雪原竜の討伐依頼を受けて、この地に立っているのだ。

 そして、依頼の受注時に作戦と個人的なお願いを、同じパーティのメンバーであるサフィール・マーヤ・ハイドラに頼まれたのだ。『竜のアンデットを作りたいから手伝ってくれないかしら?』と。

 同じパーティの仲間であるサフィールの頼みである。理由も戦力強化と至極真っ当なモノだ。断る要素は全くなく、快諾する他ない。

 だが、その後に笑顔で語られた作戦が問題であった。

 群れを成す動物は仲間を呼ぶ鳴き声を上げる。小さな動物は狙われ易く仲間の庇護を求めないと即座に食われてしまう、故にその声は仲間を呼び寄せる。人の赤ん坊が最たる例だろう。

 そしてもう一つ、仲間を呼び寄せる声がある。

 断末魔の叫びだ。

 悲鳴を聞くと自然と人が集まるように、竜に悲鳴を挙げさせて他の竜を誘き寄せて倒そうという作戦だ。

 どんな作戦だ、と素で返したネロに非は無いだろう。現実味の無い欲塗れの作戦だ。

 ランク5ダンジョンでそんな事をしたら、最悪の場合ランク5のモンスターに襲われる。そうでなくとも別のモンスターを呼び寄せたり、対処のしようがない程の雪原竜を呼び寄せかねない。

 そんな状態で『竜の息吹(ドラゴンブレス)』なんてされたら、流石の自分達でも死にかねない。

 だが、サフィールの口八丁が上手であり、結局この作戦で進行している。

 果たしてその効果は――

 

「やっと来たか」

 

 抜群だった。

 吹雪の中からネロの魔法で作られた風の結界へと入り込む二体の雪原竜。仲間の死体を見たからか、それとも悲痛な叫びを聞かされたからか、その目は血走り憎悪の炎で燃え盛り、雪原竜の固有魔法(エクストラ)である『氷竜鎧殻(グレイスメタル・アーマー)』が発動し、美しい毛皮で覆われていた首や胸を中心に堅牢な氷の鎧がその巨体を覆っている。

 雪原竜の固有魔法は怒り状態、感情が昂ぶった状態で生成される大量の原色魔力により竜鱗を凌駕する防御力を誇る氷の鎧を形成する。

 先程の雪原竜は怒りよりも絶望や恐怖が勝り、固有魔法を使う事すらままならなかったと思うと二人の心に一段と大きな罪悪感が湧くが、今はそうも言っていられない。

 やる気満々で入場してくる竜を目にして、二人は一度目を合わせると、口元に笑みを浮かべた。

 二人とも口ではグダグダと文句を言っていても、心の中ではサフィールに感謝している。

 こんな楽しい作戦を提案してくれてありがとう、と。

 

「お前はそっちを頼む」

「うぉおおーー! やってやんぜ!!」

 

 相棒を構え、同時に雪で覆われた地面を蹴り出して駆ける。

 カイの大剣には輝くオーラが纏われた。マリンブルーのような煌めきは放つ一撃の鋭さを感じさせる。

 そしてネロは右手の甲に赤い魔法陣を浮かび上がらせると白王桜の刀身が赤熱化したように赤く染まる。

 

極一閃(アルティマ・スラッシュ)!!」

「業火一閃」

 

 放たれた輝く一閃と燃え盛る業火の斬撃は、余波で結界と、その外で吹き荒れる吹雪を消し飛ばした。

 結界が消えた事で二人が本気で死に目を見るのは、蛇足として流すことにしよう。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 いやー、雪原竜は強敵でしたね。本当に。

 ノリノリでかました武技の余波で結界がぶっ飛ぶとか誰が思うんだろうね。しかもその後待ってましたとばかりにワラワラ雪原竜さん達が寄ってくる寄ってくる。

 死ぬ程楽しかった。文字通り死ぬ程。

 いや実際は死を予感する程、だろうか?

