私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか   作:ぶーちゃん☆

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メリークリスマスっ☆


なんと聖なる夜に一夜限りのまさかの更新!

美耶「恥ずかしながら帰って参りました」



ご無沙汰しております、ねっころがしと申します()



記念日SSにしては結構短いですが、まだ二宮美耶とこの作品を覚えてる方がおられましたら、どうぞお楽しみくださいませ!



あ、あと後書きにまさかの美耶のイメージイラスト(鉛筆手描きスマホ撮影という酷い地雷)載せときました(;´Д`)いまさらっ!?





【特別編】メリークリスマスwith元ぼっちーズ☆

 

 街に響くよジンゴーベッ。街を彩るイルミネイッション。街が煌めくサイレンナイッ。

 

 

 

 ──あの自爆告白から幾年月(九ヶ月ですがなにか)、ついにこんな元ぼっちな私にも、この聖なる夜なホーリナイッがやってきたのです。

 

 

『ねぇねぇ美耶ー』

『……な、なんでしょう』

『クリスマスってどするー?』

『……は? いやいや私たち受験生なんですけど……』

『なーに固いこと言ってっかなー。高校生活最後のクリスマスくらい、ぱぁ〜っとやろーぜー!』

『そーだよミヤミヤ〜! ぱぁ〜っとやろうよぱぁ〜っと!』

『だからミヤミヤ言うな。……い、いや、私ちょっと……』

『………………あ、まさか比企谷と約束あるとかぬかす気……?』

『っ……ナ、ナンノコトデショーカ?』

『はぁ? ちょっと信じらんなくない!? 美耶さっき私たち受験生なんですけどとか言ったよね!?』

『……』

『うっわ超うらぎりー! ミヤミヤのうーらーぎーりーもーのー』

『もうあったまきたー。……うん、あたしもそれ一緒に行くわ。あたしも久しぶりに比企谷と遊びたいし』

『……は? いやいやちょっとマジでやめてね!? 私がどんだけ苦労してクリスマス勝ち取ったと思ってんの!? やめてぇー! 私のサイレンナイを邪魔しないでぇ!』

『あ! 逃げた! 千佳捕まえろぉ!』

『いやなんでよ、あんたが行けよ』

 

 

 と、山あり谷ありな終業式を二日前に乗り越えて、私は今、とある場所で比企谷君を待っているのである。

 

 てかホントあぶなかったよ。おかしいな、あんなにすぐバレるなんて。ロイヤルストレートフラッシュ並みの私のポーカーフェイスはどこ行っちゃったんだよ。

 ……フッ、私もいつの間にか世間のぬるま湯に飼い馴らされたもんだぜ……(もともとすぐ顔に出やすい、嘘の吐けない素直な女の子でした、てへ)

 

 まぁそれはそうと、そう何度も折本さんに足引っ張られてたまるかよ。

 マジ私がどんな苦労してこの日をゲッツしたと思ってんのよ。もう半べそかきながら土下座する勢いで拝み倒したんだからね……? なんならリアルに膝まで付いて、必死で止められたまである。私必死すぎだろ。

 

 いやいやだってさ、こちとら中二の夏前くらいからは、友人関係ってヤツに対して軽く病み始めましたんで、友達と過ごすクリスマスなんて実に五年ぶりなんですよ。そりゃ必死にもなりますってば。

 

 え? じゃあ今までクリスマスはどう過ごしてたかって? ウフフ、そんなの愛しのカレと過ごしてたに決まってるじゃないですか。

 ちゃんと録画しといた当時の俺の婿を、ツリーのライトだけがキラキラ光る薄暗い部屋で一時停止させて、一人で話し掛けたり一人でケーキ食べたりと、二人っきりの素敵な夜を過ごしましたとも!

 

 

 ……しくしく……痛いよぅイタいよぅ……

 酷いよっ……! こんな日に思い出さないでよ私っ……!

