ハイスクールD×D~闇桜~   作:水無瀬久遠

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白四話 新たなる始まり

 

「んじゃ、行くが……昼は鍋にシチュー作っておいたから、それを温めろよ?多分、イッセーの関係で今日は帰ってこれねぇから……」

 

「僕の事はいいから……よく見てやれ。人間から悪魔に転生したてなんだろ?」

 

「……無理はすんなよ?よく体温めて、辛い様なら、彼方の薬箱に多分常備薬がある筈だからな」

 

 

了解、とクローディルが頷く。

パジャマ姿の彼は、どことなく顔色が悪い。

少し心配そうにクローディルを見ると、行ってくると言い、此方は家を出る。

付き合いは長い方だが、それでも毎度毎度あんな様子を見せられれば、大丈夫だと分かっていても心配になる。

 

見慣れた通学路を一人で歩く。

普段より静かなその道を、柄にもなく寂しいと思う。

 

 

『一人は嫌です。寂しくて、悲しくて……心が凍りついてしまいます……』

 

 

 

「………そうだな。一人は心を鈍らせる」

 

 

淡く苦笑が漏れる。

彼方には記憶に溺れるな、と言われたが、この記憶も自分の一部なのだ。

ふとした瞬間、自分の中に流れる『昔』の記憶。

一人になると、よく思い出してしまう。

自分が……どんな罪を犯した咎人なのかを……

 

 

「……ん?」

 

 

此方は怪訝そうに前を見る。

最初は聞き間違えだと思った。

しかし、学園に近づくにつれ、小さかった音は段々と無数の悲鳴だと認識出来た。

一体何事なのだろう?

 

ちょっとした興味心で、人集りの隙間へと割り込む。

と、その答えを知り、此方はくだらないと言いたげに笑った。

 

そこには、威風堂々と歩くリアスと、彼女の鞄を持ちながら従者の様に後ろを歩くイッセーの姿があった。

 

 

「どうしてあんな奴が……」

 

「リアスお姉さまがあんな下品な男と……」

 

 

それにしても、酷い言われ様だ。

もう、自分が考えていた事が馬鹿馬鹿しくなる程、この光景は自分の暮らす日常だ。

 

そう、これが『詩神此方』が暮らす日常……

 

 

「おっす!おはよう、イッセー。リアス嬢も、相変わらずの人気で」

 

「お、お前!此方!!」

 

「あら、おはよう此方。一緒にどう?」

 

「まさか!!イッセーの情けない顔が見れただけ、俺としては今日一日が楽しくなりそうっす」

 

 

んじゃ、先に教室にいるわ、と軽くイッセーに手を振ると先へと走る。

背後からイッセーの情けない声が聞こえた気がしたが、それを気づかないフリをして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

放課後

此方はイッセーと共に、教室に待機していた。

本当なら、もう部室に向かっているのだが、イッセーの話ではリアスは迎えを寄越すらしい。

それなら、その人物と待ち合わせて向かった方がいいだろう、と判断したのだ。

そして現れた人物に、此方は不機嫌そうに眼を細めた。

 

 

「や。どうも」

 

 

光を浴びて煌めく金髪、爽やかな笑顔と女性を釘付けにさせるその雰囲気。

学園で一位二位を争う、イケメン王子こと木場祐斗。

此方にとっては因縁深い人物でもある。

彼の来訪に、クラスの女子は黄色い歓声が上がり、中には失神している者もいる。

正直、ウザい。

 

 

「ま、クゥが休みな以上、二年で目立たずにイッセーを呼びに来るのはお前しかいねぇよな、キヴァ」

 

「いい加減、普通に名前で呼んでくれないかな?此方君」

 

「はっ!!冗談。……どうしても呼んでほしいなら、坊主にでもしてこい。このエセ紳士」

 

 

酷いなぁ、と祐斗が苦笑する。

あまりに攻撃的な此方の言い様に、先程まで祐斗を睨んでいたイッセーも、キョトンとしてしまった。

それだけ、此方が感情的かつ饒舌になる所が珍しいのだ。

 

 

「で?いくんだろ?」

 

