「そろそろ他の話に移ろうか、君は何で逮捕されたか知っている?」
ガチコウがペンを2,3度鳴らし、椅子に座りなおした。
ガーズは服を奪った奴が女性だったかどうか記憶をめぐらす。
しかしどうにも思い出せない。
思い出すことを諦め、質問に答えることにした。
「知らねェ」
「それは元々知らないから?それとも忘れたから?」
「それも分からねェ」
「なるほど…」
ガチコウは再び紙に書き込みを始めた。
何度か、記入する言葉を選ぶようにペン尻をくわえた。
そのたびに何か閃いたように、嬉しそうに書き込みを再開する。
「それじゃ、もっと踏み込んだ質問いっちゃおっか」
ガチコウは書いていた紙とペンをテーブルに置き、端に寄せた。
そしてガーズの目をじっと見つめ少しだけテーブルに身を乗り出した。
雰囲気が変わった。
ガーズはその鳥のような鋭いまなざしから目線をそらさず、ただ黙って次の質問が来るのを待った。
「剣はどこだ」
恐ろしい声だった。
とても先ほどまでと同じ人物が発した声とは思えない、ドギツイものだった。
その声と表情から作り出される剣幕は、曖昧な返答をさせてくれなかった。
しかし、ガーズは臆することは無かった。
「知らねェ」
「嘘をついてもためにならないぞ」
「知らないものは知らないし、分からないものは分からない」
「そうか、協力してくれると思ったのに…残念だよ」
嫌な雰囲気が部屋一帯を包み込んだ。
ガーズは涼しい顔をしていた。
これから起こることが決して良いことではないことは確かだった。
ガチコウが動きを見せようとした時、後ろの職員が前へ歩み出た。
「待ってください、このガーズは本当に剣がどこにあるか知りません」
それまで後で静かだった職員が声を発したことでガーズは少し驚いた。
それ以上にガチコウは驚いていた。
ガーズはやはりこの声に聞き覚えがあった、しかしどうしても思い出せない。
「急にどうしたんだ?まさかガーズを庇おうとしているのか?」
ガチコウは放っていた畏怖のオーラを少し弱め、しかし決してそれを消すことなく職員に顔だけを向けた。
首だけが回り、恐ろしさにいっそう輪がかかる。
「いえ、正しいことは認められなければならない、と思って発言した。それまでです」
職員はそういって胸のあたりに手をかざした。
その気丈はガーズに似て、少しも臆する様子はなかった。
「そういえば、"清く正しく誠実に"が白組のモットーだったね」
「はい、ですので真実をそのまま伝えた次第です」
「それで?ガーズを弁護したとしてもこいつの処刑は変わらないよ、どういうつもりなの」
「先ほどお伝えした通りです、それ以上もそれ以下もありません」
ガチコウは今日が覚めたように、はじめと同じように椅子に腰かけた。
少し呆れたような顔をして目をしばらく閉じていた。
後ろの職員はいつの間にか元の位置に戻っていた。
「しかし困ったね、剣の場所を知らないとなると…」
「何で剣の場所をそんなに知りたがる」
「僕が知りたいわけじゃないよ、そうしろって言われているから」
再び静寂が部屋を覆った。
「うーん、これ以上聞くことは無いな…残念だけどそろそろ時間だ」
「俺様の処刑の時間か」
「そうなんだ」
「それで?どんな処刑をするんだ?」
ガチコウはその言葉を待ってましたと言わんばかりに、声を上げた。
「鳥葬だよ!!」
ガチコウはそういうと着ていたコートを脱ぎ捨てた。
一瞬にしてガチコウの鋭い鉤爪がガーズの喉を捉える。
「よけなさい!ガーズ!」
その一言によりガーズは寸出のところで攻撃をかわす。
いや、かわさせられた。
ガーズは何が起こったか理解できなかった。
「まさか処刑の邪魔までするとはね…さっきの弁護と言い君は何故そこまでしてガーズを庇うの?」
「"恩を忘れるべからず"も白組のモットーですから」
「もしかしてその恩を返すためにガーズを助けるってこと?」
「ガーズを殺させはしません。たとえそれが多くの敵を作ることになっても」
職員は顔に着けていたマスクを外した。
ガーズはその顔に見覚えがあった。
職員の声と顔がガーズの頭を駆け巡る。
もう少しでそれが誰なのか思い出せる。
「久しぶりね、ガーズ。それともこの姿で会うのは初めてだから、初めましてかしら?」
フードを脱ぎ捨て、淡いブルーの長い髪がなびく。
首のオレンジのマフラーが少し遅れて同じように動く。
「私は白組のウチキ、あなたをここから助けてあげましょう」