しかし、不意に彼の口から出た言葉に再び動揺し・・・
突如彼の口から放たれた言葉に私は時が止まったかのように固まってしまった。いや、その彼、比企谷八幡も恥ずかしさからか同じく固まっている。
「「・・・・・・」」
無言が続く。と言ってもはたから見るとおそらく僅か10秒にも満たない程度だろう。しかし、当事者の私にとっては本当に時が止まってしまったのではないだろうかと錯覚してしまうほど長く感じた。
比企谷という人物はこういうことが出来るような人だったであろうか。誤解して欲しくないけど、彼が優しくないというわけではない。むしろ彼はどちらかと言えば優しいほうだと思う・・・多分。
いくら部活だからといって、今まで関ったことのない私の、しかも学校外の問題であった私の問題に対して真剣に取り組んでくれてスカラシップという解決策も教えてくれた。おかげでまた弟とも仲良く過ごせている。
だから、多分彼は不器用なだけなんだろう。何か分かるような気がする。なぜなら私、川崎沙希も凄く不器用だから・・・
その長く短い10秒の後、彼を見ると私が何も言わないせいでものすごくバツが悪そうな顔で固まっていた。
―――な、なんか言わないと!
「えっと・・・じゃあ。比企谷、お願いしてもいいかな」
私の言葉で、固まっていた彼は我にかえり恥ずかしそうにしながら私の横に並んだ。
「おう・・・。あまりにも無反応だったからドン引きされたかと思ったわ。このまま警察に通報されるんじゃないだろうかと思って思わずダッシュで走りさるか考えちゃったよ・・・」
相変わらず減らず口をたたく彼も、わずかに月明かりに照らされた顔を覗くと顔を赤くし、目があっち行きこっち行きと泳いで明らかに動揺しているようだった。
―――比企谷も恥ずかしかっただろうに。普段つるんでる雪ノ下や由比ヶ浜ならともかく、なんで私にこんな心配してくれたんだろう・・・
二人して歩いている時も、さっきの気恥ずかしさからかお互い無言が続いた。横に並んでいるけど、何ともいえないぎこちない隙間が彼と私の間にあった。そしてその隙間を埋めるかのように彼が持ってくれている買い物袋が歩くたびに少し宙を揺れる。
あまりにも無言が続いたので私は思わず変なことを口走っていた。
「あ、あのさ・・・。あんたって彼女とか、いるの?」
「・・・・・・は?」
――――!?! 何を聴いてるの私!? あまりにも唐突すぎだしぃぃ!!
――――ほら、比企谷なんかマジで口を開けたままぽかーんとしちゃってるし!
「ご、ごめん!! い、い今のは忘れてっ!!!」
私はいそいで発言を撤回し冷静さを取り戻そうとする。
―――ホント、私今日動揺しすぎでしょ!? どんだけ比企谷のこと意識してんの!??
私が一人であわあわしていると、再び歩を進め始めた比企谷が口を開く。
「・・・いきなりどうしたんだ。友達もいない俺になんで彼女がいるんだよ?まず友達くれよ・・・」
「・・・由比ヶ浜や雪ノ下と仲いいじゃん。友達・・・ではないの?」
「あいつらは・・・よく分からんな。同じ部活動ではあるが。」
―――付き合ってないんだ・・・ホッ
―――ってなんで私は安心してるの!? これじゃまるで・・・
そうこうしているうちに私の家まであと少しのところまで来ていた。私は今度は冷静に、一つの疑問を彼に投げかけた。少し前から気になっていたことだ。
「ねえ、話変わるけどさ。あんた文化祭終わってから大丈夫なの?」
私の問いかけに確かに一瞬顔を暗くしながらも、彼は何ともないように答えた。
「・・・大丈夫って何がだ?俺はいつも大丈夫ではないからよく分からんが。」
彼はそう誤魔化した。まるで何ともないように。でも、私は先日見たのだ。朝、登校してきた彼が自分のシューズを取り出そうとしたときに靴箱にゴミが入れられているのを。そして、その時の彼の顔はとても哀しい顔をしていた・・・。
どうやら文化祭の時、同じクラスメイトの相模南に対して彼が何かを言ったことが発端のようだが詳しいことはよく分からない。ひどい言葉を投げかけたようだが私は、彼が不必要にそんなことをするとは思えない。
確かに口が悪いところはあるが、彼は人の気持ちをよく読む力がある。そんな彼がどうなるか結果が分からないで、クラスメイトに暴言を吐くとは思えないのだ。
だからきっと彼は自分がに誹謗の矛先が向くとわかっていながらも、そんな行動をしたのではないだろうか。
と言っても私も彼のことなんて詳しいわけではない・・・。普段特に会話するわけじゃないし、塾であってもそれは変わらない。
きっと彼女たちのほうが――雪ノ下、由比ヶ浜たちのほうが彼のことをよく知っているし、よく理解しているだろう。
「あんたがそう言うんなら何もきかないよ・・・」
言いたくないなら別に言う必要なんてない。誰でも聞かれたくないことの一つや二つあるはずだ。
―――でも。
気が付くと私のアパートの前まで来ていた。
―――人に言いたくないようなことを、相談してくれるような関係になれるのなら。
私は比企谷から荷物を受け取り、礼を言う。
「ありがとうね、比企谷。本当助かったよ・・・」
「そうか、なら良かったよ」
彼は照れ隠しなのか、手で後ろ髪を掻きながらそう述べた。
「なら、俺も帰るな。小町にしかられちまう」
そう言って、自らの家に帰ろうと彼は踵を返す。
「待って比企谷!」
気が付くと私はそう叫びながら彼の右手を掴んでいた。
「ど、どうした川崎!?」
「・・・じゃだめかな」
「・・・え?」
もっと彼のことをよく知りたい、雪ノ下たち以上に―――、
もし、いやなことがあったら相談してほしい、私に―――、
だから、さきほど友達も彼女もいないとそう言った彼に対して私は無意識の内だろうか。いや、違う完全なる私の意志で言葉を述べていた。
「わ、私と友達になって・・・!」
こうして、私たちの歯車は動き始める。
2話end
なんか思った以上に展開が遅いような気もしますがご了承ください・・・
全話合わせてそんなに長くならないと思うので、なるべく早い投稿ができるようがんばります