「うん。リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ。僕についてきてほしい」

 

 

相変わらずの爽やか笑顔でそう告げる祐斗。

その瞬間、教室は女子生徒の悲鳴で埋め尽くされた。

 

 

「そ、そんな木場くんと兵藤が一緒に歩くなんて!」

 

「汚れてしまうわ、木場くん!!」

 

「木場くん×兵藤なんてカップリング許せない!」

 

「待って!!ここは、詩神くん×木場くんよ!!」

 

「いいえ!木場くん×詩神くんよ!!生意気ツンデレ受けなんて萌えるわ!!」

 

「いっそ、木場くん+兵藤×詩神くんよ!!詩神くん総受けなのよ!!」

 

「おい!!今俺の名前言いやがった奴!!ちょっと面かせやぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!」

 

 

あまりの言われように、此方が怒号を上げる。

木場は困った様に苦笑して、まぁまぁと彼を宥めると、足早に二人を連れて教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーを連れだって訪れたのは、慣れ親しんだ旧校舎の一室。

普段から、オカルト研究部の部室として使っている部屋だ。

 

 

「部長、連れてきました」

 

「ちわー、イッセーのお届けっす」

 

 

二人の声が呼びかける。

すると、中から「えぇ、入って頂戴」とリアスの声が響く。

その了承を確認し、祐斗が扉を開く。

中には、既に小猫の姿があった。

ハムハムと美味しそうな羊羹を一人もくもくと食していたが、此方の姿を見ると少し表情が綻ぶ。

 

 

「ちわ、ネコちゃん。その羊羹どうした?」

 

「クラスの子に貰いました。此方先輩も食べます?」

 

「ん~……んじゃ、一口くれ」

 

「……はい」

 

 

先程齧っていた分を口に入れ、新しく串に刺して、此方へと差し出す。

俗に言う「あ~ん」というものだ。

此方は特に気にする事無く、ハムッと差し出された羊羹を口にする。

 

 

「ん……これ、少し甘すぎないか?」

 

「そうですか?」

 

「ぜってぇ、砂糖と甘味料の入れ過ぎ。てか、和菓子なんだから、和三盆使えよ。……よし。今度作るか。ネコちゃん、味見にくるか?」

 

「ぜひ……」

 

 

此方が聞くと、無表情のまま頷く。

しかし、その瞳は期待に満ち溢れてキラキラと輝いていた。

と、イッセーが素早い動きで此方を羽交い絞めにした。

怪訝そうに振り返る。

 

 

「イッセー、なんだよ」

 

「なんだよ……じゃねぇ!!お、お前!!1年の搭城小猫ちゃんと知り合いだったのかよ!!」

 

「んあ?昔からの付き合い。な!!ネコちゃん!!」

 

「……はい。此方先輩と彼方先輩には、とてもお世話になってます」

 

 

コクリと小猫が頷く。

すると、イッセーが不思議そうに首を傾げた。

 

 

「彼方?」

 

「俺の双子の姉。ほら、隣のクラスで休学中の生徒がいるだろ?それが彼方」

 

「お、お前ぇぇぇぇ!!!!何故姉がいるのに、俺達に紹介しない!!?」

 

「何故紹介しないといけない?それに……彼方には、もう害虫が付着してる」

 

 

溜息混じりにいう彼に、イッセーは害虫?と首を傾げる。

すると、うんざりした表情で此方は隣に立つ祐斗を指差した。

 

 

「害虫」

 

「ひ、酷いよ、此方君。それに、まだ正式な返事はもらってないし……」

 

「そのまま振られてしまえ!!それが、俺の平穏を守る一番の方法だ!!!」

 

 

クワッと目を見開き怒鳴る此方を、どうどうとイッセーと小猫が宥める。

そうこうしていると、キュッと何かが閉まる音が響く。

よく考えれば、先程から水音がずっとしていた様な……

 

 

「部長、これを」

 

 

リアスとは違う声。

視線を向けると、そこにはカーテンで仕切られた場所があった。

光の加減で、女性の影が二つ浮かび上がる。

その豊満なボディーラインに、イッセーが鼻の下を伸ばす。

取り敢えず、此方は無言でその顔面に拳を減り込ませた。

 

