私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか   作:ぶーちゃん☆

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思ってたよりも長くなってしまいました。二話に分けても良かったかもしれませんが、これにて一応の最終回とさせて頂きます。




あ、あと申し遅れました!
ねっころがし改めぶーちゃん☆と申します!
最終回なのに、初めましての方は初めまして!

ではではどうぞ!





私、ぼっちを卒業して普通の女の子に戻ります

 

カフェを出て、並んで目的地へと向かう道すがら、私はずっと言いたかった事を比企谷君に聞いてみた。あの日偶然遭遇してからずっと気になっていた事を。

 

「それにしても中学の頃と比べて、ホント比企谷君て変わったよねー」

「は?俺が?どこが」

「いやいやどこがって……全部が全部変わったじゃん。

いや、まぁ私も変わっちゃったけどさ」

「まぁ、確かに二宮は随分と変わったよな。まさかあのリア充がぼっちになっちまうとはな」

「あはは、ホントだよね〜。でもそれを言うなら比企谷君の方がよっぽどまさかの変化じゃん!

ふふっ、まさかあのぼっちだった比企谷君が、こんなにリア充になっちゃうだなんてねー」

 

クスクスと笑いながら比企谷君に視線を向けると、なんだか馬鹿を見るような視線を向けてきた。

 

「は?なに言ってんの?俺がリア充とか意味が分からんのだが。

俺みたいなぼっちのプロを舐めんなよ?」

 

え……?なに言ってんの?この人。

超真顔でそんなこと言われましてもですねぇ……

 

「いやいやなに言ってんのはこっちのセリフだから。

あんな素敵で可愛い娘たちを侍らせといて、リア充の意味が分からんとか自分はぼっちだとか、あなたちょっと世のぼっち達を敵に回すわよ?

てかすでに世のぼっち達の敵だけどね」

「侍らせてるってお前な……

あいつらはそんなんじゃねぇよ。単なる部活仲間ってだけの話で、友達でさえないから」

 

嘘……でしょ……?この人本気で言ってんの!?

 

「は……はぁ?んなワケ無いじゃん!マジで言ってんの!?

じ、じゃあいろはすちゃんはどうなの!?あの娘は生徒会長だしサッカー部のマネージャーって話じゃん!

全然比企谷君と関わりないじゃないっ」

「いろはすちゃんて……てかなんでそんなに色々と知ってんだよお前。

総武高校事情に詳しすぎじゃね?」

「ま、まぁ今日は色々とあったのよ……」

 

うん……ホント色々あったなぁ……すでに走馬灯が頭に浮かび過ぎて意識失いそうなレベル。

 

「ほーん。まぁ一色に生徒会長を押し付けたのは俺だからな。

その責任を取らされて、いいように利用されてるってだけだ」

「…………」

 

うっわぁ……この人、本気で気付いてないの?自分がいかにリア充なのかって。

 

んー。でも……ちょっとわからなくも無いかも。

たぶん比企谷君は、気付かないんじゃ無くて無意識に気付かないようにしてるんだろう。

 

ぼっちにとって、儚い希望ってヤツは虚しさを増幅させるだけの甘い毒みたいなもの。

下手に期待して希望して夢見ちゃって、そしてその上で裏切られたら、元々あった傷が余計に深く痛くなるだけ。

だから比企谷君は、自分がもうリア充どころかリア王になっている事にも気が付かないんだろう。

 

「……あ、だからかー!」

「へ?な、なにが?」

「あ、ごめんごめん!こっちの話ーっ」

「?」

 

そっかそっか!そういうことかー。だから私は比企谷君と普通に話が出来てたんだ。

自分と関わりのあるリア充ってだけで、今の私には緊張の対象のハズの比企谷君なのに、なんで普通に話せるのか今まで全然分からなかった。

 

なんの事はない。それは比企谷君が私と同じぼっちだったからなんだ。

例え実際はどんなにリア充だろうと、比企谷君自身が自分をぼっちだと信じて疑わない以上は、やっぱり比企谷君はぼっちなんだろう。

 

ぼっちとぼっちは通じ合う。それはもうニュータイプばりに。

だから頭ではこの人はリア充なんだと考えながらも、心ではこの人は仲間なんだと感じとってたんだろうね。だから緊張しないで話が出来たんだろう。

 

