私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか   作:ぶーちゃん☆

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お待たせしました!ようやく最終回です!

お待たせしちゃった割には、尋問・裁判としはかなり中途半端ですが、ではではどうぞ!





【後日談⑥】元ぼっち達の青春ラブコメはこれからだ!

 

「…………それでは、尋問を再開しましょうか」

 

雪ノ下さんのその言葉と共に、ここ総武高奉仕部部室に試合開始のゴング(心音)が打ち鳴らされた。

 

さぁ!ついに始まりました、この世紀の一戦!実況と解説は奉仕部の王子様(ほうプリ)でお馴染みの比企谷君の唯一の……ゆ、い、い、つの友達であるわたくし二宮美耶がお送りさせて頂きます!

 

なにせ私はこの場でたった一人の無関係な存在、そう。フリーだからね。

もうなんで呼ばれちゃったのか分かんないくらい超フリー。スーパーフリー。

スーパーフリーはちょっとヤバいですね。ヤリサー、ノーセンキュー、ヤリサー、ドンタァッチミィィー。

 

 

そんなこんなでこの場に存在すること自体が不思議なくらいに無関係な私は、一切関わることなく、一切口を開くことなく、ただただ淡々と実況解説というお仕事に集中したいと思っている所存であることをここに宣誓いたします。

 

「さて、それでは二宮さん。まずあなたにお聞きしたいのだけれど」

 

……瞬殺で宣誓を断念せざるを得ない模様です。

 

※※※※※

 

「は、はひ」

 

はひってなんですかね。逆に噛みづらくないですかね。

そこはひゃいとかはいぃぃの方がGoodなチョイスだったんじゃないかしら。

 

「色々と聞きたいことはあるのだけれど、とりあえずまず聞かせて頂きたい事があるの。

あなたが来るまでにも散々この男を問いただしたのだけれど、あまりにも有り得ない寝言しか言わないで困っていたのよ」

 

……え、えと……有り得ない寝言とはいったいなんなのでしょうか……?

 

ハッ!?ま、まさか昨日私が告白しちゃったこと吐いちゃってないわよね比企谷君っ!?

振られたのにまだ未練たらたらなのバレてて、さらに先ほどの欲情っぷりを見られちゃってるとかマジヤバくなーい?

 

LOVE感情の有無が未確定ならいくらでも誤魔化しようはあったけど、それバレちゃってたらスマキにされて屋上から吊されちゃうじゃない。

でも比企谷君と二人でくんずほぐれつスマキにされるならそれはそれでアリかもじゅるる。

 

「あ、あのぉ……」

 

と、また危険な欲情に意識を支配されながらも、そこはリスクマネジメントをきっちりと行う私ですよ。

なにせ一昔前はそこのいろはすちゃんばりに計算高く生きてましたので。

確かに“有り得ない寝言”発言は気になったんだけど、その前の“色々と”と言う部分もバリバリ気になっちゃってます私。

 

多分そこをスルーしちゃったら、完全下校時刻とか一切関係なく骨の髄までしゃぶり尽くされて、しなっしなの干物みたいにされちゃいそうなんで、ここだけは事前に用意しといたセリフを言って予防線を張っておこう。

 

「そ、その……うち、親が厳しくってぇ……結構早い時間に門限とかあるんでぇ……あ、あんまり遅くまでは居られないかな〜……なんて……?え、えへ?」

 

だからなんでいちいち卑屈な笑いが出ちゃうのよ。どんだけ下民なんだよ。

 

一応私はお客さまの立場でここまで来てやったわけだしぃ?カスタマーサイドからのお客さま目線で物事を見て同意してもらえないかしら的な?アグリーしてもらえないかしら的な?

おっとやべぇ、ついクセでこないだの全校集会でのうちの会長のナンセンスな世迷事が。

 

「……あら、そうなの。それは非常に残念だわ。一応夜は自宅も時間も空けてあったのだけれど。

まぁこちらから一方的に招待してしまったんだものね。それでは残念だけれど質問は最小限にとどめておくとして、早めに済ませましょうか」

 

 

 

 

……………………あっぶな!…………いやいや超あっぶな……!

