無窮なるガーズ   作:おさぴら

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2.奴隷契約だ!

「なに~!俺様の剣を壊しただと!」

 

 

ガーズ達は先ほどの飯屋を訪れ、剣を返してくれるよう頼んだ。

しかしガーズソードに以前の面影はなく、変わり果てた姿となってしまった。

いや、もうこれは完全に鉄くずだよ。

 

 

「お前さんの剣はだらしがなかった、たった食材を数回切っただけでこのありさまだよ。ゴミになるから、そっちが引き取ってくれるなら返してやるよ」

 

 

店員はそういって鉄くずをガーズの足元に放った。

 

 

「俺様の…ガーズソードが…」

 

 

それにしてもいったいどんな食材を調理すれば、剣がこんなにもグズグズになるというのだろうか。

 

 

「ぐすっ、剣の事はもういい。何か腹にたまるものをくれ!」

 

「残念だったね。うちの食材もとうとう底をついちまったんだ」

 

「っち、しけた店だな客をもてなすことができないなんてな!」

 

「そういわれてもな、水なら出せるが」

 

「けっ!」

 

 

ガーズは店員から渡された水の入ったグラスを持ってテーブル席の方へと向かった。

女はその後ろをついていく。

 

 

「あの様子じゃここでお前を働かすこともできなそうだな」

 

 

食材がなくなったのは本当らしく、ガーズが訪れた時にいた客がきれいさっぱりいなくなっていた。

 

 

「ぺんれんぽ」

 

「あいかわらず何言ってるのかさっぱり分からんが、礼はきっちりさせるからな。」

 

「らろぷらろぷ…」

 

「どうした俺様に何か言いたいことでもあるのか?」

 

 

女はガーズの上半身を指差し、赤くなった顔をもう片方の手で押さえながらガーズを直視することを避けていた。

 

 

「何だ?あぁ、上着の事か、あれは乾くまでもう少し時間がかかりそうだからしばらくこのままでいる」

 

 

ガーズが水を飲み干し終えたとき、不意に店のドアが開いた。

店に入っていたのはガーズと同じく黒の服を身にまとった男だった。

メガネをかけていて、それでいてそこそこ体を鍛えているような風貌だった。

特に気にすることもないのでガーズは視線を正面の女に戻した。

 

 

「ぷるる…」

 

 

何故か女はおびえた表情で入ってきた男の方を見ていた。

 

 

「あ?どうした、知り合いなのか?」

 

「ぱらりぷ!」

 

「知り合いならお前の事いろいろ知っていそうだからな、ちょっと話しかけてくるわ」

 

「ぱんろ!」

 

 

女は席をたとうとするガーズを必死に引き留めた。

 

 

「……」

 

 

ガーズは女のおびえ様にただならぬものを感じ、行動を辞めた。

何故だかあの男に見つかってはいけないような雰囲気だった。

しかし、ガーズのそんな配慮にもかかわらず、男がこちらに気付き声をかけられた。

 

 

「おや、そちらの方は…」

 

「何だお前」

 

「いえ、見たことある顔が見えたもんですからちょっと挨拶を」

 

「俺はお前みたいなメガネ野郎に会ったったことは無いぞ」

 

「私が申しあげておりますのはそちらの女性の方です」

 

 

男は微笑んでいて紳士的ではあるが目は笑っておらず、視線を全く女あらそらさなかった。

女はそんな視線を無視するかのようにうつむいていた。

両手を膝で強く握り、体の震えを抑えているかのようだった。

 

 

「やはりあなたでしたか、ウチキさん」

 

 

名が呼ばれたとたん女の体が小さくはねた。

 

 

「いやー探したんですよ、ダメじゃないですか、勝手に私から離れるようなことしちゃ、さあ一緒に帰りますよ」

 

 

男がウチキに手を伸ばしたところをガーズが手で叩き払う。

一瞬面を食らったかのような顔をしたが、また涼しげな微笑に戻った。

 

 

「何のつもりですか?」

 

「そいつを連れて行くのはダメだ、こいつはまだ俺様に命を助けてもらった恩返しをしてないんでな」

 

「それはそれは…何があったかは分かりませんがこの子を助けていただきありがとうございます。お礼でしたら私が代わりにお金でもなんでも…」

 

「いーやダメだ、こいつ自身にやらせる」

 

 

男は少し困った顔をした。

 

 

「実をいうとこの子は私の奴隷なのです。ですからあなたにこの子を拘束されていると非常に困るわけなんですよ。」

 

「ふーん、奴隷ね…」

 

