私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか   作:ぶーちゃん☆

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ぼっちもリア充も県民御用達オアシスがお好き

 

我がクラスのトップカーストである彼女に声を掛ける際、全く緊張などせずに普通に声を掛けようとして嘘ですごめんなさい。

極度に緊張したぼっちな私が壮絶に噛んだことにより、恥ずかしさのあまりに『よし!どうやって死のうか?』と思考を巡らせていたのだが、そんな私に滅茶苦茶ビックリした顔で彼女が答えてくれた。

 

「お、おおっ、二宮ちゃんじゃんっ……ど、どしたの?超珍しくない……!?」

 

そりゃ驚くに決まってますよねー。だって、私は海浜に入ってこのかた、折本さんと会話らしい会話をした事がないんだもん。

おな中のトップカースト同士だったということで、入学当初は折本さんの方からちょこちょこ話し掛けてきた事もあるんだけど、全くの無表情で「ああ」とか「うん」しか返して無かったら流石に離れていった。

他者との壁をとっぱらう事に定評のある彼女からしたらあんまり無い経験だろうし、敢えて避けられてるって事をすぐに理解したんだろう。

だから二年で同じクラスになっちゃってからも、彼女の方から近付いてくるって事はなかった。

そんな私が急に話し掛けたってのに、こうしてちゃんと応対してくれようとしてること自体がむしろ不思議まである。

 

「あ、や、そのっ……お、折本さんに、ちょっとお聞きしたい事などありまして……」

 

安定の敬語でしたお疲れ様でした。

すると当初は驚いていた折本さんが、なぜか敬語の私にドハマりしたらしい。

 

「……ぶっ……あはははははっ!なっ、なんで敬語なの!?マジウケる!

くくくっ……いひひひひっ……ひー、ひー……ふーっ」

 

どうやらラマーズ法で落ち着いてくれたみたいだね。ラマーズさんってやっぱりスゴい!マジパないっす!

 

「はぁ〜……………って、ご、ゴメン!笑いすぎだよねっ!?

あたしホントこういうとこダメなんだよねー……去年怒られて反省したはずだったんだけどなぁ……」

「あ、いや……きゅ、急に話し掛けた私が悪いんだし」

「いやいや、ホント自分でもこういうとこ治さなきゃって分かってるんだっ……

だからゴメンね」

「うん。だ、大丈夫……です」

 

本当に大丈夫。ずっと悪意の中に居て人間関係疲れちゃった私からしたら、なんだか全然悪意を感じなかった折本さんの笑いは、ホントなんでも無かった。

 

「ありがとっ!

で、聞きたいことってなに?どうしたの?二宮ちゃん」

 

くっそ……やっぱスゲーな、トップカースト折本……

私から避けてるって知ってるくせに、そんな私から話し掛けられてもこんなに笑顔で対応出来るって。嫌われてて当然なんだけどなぁ。

 

「あ、っと……その……」

 

それに対してこのぼっちの切なさよ……

話し掛けといて、なんで未だにどもってんでしょうね?私。

 

「……二宮ちゃんこのあと暇?ここじゃなんだったら、どっか移動しよっか?」

「あ、う、うん」

 

「おっし!んじゃどこ行こっか?どっかいいとこある?」

 

どっかいいとこって、ぼっちな私にはハードル高すぎますよアナタ。

 

「……サ、サイゼとか?」

「…………サイゼとか?って……ぷ、ぷくくくくっ……サ、サイゼとかって……

ぶっ!あはははははっ!ウケる!」

 

いやいやサイゼ馬鹿にしてんの!?ていうか全然反省とやらをしてないじゃん。この女……

 

結局またしこたま笑われて謝られてから、私達は千葉県民のオアシスへと移動する事となった。べ、別にサイゼが嫌ならサイゼじゃなくたっていいんですけどっ?

 

※※※※※

 

「あたしプチフォッカとティラミスアイスでー。あ、あとドリンクバーも」

 

な、なん……だと?

入店早々、メニューも見ずに玄人のような注文をする折本さんに、私は驚愕の色を隠せない。

さっきあんだけサイゼ馬鹿にしてた癖に、メニューも見ずに私が頼もうとしてた品を注文するなんてっ……

 

「わ、私もそれで……」

 

注文しながらも訝しげな表情で見つめる私を疑問に思ったのか、折本さんが「ん?」と首をかしげた。

 

「いや……さっきサイゼって言った時に爆笑してたから、てっきりサイゼが笑える存在なのかと……」

「笑える存在っ!なにそれウケるー!

んーん?あたしサイゼ結構好きだよ?たださ、どこがいい?って聞いて『サイゼとか?』って返ってきたから、あるヤツのこと思い出しちゃっただけっ」

 

なんだ、そういう事かー。てっきり千葉県民の敵なのかと思っちゃったよ。

いやー安心安心。そうですよねー。千葉県民がサイゼを嫌いな訳ないですよねー。

 

そして二人でドリンクを取ってくると(もちろん無言だよ☆)、ついに折本さんが本題に入った。いや、本来本題に入るのは私の役目なんですけどね?

 

「で?どしたの二宮ちゃん。あたしがこう言うのもアレだけど、二宮ちゃんがあたしに話し掛けてくるなんて超レアだよね」

「……うん。急にゴメン…………えっと、どうしても折本さんに聞きたい事あって……」

「うん」

 

しばらくの沈黙。どうやら折本さんは私を急かす事なく、私が話し始めるのを待ってくれるみたいだ。

有難い……折本さんて意外といい人なのかな。

 

そして私はゴクリとノドを鳴らし、ついに話し始めるのだった。

 

※※※※※

 

「……あの、ひ、比企谷君の事……なんだけど……」

「…………へ?

