「ぴん…」
ウチキは潰れた車に向かって膝から崩れ落ちた。
あの横暴で強気なガーズが…あの命の恩人ガーズが…。
複雑な感情が体中をぐるぐるとめぐった。
眼から涙が滲み出し始めた。
「ぽんぽれん…」
次第に怒りが湧き出してきた。
この怒りをガーズがぺちゃんこになった原因を作った相手にぶつけなければ気が狂いそうだった。
「どうした女史、やはり女史の車だったか?恨まないでくれよ、違法駐車をする方が悪いのだからな」
キリンは冗談めいた言葉づかいをしているが、眼は本気だった。
キリンと向かいたった女が物騒な得物をその手に提げていた。
キリンは女に対峙した瞬間、その危険性を感じ取った。
白組のメンバーは誰もかれも一流の戦士であると聞いていた。
今、目の前にいるこの女もそうであろう。
「私と争っても何の意味もないぞ」
「んぴ…」
「聞く耳持たずってところか…」
「ぴるー…」
ウチキは両腕の袖から一本ずつ、刀らしきものをを取り出した。
鋸のような形ではあるが、鋸でいう刃の部分が無い。
例えるなら平べったく長いヘラ。
「段平か?」
「れぱ」
ウチキは左手の段平を地面に叩きつけるように突き刺し、もう一方の段平をキリンに向けて投げつけた。
段平がウチキの手を離れ、キリンに向かって一直線に飛んでいく。
しかし、それは現実では起きなかった。
何者かがウチキの手元を手で抑えた。
その手の主はガーズだった。
「やめとけウチキ、あいつには俺らの剣はとどかねえ」
「ぴんぺ!?」
先ほどまで存在すら感じ取れなかったガーズが隣に立っている。
頭が混乱し、状況が把握できない。
「おやおや!そこにいるのはガーズ氏ではないか?急に現れてびっくりしたぞ」
「っち、面倒な奴に絡まれたなウチキ」
「ぴ…」
「ん?ガーズはそこの女史とバディを組んでいるのか?だったらその女史を止めてくれ」
「言われなくてもそうするわ!お前に剣で攻撃するなんて無謀なことだからな」
「それは助かる!私は無駄な争いは好まない性格なんでな」
「よく言うぜ…」
「ところでだ、ガーズ氏」
「ん?何だ」
「貴台のその服…黒組のものではないか?」
「ギクッ!!」
「ガーズ氏…まさか黒組の偵察部隊なのでは?」
「バカか!俺様が組のために働く男じゃないこと知ってて言っているのか?」
「ふむ、それもそうだな。いやはや疑ってすまなかった、近頃は黒組の事でピリピリしているんでな」
以外にもキリンはそれ以上追及しては来なかった。
ガーズはこれから黒組に入ろうとして入るが、確かに今は黒組でないから間違いではないだろう。
「青組も黒組に襲われたのか?」
「そうだ、ガーズ氏の反応を見るに黄組も同じか」
「しらん!俺様は帰るなり黄組にあらぬ疑いをかけられて、逃げ出さざるを得なかったからな」
「その格好をしていたら疑われるのも無理はないだろうな」
「っち!人を見かけで判断するなってんだ」
「しかし、そうであればガーズ氏は何故そのような服を着ているのだ?」
「最近暖かくなってきただろう?だから涼しげな服が欲しくてだな」
「それでは答えになっていないぞ、ちゃんと説明してもらわないと私の疑惑が晴れんぞ」
(まずいことになったな)
実はこのガーズの黒服は黒組の奴から剥いできたものだった。所謂、盗品。
盗んだものだと打ち明けてしまえば、この風紀委員にしょっ引かれるに決まっている。
(それにしたってこの女の感は鋭すぎる…何か知っているな)
先ほどから一方的に質問をされてばかりであまり気付けなかった。
ウチキが白組であること。
一目でガーズとウチキが二人組であることに気づいたこと。
ガーズが黒組に加わってはいないこと。
やたらとガーズ達を詮索してくること。
(あやしいな、こっちから吹っかけてみるか、しかしこいつ相手にハッタリが通じるかどうか…)
ガーズが言葉を選んでいるとキリンの声がその思考を遮った。
「おっとすまないガーズ氏、仲間から呼ばれてしまったんで行かなくては」
「そうか」
「今回の話はまた今度ということで!」
「覚えていればな」
「それとガーズ氏、黒組には気をつけたまえ」
「キリンよぉ、誰に忠告してるんだ?俺様は無敵のガーズ様だぜ?」
「まぁ聞きたまえ、黒組の中には刑務所から脱獄した奴らが何人か混ざっているみたいだ」
「嘘も大概にしな、俺様は嘘をつかれるのが大っ嫌いなんだ、あの刑務所から脱獄できる奴なんていないだろ」
「でもガーズ氏は一度脱獄したことがあるだろう、つまり脱出は可能なわけだよ。それではさらばだ!トゥ!」
キリンはふわりと舞い上がり青組の街へと消えた。
「…まさかそんなことがな」
ガーズはキリンが嘘をつかないことを初めから知っていた。