私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか 作:ぶーちゃん☆
おかしいな……
私てっきりこの氷の女王様こそが先頭に立って、私をしーちゃん達路傍の石ころの如く、蹴り飛ばし踏みつけてゴミのようにそこら辺のドブにでも蹴り捨てられるのものかとばかり思ってたのに、まさかその雪ノ下さんから撤収の提案がなされるとは。
しかし想像してた末路が酷いなっ。
でもその提案に意外だったのは私だけでは無いようで……
「そうですねー、帰りますかー…………って雪ノ下先輩!?か、帰っちゃうんですか!?
だ、だってだって、先輩とこの泥棒猫を置いてっちゃうんですか!?」
誰が泥棒猫だよ……私こう見えてあなたより先輩なんで、せめて本人が居ない所で言ってもらえませんかね。
「一色さん……?」
「は、はぃぃっ……」
すると雪ノ下さんはそんないろはすちゃんに今にも襲い掛からんばかりの厳しい目を向けてお説教を始める。
おお……さすが先輩。雪ノ下さん!きっちりと言ってやって!
「猫を泥棒の代名詞のように言うのはやめなさい。私、猫に対して偏見に満ちたその言葉を使う人間がどうしようもなく許せないの」
そっちかっ!マジギレして猫の擁護をする前に少しでも私に優しさをください。。
「まぁまぁゆきのん!いろはちゃんも悪気があったわけじゃ無いんだしさー」
私に対する悪気とかは気にしないんですね分かります。
「泥棒猫って……あのなぁお前ら」
「黙りなさい」
「ヒッキーは黙ってて」
「先輩うっさいです」
「……はいすみません」
「ウケる!」
なんなのこのカオス!
とりあえず恐いので、比企谷君は黙っている事にしたみたいです。もちろん私は始めから口を開く気なんかありません。
「こほん!と、とにかくですね?先輩とその人を残して帰っちゃうんですか……?
じゃあなんのために尾け……偶然会ったのか分かんなくないですかね」
……もう言い直さなくてもいいよ、ソレ……「なんのために偶然会ったのか」って意味の方が分からないよお姉さんは……
するとお団子乳の由比ヶ浜さんがいろはすちゃんに優しく語りかけた。
「いいじゃんいろはちゃん!あたしはゆきのんの提案いいと思うよ?
たぶん……ヒッキーとこの娘が会って話すのって大事なことなんだと思う」
「結衣先輩……」
「この娘はさ、さっきまでの人たちとは全然違うじゃん。ちゃんとヒッキーのこと分かってるし。
その上でヒッキーに大事な話があって会いに来たんだから、それはもうあたし達が邪魔しちゃダメなんだよ。ねっ」
「ふふっ、由比ヶ浜さんの言う通りね。先ほどの騒がしい人たちとは全然違うもの。
見つかってしまった以上は、もう私たちは帰るべきなのよ?一色さん」
それ逆説的に言うと見つからなかったら尾行も盗み聞きもOKて事ですよ!?雪ノ下さん!
───でも、頭はちょっと悪そ……ぽわっとしてそうだけど、やっぱりお姉さんなんだなぁ、由比ヶ浜さんて人も。可愛い後輩をちゃんと宥めてる。それに……
「むー……先輩のこと分かってるからこそじゃないですかー……」
いろはすちゃんは口を尖らせながらも渋々納得してくれたみたいだ。
「さぁ、ではそろそろ帰りましょうか」
そして雪ノ下さんはお供の二人を引きつれて私たちに背を向けた。
……この人たち──約一名の後輩ちゃんを除く──は、私を少しだけ認めてくれたんだろうか?
こんなにも目立つ美少女達が、こそこそと尾行してまでも比企谷君の事が心配で着いてきたくせに、こんな見ず知らずの女と大切な比企谷君が二人で居るのを置いて帰ろうっていうんだもん。しーちゃん達が来る前までの盗み聞きで、私なら大丈夫って、認めてくれたってことだよね……?
