「そんで?<剣>の何が驚きなんだ?」
「驚きも何もあったもんじゃないよ、ガーズ氏」
キリンは檻にしがみ付き、興味津々といった様子だ。
なぜそこまでの反応を示すのかガーズには理解できなかった。
「だから何が…」
「エスペラーが刑務所にいるときに能力を使われたら厄介なことになりかねないだろ?」
「急になんだ…?まぁ、こっから脱獄しようと能力を振るって使う奴は出てくるだろうな」
「となるとその能力を封じる必要が出てくる…この輪っかを装着させてね」
キリンは赤い首輪を誇示するように顎を突き出し、白く細い首をさらした。
「なるほどね、つまり奴は無能力者だと…」
「そうではないだろ?<剣>と書かれているんだから剣士しかないだろう?」
「そういうもんかな」
ガーズは何となくキリンの言っていることを理解した。
どうやら剣士は剣を奪ってしまえば脱獄するような力は無くなるらしい。
「でもよぉ、剣士がエスペラーって可能性は無いのかよ?」
「だからそれも先程説明しただろう?エスペラーになった時点で剣を手にすることはできないんだよ」
「逆はどうなんだ?剣士がエスペラーになるっていうパターンは無いのか?」
「少なくとも今までそんなやつとは出会ったことがないな。そもそもエスペラーの能力は生まれつきによるものが多い」
「その言い方だと生まれつきじゃなくてもエスペラーの能力に目覚める奴が居るみたいな言い方だな」
「あるにはある…が、この剣士とエスペラーの関係性においてその存在は意味をなさない」
キリンの説明は相変わらず分かりづらい。
なぜこうまでしてはっきりとした言い方を避け、遠回しに説明するのかガーズには理解できなかった。
理解できないがキリンがそういうしゃべり方をするのには理由がある、ということは理解できた。
「んで、何であいつが剣士だと驚きなんだ?」
ガーズは<剣>の檻の方へ顔を向け尋ねた。
檻の方は依然として静かなままだった。
「手短に過去に起こったことだけを話そう」
キリンはガーズが眠っているときに起こったことを話した。
ガーズが長い眠りについたころから黒の民の侵略が本格化し始めた。
黒の民は手始めにエスペラーの天敵である剣士を真っ先に潰した。
剣士を殺す、もしくは剣を奪う、破壊するなどして剣士達を無力化した。
後にこの行為を<黒の刀狩>と呼ぶようになった。
剣士は事実上この世界から姿を消し、黒の民の天下となった。
「ということで、今この世に剣士は存在しないということになっているのだよ」
「どうして全部の剣士が無力化できたってことが分かるんだ?」
「黒の民がそう言っていただけだから何とも言えないが、何か根拠となるものがあるらしいな…」
この世界に存在するすべての剣士を把握できるとは到底思えない。
さらに言えば、剣士がそうやすやすと全滅させられるはずがない。
黒の連中が総動員したといっても、剣士達だって黙ってやられるわけがない。
ガーズの少ない記憶にも鮮明に残るほどの剣士もいるのだ、そういった奴がやられてしまうのは考えにくい。
ガーズは<黒の刀狩>に不信感を募らせながら次の話に進んだ。
「まぁ黒の民がどうこうって話どうでもいい、問題はあいつ…」
「そういうことだ、何故<黒の刀狩>が終わった後になって剣士が捕まったのか…ってことだ」
「大方今まで見つからないように隠れていたってところだろうが、黒の奴らだって血眼になって探したはずだ」
「剣士を消し去ったと公言した、それほどの自信があったのだからなぁ」
「ちょっくら話してくる」
ガーズは再び<剣>の檻に向かった。
檻の中を覗くと相も変わらず奥の壁の方で黒い影が身を潜めていた。
影はガーズの気配に気づくと顔を上げ、そのルビーのような眼をこちらへ向けた。