 

「……いやらしい顔」

 

 

ボソッと小猫が呟く。

全くだ、と悶絶するイッセーを見ながら、此方は淡く溜息を漏らした。

 

そんなくだらない(?)やりとりをしていると、仕切っていたカーテンが開く。

そこにいたのは、制服を着込んだリアス。

まだ濡れた髪をタオルで拭きながら、綺麗に微笑む。

 

 

「ゴメンなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びてなかったから、いま汗を流していたの」

 

 

どうやら、此方がトンズラした後、なにやらあったようだ。

因みに、先程まで悶絶していたイッセーはというと、リアスの後方にいる女生徒に釘づけだった。

後ろに付き添うのは、リアスの『女王』である姫島朱乃。

完全にまた締まりのない顔になるイッセーに、此方は頬を思いっきり抓る。

 

 

「いでぇ!!?」

 

「姫島さんに見とれるのはいいが、手は出すなよ?」

 

「お、おまへなぁ!!」

 

「もうお手付きだからな」

 

 

お手付き……

その言葉に、イッセーの動きが止まる。

嫌ですわ、と朱乃が照れた様に微笑む。

 

 

「あらあら。挨拶が遅れましたわ。私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」

 

「ほ、ほれはどうほ。ひょーほーいっへーでふ。ほちはほほ、ほほしふほへがひしまふ」

 

「……何言ってるか、分かんねぇよ」

 

 

ふがふが言うイッセーに、此方は抓っていた手を離す。

イッセーはうるせぇやい、と抓られた頬を擦りながら、彼を睨んだ。

 

 

「それより、お手付きって……姫島先輩が!!?あの二大お姉さまの一角!!絶滅が危惧されているポニーテール所有者で、大和撫子を体現したかの様な、姫島先輩がお手付き!!!?」

 

「落ち着け、馬鹿」

 

 

ヒートアップするイッセーの後頭部へ、此方のチョップが落ちる。

クローディルの事がある以上、此方としては彼女に言いよる害虫は少ないに限る。

朱乃自身が靡く事はないだろうが、クローディルはそれを見てどう思うか分かったモノではない。

説明しようと口を開いた時、パンッとリアスが言葉を遮る様に手を打つ。

 

 

「此方、そろそろ説明したいのだけど」

 

「……どうぞ、リアス嬢」

 

「ありがとう。さて、兵藤一誠くん。いえ、イッセー」

 

「は、はい」

 

「私達、オカルト研究部は貴方を歓迎するわ」

 

「え、ああ、はい」

 

「悪魔としてね」

 

 

蠱惑的な笑みを浮かべるリアスに、此方は人知れず面倒だなと呟いた。

 

 

 

 

 

「粗茶です」

 

「あっどうも」

 

 

困惑気味のイッセーをソファーに座らせ、朱乃が持ってきたお茶を口にする。

話の都合上、イッセーの向かい側にはリアスと朱乃、その両脇を固める様に祐斗と小猫が立つ。

此方は、イッセーの後ろで規則正しく立っている。

イッセーがチラッと背後を見る。

此方の表情は面倒臭そうに顰められたままだ。

 

 

「うまいです」

 

「あらあら。ありがとうございます」

 

 

うふふ、と嬉しそうに笑う朱乃。

と、こほんとリアスが業とらしく咳払いした。

 

 

「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの」

 

「大雑把過ぎだろ、リアス嬢」

 

 

はぁ、と此方が溜息混じりに呟く。

ピクッとリアスの眉が揺れる。

 

 

「し、信じられないって顔ね」

 

「それで信じたら、全国の非信者が、全員宗教に目覚めるな」

 

「……此方、私を侮辱しているのかしら」

 

 

すくっと立ち上がったリアスが、ゆっくりと微笑む。

だが、その体からは紅いオーラが立ち上り、ゆらゆらとその髪を揺らす。

此方は明後日の方向を見ながら、降参だと言いたげに両手を上に揚げた。

 

 

