私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか   作:ぶーちゃん☆

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お待たせしました。
今回もよろしくお願いします。




震えるぼっち。いろんな意味で

 

油断してた……比企谷君との邂逅に集中するあまり、ココが私達の地元のカフェだって事を忘れてた……

普段なら絶対に立ち寄る事なんかない地元の店に、比企谷君とだから、って理由で深く考えずに入ってしまっていたのだ。

 

しーちゃん……

本名はなんてったっけかな……?まぁどうでもいいけど。

もちろん原因は私。悪いのは私だって分かってはいるけども、どうしたってコイツに対してはもう好感なんか持てるわけ無い。

あの事件をクラス中に言い触らして、比企谷君を笑い者にする中心に居たのがコイツなんだから。たぶんそこには当時クラスでは一番人気だった私へのやっかみも多分に含まれてたんだろう。

コイツの後ろにも当時上辺の私が仲良くしてた娘達がニヤニヤと下卑た顔を浮かべてるけど、私の意識はその中でも特に酷い笑顔を浮かべるしーちゃんに向いていた。

 

身体が震え始める。心も震え始める。なんかもう恐いよ……人の悪意って……

堪らずに逸らした視線の先では、比企谷君も脂汗を浮かべて表情を歪ませていた。

 

※※※※※

 

「えー?美耶ちゃんさぁ、うちらと連絡途絶えたと思ってたら、こういう事だったのぉ?」

「いやー!キンモー☆まさかまさかのカップルはっけーんっ!」

「あはははは〜!そりゃあたしらからの連絡無視するはずだよねー!」

 

うぷっ……気持ち悪い……吐き気がする……今の私には、コイツ等のこの笑顔がグロいモンスターにしか見えない。

頭ん中はぐらんぐらん揺れてるし、涙が溢れそうになってきた。

 

「ち、ちがっ……わ、わたし……べ、別に比企谷君とカップルなわけじゃっ……」

 

せめて、せめてこの醜いモンスター達から比企谷君だけでも守らなくちゃいけない。今のコイツ等の標的は昔と違って明らかに私なんだから。

 

「はぁ〜?なに言ってっか全然聞こえないんだけどぉ?

ぷっ、なんかコミュ障なキモいヤツと話してるみたーい」

「ウケる!美耶ちゃんてそんなんだったっけー!」

「てかなんで涙ぐんじゃってんのぉ?なーんかうちらが虐めちゃってるみたいなんですけどー!つか美耶ちゃん震えてね?ギャハハハ」

「だっ……だから私と比企─」

「聞こえねぇっつってんだろぉ、みーやーちゃーん♪どーしちゃったんでちゅかー?」

 

───なんで?なんで私は人に興味なんかないはずなのに、人なんかどうでもいいはずなのに、こんなにもムカついてるのにこんなヤツ等相手に声が出ないの?

……本当は気付いてしまっている。それはただの方便なのだと。

 

それに気付いてしまったのはついさっき。葉山君達と話していた時。

私はあの時、なんで折本さん達と喋るのはあんなに緊張するのに、なんでさらにカースト上位な王子様率いるこの人達とは普通に喋られるんだろうって疑問に思っていた。

 

私は……人に興味が無いだなんてただの嘘。人がどうでもいいだなんてただの嘘っぱち。

自立型ぼっちだなんだと自分を誤魔化してきたけれど、本当はこんな風になってしまった事を後悔してるんだ。本当は人と仲良くしたいのにとか思っちゃってるんだ。

 

だからこそ、自分と関わりのある人間と話すのは緊張しちゃうけど、関わりのない人とは平気で居られるんだ。

なんてことはない。こんなになっちゃった今でも……他人なんかどうでもいいとか言って誤魔化して格好付けてても……

 

[私は周りからの目を人一倍気にしている]

 

みっともないけど、これが答えなんだろう。

 

 

だから…………コイツ等が、こんなヤツ等が恐くて恐くて仕方ないんだ。昔の私を知ってるから。華やかだった頃の私を見てたから。

だから今の惨めな私を見られる事がたまらなく恥ずかしい。今のみっともない私を笑い者にされてると思うと震えが止まらない。

 

くそっ……せっかく、せっかくもう一度素直に人が好きだと認められそうだったのに、なんでだよっ!……なんでお前等なんかが出て来ちゃうんだよっ……!