夜は自宅と時間を空けてあったんですね。いえいえお気遣いなく。

なにさらっと「自宅監禁する気まんまんだったのに残念ね」みたいな顔してんのこの人。危なすぎなんだけど。

やっぱ先を見越して早い段階からのホウレンソウ(報告連絡相談)ってカラダに大事!

 

「あれー?でも二宮先輩、昨日はまぁまぁ遅くまで先輩とお茶してた上に、そのあとさらに二人でしっぽりとどっかに消えて行きませんでしたっけー」

 

こっ、小娘ぇぇ!

あんたなに余計なこと言ってくれちゃってんのよ!?

せっかく逃げ道用意しといたのに!

 

「……あら、そういえばそうだったわね。私としたことがついうっかりしていたわ。

どういうことか説明して頂けると助かるのだけれど」

 

OH……すんごい冷たい目……

なんかもう常時の比企谷君に向けられてる眼差しと大差ないんじゃないかしら。

 

「……や、やー……昨日は朝から両親とも残業って聞いてたから……だ、だからちょうどいいから比企谷君に会いに来たってゆーかー……!

ね!ね!昨日比企谷君にもそう言ったよね!?」

 

唐突に話を振られた比企谷君は呆れた顔で私を一瞥する。

 

「あー、まぁなんだ……」

 

裁判長達から見えない角度でばちこんばちこんとウインクして助けを求める。

てかこれって比企谷君の為でもあるんだからね!?こんな危険な裁判、早く済んだ方がいいでしょお!?

 

「そういやそんなことも言ってたな……。てか確か中学の頃からそう言ってたよな、お前」

 

ぐっじょぶ。比企谷君グッドなジョブだよ。

私たちしか知らない頃の話を持ち出されたら、検事も証拠の提出は出来ないもんね。

……あれ?そういえばこの裁判、弁護士居ないわね。弁護士ー?仕事してー?

 

「そ、そうそう!もう困っちゃうよねー、過保護過ぎちゃってー(棒)」

「……だよなー(棒)」

 

弁護の無い私と比企谷君の、語尾の(棒)が可視化しちゃうくらいの見事な名演技により、裁判長と検事の目がさらに鋭さを増す。

やだこれじゃ八方塞がりじゃない。八幡だけに。

 

「あー、分かる!あたしんちは門限ないんだけど友達には何人か居たんだー。門限ある子って超大変そうだよね」

 

弁護士はあなただったのか!

さすがに懐が深いぜおっぱい弁護士、やっはろー!

 

「まぁその子たちもよく怒られるの覚悟で遊んでたけどね。

なんか遅れるって連絡する時、女の子の親が電話代われば結構許してくれたりねー」

 

でもこの弁護士は期待させといて後ろから刺すタイプの弁護士らしいです。

 

「でもゆきのん一人暮らしだから、親が代わるのは無理だよね」

 

お?ナイス弁護士?

自ら不利な状況を作り上げて、そこから大逆転で巻き返す敏腕さんなのかな?

 

「あ、でもだったらウチでも大丈夫だよ?ママ上手く電話してくれると思うし!」

「ならわたしの家でも余裕ですよー。よく友達泊めるんで」

 

ふぇぇ……アゲサゲ激しいよぅ……

一瞬だけ敏腕かと思われた弁護士とどす黒検事がまさかの結託である。刺すどころか前と後ろからロケランぶっぱなすレベル。

さぁ、弁護の一切存在しないこの懸案の判決はいかに?

 

「……はぁ〜、まぁいいでしょう。懸念事項は多々あるとはいえ、無理に引き止めるのも酷というものだものね。

このままでは話も進まないし、とりあえずは二宮さんの発言を認めましょう」

 

やれやれと頭痛を押さえるかのようにこめかみに手を当てながらそう発言する裁判長の雪ノ下さん。

 

単に雪ノ下さんがとっとと話を進めたいだけの話だとはいえ、なんとまさかの勝訴である!勝訴って書かれた半紙を掲げて走りだしたい気分。そしてそのままどこか知らない国にフライアウェイ。

 

「それではいい加減に話を進めましょうか」

 

