「進めー!進めー!ガーズ様ァー!」
この男、名をガーズという。
黒の半そで短パンを身に着けて、バカっぽい歌を歌っている。
随分と機嫌がよいらしく、自分の剣を振り回しながら川の土手を軽快に進んでいく。
「いやーそれにしても朝っぱらからいい天気だ!俺の小麦色の肌をいっそう美しく照り映えらせているってもんだ!ぐははは!」
ガーズはバカっぽい笑い声をあげながらなおも足を進める。
「うーん、大声で歌を歌って歩いていたら腹が減ってしまったぞ…」
お腹がグ~と鳴り出す。空腹によって自分の現状を強制的に再認識させられた。
「そういえばもう丸三日もまともに食事をしてないんだよなぁ。もう雑草と虫だけで食いつないでいくのはきついし…あったかい飯にありつきたいぜ」
ガーズの困窮はズバリ金欠からきている。価値の分からぬものを高価で買い、生活が苦しくなったら身の回りの物を売る、そんな生活を続けていたのだ。所謂浪費家だ。
「くそ~金さえあれば…」
そんなことを呟きながら視線を土手から河原の方へと移すと…。
「むっ、あれは…人か!?」
なんとなくだが人の形をしたものが河原に打ち上がっていた。近づいてみるとどうやら本当に人らしい。
死んではいないようだが、酷く衰弱していてガーズが近寄っても何の反応も示さない。
「おーい、大丈夫かー?」
ガーズの声にも答えない。服装と長い水色の髪からしてどうやら女らしい。
「気絶しているのか、だったら…」
ガーズの右口角が吊り上る。そして女の服に手をかけ…。
「いっただきまーす!」
素早く服を脱がし服のポケットを探る。そして慣れた手つきで財布や金目のものを取り出す。
「いや~ごめんね~、君はもう助からなそうだから、この価値のありそうなものはこのガーズ様が生きるために有効的に使わせていただくぜ!」
鬼畜で下種なガーズは自分のためなら他人を顧みない性格だ。今着ている半そで半パンも今朝方略奪してきた一品である。
「うはは!結構珍しいもの持ってんじゃん!どれどれこれは?」
女が持っていた物の中でもひときわ重量感のあるものを手にとる。
しかしそれを目にした瞬間、嬉々として物色をしていたガーズの動きが止まる。
ガーズはそれをしばらく見つめる。
数秒か数分か…どれくらいの間か分からないが沈黙が続く。
沈黙の後,、ガーズは身ぐるみを剥いだ女に元々着ていた服を着せ、近くの木陰に休ませるように女を担いで移動させた。
川から流されてきたせいか、女の体温は低く危険な状態だった。
「ここでいいか」
女を木にもたれさせ、自分の半そでを川で濡らし、絞ったものを女の額に乗せた。
周囲を確認し、ガーズは奪った金を持ち飯屋へと急いだ。
飯屋に着くとガーズは息を荒げて店員を大声で呼んだ。
店にいた客は、半裸で日の焼けた男が大声で入店してきたことに驚いた。
店にいる人すべての視線がガーズに集まったが、ガーズはそんなことには全く気にならなかった。
「おい!そこの店員!この袋に入るだけありったけの食料を持って来い!金ならいくらでもある!」
ガーズはそういって右手に持った大金を左手に持った麻の袋でバシバシ叩いて見せた。
が、店員は食料を取りに行こうとしない。
「店員無視するんじゃねぇ!この金が目に入らないのか!?」
ガーズが怒号を上げながら店員に近づくとようやく店員が口を開いた。
「あいにく金で買えるような食べ物はうちには無いんだ。」
「食料が無いだって!?」
「ああ、ここら辺は黒組に侵略されて食べ物の供給が安定してなくてお得意様にしか売っていないんだ。」
「ぐぅ、そこを何とか!」
店員はガーズのことを足から頭まで舐めるように見ると、何か閃いたような顔になり、ある提案をしてきた。