な、なにかと思ったら比企谷のことなのっ?」

 

比企谷君の名前を出した途端に、私は真っ赤になって鼓動が激しく鳴り始めたってのに、折本さんは対称的に一気に緊張を緩めたみたい。

 

「なーんだ!二宮ちゃんが急に話し掛けてくるから何事っ!?って緊張してたのに、比企谷の話かー!」

「う……ん」

「なになに!?どうして比企谷の話聞きたいの!?あたしが知ってる事ならなんだって話すよー?」

「……えっと、実は……」

 

そして私はあの日比企谷君に偶然会ってチカンから助けられたこと。でも比企谷君とは気付かずに、お礼をしようとしたけど断られたこと。家に帰ってからあれが比企谷君だったと気付いたこと。それから比企谷君のことで悶々としてる時に、教室で比企谷君の名前を聞いたこと。それらを全て折本さんに話した。

 

「へぇ〜!そっかそっか!比企谷がチカンから助けてくれたとかウケる!しかも助け方が超比企谷!」

 

超比企谷。なにそれ超凄そう。

 

「で、それ以来二宮ちゃんは比企谷の事が気になっちゃってる訳だ〜」

「あ、や、べっ、別に気になるとかじゃっ……

ただ、やっぱりちゃんとお礼くらいはしたかったなぁ……と……」

「したかった?だったら今からだって遅くなくない?

総武だって知ってるんだから、校門前とかで待ち伏せしてれば良くない?」

「や、やー……さすがにそれはちょっと難易度が……」

 

その難易度を攻略するには、もうハードモードくらいならノーダメで突破できるレベル。

 

「あははっ!そりゃそうだよねー!

実はあたしも比企谷と遊ぼうと思って何回かそれやりかけたんだけど、ちょっと恥ずかしくてやめちゃったんだ。

だって逆の立場で考えたらうちの学校の校門で総武生が待ってたとしたら超目立っちゃうじゃん?まぁウケるけど」

 

ちょっとぉ……折本さんが無理なもんを、私が出来る訳ないじゃんよぉ……

 

「で比企谷と仲良くしてるっぽいあたしに連絡先とかでも聞こうと思ったってワケ?

でもそれならゴメン。あたし比企谷の連絡先知らないよ?」

「あ、別に連絡先を聞こうとしたワケでは……で、でも」

 

凄く意外なんですけど。だって……

 

「お、折本さんて、比企谷君と仲が良いんじゃないの……?

だって……クリスマスとかバレンタインとか一緒に過ごしたんじゃないの……?

それでも連絡先も知らない、の?」

「クリスマスとかバレンタイン?

あぁ、違う違う。それは生徒会の手伝いで行ったイベント先で偶然会ったってだけっ」

「せ、生徒会のイベント?ひ、比企谷君て生徒会なのっ!?」

 

うっそ!あの比企谷君が生徒会なんかやってんの!?罰ゲーム!?

あ、でもすっかり忘れてた……そういえば最近の比企谷君てリア王なんだっけ。

 

「んー、正しくは生徒会じゃなくて部活の一環で生徒会の助っ人してるみたいなんだよねー。

でっさー!確かに助っ人ではあんだけどー、比企谷超ウケんだよねーっ!だってさぁ……」

 

そしてそれからは永遠とも思える折本さんの比企谷トークが始まった……

ドーナツ屋での偶然の出会いから葉山君?とやらとのダブルデート―――どうやらその葉山君とやらはここらの女子高生の間ではイケメンとしてかなりの有名人らしい(いや私はここらの女子高生じゃないのかよっ)―――から、そのデートでやらかしちゃってその葉山君に怒られて反省したこと。

あ、ちなみにそのデートの時に比企谷君が「サイゼとか?」って発言した事により、さっきの私のサイゼ発言を思い出しちゃってウケちゃったらしいです。

「二宮ちゃん比企谷かよっ!って思っちゃってさぁ」との折本発言で、私がちょっとだけ嬉しくなってニヤっとしちゃったのは内緒。

 

それから総武高校との合同で行われたクリスマスイベントでの再会を経て、比企谷君が女の子連れで(しかも二人!くそがっ!リア王爆ぜろっ!)偶然バイト先のカフェに訪れて、そのあと二人で一緒に比企谷君ちの前まで帰って妹さんとも会った事、そしてまた生徒会の手伝いで行ったバレンタインイベントまでの事を、それはもう笑いすぎて涙を滲ませながら楽しそうに楽しそうに。

 

い、いやー……アンタどんだけ比企谷君大好きなのよ……長げーよ。

しかも話の途中で料理運んできてくれたウェイトレスさんとかドン引きですからっ……

こんな話を何回もしてれば、そりゃ仲町さんから禁止令出されるわ……

 

 

ふむふむ。長すぎて意識失い掛けたけど、どういった事情で比企谷君と折本さんが再会を果たして、どうしてこういう関係性になったのかは理解しました。

でも…………だからこそ、私はどうしても疑問に思うことがあるのだ。

 

だって……なんであなたは……比企谷君の話をそんなに楽しそうに話せるの?なんで比企谷君の事、そんなに大好きみたいな顔してられるの?なんで……比企谷君と仲良くなんて出来るの……?

 

だって……

 

「……なんで?折本さん……

折本さんは、比企谷君のこと嫌いだったんじゃないの?比企谷君の敵だったんじゃないの……?」

 

そう。私とおんなじように……

 

 

つづく

 




この度もありがとうございました。
折本との邂逅は1話で済む予定だったのですが、2話になってしまいました。
ちなみに折本が語ってたバイト先うんぬんの話はアニメ特典小説の中での話です。

また次回もよろしくお願いいたします!

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