 終わった後の余韻凄かったもん。転生して早十数年、ここまで楽しく命のやり取りした事は初めてだった。

 

 俺、ネロ・ユリウス・エルロードは転生者である。

 

 結局、これは夢でも何でもなく現実の出来事だった。

 その後に無数のイベントが起きた気がするが、只々幼い妹のネルが凄まじく可愛かった記憶しか印象に残っていない。

 だって小走りで俺の後ろを「おにーさまー」ってついてくるんすよ。そらシスコン拗らせるわ。

 あと白王桜を抜く式典の時に少し抵抗してくれおった時には驚いた。

 驚いて腕力強化(フォルス・ブースト)した俺は悪くない。

 黒板に爪を立てるような音を響かせた時は正直悪いと思った。ミギィィイッとか凄い音だったもんな。お陰で抜いて暫くはヘソを曲げたのか魔法の触媒として使えない切れ味が凄いだけの刀だった。

 

「……で、黙ってないで()()の説明をしてもらいたいのだけど?」

 

 現実逃避に昔を思い出していた俺に、正座している雪より冷たい声が掛けられた。

 声の主であるサフィールは、激おこな様子で俺とカイを……主に俺へその妖しく輝く魔眼を向けている。

 やだ毛先がアメジスト。眼鏡さん仕事して。傷にも染みるからホント辛い。

 彼女が怒っているのは俺達の後ろで積み重なっている竜の残骸が原因だろう。

 

「言ったわよね。出来るだけ原型は残してって」

 

 確かに言われた。何度も念を押すように言われた。

 

「ぶつ切りにされているのに始まり、両断、爆散、中身が黒焦げ、ほぼミンチ……。もしかして挑発してる?」

「すまないとは思っている」

「ち、ちょっと勢いで……」

「馬鹿が馬鹿なのは知っているから黙って死ねばいいわ。馬鹿じゃない方がやっているから聞いてるの。ねえネロ」

「俺等が対応できる限界を超えてたんだ。悪いとは思っているが、こればかりは見逃して欲しい」

 

 俺も楽しくてつい……。

 なんて本音を言ったらターちゃんにグーで殴り倒されるだろう。

 増える雪原竜達に囲まれて、四方八方から放たれる『竜の息吹』を何とか耐えながら視界と動きを遮る吹雪を再度発動した風の結界で防ぎ反撃……しようとしたけど多勢に無勢。

 こっちは二人、あっちは増えて四体。倍ですよ。死ねますよ。そして倒しても断末魔で追加が来るワンコ蕎麦状態。

 そして命の危険を感じて元々緩かった箍が外れる俺とカイ。殆ど死に体になりながらも、最初の含めて合計八体討伐。いやあ大量大量。

 ネル居なきゃ二人仲良く死んでたな、これは。

 結論、俺等は悪くない。

 

「サフィ、あんだけの量を相手したんだから仕方ないんじゃない? 綺麗なのは私達のが三体もあるじゃない」

「そうですよ、二人とも酷いお怪我をされていますし、そんなに怒らないで上げて下さい」

 

 助け舟を出してくれたのは幼馴染のシャルロットと治癒魔法で俺とカイを現在進行形で癒やしてくれているマイエンジェルネルだった。

 彼女達が討伐したのは三体。少ないと思えるが俺等の討伐数が頭可笑しいだけだ。

 そして何より傷がほぼ無いように思える程綺麗に息の根が止められている。俺等のハイテンション討伐アクション(瀕死)で築かれたグロ肉の山とは正反対に、今にも起き上がって咆哮を挙げそうなほどの生気を感じる。

 ソフィールの死霊術(ネクロマンシー)で俺らに代わる前衛を使役、シャルロットの雷撃により状態異常(バッドステータス)と致命傷を与え、ネルの魔法でその二人を補助。

 何だろう。俺ら要らないんじゃなかろうか。

 だが、その分一体に時間を掛けていたのだろう。つまりはアレだな。女性陣が質、野郎共は量って話だな。

 

「……そうね、コレと向こうの比較的綺麗な素材を使えば十分だわ。

 でも今度から脳筋二人だけで組ませる禁止にしましょう」

 

 二人が庇ってくれたのが功を奏したのか、ソフィールは溜息を吐き出しながら怒りを収めた。

 助かったとカイと二人で胸を撫で下ろす。だがこれで俺とカイだけで好き勝手戦う事が禁止されてしまった。

 そもそも別れたのは一度に大量の雪原竜に襲われない為だ。

 だがそこで誰と組んで別れるかで少し揉めた。主にサフィールとシャルロットが。

 もっともらしい理由を話して俺と一緒に行こうとする二人が正直とても面倒だった。さっさと雪原竜と戦いたかったし。

 そんな訳でカイと一緒にさっさとダンジョンに向かって、二人の事はネルに任せた。

 困った笑顔を浮かべて了承してくれるネルマジエンジェル。

 団体行動を乱したのは反省している。でも、禁止されてしまうとは思わなんだ。

 