「ほら、イッセーが委縮しちゃいまっせ、リアス嬢」

 

「貴方は、毎度毎度毎度毎度……そんなに私が気に食わないのかしら?彼方の代役だから、今まで我慢してたけど、私もそろそろ怒るわよ?」

 

「あ~~、怖い怖い。ほら、イッセー。あれが悪魔だ」

 

 

平然と返す此方に、イッセーは表情を引きつらせる。

因みに、今すぐにでも攻撃せん勢いのリアスは両脇に配置されていた小猫と祐斗によって抑えられている。

二人の表情は淡く苦笑している。

どうやら、よくある事らしい。

 

 

「昨日の事は覚えてるか?あの羽人間。俺がボンッとやっちまったザコ」

 

「あ、あぁ」

 

「あれが堕天使。ゲームとかで出てくるだろ?黒い羽の生えたキャラ。今はその認識でいい。悪魔と堕天使ってのは、とてつもなく仲が悪くてな。冥界……地獄みたいなのを思い浮かべてくれ。それを巡って、大喧嘩中なんだよ」

 

「喧嘩?」

 

「いや、戦争だな。『悪魔なんて滅んでしまえぇ』な堕天使と、『ここは俺達の領地だボケェ』な悪魔が大喧嘩。そしたら、『両方とも救済しちゃるわぁ』って天使が横殴りに攻撃し始めて、さぁたいへん。三竦みで大喧嘩をし始めた」

 

 

ふむふむと唸るイッセー。

 

 

「まぁ、それもかなり前に全勢力痛み分け。ちょっとした小競り合い程度まで落ち込んでる。んで、お前はその小競り合いに巻き込まれた死んじゃった……な♪」

 

「『な♪』じゃねぇだろ!!?え!!?やっぱ、俺って死んじゃったの!!?」

 

「……みたいだな。お前の彼女、天野夕麻だっけ?あいつ、堕天使だったんだよ」

 

 

ほら、と机に投げられた写真。

そこには、イッセーの記憶していた天野夕麻の姿があった。

 

 

「この子は堕天使。昨夜、あなたを襲った存在と同質の者よ」

 

 

調子を取り戻したらしいリアスが説明へ戻る。

しかし、少し頭痛がするのか、頭を押さえながら。

 

 

「この堕天使はとある目的があって貴方と接触した。そして、その目的を果たしたから、貴方の周囲から自分の記憶と記録を消させたの」

 

「目的?」

 

「……お前を殺す事」

 

「っ!!?」

 

 

ガタッと立ち上がるイッセー。

前に乗り出そうとする彼を、此方が肩を掴むことで制止させる。

 

 

「な、なんで俺がそんな!」

 

「落ち着け、馬鹿」

 

「お、落ち着いてなんかいられるか!!?」

 

「……彼の意見が最もだよ、此方」

 

 

突然入れられた第三者の声。

全員の視線が扉へと向かい………そこにいた彼は淡く苦笑した。

 

 

「やぁ、こんにちは」

 

「え、えっと……ローゼリア?」

 

「はは。僕の名前は面倒だからね。ローゼでいい」

 

 

少しふらつく足取りで、イッセーの横に座る。

その姿を、此方がジトリと睨んだ。

 

 

「家で大人しくしてろって、言ったよな?」

 

「これも仕事だ。……我が主、詩神彼方より、リアス・グレモリーへ伝達です」

 

 

これを、とクローディルは鞄から綺麗に封をされた手紙を手渡す。

リアスは丁寧に開封すると、中身へと視線を写し、分かったわとだけ答えるとその用紙を消した。

 

 

「それから、祐斗宛てにもほら。返事はいつでも構わないらしい」

 

「あ、ありがとう、ローゼくん」

 

 

こちらは女性らしい可愛い水色の封筒だった。

それを受け取った祐斗が、少し照れた様に微笑む。

それとは対照的に、此方の表情が凶悪に変わっていく。

 

 

「……おい」

 

「君では、届けないだろう?あまり、彼方の邪魔をしない方がいい」

 

「お・れ・は!!こ・い・つ・を・み・と・め・ん!!!」

 