……チッ、即国外逃亡は認められなかったか。

でもまぁとりあえず蜘蛛の糸は垂らされた。雪ノ下さんなら一度言ったことは曲げないだろうし、ヤバくなったら速攻逃げたるぜ。

ヤバくなったらもなにも、ヤバくない瞬間があるのかどうか疑問だけども。

 

とにかくこのプレッシャーの中で、質問は最小限で、帰宅は私の気持ち次第でという言質を取った策士の美耶ちゃんは、今後孔明を名乗ってもいいかも知んない。

ふふふ、この調子でのらりくらりと躱してタイムオーバーにしてやるわよ?

 

「それではまずお聞きします」

 

そしてついに雪ノ下さんからの尋問スタート!

かかってこいやぁ!

 

「あなた、比企谷くんのなんなのかしら」

 

策士、策に溺れて溺死しました。

 

 

Q.我が名は神龍。どんな願いもひとつだけ叶えてやろう。

 

A.願いごと無限にしておくれー!

 

 

……それはないぜウーロン……。せめてギャルのパンティーくらいにしておきなさいよ。

てかそれ、どこからどこまでなにからなにまで、なんて答えればいいの……!?洗いざらい!?

 

あまりの無慈悲な質問に魂が抜けかけていると、どうやらその質問の意図は私の想像とは違っていたようで、雪ノ下さんはその質問にこう付け足した。

 

「私たちがなにを聞いても「二宮はただの友達だ」などと寝言しか言わないのよ、この男は。

比企谷くんに友達なんて出来るわけもないのに、本当にこの男はいったい何を言っているのかしらね。

結局話はそこまでで止まってしまうので困っていたのよ。……で、あなたは比企谷くんのなんなのかしら?」

 

寝言ってそこ!?

友達百人どころか一人出来たよ発言でさえ寝言と言われちゃう比企谷君を守ってあげたいと思いました(小並感)

 

でも……へへ、ちゃんとこの人たちに……へへへ、二宮は俺の友達だ!って言ってくれてるのね……?えへへっ……

 

……やばい、ちょっと胸がぽかぽかするぞ?

昨日までは友達なんか一人も居なかった私だけど、そんな私を、私が居ないとこでも友達だって言ってくれてるって、なんて幸せなことなんだろう。友達以上だったらなお良しなんだけど、それはさすがに贅沢すぎだよね。

思わず隣の席に目頭が熱くなりかけちゃってる視線を向けると、そこには照れくさそうにそっぽを向く比企谷君。ふふっ、なんか嬉しいなっ。

 

だったら私は比企谷君のその想いに応える為に、声を大にして伝えてあげねばなるまいね。

この人たちに、そして比企谷君に。

あなたに届け!マイスウィートハート!

 

「寝言もなにも、私は比企谷君の友達だよ?

昨日、私たち友達になったんだよねっ?比企谷君!」

「……ま、まぁな」

 

ふふふ、隣で照れくさそうに悶えてる比企谷君にへへーって笑いかけた時の雪ノ下さん達の表情を世界中に見せつけてやりたい!

なかなか見られないよ?こんな美少女たちのあんな見事なぐぬぬ顔。

 

※※※※※

 

ざわざわと室内が騒めく。

まさかあの自らをキングオブぼっちなどと宣う比企谷君が、自分から女の子を友達だと認めたなんていう事実が上手く飲み込めないんだろう。

 

「……にわかには信じられないのだけれど……」

「……あのヒッキーが自分で友達とか認めるとか信じらんないし……!」

「……ぐぬぬ……だから昨日葬っとけば良かったんですよー……」

 

なにやらちょっぴり物騒な物言いも聞こえてきますが、なんか優越感。

いやいやちょっぴりじゃねーよ。葬られちゃうとこだったのん?

 

友達だと言われて勝ち誇る私と、友達だと言われて悔しがる美少女3人。

でもちょっと待ってね。実はこれ、全部勝ち誇れないんだけど。

 

『マジで!?やたっ!で、イニシャルは?』

『……くっ……!わ、YかI……?』

 

昨日のあの恥ずかしさ伝説級の告白劇。

あのとき比企谷君、好きな人のイニシャルをY=雪ノ下、由比ヶ浜。I=いろはすって答えたのよね。

 

 

……え?なにこれ冷静に考えたら酷い拷問じゃない?