 

 

「マジでどしたのー?美耶ちゃぁん。なんかキモいんだけどー?」

「あ!私知ってんだけどぉ!海浜に行ってる友達から聞いたんだけどさー、なんか美耶ちゃんてぇ、今さぁ」

 

やだ!やめてよっ……

私は拳を握り締めて俯く。

 

「ぼっちらしいよー?」

 

※※※※※

 

「うっそー!マジでー?『あの』美耶ちゃんがー?」

「マジマジー!なんか一人も友達居ないんだってよ!?休み時間も昼休みも、一人ぼっちなんだってぇ」

「うっわ、悲惨!『あの』美耶ちゃんがねー」

「しかも二年になってから、なんとあの折本かおりと同じクラスになっちゃったらしくってー、ホラ中学んトキは美耶ちゃんか折本かおりかって空気あったじゃん?

そんな二人が同じ教室で月とスッポンになっちゃってるから、すっごい悲壮感漂ってんだってさぁ!」

「ウケる超ヒサ〜ンっ!」

 

ああ……なんかもう嫌だ……もうどうでもいいや。

そして、それからは永遠とも言える、ぼっちへと墜ちた私への嘲笑が続く…………………………………のかと思われたのだが、彼が、比企谷君がそれを許さなかった。

 

「はぁ〜……マジでうっせえわ……なんなの?ジャングルなの?」

 

ずっと黙っていた比企谷君が急に口を開いた事により、モンスター達の目は比企谷君へと向いた。

 

「は?」

「ぷっ、なにこいつ喋れんの?」

「ナル谷は黙ってろよキメェから。お呼びじゃねーっつのぉ、あはは〜」

 

俯いてしまった顔を比企谷君に向けると、その目は腐ってる……というよりは仄暗い光をたたえてるようにも思えた。

 

「まず勘違いをどうにかしろ。俺と二宮はさっきそこで数年ぶりに偶然会ったばかりだ。

あまりにも懐かしかったし、俺にもまぁ未練とか?そういうのもあったから、どうしてもって頭下げて、お茶だけ付き合って貰ってたってだけだ」

 

……はへ?なにそれ初耳なんですけども。

……私の様子を見て庇ってくれようとしてるのかな。比企谷君……

やばいっ……つい一瞬前まで心が冷えきってたのに、比企谷君の声を聞いただけで、なんだかポカポカしてきちゃったよ……なぜだか、すっごく安心する。

 

しかしそんな安心してポカポカになった心を、比企谷君自身が冷え冷えさせてくれたのだった。

 

「つうかさ、さっきから馴れ馴れしいんだが、お前らって誰?もしかして知り合いだっけ?二宮。

なんかあまりにも頭の悪いその他大勢にしか見えなくて、全然思い出せないわ」

 

比企谷君!?さっきコイツ等の顔見て引きつってたよね!?絶対覚えてるよね!?

 

「は、はぁ?あんたなに言ってんのぉ?キモオタのモブオのクセによぉ!」

「その他大勢にも入れない最底辺カーストの癖に、なに調子乗っちゃってんのぉ!?」

「マジでムカつくわオタ谷!高校デビューでもしちゃって勘違いしてんじゃね!?モブの癖にさぁ」

 

キレだした三人をよそに、涼しい顔をして挑発を続ける比企谷君。ちょ、ちょっと!?

 

「いや、スマン。マジで思い出せないわ。てかお前らは俺のこと覚えてんのな。俺は知らんのに。

モブ勝負で言えばお前らの圧勝じゃね?おめでとさん」

 

私のさっきまでの怯えはどこえやら、比企谷君のあまりの煽りっぷりに心配になる。やばいって!コイツら顔真っ赤にして爆発寸前だよ!?

 

「てかお前らってどこの高校通ってんの?なんか見たこと無い制服着てんな。ああ、底辺過ぎて知んないだけか。

なんかアレじゃね?将来の為にもこんなトコで油売ってないで、早く帰って勉強でもした方がいいんじゃね?」

 

カースト順列付けの煽りに対して、ま、まさかの学校カースト返しっ!そりゃコイツ等の学校じゃ総武高校の制服着たヤツに学校カースト制度で相手になるワケがないよっ!

その時コイツらは初めて比企谷君が着ている制服に気付いて、これでもかってくらいに引きつった。

 

たぶん比企谷君は普段なら学校の優劣で人を馬鹿にしたりはしないんだろう。人そのものの質では大いに馬鹿にしてそうだけど。

これは……比企谷君が相当怒ってるって事なんだろうか?それとも……わざと挑発してんの……?