「全く……そこまでくると、もう病気の部類だな。一度病院で診てもらえ。多分病名は『シスコン』だ」

 

 

ギリギリと睨む彼を、さらりとクローディルがかわす。

どう足掻いても、彼に口で勝てる気はしない。

 

 

「さて、話の腰を折ってしまったね。兵藤の問いには、僕が答えるよ。堕天使が君を殺した訳、それは君の中にある厄介な代物を消す為だ」

 

「お、俺の中にあるもの?」

 

神器(セイクリッド・ギア)……僕らはそう呼んでいる、人間にしか宿らない代物だ。」

 

「神器……」

 

 

ボソッとイッセーが呟く。

そういえば、自分を殺した時、同じような事を夕麻が口にした気がする。

クローディルに続き、祐斗も口を開く。

 

 

「神器とは、特定の人間の身に宿る、規格外の力。例えば、歴史上に残る人物の多くがその神器所有者だと言われているんだ。神器の力で歴史に名を残した」

 

「現在でも体に神器を宿す人々がいるのよ。世界的に活躍する方々がいらっしゃるでしょう?あの方々の多くも体に神器を有しているのです」

 

「とは言っても、その殆どは機能しないまま一生を終えるのが普通だ。でも、中には悪魔や堕天使、神すらも殺せる程の強い力を秘めた神器も存在する。………アザゼル様、といっても君には分からないだろうな。えっと、堕天使のリーダーはそんな神器の可能性に惹かれていてね。出来るだけ勧誘、脅威となる様なら殺す様に動いているんだ。君は、その殺す方に選ばれてしまったようだね」

 

 

祐斗に続き、朱乃が補足した後、クローディルが申し訳なさそうに続けた。

ふと、此方が不思議そうにクローディルに問う。

 

 

「なぁ。勧誘せずに殺害ってあるのか?」

 

「どうだろう……条件にもよるんじゃないか?存在してるだけで脅威だった……とか?」

 

「お前、この馬鹿が存在してるだけで脅威になると思うか?」

 

「それは、僕も気になっていた。兎に角、発現させないと、話にならないな……」

 

 

リアス嬢、とクローディルが呼びかけると、待ってましたと言わんばかりに、リアスの表情が生き生きとした。

どうやら、自分の下僕に対して全く話させてもらえないのが不服だったようだ。

 

 

「イッセー、手を上にかざしてちょうだい」

 

「え?」

 

「いいから、早く」

 

 

意味が分からなそうな彼に、リアスは有無を言わせず急かす。

イッセーは戸惑いながらも、彼女の指示に従い、その手を上にかざした。

 

 

「目を閉じて、貴方の中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

 

「い、一番強い存在……。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」

 

 

漫画かよ!!

そう突っ込みたかったが、此方は心の中で呟くに留めた。

ここで言っては、イッセーの集中力を阻害する事になるからだ。

……本音を言えば、ただ単に面白そうだったから。

 

 

「では、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

 

イッセーの額に皺がよる。

 

 

「ゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がって」

 

 

指示に従い、ソファーから立ち上がる。

 

 

「そして、その人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ?軽くじゃダメ」

 

 

その指示に、イッセーの表情に若干の変化が現れる。

一度だけ、イッセーの家でその漫画に目を通した事のある此方は、内心笑みを抑える事に必死だった。

正直、彼の考えている事が手に取る様に分かるのだ。

それを実行する……それは、羞恥以外のなにものでもない。

此方が同じ立場なら、舌を咬んでしまいたくなるだろう。

そして……その時は訪れた。

 

 

 

「ドラゴン波!」

 

 

 

イッセーは開いた両手を上下に合わせて前へ突き出す格好のまま、声を張り上げる。

その瞬間、此方は堪え切れずに吹き出す。

 

 

「だぁぁぁははははははははっ!!!!ま、マジで?マジかよ~~~~~!!!!」

 

「て、てめぇ!!笑うなぁ!!」

 

「あはははははっ!!!!ご、ごめ……俺、腹筋崩壊しそ……」

 

 