「はい、ですからその子は私の モノ という事ですので返していただけませんか?」

 

「奴隷だか何だか知らないがそんなことで納得できるわけないだろ」

 

「そうですか…では少々強引になってしまいますが…」

 

「ほう、武力行使というわけか。俺様に戦いを挑むとわな、地獄送りにしてやるよ!」

 

「威勢が良いことは結構ですが…いささかうるさすぎますね」

 

 

男は服の下から黒い立方体を取り出し何かを呟いた。

途端、周囲が薄黒く包まれた

 

 

「少しの間眠っていてもらいますよ」

 

 

男は目にもとまらぬ速さでガーズの後ろに回り込み首筋に手刀を叩き込んだ。

しかしそれだけだった。

 

 

「おかしい…手加減があまりない」

 

「何だ?今のは?」

 

 

ガーズは男の攻撃など意に介さず振りかえる。

 

 

「何故だ!?どうしてこの空間内で私の攻撃を食らってまともに立っていられるんだ!?」

 

「あーこの空間なんか前に見た気がするな…」

 

「ぐっ!」

 

 

男はガーズと距離を取り体勢を立て直す。

が、遅い。

 

 

「よっと!」

 

「ぐふっ!」

 

 

いつの間にか後ろを取られ、手刀を食らいその場に倒れた。

 

 

「何故だ…最強結界内で私が負けるわけが…」

 

 

男は床に這いつくばりガーズの事を見上げる。そのときガーズの黒い短パンが目に入った。

 

 

「なるほど…お前も黒の民だったのか…」

 

「黒の民?俺様はどこの組にも属していないぜ」

 

「何だと…黒でないのなら…訳が分からない…」

 

「御託はもういいわ!さっさとくたばれ!」

 

 

ガーズソードを男めがけて振り下ろす。

が、屑鉄ではとどめを刺すには到底至らない。

 

 

「ぶふぁ!」

 

 

一思いに断ち切られず傷口が痛みだす。

 

 

「あーあ、一撃じゃ足りないか…なら死ぬまで何発も!」

 

 

致命傷には至らないが、激痛が走るような攻撃を何度も何度も男の体にくわえる。

まるで拷問のようだった。だんだんと悲鳴を上げる声も小さくなっていき、そうしてとうとう男は絶命した。

 

 

「ふーいっちょあがりっと!ガーズ様に楯突くからこんなことになるのだ!地獄でよーく覚えておくんだな!」

 

 

ガーズは男の持ち物を漁り、自分のポケットに詰め込んだ。

ウチキはその光景を目の当たりにししばらく呆然としていた。

やがて落ち着きを取り戻すとガーズに抱きついた。

 

 

「ぺるぺる!」

 

「何だよ急に抱き着いてきやがって!離れろやこらっ奴隷の分際で!」

 

「ろんぺ…」

 

「ん?奴隷…か」

 

 

ガーズは何かを思いつき不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「そーだ!お前の命を救ったのはこの俺様だ!だからお前の命は俺様が好きにする!」

 

「ぺらる?」

 

「つまり今からお前は俺様の奴隷だー!」

 

「ぴーりー!?」

 

「ぐははは!そうだ、お前の一生をかけてこの俺様に恩返しをするのだ!はい決定ー!」

 

「ぷぷり…」

 

「そうと決まれば奴隷の契約を結ばなければな!」

 

 

どこから取り出したのか分からないが、ガーズの右手には奴隷契約書が握られていた。

奴隷となったものは主人の命令には絶対に従わなければならず、命令に背いた場合には死が訪れる。

とても強力な魔法の書であるが故、現在ではほとんど見なくなった品だ。

 

 

「確かお前の名前はウチキだったな」

 

 

契約書に自分とウチキの名前を書き込むと契約書が紫の光を放った。

 

 

「ぐははは!これでお前は俺様の奴隷だ!」

 

「ぺ…ぺぽろ!」

 

「どうだ!俺様の奴隷になれてうれしいか?」

 

「ぽりぽろ!」

 

「何だうるさいな、契約書をいまさら書き換えることはできないぞ」

 

 

ウチキがしきりに契約書に手を伸ばすので仕方なく渡した。

一度奴隷契約を行ってしまえば、その紙が燃えようが破かれようが主人が契約解除の文句を言わない限り契約は破棄されない。

今更何をしても無駄だとガーズは心の中で笑っていた。やったもん勝ちなのだ。

 

 

「らんぱるん!」

 

 

ウチキが契約書の名前の欄を指差す。

 

 

「名前がどうした?俺様の名はガーズだといっているだろう」

 