「あんたのその腰につけてる剣、それだったら食料と交換してやるよ」
「この剣か?」
一瞬迷ったが、すかさずその条件を飲み、食料を持ち、礼も言わずに急いで店を出た。
「なんだあの客は?嵐のようにやってきて、嵐のように去っていきやがった。それにしてもこの剣…面白い…」
店員は変な客と交換した剣をまじまじと見つめ不敵に笑っていた。
「おい、まだ生きてるか?」
女にまだ息があることを確認するとガーズは食べ物を女の口元へと近づけた。しかし女はピクリともしない。
「あーくっそ、面倒くさいな!」
女が食べやすいように軽くパンを口に含み噛み砕き、そのまま口移しをした。
「んっ」
女は口の中に入ってきた異物に反応し、喉を鳴らしてそれを飲み下した。
「水もいるよな…」
パンを食べさせたように水も飲ませる。
しばらくそれを続け、女の回復を待つ。
意識を取り戻しつつあるのか、途中何度かうめき声をあげた。
ガーズは女が目を覚ますまでそばで見守り続けた。
「こいつにやった食い物だけで、貰った食料がなくなりやがった…あの店員め、量をケチったな!あとで死ぬほど後悔させてやる!」
報復をきめたガーズの腹はさびしく鳴きつづけていた。
太陽が頭上に上りきったころ、女は目を覚ました。
「んっ…」
「おう、目が覚めたか、早速だが俺様の名はガーズ!お前の命の恩人だ、大大大感謝しやがれ!」
「…ぺ…」
「ぺ?」
「ぺるれんぽれろぷ!」
「ぺるれん…なんだって?」
「ぽらんぴりりぱ!」
「はぁ!?」
「ぷんぷろぷんぷろぷーぷーぷー!」
「だー!何言ってるかぜんぜんわからーん!」
女は、おおよそ人語とは言えない何かを言葉にし続ける。女を落ち着かせ会話(?)を続けているとだんだんと話していることが分かってきた。
「えーつまりだ、お前は パ行とラ行と「ん」しか言えないんだな?」
「ぺる!」
女は首を縦に振る。意志疎通はできるが、これでは話が進まない。
冷静に考えているとふと今の自分の状況を思い出した。
空腹で倒れそうなうえ、相棒の剣までも手放してしまった。
「まーいいや、それよりだ!お前の飯のために俺の全財産が吹っ飛んでしまったぞ!どうしてくれるんだ!」
「れ…れんぴぴ?」
「俺様のガーズソードがお前の命を救ったにも等しい!どうにかして買い戻せ!あと俺様は腹が減った!何か食い物も持って来い!」
「ぷらぷ…」
「まさか命の恩人に対して何のお礼もしないなんてこと無いよな!?」
「ろーぺぴ、ぷーんぴー」
「さぁ俺様を感謝の念を持ってもてなせ!」
「……」
女はほとほと困ったような顔をし、うじうじし始めた。それもそのはず、もてなそうとしても持っていたお金はみんなガーズが盗ってしまったし、あげるような高価な品も全てガーズが奪ってしまったのだから。
「がー!埒があかない!おいお前ついてこい!」
「ぽるっ!?」
「今返せないなら、働くなりして金を稼いで俺様に恩を返せ!」
「ぴーれ?」
「それまでは逃げたりしないよう俺様の監視下に置く!いいな!」
「ぷー!?」
「そうと決まれば早速飯屋に行くぞ!」
そういってガーズは女の手を引いて先ほどの飯屋へと向かった。
ガーズ達が立ち去った後の河原に一人の男がやってきて大きなため息をついた。
「はぁー、あの囚人奴隷はどこに逃げやがったんだ?俺の私物まで持ち逃げしやがって…」
男は自分の私物を心配しているが、本当に心配していることは別の事だった。
「あいつ、余計なこと言いふらしたりしてないよな…一応念のために言葉に関する呪いを仕掛けておいたが…」
男は独り言を言いながら土手を歩き続けた。