たぶん更新のスピードはこれからもそこまで早くならないかと思いますが、お付き合いください。
ふと気付くと咲夜はあたり一面が満開の様々な桜で囲まれた林の中に立っていた。
「ここは……………?」
咲夜は不思議そうにあたりを見回すがやはり桜しか見えない。
「どこだろう、ここ……………それにしてもすごいなぁこの桜…………」
幻想的な景色に感嘆の声を漏らしながら歩き出す咲夜。
しかし歩けども歩けども桜しか無く、本当に自分が進んでいるのか分からなくなっていく。
どれくらい歩いたか、もはや咲夜は最初に覚えた感動など無く、ただただ恐怖を覚えていた。
「はぁ……………はぁ…………」
鼓動が乱れ、息も切れ切れになる。
そして一心不乱に歩き続け、気付くとすでに林を抜け、小高い丘の麓に立っていた。
「良かった、出れたんだ………」
咲夜はほっ、と安堵のため息を漏らしそのまま丘を登っていく。すると、頂上に一本だけ桜が立っているのが見えた。
それは、それまでの林の中で見たどの桜よりもずっと大きく、天高く枝を伸ばし、薄紅色の花弁を目一杯に咲かせた幻想的でどこか儚さを感じる、そんな桜の巨木だった。
「っ………………!!」
咲夜はその桜に強烈に惹かれた。そしてその感覚はどこか覚えがあった。そう、あのインターハイ女子団体戦先鋒戦の、神代小蒔の闘牌を初めて見た時に感じた強烈な感情。
もっと近くで見ようと咲夜は走り出していた。あと少し、もうほんの数歩でこの桜に触れられる、そう思った時、
ゴゥーーッッ!!!
と凄まじい勢いの突風が正面から吹いてきて、咲夜の目の前が一瞬で薄紅色に染まり、
「あっ………………!!」
咲夜は思わず目を閉じてしまった。
咲夜が目を開けると目の前にはあの桜の木では無く、見慣れた天井が目に入ってきた。
「ん〜…………夢…………?」
寝ぼけ眼をこすりながらベッドから這いずり出し伸びをする。
「あれ………どんな夢だったっけ…………?全然思い出せない……………なんかすごい夢だった気がするんだけど……………」
制服に着替えながら記憶を辿るがやはり思い出せない。
「んー、まぁいいか。どうせ夢だし………ん?髪に桜の花が付いてる」
そう言って指でつまんだ薄紅色の桜の花びらをそのままゴミ箱へ捨てる。
「寝てる時は窓開けてなかったんだけど……………あっ、そろそろ急がないと」
時刻は7時を少し過ぎたころで、本来ならまだ余裕があるのだが、咲夜は昨日、8時までに事務室へ来るようにと担任の教師に言われていた。
「いってきまーす」
朝ごはんを食べ、弁当を受け取り何度目かの通学路を軽い足取りで学校へ向かう。
咲夜が事務室へ向かうと、咲夜の他に数人の生徒が既におり、何やら事務の人と手続きをしていた。
「………私もここで手続きをしたらいいのかな………」
担任から詳しいことを聞かされていなかった咲夜が困惑していると
「あら?貴方、どうかしたの?」
と背後から声をかけられた。
「あ、はい……何をすればいいか分からなくて………って、明梨!?」
咲夜が返事をして振り向くとそこには明梨がいた。
「えっ?私はあk「なんか昨日と全然雰囲気違うよね…………」
のだが、昨日の明朗快活な雰囲気とは違う、いわゆるお嬢様、のようなオーラを纏っており、咲夜はあまりの豹変ぶりに呆然としてしまった。
「あ、あの………もしもし?」
「え?あ、なに?」
「あの、私は矢野明梨ではなく、彼女の姉の真梨と言います」
「えっ?あぁ……………え、えぇぇぇぇ!?」
咲夜が突然のカミングアウトに驚愕する。
すると咲夜の大声で、事務室内の人間の全ての視線が一斉に咲夜達へ向けられた。
その視線に耐えかねたのか、真梨は咲夜の手を掴み、「失礼します」と言って事務室の外へ引っ張っていった。
「あのような場所で大声を上げるなんて、いささかデリカシーに欠けますよ、貴方」
真梨は怒る、と言うよりは諭すようにそう言った。
「す、すみません。でもあまりに妹さんに似ていて驚いてしまって………」
「確かに、私たち姉妹は昔からよく似ていると言われていました。知らなかったなら驚くのも無理ありません」
「ほ、本当にそっくりですよね。双子なんですか?」
「いえ、私は3年生です。一応、今期生徒会副会長を任されています」
「生徒会副会長…………凄い………(明梨とは大違いだ………)」
ボソっと聞こえないように本音を呟く。
「そうだ、貴方の名前を聞いてませんでしたね。事務室に来た、という事は高校からの編入生ですか?」
「あ、はい、梢 咲夜です。でもどうして高校編入だって分かったんですか?」
「高校編入の生徒は毎年1学期の授業が始まる日に、中等部上がりの子達とは別で生徒証を発行してもらってるのよ。先生から聞いてなかったのかしら?」
「え、えと、8時にここに来い、とだけ言われただけで…………」
と咲夜が答えるや否や、真梨の雰囲気が先ほどまでのお嬢様然としたものとは違った、ドス黒いものになった。
「………担任の先生はどなたですか?」
「え………?えと、どうして……」
「ど・な・たですか?」
「ひっ…………は、萩田先生、です………」
「そうですか…………萩田先生にはきちんと生徒への連絡を怠らないように勧告しなくてはいけませんね……………フフ」
そう言うと真梨は再び先ほどまでの穏やかな状態へ戻った。
(…………なんかベクトルは違うけどこのスイッチが入ったら相手に有無を言わせない圧迫感のあるオーラが出るのも似てる……………)
冷や汗を流しながら咲夜は重圧から解放された安堵の息を漏らす。
「それでは梢さん、生徒証発行の手続きを済ませたら自教室に戻るように。私は生徒会室へ行きますので」
「は、はい。分かりました、ありがとうございます」
「上級生として、生徒会役員として、当然の事をしたまでです。それでは、ごきげんよう」
「え?えと、ごきげんよう?(…………ごきげんよう、なんて挨拶する人ホントにいたんだ…………)」
今まで自分がいた所との文化の違いに唖然としながら真梨がいなくなったのを見送ってから咲夜は再び事務室へ入っていった。