ま!今となっては別の意味でちょっと緊張しちゃってるんですけどねーっ……

 

 

そんなこんなでしばらくテケテケと歩き、もう目的地に到着しようかとする頃、私が目指している場所に比企谷君がようやく気付いた。

 

「なぁ、二宮……お前が向かってるのって……」

「……そっ」

「マジかよ……」

 

 

そして到着した目的地。

そこは、私と比企谷君が以前通っていた学校。

そう。私が間違えてしまったこの中学校こそが、私の目的の場所。

 

 

「わー……懐かしいなぁ……」

「……だな」

 

校門の外から覗き込む中学校は、時が止まっているかのように、あの頃となんにも変わっていなかった。

胸がムカムカする。卒業してからは意図して近づこうとはしなかった場所だから。

 

ゴメンね比企谷君。ホントはあなただってこんな所に来たくないよね。

 

「私ちょっと職員室行って、知ってる先生がいないか見てくるね。

で、許可貰って校内に入ってみたいんだよねー!」

「は?入んの!?いやいや無理だろ……最近は卒業生っつっても早々入っちゃいけないようになってんじゃねーの?

大体さっきお前が雪ノ下に言ってたんじゃねーかよ」

 

いやまぁそりゃあの時は必死にもなるでしょ。命懸かってましたから?

ふふふ、でもね?比企谷君は忘れてるかも知んないけどっ……

 

「だーいじょーぶ!だって私は今はこんなになっちゃったけど、ココに通ってた頃は優等生で人気者の二宮美耶ちゃんだったんだよっ?

そんな私が久しぶりに訪ねてきて、『懐かしいからちょっと中を周りたいんですけどぉ』って甘えれば一発だって」

 

そう本性丸出しの台詞を放ってニヤリとしてみせると……

 

「……お前って、なかなかいい性格してんのな」

 

同じような悪顔でニヤリと返してくれた。

 

「お褒めのお言葉ありがとっ」

 

パチリとウインクをかまして、私は一人校内へと足を踏み入れたのだった。

 

※※※※※

 

昔お世話になった担任が居たから調子よく会話をし、もちろん余裕でOKが出たので比企谷君を呼びに行ってから私達は二人で校内へと入って行く。

もう完全下校時刻を過ぎた校内はとても静まり返っていて、借りた来客用スリッパが廊下をペタペタと鳴らす以外の音は一切しない。

 

なんだか無言になってしまう。

しんと静まり返っていて声を出し辛いというのもあるんだろうけど、たぶんそれ以上に二人の胸が苦しいから。この景色とこの匂い。嫌でもあの頃の記憶が呼び起こされる。

そして向かった先は、もちろんあの教室。私と比企谷君が二年生の時に一年間過ごした場所。

 

 

電気を点けて広がった光景に息をのむ。

その光景を見た瞬間に、あれだけ記憶から抹消していたここでの毎日が、まるで昨日の出来事みたいに脳裏を駆け巡ったから。

比企谷君も……とても歪んだ顔をしてた。私なんかよりも、よっぽどここには来たくなんてなかったよね……

 

「比企谷君……ホントにゴメンね。来て貰っちゃって……」

「まぁ気にすんな。もう昔の事だし大して気にしてねぇよ。さっき言ったろ」

 

 

 

『比企谷君……わざわざ着いてきて貰っといて今更だけどさ、やっぱやめとく?比企谷君は入りたくなんかないよね』

『まぁそりゃ好き好んで入りたいとは思わんけどな。

でもそれほど嫌ってワケでもない。そもそもそんなに嫌なら、二宮が一人で職員室行ってる間にこっそり帰っちゃってるしな』

 

入校の許可を貰って職員室から帰ってきた時、比企谷君にはきちんとお断わりはしておいた。

さっきは笑ってあんな風に言って着いてきてくれたけど、やっぱりいざこんな表情を見てしまうと、どうしようもない罪悪感に駆られてしまう。

本当は来たくなんかないはずなのに、私の近況や、さっきしーちゃん達に取った私の情けない態度を気にしてくれてるんだろうな。

でも……ここに来るのには比企谷君が居なければ意味はないんだ。だから、着いて来てくれた比企谷君に贈る言葉はゴメンじゃなくって……

 