比企谷君が好きと挙げた女の子たちの前で「こいつ友達だから」と宣言されて勝ち誇ってる振られた女の構図。

やだ!今更ながらにめっちゃ惨め!

 

そんな、実は初めから己の一人敗けだったことを今更ながらに思い知らせた私の心の慟哭など毛先ほども興味の無い雪ノ下さんが、突然私を死の淵に追いやる。

 

「……二宮さん。私にはどうしても理解出来ないのだけれど、あなたアレよね……?

昨日のカフェでの話から察するに、中学生の頃にこれに告白されて散々な振り方をしたのよね?」

「ぐふっ……」

 

……今の私にそこ抉ってくるの!?

死者が鞭打たれ過ぎて気持ち良くなってきちゃうレベル。

いや、私こう見えてMっ毛はないですわよ?

 

 

「確か以前に比企谷くんから聞いた話では、好きな子にアニメのラブソング集を渡して、それを校内放送で流されてオタ谷くんと呼ばれるようになったとか、」

 

ぶわっ……!

突然のとんでもない黒歴史に涙が溢れちゃう!

 

「自分では結構な仲になったつもりで何度もメールを送ったのに、返信はだいたい翌朝に『ごめん、寝てたー』しか返ってこない上に、ついには辛抱たまらず告白して振られ、翌朝にはクラス中に知れ渡っていたとか」

 

……あ、それたぶん折本さんです……

 

「あ、そーいえばクラス委員同士でプリント回収中にキモい告白して振られて、次の日からナルが谷って呼ばれるようになったとかも聞いたよね!」

 

やだそれ私私!

ひぃぃ〜……やーめーて〜!本人の前で言ーわーなーいーでぇ〜!

 

「ちょ、ちょっと先輩!わたし初めて聞きましたけど、今はこんなんなのに中学の時はどんだけお盛んだったんですか!」

 

……お盛んて……。でも確かにホントいま考えると、比企谷君ってお盛んだったわよね。

思春期の男子中学生時代に、へこたれずにそこまで何度も何度も玉砕出来たとか、どんだけ強心臓だったのよ。

 

てかこの人、なんで自分の黒歴史を全部語っちゃってんのよ。実はあなたがMっ毛たっぷりなの?

呆れと、私の黒歴史も発表されちゃった羞恥とで、少しだけ恨みがましく横を一瞥すると…………、大変!比企谷君がビクンビクンしちゃってるじゃないですか!

どうやらMっ毛はあんまり無かったみたいです。安心安心。

…………もうやめてあげてっ!

 

「……たぶんあなたは、比企谷くんのこれらの憐れでジメジメとした過去の陰鬱な経験のどれかに関わっているのよね?」

「……は、はひっ……」

 

大変!私もビクンビクンしてきました。

 

「……そんなあなたが、果たしてただお礼を言いたいということだけで、友達になりたいという程度の感情だけで、わざわざこの男に会いになど来るものなのかしら」

「……だよねー」

「……ですよねー」

「……あんなにきつく抱きついてまで庇おうとするものなのかしら」

「……ねー。そんな経験があるヒッキーに抱きつくなんて、普通だったらキモいもんねー」

「……ですです」

 

やっぱり抱きついちゃったこと怒ってらっしゃるぅ!

どちらかと言えば擁護派だった由比ヶ浜さんまで笑顔がヒクついていらっしゃるだと!?

そ、そしてやはり……!

 

「……もしかしたらあなた……友情ではない何かの感情があるのではないかしら……?」

「……」

「……」

 

ひぃっ!やっぱりそこを探ってるのね!?LOVEがはっきりしたら除菌滅菌するつもりなのね!?

 

「……そそ、そんなこと無いでしゅよ……!?わ、私、しばらく友達居なかったからっ……色々と助けてくれた比企谷君と友達になりたいなぁ……って……」

 

クッソ……!ホントは分かってるくせにこいつらぁ!!