いやそれはそれで死ぬほど恥ずかしいんだけども。
さっきの葉山君と同じで、やっぱ本物のリア充ってのはすごいな。しーちゃん達みたいな充実してるつもりになってバカみたいに騒いでるだけの偽物とは全然違うんだな。
そして私のリア充時代なんて、まさにそんな程度のモノだったんだろうね。
はぁ〜……あんなモノに満足してただなんてなぁ……
そして比企谷君は、正にそっち側の本物のリア充なんだろう。
こんな素敵な人たちが比企谷君を変えてくれたのかな?
それともこんなに素敵な比企谷君が、この人たちを引き寄せたのかな?
そんな彼が、そんな関係が羨ましいような嫉ましいような、でも少なくとも悪い気分ではない。
私だって今こうしてこんなにも素敵な人たちに少しでも認められたってことは、今までの挫折だって苦悩だって、決して無駄ではなかったんだろう。
私は…………そんな羨ましいような嫉ましいような、でもなんだかポカポカする不思議な気持ちで、この素敵な人たちが去っていく背中を、自然と微笑んでしまっているだらしのない顔で優しく見つめていた。
しかし……世界は私にそんなには優しく無かった……
「ああ、それはそうと比企谷くん」
「……へ?」
黙ってろと言われて小さくなっていた所に急に声を掛けられたものだから、比企谷君はとっても間抜けな声で返事をした。
なんだろうか私にまで襲い掛かってくるこの悪寒は。
すると雪ノ下さんはくるりと振り返り、とてもいい笑顔でニッコリと微笑む。
「明日は聞きたい事が山のようにありそうだから、授業が終わったらダッシュで部室に来るように。部長命令よ」
「き、聞きたいこと?」
「ええ、私達が居なくなったこの後の事が最重要事項になってくるとは思うのだけれど、あとは主に先ほどあの騒がしい人たちに啖呵を切っていた際に口走っていた未練がどうとかいう辺りの話も重点的に聞くことにはなりそうね」
「…………」
「あ、それあたしもすっごい気になったし!それに頭下げてどうしてもお茶だけでも!とかも言ってたよね」
「あー、わたしも聞きたいのでダッシュで奉仕部いきますねー」
微笑ましかった空気が一瞬でブチ壊れた瞬間でした。
その美しく笑う少女達の瞳には光が宿ってはいなかったのです。
ごめんね?比企谷君!私を助ける為にあなたの寿命を短くしてしまったわっ……
でも、比企谷君だけを犠牲にしたわけじゃなかったんですね。すぐに私の番が回って来たんですもの。
「あと……確か美耶さん……と言ったかしら?」
「は、はひ……!?」
「もし良かったら、明日貴女も学校が終わってからいかがかしら?
貴女にもお話したい事があるから歓迎するわ」
「わ、わたくしめに話でございまひゅか……?」
なんで私へりくだってんだよ。しかも噛んでるし。
だって、人生で初めての恐怖なんですもの。
「ええ。貴女には……そうね。主に先ほどそこの男に抱きついていた件かしらね。」
……………………やっぱ気にしてたかぁぁぁ!
あ、これはヤバイな……とは常々思ってたんですよね。
「貴女は分かってはいない事かも知れないけれど、その男はとても危険な菌まみれなの。
その危険性と今後の除菌計画などについてもお話したい事が山ほどあるのよ。
無理にとは言わないけれど、必ず来なさい?」
『無理にとは』と『必ず』という相反する言葉が私の首を優しく締めあげております。
これたぶん、除菌されちゃう菌は私の方なんですよね?
「……あ、やー、で、でもですね?……学外の生徒に入校許可をおろすのって、中々大変なんじゃないんですかねー……?