「りぺぺ!」

 

「まさかお前の名前、ウチキじゃないのか?」

 

「りぺぺ!」

 

「だったらどうしたっていうんだ?」

 

 

ガーズはもう一度契約書の名前の欄を注視する。

やはりちゃんと二人の名前がそこには書かれている…が。

 

 

「おいこれってまさか…名前を書く場所…逆か?」

 

「ぺる!」

 

「しまったぁぁぁ!!」

 

 

急いで名前を書きなおそうとするが、時すでに遅し。

 

 

「おい、ウチキ!今すぐ契約破棄をしろ!契約排除って言え!」

 

「ぷーぴーれー」

 

「がぁぁ!こいつまともに言葉しゃべれねえのかぁ!」

 

 

深い絶望がガーズを襲う。

しかしよく考えてみれば、こいつの奴隷になったところでこいつはまともに命令を下すことができない。

事実上何の関係の変化もないわけだった。

 

 

「こいつに使役される心配がないとはいえ、俺様が奴隷というのは気分が悪いな…」

 

「ろぽ?」

 

「こうなったらお前の呪いを解いて、俺様との奴隷の契約を破棄してもらわなければな!」

 

「ぷーんぴー」

 

「それとだ!契約では俺様が奴隷になってしまったが、実際は俺様がご主人様だということを忘れるなよ!」

 

「ぱる…」

 

「よーし当面の目標は決まった!早速行動に移すぞ!ダッシュで河原まで移動だ!」

 

「りんれぺ!?」

 

 

こうして奇妙な関係になった2人は店から飛び出した。

 

 

 

 

 

そのころ、ガーズ達がいる場所から遠く離れた青の領域では黒組の奇襲が行われていた。

 

 

「くそっ!こいつらどこから湧いてきやがった!」

 

「行け行け行けー!青の奴らが混乱しているうちに城内を攻め落とせ!」

 

「何だこいつら、倒しても倒してもきりがねぇ!」

 

「一体どれだけの人数が…」

 

「いや違う!これは…倒したはずなのに人数が減っていない…!」

 

「復活しているのか!?」

 

「だとしたら、黒の民のうわさは本当だったのか!」

 

「黒の不死身軍団…実在していたのか…」

 

 

常に他の国と関わりを絶っていた黒の国にはいろいろなうわさがあった。

その中でも印象に残りやすいものが黒の不死身軍団だった。

黒の民はその全員が不死身だ。

 

 

「くそっ!ひるむな!これ以上奴らの侵入を許すな!」

 

「へへっ、無駄無駄ぁ!」

 

「だめだっ、このままじゃ…」

 

「応援部隊はまだなのか!?」

 

「こんな時にキリンさんがいてくれたら…」

 

「なにをごちゃごちゃ言っていやがる!黙って死ねぇ!」

 

「ここまでかっ…」

 

 

黒の民の一太刀が青の民を襲う瞬間、何者かがそれを跳ね除けた。

見えない力で跳ね返されたようにも見えた。

 

 

「ぐっ、なんだ!?」

 

「奇襲作戦とはなんとも非道な連中だ!その悪しき心、金属の型にはめて矯正してやろう!」

 

「この声は…キリンさん!」

 

「あぁそうだ!私が青組の風紀委員キリンだ!」

 

 

追い詰められた青組の前へ現れた希望。

青のジャンパーに青の短パンを身にまとった銀髪の女。

 

 

「風紀を乱す奴は許さん!」

 

 

キリンは白い歯をギラつかせ、黒の民に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…」

 

 

ガーズ達が去った後の店内でうごめく人影があった。

 

 

「おのれ…ガーズ、この屈辱…必ず晴らしてくれるわ!」

 

 

復讐を誓った男は傷ついた体を引きずるように店を後にした。

 

 

「ふん…なるほどね…ガーズっていうのか…」

 

 

事の一部始終を見ていた店員は本物のガーズソードを磨きながらそんなことを呟いた。

 

 

「しかし最強結界内で黒の民に勝っちまうとわね、面白い奴がいたもんだな…なぁ志雄?」

 

 

店員は後ろの存在に振り向くことなく声をかけ、店じまいを始めた。

 

 

「今日はうちに泊まっていくのかい?」

 

 

後ろの存在は答えない。

 

 

「そう怒るなって、分かりきったこと聞いて悪かったな」

 

 

謝ってはいるが、その言葉はどこかからかっているような感じもした。

 

 

「それじゃ、明日に備えて今日はもう寝ますか!」

 

 

店員は後ろにいた存在とともに自室へと消えた。

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