 なんなの? 勇者なの? 自殺志願者なの? (白目)

 

 

 

 ──しかし彼と再会してから、そんな黒歴史……いやさ闇歴史など、とっくに追憶の彼方へと飛んでっちゃったのさ。……思えばこの九ヶ月、比企谷君とは本当に色々あったなー……

 奇跡の再会(痴漢被害)から始まり、今や思い出すだけでも血反吐を吐ける自爆告白。

 そして初めて二人で遊びに行った春休み(劇場版プリキュア)では酷い目に合い、比企谷君の誕生日では酷い目に合い、ついにあと一歩で比企谷君を押し倒せるんじゃね? ハァハァ。……と思えた初めてのマイルームお招き回では、突如折本さん達が部屋に乱入してきて酷い目に合い。

 こうして考えると酷い目にしか合ってなかった。

 

 

 

 そんな私が、ついについにこの良き日を迎えられたのである。勝ったなガハハ!

 今日だけは誰にも邪魔されたくない。なにせどっかの邪魔者どもに先を越される前に、九月にはこの日の予約入れといたからね。

 三ヶ月前に予約しないと無理とか、あんたどこの予約の取れないレストランだよ。美味しく頂いちゃっていいのかな? むしろ美耶ちゃんを美味しく召し上がれ☆ ハァハァ。

 

 

 そんな、モザイクがかかること必至な脳内妄想に今日も黙々と悶々と励んでいると……

 

「……おう、待たせちまったか。悪いな」

 

 おっと、ちょっと飛びすぎてたよ。いつの間にか待ち人のご到着である。ヨダレヨダレ。

 

「んーん? 私もいま来たトコだよっ」

 

 やだなにこの模範回答。よくできました。

 デートに小慣れしてるイケてる女感でまくっちゃったかしら? これはもうハナマル貰っちゃうしかないっしょ。ちなみに私にとってのハナマルは、比企谷君の頭なでなでだゾ!

 

「そうか。んじゃ行くか」

 

「お、おう……」

 

 とまぁこうして普通に頭なでなでなどして貰えるワケもなく、それどころか普段よりもずっとお洒落にキメている私に目もくれず、とっとと夢の国に向かって歩き始めるいけずな比企谷君まじクール。

 ちょっと? いつもはなんの変哲もないリボンで適当に結んでるポニテだって、今日はクリスマス仕様のモコモコなシュシュに変えたりしてんのよ? 美耶ちゃんちょっと可愛く仕上がってない?

 ね、ねぇホントにそのまま行っちゃうのん? ……うん、ですよねー。さてと、軽く涙を拭いてっと。

 

 

 ま、比企谷君が私の私服姿に触れてこないのなんていつもの事だし、実はこっそりと私をチラチラ盗み見して惚けてるのも知ってたりするから、この件は不問に処すとしよう。この照れ屋さんめ。

 それよりも、軽く流しちゃうトコだったけど、もう一度言おう。比企谷君は夢の国に向かいました。

 そう、私達が待ち合わせしていたのは舞浜駅改札前。そしてこれから向かうはリア充女子(笑)がクリスマスに彼氏と過ごしたい率No.1(当社比)のあの夢の国。そう、ディスティニーランドなのです!

 ホントはランドじゃなくて、もっと大人〜ないい雰囲気になれるアッチが良かったんだけど、なぜかそっちは私の担当じゃない気がしたのよね。担当ってなんだよ。

 

 

 

 そんなこんなでついに! 私 二宮美耶とそのお友達の比企谷八幡君との、ドキッ! 初めてのクリスマスデート♪ がスタートするのであった! ポロリもあるよ☆

 

※※※※※

 

「うっわぁ……私これ初めて見たよ……! すっごいね」

 

 十八年もの長い間、千葉で立派に育ってきたというのに、なんとクリスマスのディスティニーが初体験な私は、初めて見るディスティニーの巨大なクリスマスツリーに感動していた。

 十八年間立派に育ってきたわりに、胸部の辺りはあんまり育ってないのね、ってうるさいわ。

 

「だな」

 

 どうしよう。胸部問題を即答で肯定されちゃったわ?

 いやいや、今の「だな」は、ツリーがすごいという意見に対しての同意だからッ(涙目)

 

「えっと、比企谷君もディスティニークリスマスは初めて?」

 

「いや、クリスマス当日は初めてではあるが、当日じゃなければ去年来たな」

 

「……ふ、ふーん」

 

 誰よ!? どこの誰と来たのよぉ!?