「うん。ありがと」

「おう」

 

※※※※※

 

心を落ち着ける為に教室内を色々と見て回ってみた。

あの頃に付けた机の落書きとか傷とか残ってないかな?なんて探してみたんだけど、さすがにそんなのあるわけないよね。

 

私達が使ってた頃よりも幾分新しくなってるっぽい机や椅子に優しく触れながら、話し始めるのをただ待ってくれている比企谷君に私は語り始めた。

 

「さっきさ、しーちゃん達が乱入してくる前に言い掛けた事あったじゃん?」

「ん?ああ」

「……私さ、ホント毎日がつまんなかったんだぁ。

学校行っても一言も喋んないし、周りのリア充共が騒がしいから音楽かゲームの音で遮断して、いつも一人の世界に浸っててさ。

毎日の楽しみって行ったら、アニメ見て漫画見てラノベ読んでゲームする事くらい」

「……は?マジで?

……はぁ〜、あの二宮がオタクになるとはなぁ……」

「……せめてサブカル女子とか言ってくんない……?」

 

いや、実際サブカル女子って結構蔑称なトコもあるから是非にとオススメはしないけど。

でもなんか面と向かってオタクって言われちゃうのもちょっとねぇ……

 

「んだよ、そのなんでもかんでも男子とか女子とか付けとけばいいって風潮……

そんなのに騒いでんのはマスコミだけだろ……」

 

ぷっ!やっぱ考えることは一緒かぁ。

 

「ま、まぁそれはともかくとしてよ、私はそんな毎日を面白可笑しく過ごしてきたワケなのでありますよ」

「はぁ」

「でもさ、」

 

そして私は比企谷君を真っ直ぐに見つめる。

ちゃんと目を見て、ちゃんと私を見て貰って話したかったから。

 

「あの日、偶然比企谷君を見かけてから、ぜーんぶ変わっちゃったんだぁ」

 

そう言いながらニコリと微笑んだら、比企谷君は少しだけ赤くなった。

ん?そんなに魅力的な笑顔だったのかしらっ?

 

「あの日、超が付くくらいのリア充に進化しちゃった比企谷君を発見して、その帰り道に人生で初めての痴漢に遭遇して、そして助けて貰った……」

「だからリア充じゃねぇって言ってんだろ…………。え?痴漢に合う前に俺のこと見たのか?」

「へへっ、そーだよぉ?美女三人に囲まれてデレデレしてるムカつく男を発見して、なにこのリア充、爆ぜちまえばいいのに!って思ったんだよ?」

「デレデレしてねぇし……」

 

「でさ、家帰ってからアレは比企谷君だったんだ!って気付いてね、次の日悶々としたまま学校行ったら、なんと教室で折本さんが超楽しそうに比企谷君の話をしてたわけよ」

「は?アイツ教室で俺の話なんてしてんの!?」

「そうだよ〜?比企谷って超面白いんだよねー!っておっきな声でねっ。

あ、でも決して馬鹿にしてるとかそういうんじゃなくて、褒めてるって意味でね?」

「なにしてんだよ……あの馬鹿……」

 

あはは、超嫌そう!ちょっと赤くなってるし。

……友達になりたがってるとか、あわよくば彼女に……なーんて事は言ってやんないけどねっ。

 

「だから私さ、どうしても比企谷情報が気になっちゃってね、そっからは毎日ストーカーの如く折本さんを付け回したりしちゃってねっ!ふふっ」

「ふふっじゃねぇよ。そしてなんで俺情報なんて気になんだよ……」

「……そ、そりゃ気になるに決まってんじゃん……助けてくれたのが……あの比企谷君なんだからさ……

……っ!そ、そんな事よりっ!」

 

くぅっ……顔が熱いっ!

誰も居ない冬の夜の教室なんてメチャクチャ寒くて凍えてんのに、なんだか身体の奧からカッカしてきちゃったじゃないっ……!

 

「と、とにかくねっ?……まぁそんなこんなで、ずっと学校でぼっち道を邁進してきたこの私がですよ?

なんと折本さんに話しかけちゃったワケなんですよ!」

「……で、あんなに仲良くなったと」

「いやいや、別に仲良くなんて無いしっ!