「それとネロ、貴方は今度私と一緒に素材集めを手伝って貰うからそのつもりでね」

 

 あ、こっちが本命でしたのね。

 罪悪感が抱かせて断り辛くするとは腹黒い、流石サフィール腹黒い。

 素材は俺も欲しいから勿論いきますけど。

 

「ああ、分かった」

「っ! 私も行くわ!」

「別に来なくて良いわよ」

「行くったら行くのよっ!」

 

 シャルロットも行きたいのか。おう、どんどん来い。人数が増えるだけ素材も増えるからどんどん来い。

 正直今回は雪原竜の素材を分けて貰えるか分からんから。

 

「じゃあ俺もっ!俺も行くぜ!」

「では私もご一緒したいです」

 

 カ治療を終えたネルとカイも行きたいと言っている。これではいつも通りクエスト受けるのと変わらなさそうだ。

 サフィールも反論しているようだが流石に今回は分が悪そうだ。

 でもその前に俺は言っときたい事がある。

 

「……なあ、そろそろ移動しないか?」

 

 今いる場所が安全地帯に属していても、こんだけの雪原竜を晒していたらランク3のモンスターくらいは寄って来ると思うんだ。白群狼(シルバーファング)とか。

 俺のそんな呟きは四人の喧騒に呑まれて消えて行った。

 駄目だアイツ等、話に夢中だ。

 

「……はぁ」

 

 ネルにすら届かなくて内心半泣きである。だがネロフェイスはそんな事はお首も出さない高性能ポーカーフェイスを搭載している。

 まっこと便利な体である。

 アイツ等が話し込んでいる間に雪原竜の死体は俺が回収しておく。

 晒してたらモンスターを引き寄せちゃうからね。仕方ない、本当に仕方ない。

 素材をネコババしようなんて少しも考えてない。考えてないよ。

 この量だと回収ソリに載せきれるか分からないけど、取り敢えず放り込んで引いていこうか。

 

「おらよっと」

 

 最初に切断した雪原竜の尻尾を担ぎ上げて運搬用のソリへ載せる。ギリギリ全部載りそうだ。俺とカイがバラバラにしたお陰だな。

 

「お兄様、すみません! すぐにお手伝いします!」

「ああ、ありがとうネル」

 

 俺が回収しているのにようやく気付いたのか、ネル達が話しを止めていた。

 サフィール、ネコババしないからそんなに睨まんといて。

 回収は全員で取り掛かれば早いものだった。そして回収が終わり次第全員で乗り込む。女性陣が前方の乗車席で野郎共は雪原竜さんの隣だ。

 ハハハ、血生臭い。こりゃ女性は乗ったらいかんな。

 ソリを引くのはサフィールの使い魔である改造ドルトス三姉妹が引いてくれる。改造された影響で元々厳つい顔が更に凶悪になっていて格好いい。サフィールのこういうセンスは本当に尊敬できる。

 この地点からギルドまで大体二時間程度だと思いながら雪原竜の頭に寄りかかる。

 血生臭いが、慣れれば空気と変わらない。

 女性陣が座っている席から明るい声が聞こえるのを子守唄代わりに、俺は目を瞑った。

 そしてふと、今日の日付を思い出した。

 氷晶の月十八日の夕暮れ。

 もう俺も高校生に相当する年齢だ。つまりはそろそろ現れるかも知れない。

 

「……会ってみてえなぁ」

 

 俺の小さな呟きは、ソリが雪を削る音に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 黒乃真央。黒の魔王の主人公であり、ヤンデレウイルスを散布する男。

 そして、最早消えかかっている小説の記憶の中で色褪せずにいる唯一。

 出来るものなら会ってみたいし話してみたい。そして戦ってみたい。

 きっと凄く強いのだろうなぁ。いや、強いに決まっている。

 星が見え始めた空を見上げて、そんな事を夢想していた。

 

 

 




 書いちゃったぜ……。
 黒魔大好きだから二次創作は是非やりたいと思っていました!
 大好きな作品の(恐らく)二番手になれる何て光栄の極み。
 光栄の極み。

 亀更新でゆっくり進行していきたいと思います。
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