 と、ホントは気が気でない私ではありますけれども、そこはほら、あんまり束縛が強いとウザがられちゃいますから? そもそもまだ恋人でもなんでもねーし。

 

 だから私は全然気になりませんけど? と、得意のポーカーフェイスを駆使してこの場をやりすごすのである。

 

「……どうかしたか二宮。なんかすげー面白い顔してっけど」

 

「なんでもにゃいから! ……てか面白い顔ってどんな!?」

 

 私どんだけ顔に出やすいんですかね。

 そしてつい出ちゃったナチュラルな顔がすげー面白い顔って……

 

 でもでも私は負けないのです。どうせアレでしょ? 去年の合同クリパ関係で雪女達と来たとかそんな感じなんでしょ?

 ウチの前生徒会長がさんざん迷惑かけたらしいって折本さんから聞いてるよ?

 だから私はそんなの気にせずに、むんずっと比企谷君の手を握って引っ張りはじめるのだ。

 

「てかいつまでもこんな無駄な時間過ごしてたら勿体ないってば! ほら早く行こ」

 

「ちょ、お、おい」

 

 

 

 ──ぶっちゃけ、私の比企谷ハーレム内カーストは最下層である。まぁそりゃそうよね。めちゃくちゃ出遅れてるくせに、学校違うから一緒に居られる時間も短いんだから。

 ちなみに華やかさでも連中に勝ち目の無いどうも二宮と申します。

 

 でもそんな私にも、あの方たちに唯一勝っているポイントがある。

 それはこれ。

 

「……なぁ、手ぇ離してくんない……? 恥ずかしいんだけど」

 

「えへへぇ、いーじゃん友達なんだもん! 友達ってのは手を繋いで歩くもんでしょ?」

 

「……それはガキの頃限定だろうが。あと女子同士。なんで女子同士って恥ずかしげもなく手を繋いで街を歩けんの? 男友達同士でアレやったら阿鼻叫喚だぞ」

 

「大丈夫だよ。一部には涙と鼻血流して喜ぶ層もいるから」

 

「全然大丈夫じゃなかった……」

 

 

 そう。友達という便利なワードを笠に着て、恥ずかしげもなく手とか繋げちゃうとこ。

 なにせ私、比企谷君に対して散々醜態晒しちゃってるんで、比企谷君相手だとこーゆー恥ずかしい事も、あんま照れずにガンガン攻めてけるのよね。

 友達友達言いながら、好き好きアピールも超しちゃってるし。

 

 これはあのいかがわしい奉仕部関係各所の、恥ずかしがり屋さんでツンデレな面倒くさい方々には無理な所業なのである。

 さらに私には、このまま仲良しのお友達で居られれば、もう少しで他のライバルに大幅に差を付けられるあの作戦が待っているのだふはははは。

 

 てなわけで、せっかくのクリスマスだし今日でキメちゃうぜ! なんて無理に焦らずに、今日も今日とて仲良く手を繋ぎつつ、少しずつ追い上げて追い越してみせようぞ。

 まぁさすがに照れが限界だったのか、しばらく歩いてたらぺしっと引き剥がされちゃったけどね。

 

 

 そして私達はキラキラなクリスマス色の夢の国へと、不思議の国のアリスのようにワクワクドキドキで迷い込んでいくのであった。

 

 よっしゃ、たっぷり楽しんじゃいましょー!

 

※※※※※

 

 ブロロロロ……

 

 各地を転々と遊び回ってきた私達。辺りはすっかりとクリスマスなイルミネーションでキラキラと輝いている。

 

 

 

 え!? もう!? もう夜なの!?

 え、ちょ、おかしくない? な、なんかさぁ、もっとこう、色んなアトラクション巡ったり、チュロスとか食べたりレストランで語り合ったりみたいな、アハハウフフでイチャイチャちゅっちゅな物語が繰り広げられるものなんじゃないの?

 

 ブロロロロ……

 

 だがしかし、そんなイチャイチャちゅっちゅなストーリーを語る事も許されず、現在私は比企谷君の運転するゴーカートに乗っている。

 

 ディスティニーでゴーカートって……しかも遅っ! 尋常じゃなく遅いわエンジン音うるさいわで、夢の国の面影皆無ですわコレ。数あるアトラクションの中で、唯一語られるチョイスがコレって、ちょっと渋すぎやしませんかね。

 

 一瞬で夜になっちゃってるとかアトラクションがゴーカートとか、二宮美耶の物語だからと言って、軽く手を抜いてません?

