めぐねぇがまだ打ち解けられない彼女達を支えようと模索するお話です。

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頼りだったあの頃

これは、私がまだあの冊子を見つける前の話だ。

みんなで学園生活部を始める前の、まだ誰一人として落ち着いて居なかった頃のお話。

 

私の名前は佐倉慈。学校の国語教師をしている。そう、まだしている。彼女達は私の事を変わらず先生として頼ってくれるのだからそうあるべきなのだ。

そうあることで、私自身の冷静さを保てていると思う。

私達は協力して日々活動範囲を広げている。こう書くと聞こえはいいが、実際にはああなってしまった彼等の相手をしているのは胡桃さん一人で、彼女と彼女のスコップに頼りすぎてしまっている。けれど、私にはあのスコップを振るうほどの力も、精神も無い。他の二人も同じだろう。

由紀さんはあの日以来ほとんど布団に篭ったり、バリケードを作る協力をしてくれていても、極力彼等が目に入らないようにしているようだ。

悠里さんはそんな由紀さんを励ましつつ、私と一緒に今後の計画や予定を立ててくれている。まるでお姉さんのようだ、と胡桃さんも言っていた。

ほぼ初対面だった彼女達はまず私を通してそれぞれと関わり合うようになった。ただ、お互いに協力しつつも中々心開けずにいるようだった。

私は何をすればいいのか。今はそれぞれが直接言い合えない事を全て聞いて、相談に乗る事で彼女達の気を、そして私自身の気を紛らわせている。けれどそれでいいのだろうか。

彼女達が直接言い合える様になった方が彼女達自身の気分も楽になるのではないだろうか。

けれど、それは同時に私の存在意義が薄れてしまう事にもなるのだろう。ふとそんな事を思い浮かべてしまったが、それでは彼女達の為にならない。先生で居るのだから、まずは生徒の事を考えて行動するべきなのだ。

その日の夜、みんなに集まってもらうことにした。

 

「佐倉先生、何をするんですか?」

「それはね、今日はみんなに自己紹介をしてもらおうと思って!」

すると胡桃さんからすぐに反応があった。

「めぐねぇ、遂にボケたのか?」

「ボケてません!まだまだピチピチの二十代…ってそんなことはどうでもいいの!確かに簡単な自己紹介はしたけれど、もっとお互いが仲良くなれるような自己紹介をしましょう?その方がお互い気楽になれるでしょ?」

「めぐねぇがそういうなら…」

悠里さんはこくりと頷いて呟いた。由紀さんもそれに習って頷く。

「じゃあ何から自己紹介しましょうか?」

「考えてなかったのかよ…」

「めぐねぇって時々先生にしてはおっちょこちょいな所有るよねー」

「由紀さん!?」

「めぐねぇ先生の割には計算とか苦手だし…」

「悠里さんまで!?うー、みんな先生をなんだと思ってるのー」

胡桃さんが二人の顔をみて口を開く。

「そんなのもちろん、めぐねぇはめぐねぇだよな」

「そうだよ!めぐねぇはオンリーワンだよ!」

「頼りになる…先生でしょうか?」

揃いも揃って私の事で三人とも笑顔になった。

素直には喜べないけれど、三人が共通の話題で明るくなったのであれば一歩前進だろう。笑顔が溢れると、自然と会話が生まれてくる。

「悠里さん、りーさんって呼んでもいい?」

由紀さんが、悠里さんに一歩踏み出した。

少しの間があって、悠里さんが答えた。

「うん」

短い返事だけれど、彼女達には大きな一歩だ。

由紀さんは嬉しそうに喋り始める。

「りーさん、どうしたらそんなおっきくなれますか!」

「いきなりそんな話!?い、一応先生の前なんだけどなぁ…」

「大丈夫!めぐねぇにも聞きたいから!」

「そういう問題じゃないと思うぞーけどあたしも知りたい!」

「さりげなく胡桃さんまで便乗しないで!?」

「あ、そういえばあたしのことは胡桃でいいから。めぐねぇは…なんかめぐねぇに呼び捨てされると友達感覚じゃなくて友達になっちゃいそうだからパス」

「はーい」

きっかけさえあれば三人はすぐに打ち解けた。

私を経由した関係ではなく、直接の繋がりが出来た。

その夜は好きな食べ物や主に三人の共通の話であろう私の事などを語り明かした。同世代同士の会話は楽しいものなのだろう。止まることなく会話が続いていたのを覚えている。

初めて先生らしいことを出来たんじゃないかと少し誇らしげに思う。

 

私がしてあげられたことは、これぐらいしか無かったのだから。

願わくば、あの三人の仲がずっと続きますように。

もう一つ願い事をするなら、三人を私が見守れますように。


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