こうやって真綿で首を締めるように徐々に追い詰めていって、言質が取れた瞬間に始末するつもりなのね!?

 

「……そう。まぁあなたがそのつもりがないのならそれで構わないのだけれど、一応私はこの男が所属する部の責任者。だからこの男を管轄する義務があるの。

だからこれ以上部外に菌が撒き散らされるのを容認するわけにはいかないのよ」

 

これ以上比企谷君のフェロモンにまとわりつく羽虫は増えると面倒だから、ぷちっと潰していきたいのだけれど、という翻訳かしら(白目)

ちなみに“これ以上”の中にいろはすちゃんも含まれますか?

 

てかマジで何様のつもりなんですかね。別に比企谷君はあなたたちの所有物とかじゃないのよ?

だから私は言ってやったのさ。ちょっと美人だからって、この傍若無人な振舞いをする雪女にハッキリとさぁ!

 

「え、えへへ……?た、ただの友達でーすっ……!」

 

オチが読めすぎワロタ。

 

※※※※※

 

……ホントは私の気持ちをちゃんと確認した上で、私も比企谷コミュニティに引き入れたいのかもしんない。

さっきいろはすちゃん言ってたもんね。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは私の事それなりに認めてるって。

 

まぁ有難いお気持ちではあるけれど、たぶんそれやられちゃうと私もこの子たちみたいに関係性に縛られて身動きが取れなくなっちゃいそうなのよね。

精神的なだけの問題じゃなくって、物理的にも盗聴器とか持たされそうで怖いし。

あははー、いくらなんでもそれはないよねー!……ない……よね……?

 

だから私は決して口を割ってはならない。この気持ちを……そして昨日告っちゃったことを……!そう、絶対に!

はいはい、フラグ立て乙フラグ立て乙。

 

「……まぁそうまで言うのならいいでしょう」

「ちょ!雪ノ下先輩!?そんなの嘘に決まってるじゃないですかー?絶対この泥棒ね…」

「一色さん……?」

「ど、泥棒ね、姉さん……?」

 

泥棒姉さんって誰だよ。

まぁ仕方ないよね。泥棒のあとに猫って付けると雪ノ下さんに目で殺されちゃうもんね。

 

「友達だからー、とか言って、絶対色んなとこに連れ回す気まんまんですよ?この姉さん!」

 

姉さん気に入っちゃったの?

てかバレバレじゃないですかやだー。たぶんいろはすちゃんも似たような口実でさんざん連れ回したクチね。

 

「……確かにそれはあるかもしれないわね」

「ですです!で、絶対に行動に移しちゃいますよこの人」

「そう……ね。いざそうなった時、体も心も軟弱なこの男が抗えるとは到底思えないわね……」

 

ちょっと!?私が比企谷君襲っちゃうみたいな言い方やめてくれない!?

……ハッ!さっき耳ふーふー見られてたんだったぁ!

ひぃっ!なんか顔も頭も熱くなってきちゃったよぅ!

 

「ぜぜぜ絶対そんなことしないもん!」

「それはどうかしらね」

「二宮先輩は絶対にそういうタイプです。わたしが保証します」

 

それ自分のことでしょ!?

私、可愛いわ、た、し!全盛期でもあなたほどじゃ無かったからね!?

 

「まぁまぁ二人ともー……にのみんだってああ言ってることだしさー」

「結衣先輩は甘々すぎです!絶対ですよ絶対」

「……そうかなー?でも確かにそうだったらやだかも!」

「間違いないです!野放しにすると超危険です!」

 

ねぇ、私ってそんなにメスの顔した肉食獣に見えるの?発情しちゃった性欲旺盛娘なの?

 

……くっそー!ちょっと頭に血がのぼってきちゃったぞ?

