ガチコウが消えた後のガーズの家でウチキは体の毒が抜けるのを待っていた。
体の毒はなかなか抜けずしばらく床に突っ伏していた。
だからかもしれない、この空間に侵入者がいることに気付けなかったのは。
「お久しぶりですね、ウチキさん」
「ぺぽ!?」
ウチキは驚きのあまりに変な声が出てしまった。
いや、正確には侵入者の影響で変な声になっていたのであった。
「いやはや随分と探しましたよ?まったく主人の下から逃げ出すなんてとんでもない奴隷ですよねぇ?」
「おしゃべりはいいから早くことを済ませろ」
「相変わらず手厳しいお言葉で、主人と奴隷の感動の再会ですよ?積もる話も…」
「それはあっちに戻ってからでもできるだろう」
「分かりましたよ」
侵入者は一人ではなかった。
忌々しい細身の男の横に大柄なスキンヘッドの男が並んで立っていた。
「ゴウマが急かすので話は向こうへ戻った後にゆっくりさせて頂きますよ」
「りろぷ…」
「ギヌマよ、お前がかけた呪いはなかなか面倒臭いものだな、何を言っているのかサッパリ分からない」
「私がかけた訳ではありませんよ、契約の内容が偶々そういうものだっただけです」
「だったらもっとマシな契約書を探して来ればよかったじゃないか?」
「そう言われましてもあの時は…」
痩躯と巨漢の相反する男同士が言い合いをしているのは何やら奇妙な状況である。
ウチキはそんなことよりもこの状況を打破する案を考えなければならない。
閃きかけたとき、女の声がした。
しかも子供のだ。
「あんた達何してるの!そこの女性から今すぐ離れなさい!」
「おや?こちらの御嬢さんはゴウマのお知り合いで?」
「そんなわけないだろ」
「ではウチキさん、あなたが呼び寄せたのですか?でもその状態ではそんなことできる訳ありませんし…」
「ごちゃごちゃ五月蠅いわね!命令に従わないなら実力行使するわよ!」
そう言うと女の子は剣を取り出した。
取り出した剣を両手で体の真ん中へと構える。
軽く膝を曲げ右足を少し退いて、半身になる。
少女の一連の行動を見てギヌマとゴウマの様子が一変する。
「驚きましたね、まだ剣を振る者…剣士が生き残っているとは」
ギヌマはあくまでその態度を崩さないように身構える。
対するゴウマは明らかに警戒心を露わにしていた。
「ギヌマよ、ここは早く去ろう」
「全く誰かさんが悠長に話し込むから…」
「言っている場合ではないぞ、あの小娘…やる気だ」
「よく見ればあなたたち黒の連中じゃない、こんなところで何してるのよ!」
「言うと思うか?」
「それもそうね、だったらとっ捕まえて無理やり聞き出すしかないわね!」
少女は退いた右足を僅かに踏み込んだ。
「来ますよ!」
「分かってる!」
「はぁあああ!!」
ウチキは対峙する二つの勢いの間に挟まれてしまった。
エスペラーと剣士の戦い…どれほど危険なものなのかはウチキもよく知っている。
この少女、初めは自分のことを助けようとしてくれたみたいだが、今は黒の民の二人を捕まえることだけしか頭にないようだ。
同じくギヌマとゴウマもこの閉鎖空間の中で剣士をどう抑え込むかに集中していて、ウチキのことなどまるで頭にない。
このピンチは自分で切り抜けるしかないようだ。
ウチキは覚悟を決めてガーズから預かっていた発明品の一つを取り出す。
使い方も効果も分からないが何もしないでこのまま巻き込まれるのだけは避けたかった。
期待と不安を胸に、勢いよくソレを放り出した。
勝手に部屋の中央に向かって跳ね上がる。
そしてソレは現れた。
「ハロー!!衰弱世界へようこそ!!」
ピエロの人形が飛び出し、甲高い声でそう叫んだ。
途端に部屋全体に異変が訪れる。
「なんだこれは!?」
「おかしいですね…」
黒の二人は動きを止めた。いや、動かせなくなたのだ。
ギヌマはふらつき、そのまま床へ伏した。
ゴウマは足を抑えながらその場に座り込んでしまった。
「何よこれは!!」
少女が固く握りしめていた剣は、少女の手から抜け落ち床に転がった。
「ぱぱれぴ…」
ウチキは相変わらず床に伏せたままである。
争いが一先ずおさまったことに安堵し、一つ息を吐く。
先程まで殺気立っていたガーズの部屋は静まり返り、部屋の中央でピエロが楽しげにくるくる回っていた。