ひぃひぃ言いながら涙目で笑う此方に、イッセーは顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

相当恥ずかしかった様だ。

と、カッと強い閃光が左腕を包むと、そこには真っ赤な籠手が出現した。

 

 

「な、なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「うるせぇ」

 

「ぐはっ!!?」

 

 

突然のことで叫ぶイッセーに、此方の拳が減り込む。

かなり理不尽な扱いだ。

 

 

 

「それが神器。貴方のものよ。一度ちゃんとした発現ができれば、後は貴方の意志でどこにいても発動可能になるわ」

 

 

自慢げに胸を張るリアス。

いつもなら、意地悪な事を平然と言う此方だったが、今回はイッセーの羞恥で笑い過ぎて、そんな気分にはなれない。

 

 

 

「なぁ、クゥ。この神器ってなんだ?」

 

「……見た目は『龍の手(トウワイス・クリティカル)』みたいだけど……でも、それは有り触れた神器だ。僕も何人か勧誘に動いたし、それ程危険視する必要はない筈だけど………」

 

 

イッセーの腕をマジマジと見詰め、むぅと唸る。

堕天使出身のクローディルでも、見分ける事に躊躇いがあるようだ。

とはいえ、此方の中には言い様のない不安が広がっていた。

不吉、不審……そんな感覚ではなく、力が集まってくる……そんな確信めいた感覚。

この先、荒れるだろうな、と此方は誰にも聞こえない声で呟く。

 

 

「兎に角、その神器を危険視されて、堕天使―――天野夕麻に殺されたの」

 

「……じゃあ、俺が生きているのは」

 

「瀕死の中、貴方は私を呼んだのよ。この紙から私を召喚して、ね」

 

 

リアスが一枚の紙を提示する。

そこには『あなたの願いを叶えます!』と胡散臭い言葉と、禍々しい魔方陣が印刷されたチラシだった。

 

 

「これ、私達が配っているチラシなのよ。魔方陣は、私達悪魔を召喚する為のモノ。最近は魔方陣を描くまでして悪魔を呼び寄せる人はいないから、こうしてチラシとして、悪魔を召喚しそうな人間に配っているのよ。お得な簡易版魔方陣。あの日、偶々私達が使役している使い魔が人間に化けて繁華街でチラシを配っていたの。それをイッセーが手にした。そして、堕天使に攻撃されたイッセーは死の間際に私を呼んだの。私を呼ぶほど願いが強かったのでしょうね。普段なら眷属の朱乃達が呼ばれている筈なんだけれど」

 

 

「……人は死に際程、強い欲望を抱く。それが、他者にとって吉となるのか凶となるのかも知らずに」

 

 

迷惑だよな……と笑う。

しかし、その表情は冷たく痛々しい。

シン……となった部屋に、此方は小さく悪いと呟く。

 

 

「話を続けてくれ、リアス嬢」

 

「え、えぇ。召喚された私は貴方を見て、すぐに神器所有者で堕天使に害されたのだと察したわ。問題はここから。イッセーは死ぬ寸前だった。堕天使の光の槍に身を貫かれれば、悪魔じゃなくても人間なら即死。イッセーもそんな感じだったの。そこで私は貴方の命を救う事を選んだ」

 

「……前にも言っただろ?リアス・グレモリーの下僕だって。つまり、お前はもう人間じゃなく―――――悪魔になったんだ」

 

 

バッとイッセーの除く全員の背に翼が生える。

悪魔である事を示す、コウモリの様な翼。

しかし……

 

 

「ろ、ローゼ!!お前、堕天使なのか!!?」

 

「ん……あぁ」

 

 

一人、クローディルの背には黒い鳥の様な翼が生える。

驚愕するイッセーに、彼は淡く苦笑した。

 

 

「すまない。ちょっと、体調が優れないと昔の羽が出てしまうんだ」

 

 

本当はこっちだな、と彼の翼がコウモリのそれに代わる。

 

 

「クゥは元堕天使なんだよ。今は転生悪魔として、俺と共に働いてる」

 

 

「へ、へぇ……」

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

 

「僕は木場祐斗。兵藤一誠くんと同じ二年生ってことは分かっているよね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

