ガーズが目を覚ますとそこは独房の中だった。
「っち、またここか…」
どのくらい気絶していたのか分からないが、体がしびれているようで思うように動かせない。
何とか上体を起こすが、立つことはできなかった。
体を引きずるようにして鉄格子の扉の前まですり寄る。
「やっぱりダメみたいだったな、ガーズ」
「てめぇは確か…」
「おいおい、また忘れたのか?ボッケだよ、ボッケ」
「ああ、そんな変な名前だったな…」
「しっかりしてくれよ…まぁあれだけ眠ってたら頭も働きづらくなるわな」
「あれだけ…?一体どれぐらい寝ていたんだ?」
「200年だよ」
「200?嘘だろ…」
「でもこの俺がそう言っているんだ、お前なら信じるだろう?」
全く持ってその通りだった。
ボッケは嘘をつかない、ガーズはそのことを知っている。
そうはいっても、眠ってから目覚めるまでの間に200年も経っていたのはどうにも受け入れがたい事実だった。
「お前が200年寝ている間にとんでもないことになっちまったよ、この世界は」
ガーズは嫌な予感がした。
ボッケは嘘をつかない、それはつまり事実を事実として伝える。
誇大したり過小したりする表現も一切取らない。
そしてボッケはガーズよりも多くの事を経験し今もここで生きている。
思考をめぐらせると不穏な塊がどんどん頭の中で膨らみ続けていく。
「お前にはもう関係のない話だけどな、お前は今日処刑されることになっている…いや、なったと言うべきだな」
ボッケが言うには、ガーズの執行日はガーズが目覚めた日と決まっていたらしい。
何故ガーズが気絶している間に殺さないのか、そして何故ガーズが殺されるのかまでは把握できていないそうだ。
「脱獄をしくじった上に処刑されるとは、一体何をしたんだ?」
「思い当たる節が多すぎて分からねェな」
そうこうしていると、長い廊下の奥から足音が聞こえてきた。
ガーズを執行所まで連れて行く職員の足音だろう。
「そろそろお別れの時間だ、ガーズ」
「名残惜しいがそのようだな、ボッキ」
「ボッケだ」
「そういえばそんな名前だったな」
「最後に一ついいか?」
「なんだ?ボッコ」
「…。お前、あの剣をいつから持っていないんだ?」
「さあな、忘れちまったよ」
帽子を目深までかぶった職員がガーズの独房の前で止まる。
職員は何も言わず、慣れた手つきでガーズを引きずり出した。
ガーズの体が動かないからなのか、ガーズは異常なほどスムーズに運び出された。
「随分手馴れているな、人の体を運ぶのは大変じゃないか?」
ガーズが思ったことをそのまま言ってみるが、反応は無かった。
向かいの壁に埋まっているボッケも何も発さなかった。
「それとも何か操ってんのか?」
何一つ反応を見せない職員。
ガーズは会話することをあきらめた。
「引きずられるように運ばれるのは嫌なんだ、俺様は自分で歩けるぞ」
職員は歩みを止めた。
まだ痺れが残る足腰を懸命に動かす。
ガーズが一人で立ち上がるのを確認し、また歩き出した。
そのあとについて、ガーズも足を進めた。
「死に導かれるよりは、死に向かうとはな、ガーズらしい」
ボッケはそんなことを呟き目をそっと閉じた。