 これはクリスマスディスティニーデートの詳細なイチャイチャ内容を、大幅加筆修正希望待ったなしですわ。

 

「どうした、なにぶつぶつ言ってんの?」

 

「……お、お気になさらずに」

 

 どうやらメタ過ぎな脳内思考がダダ漏れだった模様です。

 

 

 ……でもね? ディスティニーでゴーカートだからといって馬鹿にしちゃいけないのよ?

 夢の国に存在するには現実的過ぎてシュール過ぎるこのゴーカート、なんと来年の一月にはついに閉鎖されちゃうみたいで、「だったら今のうちに!」と、ディスティニーファンの間で地味に盛り上がってるらしい、こう見えて今大人気のアトラクションなのである。

 

 ブロロロロ……

 

 

 と、とはいえホントムードのかけらも無いわね、このうっさい音……

 いや、まぁいいじゃないですか。比企谷君が運転する助手席に乗ってるなんて、なんか将来の予行演習みたいだし。

 それに、昼間に乗ると「あれ? 私どこに遊びに来たんだっけ?」と、思わずディスティニーに遊びに来た事を忘れさせてくれること請け合いな、場違い感溢れるこのゴーカートも、夜であればなかなかのムードなのよね。

 ディスティニーの光り輝く夜景を見ながらの素敵なドライブ。うん、なかなか女の子の夢が溢れてるじゃない。

 

 ブロロロロ……

 

「……」

 

「……」

 

 だ、だめだ……いくらポジティブに考えようとしても、どうしてもこの音とスピードが思考を現実に引き戻させやがる……なぜ乗ったし。

 

「……寒みーわ遅せーわうるせーわで、なんかつまんねぇな、これ」

 

「やめて!? 今回のディスティニー回での唯一の見せ場なんだからディスらないで!?」

 

「……?」

 

 とっても訝しげな視線をぶつけてくる比企谷君は全力でスルーして、せっかくのドライブデートなんだし、ここは楽しいトーキングタイムと洒落込む事にしよっかな?

 

「ねぇねぇ比企谷君っ」

 

「ん? どうした」

 

「勉強はどう? 順調に進んでる?」

 

「おう、まぁな」

 

「えへへ、そっか……! 楽しみだね、キャンパスライフ」

 

「……まぁ、その……なんだ。大して楽しみってワケでは無いが……悪くも、無いな……」

 

「ふふっ」

 

 

 ──悪くもない。

 自称ぼっちな比企谷君が、来たるキャンパスライフに向けての思いを、なぜ私にそう語るのか。

 

 それは! 私と比企谷君が、来年から同じ大学に通うからなのである!

 そう、これこそが並み居るライバル達を置き去りに出来る可能性を秘めた私の作戦なのだ!

 

「しかしな、楽しみもなにも、お前ギリギリであぶないレベルだろうが」

 

「ぐはッ」

 

 通うからなのである! じゃねーよ。単なる希望的観測だった。

 

「本気であそこ狙ってんなら、お前の学力じゃ貴重な一日をこんな風に遊び惚けてる場合じゃなくない?」

 

「うぅ〜……いいんだもん! 人生には程よい息抜きだって必要なんだもん!」

 

「……お、おう」

 

 あまりにも必死なサボり宣言に超引かれました。

 でもこれホント。あの日比企谷君とクリスマスデートに行けたから……あそこで心身ともにリフレッシュ出来たから、私志望校受かったんだよ? って、言える日が絶対来る気がする。たぶん。恐らく。来るといいな。

 

 とにかく勉強し過ぎて煮詰まっちゃってた頭には、たまにはこんな幸せな休息が大事なのです。

 おっと危ない危ない。受験生とした事が、煮詰まるを誤用ってたよ。ふふふ、ここテストに出るよっ?