折本さんは単なる友達未満なんだからっ……」

 

……なんか私って、ここら辺が比企谷君が自分はリア充じゃないって言ってるのと同じような匂いがしますね……

 

「で、まぁ今まで散々小馬鹿にしてたリア充ってヤツとちゃんと真正面から話してみて、色々と思う所があって、そして今日こうして比企谷君に会いに来たワケなんだっ……」

「…………よく分からんが、そうか……」

「うんっ……」

 

 

そっと瞳を閉じる。今日の出来事を思い浮かべるように。

 

「ふふっ、会いに来たら来たで、これまた色んな事があったなぁ。

校門ではハイパーリア充軍団に絡まれてウザイわ比企谷君に無視されるわ、ようやく比企谷君とお話出来たかと思ったら、最悪な連中に絡まれて泣きそうになって…………んで、比企谷君にまた助けられてっ……

ったくぅ、結構きゅんっ!ときちゃったんだからね!?……乙女心なんて無くしたものかとばかり思ってたのに、まさか数年ぶりのトキメキがあの比企谷君にだなんて、一生の不覚だわっ?」

「…………へ?」

 

あわわっ……つ、つい余計な事までペラペラとぉっ!

ま、まだそこまで言うのは早いんだっての!

 

「や、やー!そそそそれはともかくとしましてねっ!?」

「お、おおおうっ……」

 

ぐぅっ……し、しくじった……

とにかく落ち着くように、私はすーはーすーはーと深呼吸をした。

そしたら比企谷君も顔を赤くして深く息を吐いていたのを見てちょっとだけ微笑んでしまった。

 

「そ、そういう事がありましてですね?

……そしたら今度は尾行してきた美少女達にしーちゃん達が始末されるわ私も始末されかけるわ、さらに折本さんに落ち掛けた気持ちを掬い上げてもらうわと色々あってさ……

そんなこんなで私は思ったワケなのですよ」

 

今から大事な事を言いますよ?と、コホンと咳払い。

 

「人間不信とかなんとか言って、一人で孤高のぼっちを気取ってきたけどさ、結局悪いのは自分なんじゃん!ってさ。

私を人間不信にしてくれた人達は、単に上っ面で皆に笑顔を振りまいてた私に寄ってきただけの偽物だったんだなって。

不信もなにも、最初から信用なんて一つもしてないし信用されてもいない薄っぺらい間柄で、不信もなにもあったもんじゃないよね。

人と関わる事を拒否してきた私が、比企谷君に偶然再会してからのたった一週間やそこらで関わった人達は、私が勝手に裏切られたと思ってた人達とはなにもかもが違ってた。

折本さんも仲町さんも、葉山君もいろはすちゃんも、雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも…………そして、比企谷君もっ……」

「………………」

「だからさ、もう一度、私は人と関わってみようかな?って思ったの。思えたの。

全部、比企谷君のおかげっ」

 

にひっと笑顔を見せると、比企谷君は予想通りのことを言う。

 

「なに言ってんだ。俺はなんもしてねぇよ」

「言うと思ったー。でもいいのっ!

比企谷君はなんもしてなくたって、私が勝手にそう思って、勝手に感謝して勝手に満足してんだからっ」

「……へっ、そうかよ」

「うん!そうだよ」

 

照れくさそうに頭をガシガシと掻いている比企谷君のお腹に、とりゃっとパンチを入れてやった。

素直じゃない比企谷君に対してのお仕置きね。

 

痛くもないくせに「痛てーなぁ」とお腹をさする比企谷君に、もう一度しっかりと向き直る。

 

「で、でね?もう一度やり直してみようと思ったから……ここに来たのっ……

ここは私が間違えちゃったスタートの場所だから……ここから新しくスタートしたかったの。だから……

────比企谷君……今から言うこと、聞いて欲しい……」

 

心臓が破裂しそうな程の激しい鼓動。

真っ赤に燃え上がってるであろう、熱い熱い顔。

息が苦しくて苦しくて、今にも過呼吸になっちゃいそう。

 

でも…………たぶん私はこれがしたかったからここまで来たんだ。

なんでここまでして比企谷君に会いたかったのか分からなかったけど、たぶん今の為に私らしく無い事までして比企谷君に会いにきたんだろう。だから……あともうちょっとだけ頑張れ私!