なんだかちょっと申し訳ないんで、ざ、残念ですけど今回はー……」
「あー、わたし生徒会長なんで大丈夫ですよー?そんな許可バンバン出しちゃいますよバンバン。
心配しないで安心して来てくださいねー」
安心できねーよ。心配しかねーよ。
ていうかそんなにバンバンバンバン入校許可ばっかりいらねーよ。
「それでは。比企谷くん、また明日」
「じゃーねー、ヒッキー」
「ではではさよならでーす」
こうして、とてつもない嵐はようやく過ぎ去っていった…………明日、その嵐に自ら突っ込まないといけないという素敵なプレゼントを残して。
そうだ。帰宅したら遺書を残しておきましょう。お母さん。先に旅立つ不幸をお許しください。
「いやー……すっごいねー……ウケ……るよりは軽く引くくらい恐すぎなんだけどー」
あ、まだいらっしゃったんですね折本さん。
箸が転げなくても笑える年頃の折本さんがウケないとか、よっぽどの事態じゃないですかやだー。
そんな恨みがましい涙目でチロリと折本さんを見ると…………超ぷるぷるして笑いを堪えていた。
んだよウケてんじゃんかよ。ちょっと安心しちゃったよ。安心しちゃうのかよ。
仲町さんは顔面蒼白でブルブル震えてますけどね。
「んじゃねー、美耶、比企谷ー。あたしらも帰るわー」
「じゃ、じゃあね、二宮さん……あと……比企谷君」
「あ……お、おう」
「う、うん」
立ち去っていく折本さん達を呆然と見送っていると、「あ!」っとニヤニヤしながら小走りで引き返してきて、私に耳打ちした。
「美耶美耶ー、明日昼休みにこのあとの事たっぷり聞かせてよねー!
ヤバい今からすでに腹がよじれそうっ」
もう好きにしてください……
「はいはい……」
「へへっ!じゃーねー!
あ!比企谷ー、今度どっか遊びに行こうよー」
「なんでだよ行かねぇよ」
「いいじゃん、ケチー!んじゃ約束ね!
あ、とりあえず明日生き残れたらだけどねー、ウケる」
「いやウケねぇから……そして勝手に約束取り付けんな」
ひひっ!と笑いながら手をヒラヒラさせて去っていく折本さんを見送りその場に残された私達は、店内の他のお客さんや店員さんにとんでもない好奇の眼差しを向けられていた事に今気付いた……なにこれ動物園のパンダよりも注目集めてんだけど。
むしろここまで騒ぎ起こしてたんだから、その前に止めに来いよ店員!!
「ひ、比企谷……君…………ここ、出ようかっ……」
「……だな」
そして私達は二度と入店しないであろう、もとい二度と入店出来ないであろうカフェをあとにし、自転車をカラカラと押しながら並んで夜の街を歩く。
現在18:30ちょいか。ここからなら近いし、あそこ……行ってみようかな。
────あ、なんか私が今日どうしてもしたかった事が分かっちゃったかも。
「比企谷君。私、ちょっと行きたいトコがあるんだ。いいかな……」
「ああ……まぁ別にかまわんぞ」
そして私は、間違ってしまった青春ラブコメに決着をつけに行くのだ。今までの私にも。
……そしてこれからの私の為にも。
つづく
この度もありがとうございました!
終盤が残念とのご感想をいくつか頂き本当に有難かったです。
一応自分としては、書きたかった所までが書ければ満足なんですけど、また続きが思い浮かびそうなら書いてみようかな?という気持ちになりました!
という訳で、たぶんですけど次回で最終回まで行けるかな?という感じですかね。
こんないつエタるかも知れないどこの馬の骨とも分からない匿名作者の、こんな回想モブキャラがヒロインの怪しいSSを多くの方に最後まで読んで頂けて嬉しい限りでございます。
本当にどうでもいい諸事情で匿名で投稿しておりましたが、匿名でもちゃんと最後まで書き切れそうなので、最後くらいは堂々と匿名を外そうかな、とかも考えておりますので、次回急に名前が変わっているかも知れませんがよろしくお願いいたします。