 

「だからぁぁぁ!!私そんなことしないってばぁぁぁ!!てか出来るわけないっての!!…………だってっ」

 

……あ、美耶ちゃん落ち着いて?これあかんヤツや。

 

 

「わ、私!昨日告ってバッサリ振られちゃったばっかりなんだからぁぁ!!」

 

 

「「「………………」」」

「………………」

 

迅速丁寧なフラグ回収ありがとうございます。

美耶ちゃんたら煽り耐性無さすぎワロス。半年ROMりたい。

 

 

 

……凍り付く室内。これは非常にヤバい。

なにがヤバいって、振られた女が平気な顔して友達ヅラしてる辺りがマジヤバい。

比企谷君は気付いてないかもしんないけど、振られた直後に「友達でいいから!」とかって関係を持とうと粘るのって、それ、未練タラタラ隙あらばって言ってるようなもんですから。

 

 

 

よし、逃げよう。もう門限の時間だよ?

しかしこの凍り付いた空気をなるべく保たねば、私はすぐさま背後からガッチリホールドされて囚われの姫と化すことでしょう。

 

だから私はここでこの閉じられたマジックカードを発動しよう。オープン!サクリファイス八幡!

 

「……て、てゆーかぁ、別に私が比企谷君と友達だろうとなんだろうと、ましてや告白しちゃったことなんて、あなたたちにひとつも関係なくないですかぁ……?……あれあれ〜?も、もしかして雪ノ下さん達も比企谷君のこと好きなんじゃね……?」

 

今更かよ。

……そう。確かに今更なのだが、この今更な現実こそがこのデュエル最強のカードなのだ。

 

『あんな素敵で可愛い娘たちをはべらせといて、リア充の意味が分からんとか、あなたちょっと世のぼっち達を敵に回すわよ?』

『あいつらはそんなんじゃねぇよ。単なる部活仲間ってだけの話だ』

 

いくら比企谷君が他者からの好意に鈍感──鈍感という体で気付かないようにしてるだけ──とはいえ、あんなセリフを聞いてしまえば誰にだって分かる。

この子たちは、ここまで明らかな好意を示していながら、未だ比企谷君には直接好意を伝えていない。

 

それはつまりどういうことか。

うん。言うまでもなくこの子たちも大概なのよ。この恥ずかしがり屋さんどもめ。

 

私の勝利の方程式通り、三人はぷるぷると震えながら真っ赤な顔でサクリファイス(生け贄)を見て固まっている。

 

「……あ、いっけなーい……もう門限の時間だから、わ、私帰りまーす……」

 

その隙を突いて即座に魔境からの脱出を成功させた私 二宮隊員は、告訴だのキモいだの無理ですごめんなさいだのという阿鼻叫喚を背中に浴びながらも、聞こえないフリをして廊下を華麗にダッシュ。

 

……ごめんね?比企谷君。

結局あなたひとりを犠牲にしてしまった弱い私を許してね?だって恐いんだもんっ。

さらば魔境、さらば奉仕部。私は二度とここに訪れることは無いでしょう。

……ないよね?てかウチの校門前で待ち伏せからの拉致とかやめてね?

 

 

 

──さて、そんなこんなでついにこの物語のエンディングも近づいて参りました!

そして私 二宮美耶は、たぶんそのエンディングが盛大に執り行われるであろう場所へと颯爽と移動するのでありました。

 

※※※※※

 

……さっぶ……随分と陽が長くなったとはいえ、やっぱり3月の川沿いの夕方は寒いなぁ。

私は今、総武高校から私たちの地元方面へと続く川沿いのサイクリングロードで待ち人を待ちぼうけしている。

ま、その待ち人は桃色地獄を味わい尽くして息も絶え絶えかも知れないけどね。

 

途中で買ったミルクティーもすっかり温もりを無くした頃、ようやく待ちに待ったその待ち人が、死んだ魚みたいな目でママチャリをキコキコ漕いでくるのを視界に捉えることが出来た。

 

「おーい!」

 

色んな感情が交ざりあって、つい緩んでしまった自然な笑顔でブンブンと手を振ると、その男の子は腐らせた目をさらにどんよりさせて、心の底から嫌っそうな表情を浮かべながら私の前までやってきた。まったく、失礼しちゃうなー。

まぁそりゃそうでしょうけども。

 