 

※※※※※

 

今から言うこと、聞いて欲しい────そう宣言したくせに、私は極度の緊張で何も言いだせないままでいた。

 

思えば、私って今まで告白とかしたことあったっけ……?

現実逃避をするように過去の記憶を手繰りよせたけど、やっぱりそんな記憶はどこにも無かった。

 

うひ〜……こ、こんなに緊張するもんなんだなぁ……今からする告白は普通の告白とは違うから、まだ気持ち的には楽なハズなのにね。

今まで告白してきてくれた男子の皆様、軽くあしらっちゃってごめんなさい。

 

 

聞いて欲しいと宣言してからどんくらい経ったのかな。なんかもう極度の緊張で時間感覚が麻痺しちゃってるから、イマイチよく分からない。情けなさすぎるから、実はあんまり時間経ってないといいんだけど……

よし!覚悟を決めるぞ!私!比企谷君は私の言葉を待ってくれてるんだ。

 

私は居住まいを正し、ずっと俯いていた顔を比企谷君に向けた。

うう……格好悪いな……絶対に真っ赤だよぉ……涙がたまってんのもバレバレだよね……?

でもっ……スカートをギュゥッと握り締め、そんな情けない目を、情けない顔を比企谷君から逸らさないように踏ん張って深く深く息を吐き、そして私はついに言葉を絞りだした。

 

※※※※※

 

「あ、あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「………………は?」

 

心底唖然とした様子で聞き返してくる比企谷君……いや、そうなるのは分かってましたけども……

一発目から心が折れそうになっちゃったけど、でも負けるか!

 

 

「ん!んん!……あ、あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「…………いやだからなんでだよ」

「あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「え?なに?壊れちゃったの?」

「……あのさ」

「わぁったよ!……べ、別にそんなん居ねぇけど」

 

ようやく進めたぁ……何回恥ずかしいこと聞かせんのよっ……

 

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「……は?いや、どこら辺にそんな要素あったの?」

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「なんなの?ローラ姫なの……?居るって言わないと先に進めないの?」

「…………いやその答え…」

「くっ……い、居ないけど……居る」

「じゃ、じゃあ誰か教えてよ……!ヒントだけでもいいからっ……じゃあイニシャル、イニシャル教えて。苗字でも名前でもいいから、お願いっ……」

 

──そこまで言うと比企谷君はハッとした。

 

「二宮……これって……」

ふぅ……ようやく気付いてくれたかぁ……

 

そう。これは……あの日のやり直し……

私が間違ったやり方で比企谷君を勘違いさせてしまい、恥ずかしい思いをさせてまで告白擬いみたいな事をさせてしまい、そして私が間違ったやり方で振ってしまったあの日のやり直し。

私のせいで間違えてしまった私の青春ラブコメを取り戻すのならば、ここをキチンと精算しなければなんにも始まらないんだ。

 

だから……今度は私が今この場所で、今度は私が好きになっちゃった比企谷君にバッサリと振られる番なんだよ。

 

「イ、イニシャルでもいいからっ……」

「……そうか。分かった。………………ふぅ〜。

うーん、それならいいか」

「マジで!?やたっ!で、イニシャルは?」

「……くっ……!わ、YかI……?」

「………………えぇー……?

いやいやちょっと比企谷君!?な、流れからしてそこはMとかじゃ無いの!?」

「え、いや、だってMじゃ無いし」

「信っじらんない!そこでMって言ってくんなきゃ次に進めらんないじゃんっ!

もー!最初っからやり直しー!」

「マジかよ……」

 

それになにちゃっかりと好きな人の候補を複数にしちゃってるんですかねこの人は……

ったく……!明らかにYは雪ノ下か由比ヶ浜、そしてIはいろはすじゃないのよっ……

 

そ、そりゃその好きな人ってのが私の可能性なんて元々ゼロだけどさっ!?

だだだだからって、先に違うイニシャル聞いちゃってから、もう一回今のをやり直しって、それなんて拷問?

 

ちくしょー!こうなりゃヤケよヤケ!見事に散ってやるわよっ!