「よう、俺様はガーズ!お前にまた話を聞きに来た」
ガーズは檻の方へ向かって再び名乗りを上げた。
親指を立て、顔の前でびしっと決める。
檻の奥の存在はおかしな奴だ。と思った。
「なんでわざわざ2度も名乗るのだ?」
「俺様のを覚えてもらうためだ!忘れるなよ!」
「分かった分かった。それで、何を聞きにきたんだ?」
「ズバリ!お前は何故剣士なのに今頃捕まったのだ!」
ガーズはやたらと声を張って質問した。
人差し指を檻の奥の方へと突き刺したポーズも決めている。
呆れた声で檻の奥から声がした。
「奪われた剣を取り戻しにいろんなところ嗅ぎまわってたら黒の連中に捕まってしまったのだよ」
「お前はどんくさい奴だな‼」
「君も黒の奴らに捕らえられてここにいるのだろう、お互い様じゃないか?」
「元々俺様は黒の民になるために黒の領域に来たのだ‼お前とは違って自分の意思でここにいるのだから一緒にするな‼」
ガーズが黒の民になるという宣言をした途端、ガーズの後方から恐ろしい殺気が放たれた。
黒の民は犯罪者の集まり。
その黒の民になるということは犯罪を犯しているということ。
規律の化身とも呼べる存在が黙って見逃すわけがなかった。
「ガーズ氏よ、その話が本当なら見逃すわけにはいかないな」
「じょ、冗談だよ、ぐわはははー黒の奴らめー俺様をこんなところに無実の罪で閉じ込めやがってー絶対に許さーん」
「そうだよな、ガーズ氏は無実の罪なんだから黒の連中の仲間になるなんてことは無いよな」
「当たり前だろー」
檻から出てこられるはずのないキリン。
だというのにガーズはその気迫に臆し発言を撤回する。
「さーて、話を戻すか!何で今頃になって剣士のお前が黒の奴らに捕まったのか教えろ!」
「そんなこと聞いてどうする?」
「どうするもこうするも俺様の勝手だ!お前はさっさと答えればいいんだよ!」
脅すように檻の鉄格子を乱暴に蹴る。
耳障りな金属音が檻の中で反響し、廊下にも響き渡る。
「随分と乱暴なやつだな貴様は」
「貴様ではない!ガーズ様と呼べ!」
「なら貴様も私のことをお前と呼ぶな」
「じゃぁなんて呼べばいいんだ、テメェか?それおもおめぇか?」
「私のことはサイと呼んでくれ」
サイと名乗る緋色の目をした女はそういって鉄格子に歩み寄りガーズの顔を見つめた。
髪の毛も目と同じ赤で、癖は無くストレートに肩のあたりまでスラッと伸びている。
背はガーズより頭一つ分くらい小さい。
「分かったよ…サイ」
「案外素直なんだな、ガーズ」
「だからガーズ様と呼べと言っただろ!様を付けろ、様を!」
「ならガーズも私のことをサイ様と呼べば、様付で呼ぶことにするよ」
「うぐぐぐ…!!」
「どうする?」
キリンは感心していた。
あのガーズを言いくるめる様な奴が居るとは。
ガーズは基本的に相手の実力を認めない限り、相手に会話のペースを合わせることはしない。
それがあのサイという女はガーズのペースに飲まれていない。
それどころか自分のペースに持ち込もうとしている。
大した奴が居るもんだと感心すると同時に興味も湧いてきた。
「分かった!ガーズでいい!」
「おや?様付はしなくていいのかい?ガーズ?」
「黙れ!どうもお前と話していると調子が狂う!」
「お前じゃなくてサイ、ね?」
「うがああああああ!面倒臭い奴だな!」
「他人に自分を様付で呼ばせるガーズよりは面倒臭いとは思わないけどねー」
「おーいガーズ!そこの女史はなかなか面白そうだな、こっちへ連れてきてくれないか?」
「連れて行くつったってどうやって檻から出せばいいんだ?」
「簡単な話だろ?檻を外せばいいんだよ」
そう言ってキリンは檻の中から廊下へと何かを投げ出した。
それは檻の鍵であった。