「……おい、門限はどうした……この裏切り者」

「……え、えへへ〜」

「えへへじゃねーよ……とんでもない爆弾投げつけて一人で逃げやがって……」

「や、やー、ごめんごめん……!てか比企谷君が悪いんじゃん!いつまでも逃げてばっか居るんだからさー」

「……別に逃げてねぇっつうの」

「ふふっ、はいはい、それでいいですよー」

「……チッ」

 

ま、今は逃げてくれてるほうが助かっちゃうし、あれからあの部室内がどうなったか気にならないといえば嘘になるけども、今はまだそれでいっか。

 

「てかお前なにしてんの?こんなとこで」

「なにって、比企谷君待ってたんじゃん。せっかく会いに来たのに、あの部室だけじゃ全然話せないしさ」

「……逃げたくせに……つーかなんで俺がここ通るの知ってんだよ」

「そりゃね、あの学校からうちらの地元に帰るんなら、ここのサイクリングコース一択でしょお。へへ〜、一緒に帰ろっかな〜って思ってさ」

 

さすがにもう校門前とかで待てるほどHP残ってないし。

 

「……さいですか」

 

ふふふ、照れてる照れてる。

まぁ腐っても昔は惚れられてた女ですよ。ちょっと積極的になってやれば、照れさせちゃうくらいならワケはないのです。

あ、腐ってと言ってもキマシタ方面の腐りでは無いので悪しからず。

 

 

それはそうと、コミュ症ぼっちな私が、仮にも気がある男子とこんなに自然に会話出来るってのも不思議な話だよね。むしろ一番話しやすいまである。

確かにドキドキするし顔だってニヤケちゃうけど、なーんか一番上に来る感情が“安心”なんだよね。

ふふっ、やっぱこれはぼっち根性同士のニュータイプな引かれ合い方なのかな?

 

むむ……これって恋愛感情としてはどうなんだろ?やっぱ友達感情なのかなぁ。

まぁ恋愛なんてしたこともなければ、気の置けない友達が出来たことも無い私にはまだよく分かんないや。

 

でもひとつだけハッキリしてることは、告白して振られちゃった昨日よりも、今日はもっと比企谷君のことが好きになってきちゃってるってトコかな。

恋情愛情友情どれにしたって、やっぱり私は比企谷君と一緒に居たいんだな〜……って強く思う。

だから私はその欲望に忠実に生きて行こうではないかね。だって今の私は青春リピート中なんだもの。

 

二人してママチャリを押しながら歩くサイクリングコース。私は隣を歩く比企谷君に話し掛ける。

 

「ねぇねぇ比企谷君っ」

「……あん?」

「今度さっ、一緒にどっか遊びに行こうよ!

土日でもいいし、もうちょっとしたら春休みだから、そこでも遊べばいいし!」

「え?なんで?」

「いやいやちょっと、なんでもなにも私たち友達じゃん。友達だったら遊びに行くでしょ、普通」

「やだよ面倒くさい。友達って休みに遊びに行かなきゃいけない生き物なの?

休日って漢字分かるか?休む日って書くんだぞ?休むどころか疲れに行ったら休日さんに失礼だろ」

「うっわ……想像以上にめんどくさ〜……」

 

ま、ある程度予想はしてたけど、これは一筋縄じゃいかないわね。

 

……とはいえ!

私の比企谷君との嬉し恥ずかし友達ライフは、こんなことで揺らぐわけがないのである。

奇跡的ではあるけれど、あの魔境を無事逃げ出すことが出来たこの私様を舐めないで頂きたいわね。

 

「……ふーん、まっ、いいけどねー。……あ、そうそう、折本さんから比企谷君に伝言があるんだったー」

「いやいきなりだな……なんかあんまり聞きたくないんですけど」

「折本さんもさ、比企谷いつ遊びに行けるー?だってさー。

出来れば二人がいいけど、比企谷が照れくさいって言うんなら私と三人でもいいからってさ」

 

折本さんからの伝言に顔をしかめる比企谷君。

 

「……は?なにそれ、いつからそんな話になってんの?」

「昨日カフェで去りぎわに言ってたじゃん。『今度どっか遊びに行こうよ、んじゃ約束ね!』って」

「いやあれ断ったろ」

「ふふっ、残念ながら折本さんの中では約束取れちゃってるみたいよ〜?

