「なんだそのピエロは…」
「らりぴ…」
ウチキはこのピエロが何をしたのか分からないが、一先ず黒の連中と剣の少女が衝突する事態を回避できたことに安堵した。
「ようこそ衰弱世界へ!僕の能力を説明するね!」
ピエロが甲高い声でしゃべり始める。
体を思うように動かせないギヌマ・ゴウマ・ウチキ・少女の4人はおとなしく説明を聞くほかなかった。
「僕の近くに居る人達全員にもれなく衰弱状態を付与しちゃうよ!衰弱効果は、対象にとって効果的なものが選ばれるよ!何か質問があれば遠慮なく聞いてね!」
ピエロはそう言うとまたその場でクルクルと回り始めた。
異様な光景。ハゲが膝をつき、その横でロンゲが倒れ込む。部屋の反対側では少女がたちすくみ、そこに挟まれるようにして女が突っ伏している。そして女の直ぐ傍で楽しげに回転するピエロ。
僅かな静寂の後、最初に口を開いたのはハゲ男、ゴウマだった。
「どうすれば元の状態に戻れる?」
「衰弱状態にいる全員が和解すれば元の状態に戻れるよ!争いは良くない!平和が一番!」
「時間が経てば治るということは無いのか?」
「無いよ!解除の方法は平和的解決のみ!ちなみに症状が悪化することは無いから安心してね!」
とんでもない話だ。
明らかにウチキを狙ってガーズの家に来た黒の民2人。
黒の民の天敵であり、どこからともなく現れた剣の少女。
呪いのせいでまともに会話ができないウチキ。
この状況下でどう平和的に解決すればよいというのか。
そしてもう一つ、根本的な問題点があった。
「和解したと、どうやって判断するんだ?」
「ふむ、それは判断する僕の機能の仕組みについて聞いているのかな?それとも和解したと判断する材料が何かってことかな?」
(なかなか面白いピエロだ)
ゴウマは片膝をつきながら上げていた腰をそっと床に下ろした。
そして微笑を浮かべながらふーっと息を漏らした。
(どうやって、その一言から導き出される2通りの回答をどちらも想定しており、そのうえで訊き返してくる)
(話をスムーズにするために聞き返してきたのか…それとも俺の発言の意図を読んでワザと聞き返したか…)
微笑から少し困り顔になったゴウマは先ほどとは違い、はーっと息を漏らした。
(恐らくは後者だな、このピエロ一筋縄ではいきそうにないな…)
「この際、判断する仕組みについてはどうでもいいさ。問題はここにいる俺達がどう行動すれば和解したと判断されるかだ」
「そうだね、和解というよりかは敵意や闘争心をなくしてくれればそれでOKだよ!」
「争う気持ちがなくなりさえすれば、ここにいる全員と仲良しこよしになる必要はないってことだな」
「まぁそうなるね、僕としては皆仲良く平和が一番って言うのが理想なんだけどね、最低限争うことがなくなればそれでいいよ!」
ハゲとピエロだけでことが進んでいく状況を見て、少女が間に割って入って来た。
「ちょっと待って、和解だとか言っているけれどそんなことできる訳ないでしょ?黒組は他の国を潰して回った連中なのよ、もちろん私の国も潰されたわ。そんなやつらと話し合うつもりはないわね!」
「体の大きさの割に随分と威勢のいい奴だ」
ゴウマは腰を上げたが、まだ膝はついたままだった。
ゴウマは膝をついた状態で少女の目線に合わせるようにして少し屈んだ。
屈んだハゲと立ったている少女。
明らかに対格差を見せつけるハゲは、左の口角をやや釣り上げた。
この状態で視線がぶつかった少女は怒りを露わにして口調を荒げた。
「人を見た目で判断すると痛い目に会うわよ、ハゲ野郎」
ゴウマは屈んだ体を起こし、静かな怒りを低い声で響かせた。
「口のきき方も知らないのは年相応って感じだな、小娘…」
一触即発、とても和解できるとは思えない状況で、今度はピエロが間に入って来た。
「埒が明かないようなので私が和解を進めさせていただきますね!まずは自己紹介から!」
そういってピエロはゴウマの方へ向き距離を詰めた。
ゴウマの視線が自然とピエロに向けられる。
「それではお名前と出身の色をどうぞ!」
「ゴウマだ、さっきから黒の民だと言われているように、出身の色は黒だ。」
「黒の国出身だね!はい、次は剣士の君!」
「…」
少女はそっぽを向き、話を露骨に無視しようとした
ピエロはやや困ったような顔をしたが、直ぐにまた明るく陽気な笑顔に戻った。
「話していただけないと和解できずずっとこのままですよ?」
「…」
「あなたも何か目的があってここに来たのでしょう?長引くのはあまりよろしくないのでは?」
「私の戻りが遅ければ仲間の応援が来るわ、そうすればこの問題も解決できるわよ」
「それはないでしょう!」
ピエロが余りにも自信満々に言う。
「ふーん、自信たっぷりに言うわね?」
「この衰弱世界は強力な結界魔法でもあるのです!和解する以外でこの結界を解く方法は無いのです!」
「結界魔法ですって!?」
「なるほどな」
少女は驚愕し、ハゲは納得する、相反する2つの反応の違いが同時に起こった。
ゴウマは落ち着いた口調で言葉を続けた。
「魔法か、エスペラーの基となった操り師のさらに基の能力者…いわゆる魔法使いが存在していたころのシロモノか」
ゴウマはこの状況をほぼ理解したようで、片膝立ちを戻してどっしりと腰を下ろし、胡坐をかいた。
まるで闘争心や警戒心が一切ないかのような振る舞い。
そして顎をさするようにして手を添え、面白そうに話した。
「結界魔法は魔法使いなら潜在的に誰でも使うことができと言われているが、現実としてそれを操れるやつはほとんどいなかった」
「結界魔法に共通している特徴は不可侵且つ閉鎖された空間であることだ」
ゴウマは淡々と話を続けた。
少女は不愉快そうな顔をしながらも、話を遮ることはしなかった。
「結界の解除ができるのはその結界を張った魔法使いだけだ、一部の状況を除けばだが」
「ゴウマは結界魔法に詳しいね!さすが黒の国出身だけのことはあるね!」
「まぁ自分で調べた訳じゃなくて、黒の民の仲間から聞かされた話だけどな」
結界魔法について話が進められる中でゴウマと少女は同じ違和感を感じた。
偶然かもしれないし、思い過ごしかもしれない一言。
しかし両者は確信していた、その一言からこのピエロが想像以上の存在であることを。
『黒の国出身だね!』
『さすが黒の国出身だけのことはあるね!』
ピエロはゴウマのことを一度も黒の民とは呼ばず、黒の国出身としか呼んでいない。
黒の民の存在を知りながら、且つゴウマを黒の民だと認識していない。
ゴウマは自分のことを黒の民だと名乗ったにもかかわらず、ピエロはわざわざ黒の国出身だと言い換える。
間違いではない、不自然でもない、しかし気になる呼び方の違い。
ピエロは何でも質問に答える、ならばとるべき行動は1つだった。
「おいピエロ、お前は俺たちのことをどこまで知っている?」
ピエロは笑顔を崩さずにこう告げた。
「君たちのことはなんでも知ってるよ!」