 

「はぁぁぁぁぁ〜…………あ、あのさ、好きな人とか居るの?」

「そんな深い溜め息吐かれても……居ないけど」

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「……誰だと思うんだ?」

「わかんないよー。ヒントっ!ヒントちょうだい!」

「ヒントと言われてもな……」

「あ、じゃあイニシャル、イニシャル教えて。苗字でも名前でもいいから、お願いっ」

「うーん、それならいいか」

「マジで!?やたっ!で、イニシャルは?」

「……はぁ……え、M……?」

「え……それって……私?」

「え、何言ってんだそんなわけねぇだろ、何、え、マジキモいわ。ちょっとやめてくんね?」

「……………………ちょ、ちょっと比企谷君!?い、いくらなんでもそこまで再現するとか酷くない!?

さすがに乙女に対してキモいは言い過ぎでしょぉ!?」

「……お前がやれっつったんだろ……」

「…………」

「…………」

「「……ぷっ……くくくくく!あははははは!」」

 

アホな茶番劇をやり終えて、言い合いながらお互いに顔を見合わせてたら、なんだか二人して笑いが込み上げてきちゃって、それからはしばらく机叩いたり床叩いたりして笑い転げてしまった。

 

「……ひぃぃ〜っ……ぷくくっ……わ、私達なにしてんの……っ?」

「くくっ……お、俺が聞きてぇわっ……」

 

散々笑い倒してようやく落ち着いてきた。

私は笑いすぎて流れてきてしまった涙を指で拭いながら溜め息を吐いた。

 

「あ〜あ!人生初めての告白だったのに振られちゃったぁ!」

「……へ?今のってただの芝居なんじゃねぇの?」

「……はぁ?んなワケ無いじゃん!本気に決まってんでしょっ!

あの日を精算したくてこんな恥ずかしいマネしたのに、ただの芝居なんかじゃ意味ないじゃない!」

「……あのな、良く分からんけど、そんなのただの勘ち…」

「ちょっと比企谷君!?二年もぼっちしてきた私をナメないでよね。

なんでもかんでも勘違いで誤魔化そうとするのは期待したくないぼっちの悪い癖って分かってんだからね?

それを踏まえた上での私の告白を、勘違いだなんて言わせてやんないよ?」

「そ、そうか……いや、その、なんだ……了解した」

 

ちょっとぉ!……せっかくバッサリ振られてスッキリしてたからこそ、恥ずかしい台詞をガンガン言ってられたってのに、そんな風に照れられたら……わ、私だってまた恥ずかしくなってきちゃうじゃんかよぉっ……

 

「こほんっ……!じ、じゃあ晴れて私もキチンと振られたってことで、比企谷君に改めてお願いがありますっ」

「……は?まだなんかあんの……?」

 

んー、まだあるというよりは、100パー振られるって分かってた事だからこそ、寧ろこっちが本命かもね。

私はまた顔を真っ赤に染め上げスカートをギュッと握りながら、比企谷君にペコリと頭を下げると右手を差し出す。

 

「比企谷君っ!せめて、まずは友達になってくださいっ!」

 

うひゃ!せめて、まずはとかつい本音が出ちゃった!

 

「え、嫌だけど」

 

えぇぇぇ……

 

「えぇぇぇ……な、なんで!?」

「いやだってほら、俺、友達とか居ねぇし」

「だ、だから私ととりあえず友達になろうよっ!」

「とりあえずなるもんでもねぇだろ……てか友達付き合いとか面倒臭ぇし」

 

 

そんなに面倒くさがらなくたって良くない!?

くっそうっ!私、今ヘタしたらさっきの茶番告白の時よりも恥ずかしいっていうのにぃ!

こ、こうなったら最後の手段っ!

 

「比企谷君っ!お願い〜……二宮美耶復帰第一号の友達は絶対比企谷君に!って決めてたんだよーっ……」

 

瞳を潤ませて上目遣いでのお願いっ。

 

「……おい……あざといキャラに戻ってんぞ」

「……はっ!」

「はっ!……じゃねぇよ。

ったく、大体お前あれじゃねぇの?折本とかなんとか町さんとかと友達なんじゃねぇのかよ」

「違うってば!折本さん達はまだ未満だから未満!