 

「ざっけんなよ比企谷ぁ!ちょっといい学校行ってっからって調子に乗りやがってよぉ!」

「比企谷ごときが私らより上になったつもりなの!?マジでキモいわ!」

 

これは……もう勝負有りだわ。

完全に涙目になって逆上してヒスってる女三人に対して、終始冷静に煽ってる比企谷君。ちょっと煽りすぎな気がしないでもないけど。

 

これはもう尻尾巻いて惨めに逃げ出すか、口じゃ相手になんないから暴力に訴えるかくらいしかコイツ等に選択肢がないもん。やっぱり、比企谷君はスゴいんだ……もう、あの頃の比企谷君じゃないんだね……

 

 

 

 

 

───ん?暴力に訴える?

え?ま、まさか!?

 

なんか必要以上にすっごい煽ってるかと思ったら、もしかしたら比企谷君はコイツ等に暴力を振るわそうとしてるんじゃっ……

 

た、確かにこんな公共の場所で口論の末に手なんか出しちゃったら、学校的に問題行動になってしまう。

目撃者もたくさん居るし、その件で脅しを掛ければコイツ等はもう二度と比企谷君にも私にも近付かなくなる。

だから!?だからそんなに煽ってたの!?

 

 

ダメだよ比企谷君っ!そんな事の為に、こんな奴らに比企谷君が殴られる事なんてない!

止めなきゃ!……と思った時にはもう遅かった……

怒りで真っ赤に染まったしーちゃんが、酷い暴言を吐きながら比企谷君に向かっていった。

 

「比企谷ぁ!あんたみたいな生きてる価値も無いような気持ち悪いぼっち野郎の分際で、上位カーストの私らに生意気言ってんじゃねぇよ!」

 

「ひ、比企谷君っ!!」

 

 

バァンッ!!!と、それはもうものっ凄い音が4つくらい店内に響いた。

え?4つ?前方で3つ、後方で1つのもの凄い音が聞こえたんだけど……?

 

私は引っ張たかれそうになった比企谷君を庇おうと抱き付いたんだけど、どうやら比企谷君はまだ叩かれてはいないみたい。

叩こうとしてたしーちゃんも、叩かれようとしてた比企谷君も、そのものっ凄い音に驚いて固まっていたから。

しかし次の瞬間、比企谷君の顔がみるみる青くなっていった。前方から発せられたその声を聞いてしまったから。

てか気温が5℃くらい下がりましたけど……

 

 

「あら、あまりにも騒がしくてここは動物園かなにかなのかと思ったら、動物園ではなくて細菌のラボだったようね。

この騒ぎはついにパンデミックでも引き起こしてしまったのかしら?比企谷菌」

「ヒッキーマジうるさいしっ!」

「ちょっと先輩!せっかくの女子会をバカ騒ぎで邪魔しないでもらえませんかねー」

「……え?なんで……?」

 

そして後方から聞こえてきた声に、今度は私が引きつる番だったんですのよ?

 

「あれー!?なんかうるさいわあたしの名前が出るわで何事!?とか思ってたら比企谷と美耶ちゃんじゃーん!ウケるっ」

 

 

いやいやなんで居んのよアンタ!?笑顔なのにすげー青筋浮かんでんだけど!?なんかヤツの後ろでは、この中で唯一の常識人ぽい仲町さんが、申し訳なさそうに苦笑いしてペコペコ謝ってるしっ!

これ完全に折本さん主導で尾行してきたでしょ!?

 

前門の虎、後門の狼は、徐々にその差を詰めてくる。

やばいっしょ!どちらのグループも青筋浮かびまくりんぐっしょ!

 

 

ひぃぃっ!恐い〜!私、今比企谷君に抱き付いちゃってますけどもぉぉ!?

でもそんな2つのグループの視線は、話し掛けてきた比企谷君と私では無く、しーちゃん達に向けられていた。

 

あ、やっべー……これ完全にオーバーキルでしょ……

 

そして私は彼女達の視線が他に向いている隙に、そっと比企谷君から離れるのであった……

あ、あれ?なんかその瞬間だけ黒髪ロングの美少女の視線がギランッと私を射ぬいた気がしたんですけど、私、大丈夫でしょうかね……?

 

つづく

 





今回もありがとうございました!
今回は本当はこの恐怖の軍団が去るまでを書くつもりだったのですが、思ったよりも長くなってしまいました。

それでは次回もよろしくお願いします。

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