 

 

 しかしそんな私の想いとは裏腹に、未だに引き気味の比企谷君はなんと意地悪なのだろうか。

 だから私はちょっぴり唇を尖らせて、拗ね気味にこう言ってやったのさ。

 

「……じゃあ、さ? ……比企谷君は……今日一日楽しくなかった……? 勉強疲れの頭と身体をリフレッシュ出来なかった……? 私は超楽しかったし、よーし! 明日からもっと頑張るぞー! っていう活力湧いて来たんだけどなー……」

 

 フッ、そしてそこからの、不安げな潤々上目遣いのコンボでトドメですよ。

 なんか最近、比企谷君がどのレベルだとあざといと感じるのか、もしくは照れるのかが分かってきたのよね。八幡検定一級ちょうだい。

 

「……や、別に……なんだ。……まぁそれなりに楽し……そんな感じっちゃそんな感じだし、いい息抜きには……なったな」

 

 ぷっ、チョロっ。チョロ過ぎるぜ比企谷君。私の計算どおり、真っ赤になってそっぽ向いてるじゃない。

 一応いま運転中ですよ?

 

「ふ、ふふ、ふーん……っ。……そそ、そっか」

 

 いやだわ、私も超チョロかったみたい。

 何だかんだ言って、私とのディスティニーデートが楽しかったと言って照れちゃってる比企谷君にデレデレになって、赤いほっぺを人差し指でかりこり掻いてるどうもチョロインです。

 

 

 そんなちょっぴり幸せ桃色空間になっちゃった車内だけれど、残念ながらそろそろゴーカートのゴールが目前のご様子。

 さんざんケチ付けたこのアトラクションではあったけど、比企谷君とのドライブデート、なかなか楽しんじゃいました!

 

「お、もう到着するみたいだし、比企谷君がデレたところでそろそろ次いきますかー!」

 

「……デレてねーよ」

 

 それはない。

 

「……? おかえりなさーい!」

 

 この寒いのに、なぜか手でぱたぱた顔を扇ぎながら帰ってきた比企谷君を見て、不思議そうな顔をしながらも笑顔でお出迎えしてくれる女性キャストさん(可愛い)に見守られて、このシュールなドライブデートも終了です。

 

 

 「よいしょっ」と先にゴーカートから降りた比企谷君に、私はそっと手を伸ばす。私の手を引いてゴーカートから引っ張り上げてね! という意思表示である。

 もちろん他意はない。ただこのゴーカートって乗り物、普通の車と違って車高が低すぎて乗り降りしづらいのだ。

 だからあくまでも立ち上がるのが大変だからなのであって、そうやってまた自然と手を繋いでやろうとか、そういう他意は一切ないのである。無いったら無いやい。

 

「……はぁ〜、ほれ」

 

 そして、やはり比企谷君はなかなかのジェントルマンであるから、こうやって面倒くさそうに溜め息を吐いても、恥ずかしそうに手を貸してくれる。萌えるぜ。

 

「えへへ、ありがと。んしょっと」

 

 そんな捻くれ王子様に手を引かれて白馬から降りるプリンセスな私。

 まぁいかんせん馬じゃなくてゴーカートだから絵面は相変わらずシュールではあるんだけど、私はいつだってLOVEフィルター越しで見られるから平気だゾ!

 

 

 

 が!

 

「……あ」

 

「……あ」

 

「……あ」

 

 ……もう一度言おう。このゴーカートという乗り物、乗り降りがしづらいのだ、と。

 

 慣れない位置から慣れない立ち上がり方をしたもんだから、その、なんつーの? 足がさ、ちょっと……てかだいぶ? 開いちゃったんですよ。これがまたパッカリと。

 私今日気合い入れてミニスカートなんて履いてきちゃったもんだから、私を引っ張り上げようとしてくれてる比企谷君からは、うん……開いた足と捲れ上がったミニから、ね。うん。丸見え? 的な?

 もうね、チラリズムとかそういうレベルを逸脱しちゃってました。私の勝負パンツ(桃色)が。

 

「……Oh」

 

 なにが恥ずかしいって、比企谷君から丸見えになっちゃった状態を女性キャストさん(可愛い)もバッチリ見ちゃって、もんのすごく気まずそうに苦笑いしてる辺りがマジ恥ずい。

 よし、ポジティブに考えよう。キャストさんが女性で良かったね♪

 

「……えっち」

 

「……すまん」

 

 えっちもなにも私からご開帳しちゃったんですけどね!

 でもこういう場合、例え女の子が加害者だとしても、容易に被害者になれるって超ラッキー。まぁ比企谷君もラッキースケベをじっくり堪能できたわけだし、これはまさにWinーWinな関係ってヤツですな。それアグリー!