「……一年生。……搭城小猫です。よろしくお願いします。……悪魔です」

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

 

「今さら自己紹介の必要はねぇだろうけど、詩神此方。今は仕事でグレモリー眷属の護衛を務めている。悪魔じゃ先輩だな、イッセー」

 

「同じく。僕は別の悪魔の護衛として、こっちにいるんだ。クローディル・ローゼリア。元堕天使で、今は此方の仲間。ちゃんと悪魔だ。宜しく頼むよ」

 

 

全員の紹介が終わった後、彼女は堂々とした姿で告げる。

 

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」

 

 

これにて、全員の顔合わせが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「取り敢えず、これで終わりだね」

 

 

イッセーにある程度の説明を終わらせ、一時解散となった部室の中。

クローディルは帰宅するイッセーを窓から見下ろしながら、呟く。

 

 

「……始まり、の間違いだろ?」

 

 

ソファーにもたれかかりながら、此方が誰にともなく呟く。

その言葉に、そうだな、とクローディルは同意した。

 

 

「……リアス嬢、ありがとうございました」

 

「?」

 

「イッセーの事、拾っていただけて」

 

 

不思議そうに首を傾げた彼女に、此方は小さく付け足す。

それで了解したのか、別にと笑う。

 

 

「私が気に入ったの。だから、下僕にしただけよ?」

 

「それでも……彼奴が生きててくれたのは、不幸中の幸いですよ」

 

 

リアスらしい答えに、苦笑しながらも、もう一度ありがとうございました、と告げる。

 

イッセーとはあ、それ程仲が良いとは言えない。

クラスが一緒で、前の席。

その程度の付き合いなのだ。

それでも……

 

 

「……彼奴、入学した時普通に俺に話しかけてきたんすよ」

 

 

入学した時、人間と関わる気になれず、殆ど無言を貫いた。

人間と悪魔は寿命が違う。

人間である彼らがどれだけ頑張っても、此方が死ぬ頃には、その先祖がこの町に暮らしている事だろう。

だから、関わる気にもなれないし、関わってもずっと友人のままではいられない。

 

初日は沢山のクラスメイトが彼に話しかけた。

此方の容姿は、人の目を引き付ける。

サラサラとしたこげ茶色の髪も、宝石を埋め込んだ様な蒼い瞳も……その憂いを帯びた美しい顔も。

しかし、全く答えない彼に、次第に周りの意識は遠退き、数日たてば、誰もが彼を空気の様に扱った。

そんな中……ずっと、此方に話しかけてきたのがイッセーだ。

 

 

 

 

『俺、兵藤一誠!イッセーでいいから!!お前さ、そんなに窓の外見て、楽しいのか?はっ!!もしかして、女子のパンチラの瞬間を見ようとしてるのか!!?』

 

 

 

 

 

最初はいつも通り無視していた。

だが、何日たっても話しかけてくるイッセーに、此方が根負けしてしまったのだ。

それからはというと、更に馬鹿二人も増えて、此方の日常は自分が予想していたよりも騒がしいものとなってしまった。

しかし……

 

 

「意外に……居心地が良かったんすよ。クゥ以外に、あんなに馬鹿騒ぎした事なかったんで」

 

 

と、いうより、あんなタイプは初めてだ。

馬鹿でエロで……それでも友達思いで、頑張り屋な、自分の数少ない人間の友人。

それを、失うかと思うと暗い感情が心に渦巻く。

 

 

「……人間界に連れ出したのは、正解だったな」

 

「ん?」

 

「いや……これからが面倒だぞ」

 

「……分かってる。クゥ、頼むよ」

 

「分かってる。堕天使関係は僕が担当するよ」

 

 

いいですね、と問うとリアスは無言で肯首する。

イッセーを殺す事が組織的な動きならば、自分達一介の悪魔が介入するわけにはいかないだろう。

だが、それが個人によるモノであったなら……

 

 

「その時は、容赦せず排除してやる」

 

 

冷たい殺気を帯びる此方に、全員が無言のまま表情を曇らせるのだった。

 

 

 

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