てかなんとか町さんって酷くない!?」

 

するとチッと舌打ちしながら面倒くさそうに頭をガシガシと掻く。でもちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらそっぽを向くと、とってもとっても遠慮がちに、恐る恐る私の右手を握って握手をしてくれた。

 

「しゃあねぇな……言っとくけど友達なんて他に居ねぇから、友達付き合いとか良く分からんからな」

 

そんな超熱くなっちゃってる遠慮がちな右手を見て、私はなんだか嬉しくてふっと笑顔がこぼれてしまった。

だから私は遠慮がちなその右手をギュッと握り返して、嘘偽りの無い今の想いを比企谷君に告げたのだった

 

「えへへ、やったぁ!

えっと、今後ともよろしくお願いしますっ!」

 

 

 

こうして私、二宮美耶は、晴れてぼっちを卒業したのでした!

比企谷君も、もう自分をぼっちだなんて思ってないといいなっ。

 

 

 

 

 

 

────本当は分かってる。こんなの、私の単なる独り善がりに過ぎない行動なんだって。

 

 

私は比企谷君が好き?

うん。それは間違いない。

ずっとずっと心の奥底でモヤモヤしてた、あの辛そうな苦笑いをする比企谷君の、実は結構格好良いとことか、実は優しいとことか、実は笑顔が意外と素敵なとことか一杯見せられたり、心が本当にヤバい所を二度も助けてもらっちゃってたら、いつの間にか好きになっちゃってた。

でも、それはまだ大好きとか愛とかって呼べる程のモノでは無くって、惹かれ始めてるってレベルの物だろう。

 

 

あの日を精算?

まだまだ惹かれ始めてるってレベルの状況なのに、あんな予定調和で振られただけって程度で精算なんて出来てるはず無いじゃない。

アレで精算出来るっていうんなら、私のこの黒歴史な四年間はなんだったの?ってお話だよね。

そして私なんかよりも遥かに苦しんだ比企谷君に失礼だ。

 

 

 

でも…………だからと言って悔やんだまま足踏みしてたって仕方ないじゃん!

だったら、まだまだ私の独り善がりな欺瞞でしかない行動かも知れないけど、それでも私はゆっくりでもいいからここから始めて行きたい。

もちろん比企谷君だけの話ってだけじゃ無くて、明日からの学校生活にも、折本さん達との関係ともちゃんと向き合って行こうって思ってる。

 

今はまだ私のワガママによる嫌々な友達関係かも知れないけど、それが嫌々じゃ無くなって本当の友達になれた時は、独り善がりでも欺瞞でも無くなるんだから結果オーライだよね。

まぁホントは友達以上の関係になれたりなんかしちゃったら、より結果オーライなんですけどもっ。

 

 

でもまぁそれはまた別のお話!

そんな先の未来の話じゃなくって、今思う事はもっと単純な事。

目の前で握手している照れくさそうな顔してる男の子を、同じく照れくさそうな笑顔で見つめながら、私、二宮美耶は思うのです!

 

 

まちがってしまった青春ラブコメを取り戻すのに手遅れなんて事は無い!

寧ろここからバンバン取り戻しちゃうまであるんだぞ!って、ねっ。

 

 

終わり

 






このような回想モブキャラ主人公の胡散臭くて怪しげなSSを最後までお読みくださり誠にありがとうございました!
なんか前回の後書きでも同じこと言ったような気がしますが(汗)


今回の作品は、BOOK○FFで久しぶりにコミカライズ版の俺ガイルを読んだ際に、

「あー、そういやこんなモブキャラ居たなぁ……ちょっと書いてみたいなぁ……」

と思ったのがきっかけでした。
で、試しに1話書いてみた所、自分が他で書いてるオリキャラと被っちゃって、読者さんに「○○にしか見えないんだけどー」とかって言われちゃったら、ラストまでモチベーションを維持出来なそうだなと判断しまして、「じゃあ終わるまでは匿名で投稿すればいいか」という安易で適当な結論に至った次第であります(笑)

ま、まぁ文章が似過ぎてる上に(頑張って極力変えようとする努力“だけ”はしましたがw)題材が変化球なもので、バレてる上で「バレてないつもりなの?」と嘲笑らわれてたフシもありますけどね(苦笑)
読者さんも被ってたしw


とまぁそんな浅い理由ではありましたが、本当に最後までありがとうございました!

二宮美耶の戦いはこれから(奉仕部連行的な意味も含む)なので、もしかしたら後日談なりオマケなりを書く日がくるかも知れませんが、それは話が思いついたらって事でよろしくお願いします☆



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