 

 

 ──こうして、残り少ないクリスマスディスティニーは、加害者兼被害者の強い要望で、この後は問答無用で手を繋いだまま行動する事が決定したのです。それある!

 

 ただ、お互い真っ赤な顔して手を繋いでアトラクションを去っていく時の、女性キャストさん(可愛い)からの怨念めいた生ぬるい視線がかなり痛かったです。

 だったらクリスマスに仕事なんて入れなきゃいいのに。

 でも社会人はそういうわけには行かないんだよね。やはり嫁ぐのがジャスティス。誰かさんに養ってもらわねば。

 あ、でもどうしてもって言うなら、私が養ってあげるからね♪

 

※※※※※

 

「あ〜、やばーい! 超楽しかったぁ」

 

 あのラッキースケベのあと……違った、ゴーカートのあと、クリスマスバージョンなエレクトリックパレードも夜空を彩る花火も思いっきり堪能し、私は満面の笑みを浮かべて舞浜駅へと歩いている。

 もちろん手はずっと繋ぎっぱなしである。

 

 

 ……なーんかクリスマス記念にしては尺短くない? まぁ、超楽しかったからひとまず良しとしようか。求ム、大幅加筆修正。

 

「へっへ〜、すっごくいい息抜きになったよねー! これでお互い受験戦争に勝ったなガハハ!」

 

「まぁたぶん俺だけ受かってお前は落ちると思うけどな」

 

「ガハッ!?」

 

 美耶知ってるよ? そんなのただの照れ隠しだって事くらい。

 ……ね、ねぇ、単なる照れ隠しだよね……? (涙目)

 

「クッ……まったく、比企谷君は意地悪だなぁ……ホントは一緒の大学行きたいクセにー」

 

「別にそれはない」

 

 ぬぅ! なんたる強情な!

 あまりの素直じゃなさにギロリと睨めつけてやると……比企谷君はすでにそっぽを向いていた。

 

「……だが、まぁあれだ」

 

 そしてそっぽを向いたまま、比企谷君は照れくさそうに頭をがしがしと掻き始める。

 みなさん準備はいいですか? これ、捻デレが始まるサインですよ?

 

「……知り合いがいた方が、便利っちゃ便利かもな」

 

 はいっ、安定の捻デレいただきました!

 

「ふふっ、この捻デレー」

 

「デレてねぇよ……」

 

 どこがだよ。

 

「じゃあ仕方ありませんねー。そーんな捻デレ比企谷君の為にも、頑張って一緒に合格しちゃいますかー」

 

「……さいですか」

 

 

 ……ああ、幸せだなぁ。こんな幸せ、いつまでも続けばいいのになぁ。

 でも幸せってのは誰かに与えてもらうものじゃないのよね。だからその為にも、明日から超超がんばらんば!

 

「あ、ねぇ比企谷君っ」

 

 だから明日からの勉強漬けの毎日に備えて、比企谷成分をもうひと充電しとこっかな。

 

「ん」

 

「さっきさ、ゴーカートで比企谷君の助手席に乗ってるとき思ったんだよね、また乗りたいなって」

 

「……え、お前またアレに乗りたいの……?」

 

「アレにじゃないわよ!」

 

 だ、大丈夫……? 私達ちょっとあのゴーカートをディスり過ぎじゃないかしら……?

 ま、まぁもう少しで閉鎖しちゃうから大丈夫よね……?

 

「……そうじゃなくってさぁ、その……比企谷君の運転する車の助手席にって事」

 

「……〜っ」

 

 それを聞いて真っ赤になる比企谷君。

 

 ね! 私、実は結構恥ずかしいこと言ってね? あなたの助手席に乗りたいとか、なんかもうアレな感じじゃないですかやだー。

 ……よし、一旦話を逸らそうか。

 

「じゅ、受験終わったら、比企谷君免許とか取りに行ったりしないの……!?」

 

「……いや、まだ考えてないな。都会に居る分には車なんて無くたって困らねーし」

 

「……え、でも比企谷君ずっと千葉に居るつもりなんでしょ?」

 

「ばっか、だからそう言ってんだろ。千葉超都会だろうが!」

 

 なんかすっごくキレられちゃいました。どうやら見解に相違がある模様ですね。

 

「う、うん、まぁ千葉が都会かどうかは置いといてさ、免許ってあっても困んないじゃない?」

 

「……取っても車ねーし。買うつもりも今んとこねーしなぁ……」

 

「あ、じゃあウチの車使えばいーじゃん! ウチの両親に挨拶にきなよ〜」

 

「……おい、なんか別の意味に聞こえるんだが……」

 

「ハッ!?」

 

 あっぶね! 油断してたらプロポーズしてたよ私。

 

「たたた他意はないから! そういうんじゃ無いからね!?」

 

 まぁ心のどこかに他意はあったんだと思いますけれどもね!