だ、か、らっ……」

 

そこまで言うと含みをもたせるかのようにじっくりと蓄めて、ウシシと悪顔で比企谷君に迫る。

 

「……もしも比企谷君が私の誘いを断るようなら、折本さんに「比企谷君、家に来てくれってさー」って嘘ついて、二人で比企谷君ちに押し掛けちゃおっかな〜……?

たぶん超大変だと思うよ〜?折本さんに押し掛けられたら」

「…………お前さっきといい今といい、ホント最悪な……」

 

呆れ果てた顔で見られちゃったけど、そんなの気にしませんよ?

だって、あの子たちと比企谷君が足を踏み出し切れずにまごついてるうちに、その隙をついて私は比企谷君との確固たる友情(やらなんやら色んな情をね♪)を結ばなきゃなんないんだからっ。

 

「比企谷君が私の召集に大人しく応じてくれるんなら、折本さんには上手く言っといてあげるよー?」

 

とはいっても三人で遊ぶのもなかなか楽しそうだし、いずれは秘密裏に実現させちゃうかもだけどね。

 

「……くっそ……マジで面倒くせぇな……」

 

ホント強情だなぁ……こんな可愛い女の子と二人で遊べるのがそんなに嫌なのかい?ちょっと傷ついちゃうよ?

ふっふっふ、でもあと一押しかな。

 

「いいじゃん!私と二人だったら絶対楽しいってばー。……ほら、例えば大友な比企谷君じゃ一人では絶対に観に行けないプリキュアの映画だって、私と一緒だったら観に行きやすいよ?」

「!?」

「別にプリキュアじゃなくても、スーパーヒーロータイム劇場版でもプリパラ劇場版でもなんでも守備範囲だしさ」

 

まぁプリパラは他にも観に行きたい子が居そうだけど……

 

「ぐぬぬ……」

 

よし、かなりグラついてるご様子。これはもらった。

 

「それにほら、別に映画じゃなくてもさ、それこそ比企谷君ちでも私んちでもいいし!

友達とマリカーとかスマブラとか出来たら超楽しそうじゃん!友達と対戦ゲームした経験が無いぼっちゲーマーとしてはさー」

「それはいいや、なんか襲われそうだし」

「襲うかバカぁ!!」

 

 

 

 

──未だ二人のお出掛けを渋る比企谷君ではあるけれど、私たちの地元まではまだまだあるし、辿り着いちゃうまでには落としてみせようぞ!

 

 

 

二宮美耶17歳。

あんなライバルこんなライバル数多く、敗色濃厚ではございますが、ただいま絶賛まちがってしまった青春ラブコメを取り戻し中です!

 

 

 

終わり






というわけで長い間本当にありがとうございました!
それにしても後日談だけでこんなにも延びるとは……

いやー、やっぱ修羅場的なのは書くの苦手ですね(汗)
ホントはもっと責めさせたかったんですけど、さすがにほぼ初対面の美耶を辛辣に責めすぎるとゆきのん達の人格が最悪になっちゃいそうなんで、さじ加減が難しかったです(白目)




そんなこんなで、何となく始めたこの二宮美耶物語も、あれよあれよという間に気がつけばなんと21話になっちゃってましたが、これにてひとまずの終幕と相成りました!
回想モブキャラがオリヒロ主人公などというトンデモSSではありましたが、最後まで本当にありがとうございました!
皆さま!美耶を愛してくださってありがとうございました☆
ねっころがしでした!(自虐)




※お知らせ

たまに美耶を短編集で!と、とても有難いお言葉を頂くのですが、さすがにお気に入りが短編集の半分しかないこの作品のオリキャラをあちらで出演させるのは正直気が引けます><
なにせ向こうの読者さまの半分以上の方は知らない・興味の無いキャラなもので(汗)

ですので、もしまた私が美耶を書きたくなった時、八幡とのデートやif美耶√が書きたくなった時などは、短編集ではなくて【if】やら【番外編】と銘打ってコチラに載せようかな?とか思っております!

それではまた皆さまと美耶が再会出来る日が来ますようにっ(^^)


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