 

「……なんか、ね、比企谷君とドライブとか行けたら、楽しいかな〜って……」

 

 ど? とでも言わんばかりに上目遣いでチラチラと熱視線を送ってみると……

 

「……ま、考えとくわ」

 

 と、耳まで赤くしてどうやらまんざらでもないご様子。勝ったなガハハ。しつこいですね、ハイ。

 

「えへへ〜」

 

 よっしゃ充電完了っと。これで勝つる!

 女の子はいつだって、好きな男の子の助手席を自分専用のベストプレイスにしたいものなのですよ。

 その上しばらく先の約束までしっかり取り付けちゃう狡猾さ! さすが元計算高いリア充な私。

 

 

 ん、そろそろ駅に到着しちゃう。これでこのクリスマスデートもお仕舞いかぁ……

 

「んじゃあさ! 免許取ったらまずは近場って事で、またディスティニー来ようよ!」

 

「……おい、考えとくって言っただけで、まだ取りに行くとは言ってねぇだろ……」

 

「またまたぁ、もう約束したからねっ」

 

「だから」

 

「パンツ、ガン見してたよね♪」

 

「……善処します」

 

「ふっふっふ」

 

 

 

 

 ──でもね……あれだけ楽しみにしていたクリスマスデートがもうそろそろ終わってしまうというのに、私の心は沈むどころかどこまでも跳ね回る。

 なぜなら、一度終わりかけた私の青春は、まだまだリスタートしたばかりなのだから。

 ……それにこのあと満員電車に揺られて、合法的に比企谷君に抱き付けるお楽しみも残ってるしね、じゅるる。

 

 だからこのクリスマスデートは、ギャルゲーで言えばまだほんのひとイベントを消化したに過ぎないのである。まぁすでに美耶ルートには突入しちゃってますけども!

 だからこれからも、こうしてゆっくりと、でも確実に……私の青春を取り戻して行こうと思う。出来れば、ずっと比企谷君の隣で……

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 そうそう。私とした事がすっかり忘れてたよ。

 私、今日という良き日を迎えて、まだ比企谷君に大事なことを言ってないじゃん。

 

 

「ねぇ、比企谷君! すっかり忘れてたんだけどさっ……」

 

 

 だから言おう。ちょっとだけ遅くなっちゃったけど。

 今日一日の幸せをいっぱい込めた…………んーん? 再会してからの九ヶ月間の幸せをいっぱい込めた、最っ高の美耶スマイルで……

 

 

 

 

「めりー、くりすまーーーすっ♪」

 

 

 

 

終わり☆

 

 




ホントお久しぶりでございましたが、最後までお読みくださりありがとうございました!
いったい誰がここでコレの更新が来ると予想したでしょうか!
こんなもん予想できるかよ。

そしてディスティニーデート何回書けば気が済むのん?
はい、これでディスティニーは閉店します。お世話になりました。



もともとコレを書く気は一切無かったんですが、短編集のクリスマス記念SSを書き終えてから若干の余裕があったんで、時間がギリギリながらも無理矢理書いちゃいました☆
なので記念日SSなのにたったの1話、たったの1万字程度の短さになってしまいました(白目)


そんな突然のテロ更新にも関わらずここまで読んで下さった読者さまに感謝しつつ、メリークリスマス!





そしてちょっと前に、なにを血迷ったのかあざとくない件の香織のイラストを描いてみたら、作者のイメージしてる姿が分かった方が分かりやすくていい、と、ごくごく一部の方には好評だったので、調子に乗っての美耶イラストです。

こちらも時間なかったんですこぶるシンプルでつまらない絵ですが、イメージがぶっ壊れてしまっても構わないという勇者様のみ、怖いもの見たさでチラ見→そっ閉じしてくださいね☆(白目)



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